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July 25, 2016

短編映画祭「Côte Court(コテ・クール)」 25周年!
槻舘南菜子

[ cinema ]

1992年に設立された短編映画祭Côté court(コテ・クール)は今年25周年を迎えた。この映画祭はパリ郊外の北に位置するパンタンの映画館「Ciné 104」で毎年6月に開催される。フランスの短編映画祭といえばカンヌ国際映画祭に次ぐ規模となるクレルモン=フェラン短編国際映画祭があるが、こちらは商業的でエンターテインメント色の強い作品が中心にセレクションされる傾向にある。それに対しコテ・クールは、フランス製作作品のみをコンペティションで扱い、フィクション部門とアート&ビデオ部門のふたつのセクションが設けられ、後者では実験映画やドキュメンタリーなどもセレクションされる。大半の短編映画祭が30~40分程度の長さの作品を「短編」と定義するのに対し、コテ・クールは60分程度の通常であれば中編とされる作品も「短編」に位置付け、より幅広いセレクションを行っているのが特徴だ。
毎年1400本以上の作品から厳選された50本がコンペティションでは上映される。創設者にして現在までアーティスティック・ディレクターを務めるのはジャッキー・エヴラール。彼は1987年に「Ciné 104」の上映プログラミングを担当したことがきっかけで、コテ・クールを立ち上げることになった。短編といえどもそこに長編へと向かう潜在的な力を持っているか否かがセレクションの基準であるとエヴラールは語っている。過去の上映記録を見ると、映画祭設立直後の90年代にはフランソワ・オゾン、ローラン・カンテ、ラリユー兄弟、アラン・ギロディー、ローラン・アシャール、ベルトラン・ボネロ、エマニュエル・ムレ、クリストフ・オノレ、ヴァンサン・ディエッチーなど、のちに優れた長編を撮ることになる作家たちの習作的な短編がすでにここで上映されており、エヴラールの眼識が確かなものであることはそこに証明されうるだろう。ここ数年の若手フランス人監督では、ジュスティーヌ・トリエ(『ソルフェリーノの戦い』)、ヤン・ゴンザレス(『真夜中過ぎの出会い』、セバスチャン・ベベデール(『メニルモンタン 二つの秋、三つの冬』)、アルチュール・アラリ(『Diamond Noir』)らがこの映画祭でのセレクションを経て、長編デビューを果たしている。またコテ・クールは若手作家たちの短編だけでなく、現在もなお短編と長編を行き来しているリュック・ムレやポール・ヴェッキアリといった巨匠と呼びうる監督たちの新作をスクリーンで見る貴重な機会を提供する場所でもある。
cote01.jpgフィクション部門の審査員たち(キャロリーヌ・シャンプティエ、フランソワーズ・ルブラン、ブリジット・シィ)

歴代の主宰には、女優にして自身も映画作家のフランソワーズ・ルブランや映画作家のジャン=クロード・ギゲ、プロデューサーのシルヴィ・ピアラといった名前が並ぶ。また、シネマテーク・フランセーズとも協力関係にあり、毎年彼らの手で修復された作品がプログラムには名を連ねる。2014年には68年五月革命以後、40年以上にわたって消失したとされていたフィリップ・ガレルの『Actua I』が世界初上映され、今年度の目玉は今年の一月に亡くなったジャック・リヴェットの幻の無声短編3本『Aux quatre coins』(1949)『Le Quadrille』(1950)『Le Divertissement』(1952) 。三月にパートナーであったヴェロニク・マニエ=リヴェットが自宅の倉庫から手付かずのままのボビンを発見し、ディレクターのエヴラールに連絡したことがすべての始まりだったそうだ。数日後には友人たちを集めて上映が行われ、パリとトゥールーズのシネマテークの協力によって異例の早さで修復された。リヴェット自身が「見習い期間の作品」と評しているこの作品には、その後の彼を決定づけるスタイルが垣間見える(リヴェットが『Le Quadrille』のために配給会社に宛てた手紙が、「カイエ・デュ・シネマ」誌を中心に執筆するギャスパー・ノクトゥーの批評とともに、次号の「Trafic」に掲載される予定だ)。とりわけ『Le Quadrille』はジャン=リュック・ゴダールとの共同脚本作品にして、若き日(撮影当時20歳)のゴダールが俳優として主演もしていることで多くのシネフィルの話題を集めた。
cote02.jpgジャッキー・エヴラールとジャッキー・ライナル

コンペティション以外のセクションでは、ふたつの世代の監督たちによる対話(アントワーヌ・ペラジャコ×リュック・ムレ 、ローラン・アシャール×ポール・ヴェッキアリ、トマ・サルバドール×アンドレ・S・ラバルトなど)、アンドレ・S・ラバルトによる「我々の時代の映画作家シリーズ」の2本の新作(アンドレ・S・ラバルト監督『Adolfo Arietta 〔Cadré- Décadré〕』、ジャッキー・ライナル監督『Reminiscences of Jonas Mekas』)、撮影監督・映画作家のブリュノ・ニュイッテンを被写体にしたキャロリーヌ・シャンプティエ監督作『Nuytten/Film』などが特別上映されたほか、ベルトラン・マンディコ Bertrand Mandico(この名前は覚えておくべきだろう)という映画作家が今年はフォーカスされ、全監督作品上映に加えて、マンディコヘの白紙委任状というかたちで短編作品だけによる特別プログラムが上映された(選ばれた作品はジャック・スミス、カルメロ・ベーネ、ラウル・ルイス、ジャン・ルーシュ、クリス・マルケル、マーティン・アーノルド、ジャン・ジュネ等々による短編)。シネフィリーであるマンディコの自作と過去の作品との繋がりを体感できる充実のプログラムだった。
上映のみならず、映画製作を志す若者とプロを結びつけるアトリエの開催や、子供向けのワークショップも連日開催され、映画祭設立当初から映画製作援助に力を注ぎ、現在では配給・配信やレジデンスの提供に至るまで、映画に関わるすべてのプロセスを一挙に担おうとするコテ・クールの姿勢ははっきりと刻まれている。さらにはパフォーマンス・アートやコンサートの開催など映画人以外を魅きつけるイベントも充実しており、平日・休日に関わらず併設するカフェスペースにもつねに活気が溢れていた。
最後に今年のコンペティションの結果を記しておこう。フィクション部門は、まだ荒々しさを残すパリ第一大学の学生で弱冠21歳のパブロ・ドゥリ Pablo Dury 初監督作品『Opium』に、アート&ビデオ部門は2015年に京都ヴィラ九条山のアーティストとして招聘されていたピエール=ジャン・ジルー(http://www.villakujoyama.jp/ja/resident/giloux/)が日本で撮影した『Metabolism』に、それぞれグランプリが与えられた。

Côté court 公式サイト