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November 27, 2016

2016年 ボルドー国際インディペンデント映画祭(Fifib)報告 Part2
槻舘南菜子

[ cinema ]

前回に引き続き、ボルドー国際インディペンデント映画祭プログラム・ディレクター、レオ・ソエサント(Léo Soesanto、以下LS)氏へのインタヴューを掲載する。映画批評家の仕事の延長線上に自らのプログラマーとしての仕事があると語るソエサント。注目すべき若手作家を幾人も発見した彼が、いま必要だと考えていることとはどのようなものか。

----フランスには、中堅の国際映画祭が多く存在します。たとえば、処女作から長編三本目までを扱う、ベルフォール映画祭がありますね。あなたの映画祭の特徴はどのようなものですか?

LS 2012年当初から一貫して、セレクションにおけるターゲットを若者に合わせています。これは映画祭のDNAの一部分ともいえるのですが、私たち映画祭スタッフの平均年齢は大体30代前後で、映画祭を創設した早い段階でプログラムにコンサートも組み込みました。とりわけエレクトロニック・ミュージック、つまり「若者の音楽」です。会期中の平日にはもちろん地元の定年退職した方々や主婦といった観客も見られますが、やはり多く目につくのは学生のような若い観客です。まだ映画祭が誕生して5年しか経っていませんが、私たちは強く「若者」の重要性を感じていますし、これからの20年を考えてもその方向性は変わらないでしょう。私たちの映画祭はまだ何か特別なものを生み出しているとは言えないかもしれませんが、他の映画祭との大きな違いがあるとすれば、やはり映画と音楽という組み合わせにあると思っています。2015年の映画祭の公式トレーラー(https://www.youtube.com/watch?v=IzY0eqaalvE  主演を務めるのはフランソワ・トリュフォーの孫娘にあたるルカ=ピコリ・トリュフォー!)は、前年のグランプリを受賞した作品によって音楽PVのように作られ、そして今年のエリー・メディロスのようなミュージシャンを積極的に審査員として招いています。

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2016年度長編グランプリ作品 『Hedi』


----ボルドー映画祭の受賞作品の受賞リストは、現代の重要なフランス若手監督のパノラマのようですね。ギョーム・ブラック(『優しい人』)、トマ・サルバドール(『Vincent n'a pas d'écailles』)、ヴィルジルー・ヴェルニエ(『メルキュリアル』)、ミカエル・エルス(『Ce sentiment de l'été』)......。ボルドー映画祭は今年からインディペンデント作品を救うべく、「Contre-bande」というセクションを新設されたと伺っています。これはどのような試みなのでしょう。

LS 毎年かなりの数の低予算なフランス映画を受け取ります。それら作品の多くは、率直に言ってかなり冗長ですね。「Contre-bandes」部門は、通常の映画とはまったく異なる体制、つまり低予算で、巧妙かつエネルギッシュに、そして自由に制作された作品のためのセクションであり、フィクションもドキュメンタリーも問わず、作品の尺にもジャンルにも縛りはなく、ただし配給会社が決まっていない作品が対象になります。
ブラックやヴェルニエ、サルバトール、エルスは大好きな作家ですが、しかし私にとって彼らはすでに「どこから来たのか」がわかっている監督でもあるので、勇敢な選択とは言えないかもしれません。と言うのも、彼らは初長編を発表する以前に多くの短編を発表していましたからね。そうした作家たちとは別に、私たちはまったく公開されたことのない作家の見ることのできなかった作品というファンタズムに回帰したいと考えました。それがこの新しい部門を設立した動機です。
現在において作品というのは、シナリオの工房や共同製作フォーラムなどを通して、その誕生の過程を追いかけるものになっていると感じています。だからボルドー映画祭では会期中にいくつかのワークショップを企画しました。処女短編についてのポストプロダクションまでを含む共同支援と、レジデンスの提供などがそれにあたります。ギョーム・ブラックだって、処女作を制作することや見せることには大きな困難があったはずでしょう。今の若手世代はCNCの助成金を受け取ることはほとんど不可能な世代ですからね。
ですが、そのような伝統的な製作のシステムの中にないからこそ生まれてくる作品というのもあるのです。今年の「Contre-bandes」部門の受賞作品、アナイス・ヴォルペ Anais Volpé監督の『HEIS(Chroniques)』のアイディアを気に入っています。彼女の作品はインターネット上のシリーズ作品にも見えますし、一方で現代アートのインスタレーションのような側面もあって、様々な可能性をはらんでいる処女作だと言えるでしょう。 現在この部門のセレクションはまだフランス語圏の作品に限られていますが、徐々に拡大していきたいと考えています。

----この映画祭の将来について、どのようにお考えでしょうか。

LS とてもクラシックな回答ですが、規模をもっと大きなものにしたいですね。上映館を増やして、もちろん上映作品も増やしたい。私たちの映画祭はこの5年間でフランス国内ではかなり認知された映画祭となりましたが、国際的にはまだまだ小さなものでしょう。ポルトガルのインディーリズボア映画祭や、イタリアのボローニャ・シネマテークとはすでにコラボレーションをしていて、短編とともに監督を紹介し、彼らの初長編の企画をフランスのプロデューサーに紹介するという企画も実現しましたが、まだまだ道半ばですね。


2016年 ボルドー国際インディペンデント映画祭 
長編部門グランプリ 『Hedi』(Mohamed Ben Attia)
短編部門グランプリ 『Chasse Royale』(Lise Akoka, Romaine Guéret)
Contre bandes 部門グランプリ 『HEIS(Chroniques)』(Anais Volpé)
※全受賞結果 http://fifib.com/prix

ボルドー国際インディペンデント映画祭