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September 10, 2019

京都滞在日誌2019@ルーキー映画祭②
隈元博樹

[ cinema ]

2019年9月7日(土)
遅く起きた朝。身支度を急いで済ませ、近所の「カフェー天Q まつ井食堂」で昼食を摂る。この食堂も千本通りに点在する町屋をリノベーションした店舗で、正面の引き戸を開けるやいなや、目の前にはDJブースやPA機器、アンプ一式が並んだスペースに二人掛けのテーブルやソファが並んでいる。おそらく日中は定食屋、夜はライブハウスに様変わりするのだろう。見る見るうちにお客さんも多くなり、厨房を行ったり来たりしている店員さんも何だか忙しそうだ。注文した「天Q カレーうどん定食」は、白ご飯と漬物が付いて750円。スパイスの山椒がカレーと出汁にほどよくマッチした目から鱗な逸品で、最近自宅でクミンパウダーを調味料として使うことが多いけれど、汁物を調理する際は山椒にもトライしてみたくなるほどだった。
その後、自転車で数分先を曲がったところの「笠の湯」へ入湯。こぢんまりとした浴場スペースながら露天風呂やサウナも設えられており、開店の15時から数分であったにもかかわらず、浴場には何人かの地元の方々が心地良さげな面持ちで湯船に浸かっている。一通りの風呂を巡ったあと、仕上げは日替わりの「ヒアルロン酸風呂」に入り、日頃の疲れで枯渇した体内にささやかな潤いを注入した。

さて、ルーキー映画祭2日目。本日の1本目はウェス・アンダーソンのデビュー作『アンソニーのハッピーモーテル』。昨晩の『ハードエイト』の俳優陣もそうだったけれど、やはりウィルソン3兄弟(アンソニー、オーウェン、ルーク)がとにかく若い。あとで調べたところ、オーウェンとルークにとってのデビュー作でもある。本作も昨晩観たリンクレイターの『スラッカー』同様、ある場所からの脱出を試みる登場人物や、キャメラによる真横パンからの戻しなど、現在まで続くウェス・アンダーソンの作家性が随所に散りばめられている。主人公たちが大事なところでヘマをすることも、まさにアンダーソン映画を支える強度のひとつなのだと実感。

次に観たのがローズマリー・マイヤーズの『ガール・アスリープ』。内気な転校生の少女グレタが、母親の独断で自分の誕生日パーティを開くことになるのだが、あるショックな出来事を境に幼少時代から抱くダークファンタジーの世界へと誘われていくパラレルストーリー。まずこの映画が母国のオーストラリアで撮られていながらも、広大な草原や大地のロケーションはいっさい登場せず、自宅裏の森や室内といった抜けのない場所で物語が展開されていくことに斬新さを覚える(これがバズ・ラーマンだったら......とか脳裏をよぎってしまう)。そしてこのフィルムで特筆すべきは、グレタを演じたベサニー・ウィットモアによる眉間に皺を寄せた困り顔だろう。パーティでのキレッキレなダンスシーンを除き、転校初日から森へ彷徨っていく場面までの、あの卑屈な表情が忘れられない。

3本目はジェニー・ゲージの『オール・ディス・パニック』。ブルックリンに住む10代の少女たちを追ったドキュメンタリー。3年という撮影期間の中で彼女たち7人を巡る家庭環境や、それぞれの関係性の微細な変化を被写界深度の浅い手持ちキャメラと自然光で刻々と収めていく。ただ、単なるドキュメンタリーという印象はあまり感じられず、たとえば上映後のトークで関澤朗さんが話していたように、レナとジンジャーによるツーショットの際の縦イチの構図や会話の場面で見られる切り返しなど、不思議とフィクション性が漂う点も印象的で、それは監督のジェニー・ゲージ自らがファッションの世界を中心としたフォトグラファーであること、また撮影のトム・ベタートンによるフレーミングセンスに起因しているのだと思う。そしてダスティとデリアによるラストシーンを迎えたあと、「現在の彼女たち(製作年は2016年)は一体どうしているのだろう」と、にわかに想いを馳せてしまう。そんな後ろ髪を引かれるようなフィルムだった。

上映後の打ち上げも昨晩に続いて参加し、時間を忘れて大所帯で盛り上がる。ホステルに着いたときにはまたしても4時を回っていたが、『オール・ディス・パニック』のレナが不意に口ずさんでいたオリヴィア・ニュートン=ジョンの『Physical』の一節が忘れられず、ベッドの上でもしばらく脳内を駆け巡っていた。

グッチーズ・フリースクール × 京都みなみ会館 presents ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集