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April 7, 2020

『あとのまつり』瀬田なつき
結城秀勇

[ cinema ]

 「忘れねえよ」と呟いたはずの僕らは、それでもいろいろなことを忘れていたのだった。たぶんそれは、災害のせいでも、病のせいでも、ない。
 2009年当時のインタビューで瀬田は、当初この作品が「まつりのあと」と名付けられていたのだと語り、でもそれが桑田佳祐の歌と同じタイトルだったから、「まつり」と「あと」を逆転させて「あとのまつり」になったのだと言っている。
 もう半年も経てば「まつりのあと」だったはずの東京が、現在ではもう「あとのまつり」なのは、まるで瀬田なつきの編集が介在した世界のようだ。プロローグとエピローグが行きつ戻りつし、少女が鏡の中の自分と切り返しで対話する(左右反転した彼女の顔は、本当に彼女とよく似た別の誰かに見える)。ジャンプカットがアクションの起点と終点の間にあったものを間引き、息継ぎさえカットされたボイスオーバーが細かいカットの連鎖を覆い、過去と未来が行き来する間にもしかしてさっきまでとは違う過去(未来)にジャンプしたんじゃないかと思ってしまう。
 製作から10年が経ってこの映画を見返して本当に胸を打つのは、作品の先見性でも斬新さでもない。もちろん過去への甘酸っぱい思いも取り返しのつかない後悔もわいてはくるが、画面を見つめる脳内で爆発するのは、梅本洋一が書いていたような「とっておきの今」だ。
 持てないほど熱かった缶コーヒーから失われていく熱、少女の指先で滲んでは乾いていく血、夕暮れというには早い、でもたしかにもう傾き始めた遅い午後の日差し。もう一度それらを「忘れたくない」と強く願う。当たり前に映画館に映画を見に行けたこと、みんなで集まって一緒にご飯を食べられたこと、少女と少年の間の秘めやかなキス、そういう、もうすでに「今だったもの」になってしまったかもしれないものごとを、今はまだ「今」として、忘れたくないと強く希求するのだ。


4/30まで無料公開中

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