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July 17, 2020

『はちどり』キム・ボラ
鈴木美乃里

[ cinema ]

 この作品の主人公である14歳の少女ウニ。彼女の父親は、自分を誇示し、気に入らないことがあると家族に罵声を浴びせていた。兄は怒りにまかせて殴ってくるし、両親はそれを喧嘩と捉える。母は勉強のことや人の目しか気にかけず、立場の似ている姉は、親からのプレッシャーに耐えかね塾をサボっては遊び歩いていた。
 ウニはそんな家族の顔を見つめてみた。父の泣いた顔。兄の不安で強張った表情。何も手につかず茫然と座る姉の顔。正直な気持ちを語ってくれた後の、穏やかな母の表情。それぞれの役割からこぼれ落ちる彼らの表情を見つめると、良いとか悪いとかでは片付けられない人の心の動きがそこにあった。この世界で何が起きているのか、すぐには分からないのと同じくらい、家族の顔は複雑な表情をしていた。
 ウニは、通っている漢文塾でヨンジ先生に出会う。彼女は、みんなが自分を否定しないように生きることに必死だったとき、ウニのことを丁寧に見つめようとしてくれた。授業中、黒板にすっかり背をつけて、こちらを見つめてくれたのだ。自己紹介を交わし、ウニは、どこの学校に通っていて今いくつなのかを話したが、ヨンジ先生は、そんなことよりも、何が好きなのかを聞いてくれた。ウニは漫画が好きだと答えるのだった。
 勉強に精を出さないために、学校にも馴染めず家にも居場所のないウニは、自然とヨンジ先生に惹かれ、誰に言ってもしょうがないと思っていた本心を語るようになる。話をしていく中で、みんなが切望するソウル大に通う学生であるヨンジ先生も、ウニと同じように、自分自身を好きになれないことがあるのだと聞く。ウニは、自分にとって完璧だと思っていた人にも、弱さがあることを知った。
 ヨンジ先生はつらいと感じるとき、指を見つめて指先をバラバラに動かしてみるのだという。そうすると何も出来ないようでも、指は動かせると知るのだと。また別の時には、今まで兄に殴られても抵抗せず早く終わるようにと祈るだけだったウニに対し、ヨンジ先生は、誰かに殴られたら黙らずに立ち向かうのよと言い、ウニと約束するのだった。その場をうまく切り抜けるのではなく、ちゃんと見つめて問題と対峙してみることを教えてくれたのだ。
 それからウニは体全体を使って居心地の悪さを表現するようになる。いい加減にあしらう大人には強く言葉を放ち、リビングで繰り広げられる両親の口論に対しては、部屋の中で暴れ叫び不格好でも小さな体を使って抗議するのだ。無力感に苛まれても自分の体を動かすことはできるのだから。
 そうしてウニはもっと広く見つめてみようとする。今まで見ないようにしていた同級生の顔を見つめてみる。生き生きとした彼女たちの表情や動きは、世界は不思議で美しいのだと教えてくれた、ヨンジ先生の言葉と重なる光景だった。

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