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March 24, 2021

『内子こども狂言記』後閑広
渡辺進也

[ cinema ]

内子こども狂言記_0329_2.JPG

愛媛県の内子町に内子座という芝居小屋がある。僕は文楽への興味から知っていた。例えば、文楽を題材にとった三浦しをんの小説『仏果を得ず』の中で、内子座は次のように紹介されている。
「大正時代に建てられた内子座は、今も現役の劇場として活躍中だ。櫓があり、床も天井もすべて板張りの古い建物は、町の人々に大切にされている。(......)入口にはためく色とりどりの幟。靴を脱いで建物に上がる構造。みしみしと音を立てる薄暗い廊下と、吹き抜けになった場内。舞台を見下ろす、手すりの付いた二階席。舞台正面には、身を寄せあって座る枡席があり、一段上がった壁際には、かつては町の名士の特等席だった桟敷が設られている。なにもかが時代がかっていて、芝居見物への期待を掻き立ててくれる」
内子座は、現在放映中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』で見る、鶴亀家庭劇が上演されている小屋そのもの。いつか行ってみたい。

この内子座には「内子こども狂言くらぶ」というものがあり、京都から大蔵流狂言師・茂山千三郎氏らを迎えて、地元のこどもたちが毎月稽古に励んでいる。小学生から高校生まで。初めて狂言に触れる子もいれば、7、8年参加している子もいる。『内子こども狂言記』は、こどもたちによる公演が行われるその時までを追う。稽古の様子、合間に宿題をしたり好きなものを言い合ったりして過ごすこどもたちの姿、それからインタビューやこどもたちによる日記の朗読。

こどもたちは先生に続いてセリフを鸚鵡返しする。「これは、このあたりに、住まい、いたすものでござる」。ゆっくりと、ひとつひとつの言葉を区切って、聞き取れるよう、伝わるように発声する。こどもたちのセリフが急いで流れてしまったりする度に、何度も何度もこのセリフが復唱させられる。立っての稽古も決まった様式を繰り返す。摺り足。腰に手を当て、右手と右足を同時に前に出す。観客が見ただけでわかることをする。そうすると不思議とそこに芸能が現れてくるような気がしてくる。自然と笑みがこぼれる。ちょっとした言葉に滑稽味があふれる。

やはり、こどもたちが難しいことを考えずに、教えられたことを教えられたままに繰り返し、そのことを楽しんでいる姿が良い。それはきっとこの映画が、狂言→こどものベクトルではなくて、こども→狂言のベクトルでつくられているからかもしれない。「狂言ってどういうものだと思う?」という問いにこどもたちはこう答える。「日本の古い喜劇。いまで言うお笑いみたいな感じ」、「お客さんを笑顔にするもの」、「人を笑わせる言葉」、「室町時代にできた芸能で......」。先生たちの言葉を借りるならば、「一番庶民が出てくる古典芸能」、「室町時代から続くコント」。また、ある子は「内子こども狂言くらぶ」をもうひとつの小学校みたいと言っていたけれど、自分たちの生活の延長線上にある身近なものとして、狂言があることが良かった。

ドキュメンタリー映画 『内子こども狂言記』特別上映会
日程:2021年3月29日(月)
開場:14:30
開演:14:45
会場:ユーロライブ
[第一部] トークショー
出演者:内子こども狂言くらぶのこどもたち、茂山千三郎(狂言師)、後閑広(監督)
※Zoomを利用してのトークショーとなります
[第二部]『内子こども狂言記』上映(86分)+2019年内子公演のダイジェスト
※入場無料

愛媛の内子町にある、昔ながらの芝居小屋・内子座。
そこで内子の子どもたちは毎年、狂言を習っている。
ふざけて、笑って、怒られ、泣いて、真剣に、狂言を舞う子どもたちをスケッチしながら、「狂言て何?」がちょっとだけ分かるドキュメンタリー。