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July 23, 2022

『炎のデス・ポリス』ジョー・カーナハン
結城秀勇

[ cinema ]

メイン_.jpg 警官の中にもシングルアクションのリボルバーの愛好者とオートマチックの方がいいと言う者がいて、ルガー好きにもレッドホーク派とブラックホーク派がいる。同じように留置所は酔っ払いとそうじゃないやつ用に分けられていて、そこには結果的に詐欺師と殺し屋がいて、殺し屋にもプロフェッショナルとサイコパスがいる。言わずもがな、そのどちらがいいとかどちらが悪いとかなんて話には全然ならない。汚職警官も連邦レベルの陰謀っぽいのに関わってるらしい警官も出てくるが、結局目の前で巻き起こる事態にそれがどう関わっているのかなんてまったく説明されないので、そんな奴らすらも善悪の線引きのはるか手前でただ殺したり殺されたりするだけだ。
 傷を負って孤立無縁の警官が助けを求めるのは、詐欺師か殺し屋か。一見そんな二択を迫られるかのような作品中盤の状況も、別にそのどちらかがアタリでどちらかがハズレなんてこたないだろうことにはみんな薄々気づいている。担ぎ込まれた酔っ払いがフラフラと立ち上がり、それまで長い髪で隠されていた顔が2本の鉄格子の間にピッタリ挟まったジェラルド・バトラーの顔面として画面に現れるとき、ああこいつはいいやつとか悪いやつとかじゃなくてただのジェラルド・バトラーなんだなと理解する。
 この狭い縦長の長方形に挟まった顔面、の変形として、留置所の中では、シネマスコープの狭い上下に挟まった顔面が頻出する。理屈としてはテディ・マレット(フランク・グリロ)とボブ・ヴィディック(ジェラルド・バトラー)のどちらが信頼に足るのかをヴァレリー・ヤング(アレクシス・ラウダー)が見極める、というような演出ではあるのだろうが、前述の通り、長いふたつの線に挟まった巨大な顔は、その背後に隠されたなにかを語るなんてことは一切なく、むしろそのあからさまな巨大さ自体を語るのみだ。
 この場面で二度、ちょっとだけ耳慣れない単語を巡る会話が交わされる。一度目は「リコシェ......」というヴァレリーのつぶやきで、もう一度は「デジャヴってやつだ」というテディの発言。リコシェの方は、テディには意味がわからないが、ボブが「跳弾のことだ」と説明してくれる。そしてより興味深いのがデジャヴの方なのだが、三人とも意味はわかってるつもりなのだが、テディの使い方が残りのふたりにはいまいちピンとこない。なんだか聞いたことありそうだけどいまいち正確にはよくわからん単語を巡って、正しい意味がなにかはいまいち共有されてないのになんかやりとりは成立してしまう、それが留置所三人アップの効用だ。その後ボブは「パーレイ」という言葉によって三度目の再現を狙うが、彼ら三人の顔のアップの応酬なしには曖昧なやりとりは成立しないのだった(というかこのシーンの三人目、はほぼ死にかけてるわけだが)。
 というわけで、善悪だの真偽だのがよくわからないうえに、そもそもなんで銃撃戦になったのかをちゃんと説明しろと言われてもいまいちうまくできる自信がないような話なのだが、映画を見終わって思うのはみんな必要だったんだなということだ。留置所の三人アップが持っていた力関係のようなものを映画全体の構造もまた持っていて、いいやつも悪いやつもいなくて、ただとにかく全員必要だったのだ。そんなことを感じさせるスプリット画面を見ながら、でもやっぱりデジャヴってそういうことなんだっけ?と混乱しながら、でもめっちゃ盛り上がった。

7月15日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開中

【作品情報】
炎のデス・ポリス
原題:COPSHOP/2021年/アメリカ/英語/107分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:橋本裕充/PG12
監督:ジョー・カーナハン『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』『コンティニュー』
脚本:クルト・マクラウド、ジョー・カーナハン
出演:ジェラルド・バトラー『ジオストーム』『300』『エンド・オブ・ホワイトハウス』、フランク・グリロ『アベンジャーズ/エンドゲーム』、アレクシス・ラウダー『ハリエット』、トビー・ハス『ハロウィン』
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ

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