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December 10, 2022

FIFAワールドカップ2022 クロアチア対ブラジル 1−1(PK4-2)
梅本健司

[ sports ]

 華やかで、ピッチ外での問題がないわけではないネイマールは、でもピッチ内ではとてつもなく気の利く選手だ。ブラジルは左サイドバックのダニーロが中に絞り、初期配置では中盤の底であったカゼミーロの横、あるいはカゼミーロを少し前に出して、ダニーロが代わりにアンカーの位置に可変する。ダニーロのポジショニングが、さほど上手くないことが気になるが、この形自体はプレミアリーグのトップを走る2チーム、アーセナル、マンチェスターCでも見られる。ちなみにアーセナルでダニーロのように左サイドバックからボランチの位置に移動する役割をほぼ完璧にこなしているのが冨安である。ブラジルは4-3-3から3-2-5に変形していくといった具合だ。ドイツも違う可変の仕方ではあるがこれと非常に近い並びに見えた。3-2-5、あるいはスペインの2-3-5が現代のサッカーが行き着いたもっとも効率良くパスを繋ぎ攻撃ができる形とされている。とはいえ綺麗にこうなることもそこまでなく、たとえば前線の5人のうちの1人が後方を助けに降りていくこともある──その場合は3-3-4ようになることが多い。3-2-5の場合難しいのは、後ろの3が適度に、左右に偏りなく幅をとることであり、このバランスはボールのある位置によって異なり、常に微調整が必要となる。ブラジルはミリタン、マルキーニョス、シルバで3を作るのだが、左のシルバの位置が中寄り過ぎて、左ウィング、つまり前の5枚の左端、ヴィニシウスまでの距離が遠く、繋がっていなかった。ネイマールが機転を利かせて解決していたのはこの左サイドの問題である。左に寄ったトップ下のような位置から適切なタイミングでスッと降りてきてボールを受け、シルバとヴィニシウスの線を結ぶ。素早くヴィニシウスまでボールを送り込むか、ヴィニシウスを囮にしつつグンッとドリブルで進んでいく。個人技ばかりが注目される選手かもしれないが、チーム全体を有機的に繋いでいたのがネイマールだったのである。バルサのMSN(メッシ、スアレス、ネイマール)時代、メッシとスアレスを前残りさせつつ、ネイマールはサイドのアップダウンも厭わず守備に奔走することも少なくなかったし、結局バルサがネイマールの後釜として獲得した選手たちはネイマールほどの守備をしつつ、攻撃でも違いを見せられる体力がなかった。パリ・サンジェルマンに移籍してからも重要な試合では守備をかかさない。この試合でもブロゾビッチのパスコースを消しながら前線へプレッシャーをかけていた(それでもボールを受け、なんのことなくさばくブロゾビッチは素晴らしい)。軽快で、ときに誇張された振る舞いをしながらも、ピッチ内でネイマールは間違わない。流しても、ある程度の結果を出すことができるリーグ・アンではネイマールの本気を見られる機会があまりない。なので、もう少し、久しぶりに真面目な、だからこそ楽しいそうなネイマールに魅せられながら、憎たらしく思いたかったものだ。
 クロアチアは、良いサッカーはしていないが凄まじいとは思う。だけどサッカーはやはり90分で決着をつけるのが美しい。延長戦もPK戦も無駄に長い映画を見ている気分にしかならない。