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March 03, 2005
『ライフ・アクアティック』ウエス・アンダーソン
[ cinema]
ビル・マーレイ演じる海洋学者兼冒険者、そして海洋ドキュメンタリー映画の監督でもある男は、すでに中年に差し掛かり仕事の上でもスランプに陥っている。そんな彼の前に息子だと名乗る若い男があらわれる。息子をチームの新しい顔として迎えることを決意し、彼は再び冒険へと乗り出していく。若い息子と名乗る男は、ビル・マーレイが率いるチームに歪みをもたらし、映画をもかき回す。しかしもうひとり、重要な役割を果たす人物がいる。ウィリアム・デフォーだ。彼はビル・マーレイの弟役として、チームと映画の両方を支えている。父と息子、兄と弟という関係は、もう一人の人物、シーモア・カッセルというビル・マーレイよりさらに年長の男(映画の最初から既に死んでしまった男ではあるが)が加わることによって、見事な四角関係をつくりあげる。そして実際に、チームの新しい旗の四隅にこの四人の名前が刻まれ、四角形はチーム・ズィスーを象徴するものとして示される。
しかしこの若きスターである息子は、いともあっさりと脱落することとなる。兄が死に、息子もいなくなり、自身と共に残ったのは弟と妻、そしてチームの面々だ。弟は息子のように、兄の仕事を受け継ぎつつ一新することはできない。弟にとっては、兄の仕事を一つずつカメラの中に収めていくことが仕事なのだ。ビル・マーレイを幸福な引退へと導くはずだった息子の突然の不在を、まるで何もなかったかのように乗り越えたとき、港から船へと溌溂と駆け抜けていく彼のもとに、画面の外から内へとチームの面々が次から次に集まってくる。彼ら全員を受け入れられるほどにスクリーンは広いし、船の甲板も広い。
彼らの冒険の目的は、ジャガーシャークという新種の生き物を探し出し、さらには殺すことにある。前作のビル・マーレイの映画にて初めてこのジャガーシャークという名前が登場するのだが、それが実際に画面に現れることはない。そしてそのために、彼は観客たちから相手にされず、ジャガーシャークの存在さえ否定されてしまう。ジャガーシャークが本当に姿を現したとき、人々はみな潜水艦の内側にいる。四方にある窓から見えるジャガーシャークは体の斑点を光らせ、人々はただ呆然とその光を見つめている。このとき、カメラは何を捉えていたのだろうか。ジャガーシャークの出現によって、私たち(彼ら)にはまだ見るべき対象が残されていたのだと気付かされる。喝采をあびた彼の新作映画には果たして何が映されていたのか。ジャガーシャークが映されていないことで駄作と判断された前作に対し、ジャガーシャークの姿を見せつけることで復活したのか、あるいはジャガーシャークを見つめている彼らの姿が人々の心を打ったのか。
かつて活躍していた時代の自分の作品をテレビの小さな画面で見ながら「昔はこうだったんだ」と呟いていた男が、映画祭でどんな新作を披露したのかは誰にもわからない。ひとつ言えるのは、確かにジャガーシャークは存在したということ、海にはまだ見るべきものが残されているということだ。そして映画のスクリーンに映されるべきものはまだ存在する、という確信のもとで、あまりにもあっけらかんとしたラストシーンが撮られている。
ビル・マーレイのもとに残った者たちは、あくまでも彼のスタッフたちであり、彼を船から下ろしたりはしない。映画はまだ彼の手から離れてはいないのだろう。まだまだ航海は終わらないのだ。
投稿者 nobodymag : March 3, 2005 06:24 PM
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