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juin 30, 2008

Be not afeard. The isle is full of noises,Sounds, and sweet airs, that give delight, and hurt not.

 この種の大会にありがちなことだが、スペイン対ドイツの決勝は、それほど面白いゲームではなかった。準決勝から中2〜3日の決勝。疲労が残り、怪我は癒えない。疲労がスキルの発揮を妨げ、走る距離を減退させる。バラックのキレのなさやシュヴァインシュタイガーの多くのトラップミス、そして後半はめっきり減ったドイツの中盤の飛び出し。トルコにようやく勝利を収め、決勝までたどり着いたドイツは、すでに「一杯」な感じ。対するスペインも、ゲーム開始直後はセナのスペースをめがけてドイツに走り込まれ、一気にバックラインを割られて、プジョルのおたおた守備が目立った。だが、気迫十分のトーレスの走り込みを起点にポゼッションが上がり始めると、中盤のボール回しが始まった。問題がないわけではない。イニエスタは好調を維持しているが、セスクは、シャビと並ぶとまた遠慮癖が出るし、シルバはポジショニングは良いが、シュートが浮いてしまう。ボールは回っても運動量が上がらず、ポジション・チェンジも頻繁ではない。しかし、そんな中でトーレスの一発が生まれ、結果的にこの虎の子の1点を守ってスペインが逃げ切る。
 終盤にドイツは背の高い選手を前戦に多く送り込んでパワープレーを試みるが、セナと後半にセスクから代わったシャビ・アロンソがクロスの出所を徹底して押さえ、有効なクロスが上がらないままタイムアップ。スペインの調子がもう少し良ければ3-0のゲームだった。
 
 スペインの優勝は価値あるものだ。決勝こそクワトロ・フゴーネスがどんどんスペースを生んでいく局面は作れなかったが、相手に合わせるというリアクション・フットボールからは遠い、「自分たちのフットボール」を貫いて勝利したことは賞賛に値する。考えてみれば、一番の分水嶺は、準々決勝の対イタリア戦。決勝よりも中盤が動かず、イタリアの神経戦にはまっていったが、イタリアの得点力のなさに助けられてPK戦に勝った。まだ若いチームだから、中盤の選手のメンタル面に大きく左右されるが、バルサとアーセナルのミッドフィールドを接ぎ木した中盤が動き始めると、本当にワクワクするようなフットボールが展開されていく。
 スペインの優勝が価値あるものなのは、前回の優勝がギリシャだったことを思い出せばいい。専守防衛のギリシャが優勝したのは、スペインとポルトガルの気候が暑すぎたことにも由来しているが、やはりフロック以外のなにものでもない。アタックして点を取って勝つことこそ勝者に相応しいということだ。その意味で、今回のスペインの優勝は2000年のユーロのフランスの優勝と同じように素晴らしいが、今回のスペインを2000年のフランスよりも評価できる点は、2000年のフランスが98年W杯の完成形だったのに対して、スペインの伸びシロがまだまだあるからだ。アラゴネス爺さんの後任であるデルボスケも、やり方としてアラゴネスと同じで、決して独自のフットボール感覚でチームを作るよりも、選手をゲームに「乗せていく」方だから、スペインはこのまま強くなっていくだろう。ただ、アラゴネス爺さんの「人知を越えた選手交代」(決勝に関してはごく普通だったが、それまでは、ゲスト解説の岡田武史ではないが、ぼくらも「なぜ?」というものが幾度となくあったが、結果は残した)がデルボスケに期待できるかどうかは分からない。とりあえずデルボスケが何もせず、「楽しんでこい」とか「ここで点を取れ」といった誰にでも出来る指示をチームに送れば、このチームはごく自然に成長を続けるはずだ。
 最後に、好ゲームが多かった今回のユーロで、残念だったことをふたつ。ひとつは、ポテンシャリティが一番あるはずのフランス代表が、何の創造性もないコーチを留任し続けて早々とピッチを去ったこと。ベストメンバーのフランスとオランダのゲームを見たかった。同時に、組み合わせの問題から、オランダ対スペインの真剣勝負が見られなかったこと。これは、ロシアのヒディンクに文句を言いたい。ロシアがオランダに勝たなければ、ぼくらは、もう一試合、すごいゲームを見られたかも知れない。

 ユーロ2008は終わったが、ウィンブルドンがもう始まっている。そして今週末は、ラグビーのテストマッチ、ワラビーズ対フランス、さらにトライネイションズも始まる。いやはや……。

投稿者 umemoto youichi : 09:00 AM

juin 27, 2008

If music be the food of love, play on

 やや押し気味のスペインだが、35分にFKを蹴ったビジャが怪我。そしてセスク、イン。4-1-3-2からトーレス1トップの4-1-4-1。セスクとシャビが並び立ってクワトロ・フゴーネス。ロシアのプレッシャーをあざ笑うようにボールが回り始める。まるでグループ・リーグ緒戦の再現を見ているようだ。プレスをかいくぐるをいう表現も正しくない。相手のプレスがないとボールが回らない。プレスに来させることで、スペースをこじ開け、そこに別の選手が走り、パサーも別の選手にプレスの重点が置かれると、スペースに走り、そこにボールが出てくる。このゲームもゲスト解説をした岡田武史──バーゼル、ウィーンと大活躍!──が数ヶ月前に「これからは俺のやり方でやる!」と日本代表監督としてマニフェストしたとき使った用語が「接近ー連続ー展開」だった。もともと故大西鐵之祐がラグビー日本代表の戦術として使用した言葉がそれで、議論を呼んだ。クワトロ・フゴーネスが織りなす連続するパスとスペースの創造を見ていると、一番ピッタリ来るのが、「接近ー連続ー展開」だった。中央でシャビばボールを持つとロシアのディフェンダーが「接近」する。タックルを交わす寸前に、シャビはセスクにボールを預けて「連続」。セスクはディフェンダーとの距離を測りつつ、右サイドを駆け上がるセルヒオ・ラモスに「展開」。ゲームは一気にスペイン・ペースになりポゼッションもグングン上がっていく。先取点もシャビーイニエスターシャビで見事にとった。もちろんトーレスとセスクがファーとニアに走り込んで、シャビのスペースを創ったことは言うまでもない。
 アラゴネス爺さんもさぞかし満足しているだろう。なにせ爺さんがやりたかったのは、こんなフットボールで、それが余りに見事に実現しているのだから。でも、爺さんは自分の目の当たりにした「接近ー連続ー展開」だけでは満足しない。ウチのチームは強いんだから、面子を代えてもこれができるんだ、見せてやるぞ!とばかりに、トーレスをグイサに、シャビをシャビ・アロンソに代える。これが69分。シャビは誰よりも走っていたから、ここでシャビ・アロンソを入れて、セナと一緒にやや後ろを任せようというのは分かる。それに先取点を決めて「ご苦労さん!」もあるだろう。でもフェルナンド・トーレスは好調だぜ! 確かにトーレスはシュートを3本連続して外したが、次は決めるだろうと誰でも思ったろう。それにトーレスとグイサを比べれば、やはりトーレスでしょう。でも爺さんは頑固だ。「ここはグイサなの!」と耳を貸さない。一挙にふたり代える決断に、岡田武史は、残り20分、キーパーが怪我でもしたらどうするんでしょうね、と言う。岡田武史、あんたの弱気はそこなんだよ、と突っ込みを入れたくなる。
 するとどうだろう。右サイドに開いたグイサから、ヴァイタルエリアのセスクにパス、セスクはディフェンダー3人が並ぶ裏へチップキックのようなパス、グイサが走り込んでループ。73分。これで勝負あり!あとはクワトロ・フゴーネスのスペクタキュレールで官能的なフットボールがぼくらのこころを捉え続けた。さらにセスクが溜めたところを今大会絶好調のシルバがドーンと一発たたき込んで、ヒディンクはもうタオルをピッチに投げ入れたくなったのではないか。82分。
 確かにプレミアを見慣れた目からすれば、グイサのおっとりした走りだと、すぐに身体を入れられるかもしれないが、ビジャやトーレスに貼り付いたロシア・ディフェンダーは、グイサが入るころには、もうボディに打たれ続けて疲労がたまり、グイサにも追いつかない時間帯だったのかもしれない。シャビ・アロンソの方は、1発いいシュートを打ったが、それ以外は、セナとバランスをとっていれば十分で、持てる力の10%程度を出して、決勝に備えることができた。ビジャの怪我の具合は分からないが、途中で代えられたフェルナンド・トーレスにしてみれば、決勝では俺がヒーローになってやる!と心に誓っているだろう。そして、このゲームの最大の成果は、セスクがようやく本領を発揮したことだ。この日のセスクは、シャビやイニエスタという「体育会の先輩」に遠慮しながら、気に入ってもらえるようにプレイする「後輩」ではなくて、まさにアーセナルというイギリスの名門大学に留学中の大器が留学の成果を遺憾なく発揮してくれた。つまり、このゲームに完勝するばかりか、決勝の対ドイツ戦の準備までしてしまった。シャビは、3日後にまた走れるだろう。トーレスは気迫十分だろう。シャビ・アロンソは、まだこれからだと決勝でミドルを狙うだろう。セスク・ファブレガスは、一番うまいのは僕だよ、と心から信じることができたろうし、こんなプレイを見せられては、アルセーヌ・ヴェンゲルも、「セスク、移籍か?」というニュースに何度も悩まされ続けることになるだろう。

投稿者 umemoto youichi : 10:17 AM

juin 26, 2008

Glory is like a circle in the water

 トルコ代表監督ファティ・テリムが今大会語辞任すると発表した。ロシアと共にユーロ2008で旋風を巻き起こしたのはトルコだ。ナンバー誌でサイモン・クーパーが語るとおり、ユーロではどのチームが勝ってもおかしくない。グループリーグを突破することさえ困難だろうと思われたトルコが、チェコからラスト10分で3点を奪って逆転してグループリーグを勝ち上がり、ベスト8からは、クロアチアに延長ロスタイムで追いついてPK戦でうっちゃった。
 思い出してみれば日韓共催W杯では3位になり、今年のチャンピオンズリーグではフェネルバフッチェがいいところまで行った。今日のドイツ戦だって、ほとんど引き分けに近くまでいって、最後に、いわゆる「ゲルマン魂」にやられただけで、ゲームそのものはトルコが支配していたと書いてもまちがいではなかろう。だが、このチームは決して淡泊なチームではなく、これといった特長はないが、最後まで気を抜かない頑張るチームだった。こういうチームは、この種の大会にとても強いことは歴史が証明している。
 動画サイトで、この大会について語っているアルセーヌ・ヴェンゲルのインタヴューを見た。日頃のアーセナルでのゲーム運びとは異なることを言っていた。「こういう大会になるとヒーローが必要になる」。トルコが準決勝ですんでの所で敗れたのは、ヴェンゲルが言うヒーローがいなかったせいだろう。ヒーローになるはずのニハトを怪我で欠くばかりか、怪我人や出場停止を含めれば8名を欠いたトルコが、ここまで来られたのは、常にガッツを見せ続けるファティ・テリムの力だろうし、それまでの戦いぶりから諦めることをしなかったトルコのチームのメンタリティの強さだ。だから、あえてこのチームのヒーローを探すとすれば、それは明らかにファティ・テリムその人だ。
 2000年のUEFAカップ決勝でアーセナルを敗ったのが、当時テリムが監督だったガラタサライだったし、その後は、ルイ・コスタを擁したフィオレンティーナの監督をつとめ、ミランの監督もやった。
 監督と言えば、このゲームの中継のゲスト解説は岡田武史だった。彼もフットボールがとても好きそうだ。日本代表監督の彼はいつも苦虫を噛み潰したような顔でインタヴューに答えているが、代表監督の岡田にもフットボール好きの岡田であって欲しいものだ。
 そして最後の栄光をつかむチャンスを得たのはドイツ。

投稿者 umemoto youichi : 11:07 PM

juin 24, 2008

I know it is the sun that shines so bright.

 PK戦でようやくスペインがベスト4に残った。
 3戦連続失望の結果が続き、フットボールの誘惑などと呑気で脳天気なことをほざくな、この大会もまたビッグマネーの投資先なのだ、君が見ているこの番組にしても大きな金銭が動くことでやっと成立している、現実を見なよ、スポーツが新たな快楽を運んでくれるなんて夢みたいことを考えている暇に、この大会に絡む経済システム──そう、フォーメーションなんてことじゃなくて──について考える方が身のためだよ、そんなメフィストの囁きにも耳を貸したくなった。やっぱりイタリアの現実主義がいつも勝利を収めるものさ……。
 カシージャスの好セイヴを見てレイナが泣いている。途中で交代したフェルナンド・トーレスが、両手を組んで祈っている。セスクの番が来た。アラゴネス爺さんがスペインの5番目に指名したのは、フランセスク・ファブレガス。弱冠21歳のアーセナルのセントラル・ミッドフィールダーに、スペインの命運を託した。スタジアムにはアルセーヌ・ヴェンゲルとジダンが仲良く座って観戦している。緊張した面持ちのセスクがボールをプレースし、ゆっくりと後退する。ボールはブフォンが飛んだ方向とは反対のゴールネット右下に突き刺さった。歓喜の時が訪れる。
 PK戦までの120分、スペインの出来は決して誉められるものではなかった。確かにボールはミッドフィールドを回るが、どれもスタンディング・パスばかりで、どのパスも、そこにすでにいる選手の足下に届けられ、未知の空間を創造したりはしない。偶に前方に押し出されるスルー・パスもイタリアの老練ディフェンダーを混乱させるものではない。ビジャもトーレスも、そして代わって入ったグイサにしても局面に変化をもたらすことは出来ない。幸い、トーニもずっと不調をキープしていて(ブンデスリーガを見ないぼくは、この人の好調な姿を見たことがない)、イタリアも点が入りそうにない。ずっと膠着状態のままの120分。誰もこの凍り付いた時間を切り裂く勇気を持った人はいなかった。もっと緊張するPK戦の時間を迎えることを知りつつも、この時間に亀裂を入れることもできない。退屈な緊張感が、突然夏がきたウィーンを包み込んでいるようだった。スペインにとっての凶日6月22日、それが今大会でも繰り返され、良いチームだったが勝負には弱い、という常套句が今年もこのチームに与えられそうになる土壇場で、いつものようにシャビに代わってピッチに立ち、特段活躍したわけでもないセスクの右足がこの凍り付いた時間にピリオドを打ってくれた。
 イタリアではなくスペインがベスト4に残ったことは重要だ。ポルトガルがかつて持っていた輝きを見せることなくピッチを去り、若いカリスマ的な指導者を持つクロアチアが土壇場で涙を呑み、ファンタスティックなフットボールという束の間の夢をぼくらに与えてくれたオランダが、当初から指摘されていた弱点を露呈させてファンバステン時代を終わらせてしまった後、スペインは、とりあえずぼくらにとって唯一の希望だった。だが、メフィストの囁きを聞く限り、この「無敵艦隊」にまつわるジンクスを知る限り、さらに声を張り上げるアラゴネス爺さん──この爺さんもフィリッポンと同じようにちゃっかり再就職先を決めている──の顔を見る限り、その希望の実現も見果てぬ夢と終わるかと思われた。イタリアは、計算通り(?)PK戦に持ち込み、フットボールの質がどうのこうのという問題を超越した時間に勝敗を棚上げすることに成功した。
 しかし、スペインの若きミッドフィールダーたちと、このゲームでは動物になりきれなかったダヴィド・ビジャが、メフィストにもジンクスにもリアリズムにも耳を貸さず、フットボールのために、長短のパスが瞬時に生み出す未知の空間のために、そして、もっとこの季節にぼくらのフットボールをしたいという欲望のために、次のゲームが出来る喜びのために、この停滞した時間を終わらせてくれた。素直に喜びたい。 

投稿者 umemoto youichi : 12:29 AM

juin 22, 2008

What's this, what's this? Is this her fault or mine?

 オランダの敗因を考えている。一昨日のポルトガル、昨日のクロアチア、そして今日、オランダ、予想はしないことにしているが、それでもフットボールのために次に勝ち進んで欲しいチームが次々に敗れている。だが、それまでのゲームは実力的にまあどっちが勝ってもおかしくはなかったが、ロシアの進化はカッコに入れ、ヒディンク・マジックもカッコも入れても、グループリーグのオランダほどフットボールの興奮を感じさせてくれたチームはなかった。スナイデルのアーティスティックなゴール、ロッベンの疾走、エンヘラールとデヨンクの渋い守り……。イタリア、フランスを撃破した衝撃は本当に大きかった。ほとんどがロシア・リーグで活動している選手ばかりのロシアに、このオランダは「格」から言って負けてはいけない。
 だが、この対ロシア戦。輝きはまったく失せていた。すべての面でロシアが上回った。アルシャフィンやパヴリュチェンコばかりではなく、全員がすごく頑張った。延長戦を見る限り、誠実に戦ったのはまちがいなくロシアだった。足が止まったオランダを見ていると、コンディショニングのミスかとも思えたが、一流のプロのフットボーラーたちが自らのコンディションに責任を持つのが当たり前だろう。ブーラルーズの娘の死やアリエン・ロッベンの股関節の怪我(どうして彼を使わなかったのかを調べたら、ロッベンのインタヴュー記事があった。このショックは尾を引く、と彼は語っていた)という原因もあるだろう。だが、ロッベンはイタリア戦には出場できなかったが、オランダは完勝した。ピークをグループリーグに持って行き、ルーマニア戦からこのチームは下降線上にあり、しかも「Bチーム」で戦ったから、モティヴェーションが下がったのだ。いろいろな論評があった。どれも、そうかもしれないと思うが、あの輝きが消えた原因のすべてだとは思えない。
 もしヒディンク・マジックが輝きを消したのなら、ロシアの戦術を分析すればいいのだが、ゲームを見る限り、ロシアは普通に戦って普通に勝っている。つまり、オランダの輝きは一瞬も見られなかった。それでも、このゲームは延長に入ったのだから紙一重の差だった。つまり、オランダは、ごく普通のチームになり、そういうチームは勝ったり負けたりする。もしオランダが普通のチームだとしたら、このゲームの敗因は何よりもセンターバックのふたりの弱さに原因を求めればいいだろう。ラインコントロールもままならず、相手にスペースを与えてしまえば、ゲームにはごく自然に負ける。それまでのゲームではあまりにファンタスティックにオランダが点を取ってしまうから、相手が意気消沈していく様子が分かった。
 オランダの輝きはやはり初夏の花火のように一瞬のものだったのだろう。セレクション・チームは、なかなか「チーム」にならず、ばらばらな個人を統合するのに時間がかかるものだが、オランダの輝きがもっと続いて欲しかったのは、ぼくらがクライフやニースケンスのいたオランダを知っているからだからだろう。そして、忘れてはいけないのは、あの輝きが続いたオランダには、彼らの他にもクーマンもいた。もちろん3-4-3の当時のバックラインと4-2-3-1の今とは比較できないが、オーイヤー、マイタイセンでは比較にならないことは明らかだ。もうひとつ、今のオランダには、劣勢になったときチームを鼓舞するリーダーがいない。ミッドフィールダーは若く、バックラインは心許ない。ファンデルサールは後ろにいすぎる。若者たちがゲームに「乗れ」ば強いが、少しでも劣勢になるとそれをはね返す力がないということだし、紙一重のゲームを勝ちきるにはやはり経験が必要だ。

投稿者 umemoto youichi : 11:40 PM

juin 21, 2008

Et tu, Brute?-- Then fall, Caesar!

 それがフットボールさ。そんな常套句をいったい何度聞いたことだろう。ドーハの悲劇直後のハンス・オフト、やはりアメリカ大会出場権をどたんばで逃したフランス代表監督だったジェラール・ウイエ……。そして2004年の中国の猛暑の中で延長戦を何度も戦ったジーコと日本代表。そして今朝は、クロアチアのヘッドコーチ、ビリッチもそう言うかも知れないし、ぼくらもそう思った。
 昨日も今日も下馬評では有利なチームが散っていく。昨日のポルトガルは、ドイツのフットボールがポルトガルを凌駕していたから仕方がないが、今日のクロアチアは、延長後半の14分にクロアチアが先取点をあげ、ロスタイムが2分経過したこところで、トルコが同点ゴール。そしてPK戦を制した。それまでは順風満帆のクロアチア。グループリーグを何の問題もなく突破し、3戦目には主力を温存した。一方のトルコはチェコをどたんばでうっちゃりようやくここに駒を進めた。誰だって、クロアチア優勢は疑わないだろう。しかし結果はトルコの勝利。しかも劇的な形での。こういうことは滅多に起きないのだが、実は何度も何度も起きるのだ。
 引き分けありのグループリーグのゲームから決勝トーナメントのノックアウト・システムになると、延長戦、PK戦で次に進むチームを決めることになるのだから、何度も起きるのは当たり前だし、システムとしてすでにこのような結末を内包している。
 でも延長後半10分ぐらいまでゲームは面白くなかった。ウィーンの蒸し暑さが原因だろう。ピッチサイドの両監督の白いシャツには汗が滲んでいた。選手たちは身体もアタマも動かなくなっていったはずだ。組み立ても戦術もどうでもよくなり、選手たちは本能的に相手ゴールを目指すだけだ。
 明日のオランダ対ロシア戦で、フース・ヒディンクが目指すのは、徹底した塹壕戦かもしれない。アタックは諦めて、自陣に籠もり、オランダを疲れさせておいて、アタックに倦怠した時間帯を狙って総攻撃をかける。ファンバステンと若きオランダが、そうしたネガティヴなゲームプランを叩きつぶすためには、前半の入りからフルアタックをかけて、前半のうちに勝負を決めてしまうことだ。今日のトルコ対クロアチアのゲームも面白くはあるのだが、それはもっぱら勝敗に関わる面白さであって、決勝トーナメントというシステムに関わる面白さであって、フットボールそのものの快楽とは異なる。今大会の星であるオランダには、小学生のトーナメントから起こりうる、そうした勝敗に関わるサスペンスとは無関係な、フットボールそのものに属する快感を謳歌しながら、古狸率いるロシアを撃破してほしい。

投稿者 umemoto youichi : 11:45 PM

juin 20, 2008

I know thee not, old man. Fall to thy prayers.

 点数こそ3-2だが、内容はドイツの完勝だった。前回のユーロ決勝でギリシャに敗れて涙を流していたロナウドも、今回は涙も出なかったろう。スポーツ雑誌の表紙の多くを彼が飾ったが、大した見せ場を作ることなく大会を終えた。
 ドイツの勝因は、ポルトガルの長所を消して、ドイツの長所を生かしたことだ。ポルトガルの長所はミッドフィールドでの展開力で、ドイツの長所は高さと誠実さ。ドイツは人数をかけてポルトガルのミッドフィールドを消してボールをサイドに追い込み、セットプレーで先手をとって、ポルトガルのセンターバックの背後で勝負した。大した戦術ではないけれど、ゲーム全体を見渡せば、ポルトガルで光ったのはデコひとりだった。前回ならルイ・コスタもフィーゴもまだ短い時間なら十分にその力を見せることができたが、今回のポルトガルは彼らのスタイルを見せることなくピッチから去った。フィリッポンは、ロナウドやナニが活躍するマンUのやり方を見たろうが、やはりロナウドのワントップにする勇気がなかったようだ。中央をケアし、ポルトガルをサイドに追い出せば、そこから上がるはずのクロスにドイツは十二分に対応できる。そして人数をかけたミッドフィールドでは、チェルシーで開眼したバラックとクロアチア戦のレッドで責任を感じたシュヴァインシュタイガーが労を惜しまず走り回るはずだ。
 センターバックふたりの動きの鈍さから2点を失ったが、それでもドイツは常にゲームをリードする展開を保つことが出来た。ドイツの1点目は本当に綺麗なゴールだったし、クローゼの2点目もバラックの3点目は、ポルトガルのセンターバックを外して上がったクロスからのヘッドだから、体力勝負でドイツが勝てる。
 ポルトガルの敗因は何か? フィリッポンの慢心? もう就職が決まっているから、このゲームに賭ける気合いの小ささ? それもあるだろうが、単にもうポルトガルが強くはないからだ。ヌーノ・ゴメス、ポスティガといったセンターFWは、どう見ても二流。シモンもスピードがなくなった。いくらデコが獅子奮迅の活躍を見せても、ミッドフィールド全域をカヴァーすることはできない。以前ならポケットビリヤードのように短いパスが連続して繋がっていたポルトガルのミッドフィールドは、もう存在しなかった。ルナウドを献身的に活かすルーニーも、意表をつくアタックを試みるスコールズやハーグリーヴズもポルトガルにはいないということだ。グループリーグを楽に勝ち上がったポルトガルにはセミファイナルに残る資格が最初からなかったような気もする。

投稿者 umemoto youichi : 10:53 PM

juin 19, 2008

Disguise, I see thou art a wickedness

  ロシア対スウェーデン戦を見る。おそらくスウェーデンが勝つだろうと思っていたが、フース・ヒディンクは、やはり狸だ。おそらく力の差のあるスペインに対しては完全に死んだふりをし、ギリシャとスウェーデンには全力投球。そして、ベスト8に最後の名乗りを上げた。
 ズラタンとラーションの2トップは、ユーロの中でも悪くないし、その背後をユングベリが走り回れば、ナイーヴなロシアは崩れると誰でもが思ったろうし、ぼくだって例外ではない。だが、冷静に見れば、大男中心のこのチームには、伝統的な意味でのパサーが不在だ。中盤をつくりながら相手を崩していくのではなく、ロングボールを放り込んで、ズラタンとラーションに「ふたりで何とかしろよ」という戦いぶりなのだ。ヘッドでも足下でもオッケーな2トップは、確かに小柄なスペインのディフェンダー陣には、それなりに脅威だったろうが、同じような大男がいるロシアなら、盛りを過ぎたラーションと好調ではないズラタンなら、勝負になるだろう。それに2列目の押し上げによって、アタックに焦点を絞らせないといった工夫もスウェーデンには縁がない。真ん中に開いた空間に人員を増やし、中盤を制して、ポゼッションを上げ、さらにロングボールに対してはユングベリに走り勝ってセカンドボールを徹底して拾っていく。そしてカウンター。ヒディンクの作戦はおそらくそんな感じだったろう。実際のゲームもその通りになった。
 これでベスト8の組み合わせが決まった。ポルトガル対ドイツ、クロアチア対トルコ、スペイン対イタリア、オランダ対ロシア。予想? 一発勝負なので、本当に分からない。ここからはPK戦もあることだし……。ある程度過密日程なので、選手たちの疲労が気になるが、左側に書いたチームは、グループリーグの3戦目をサブメンバーを多く出して戦っているのは強みだ。常識的な見解に過ぎないけれど。右側のチームは、3戦目が一杯一杯だったように見える。予想するより応援だ。応援しているのはスペインとオランダ。ピルロのいないイタリアを下し、ヒディンク・マジックなど気にしなければ、この両チームが準決勝で相まみえる。

投稿者 umemoto youichi : 11:57 PM

juin 18, 2008

The odds is gone,And there is nothing left remarkable

「死のグループ」が終わった。熱戦に次ぐ熱戦を期待していたが、終わってみれば、好ゲームだったのは、ルーマニアの誠実さは記憶に残りはするものの、オランダがらみのゲームだけで、結局、ベスト8に進出することになったイタリアも、そして、最終的に1分2敗という惨敗に終わったフランスも、フットボールに貢献する瞬間をまったく見せることができなかった。すでに「死に体」だったチームが醜い姿を晒しただけだ。
 まず勝ち残ることになったイタリアについて。対フランス戦を勝利に終えることができたのも、まったくの偶然だ。ルカ・トーニはただの木偶の坊に過ぎないことが誰の目に明らかになった。まだそれでもときおり煌めきを見せないではないピルロを除いて、他の選手たちはもう盛りをずっと前に終えてしまった「昔の名前」に過ぎないことを白日の下に晒した。アビダルがトー二を倒して得たPKもデ・ロッシのFKがアンリに当たって方向が変わったのも、リベリの怪我もアクシデンタルなものでしかない。カンナヴァロが怪我をすれば守備陣が崩壊し、ガットゥーゾやアンブロジーニが歳をとれば中盤の速度はなくなる。すでにこのチームにインザーギのような職人はいない。そして「誰もいなくなった」。結果だけが残っている。
 帰国の途につくフランスについて。この国のフットボーラー育成の方法については議論する必要がない。各国リーグを見ていればこの国が豊かな才能を生み出すのに長けていることなど誰にでも分かるだろう。センターバックではローマのメクサス、サイドバックではアーセナルのクリッシとサニャ、そしてミッドフィールドにはリベリとフラミニ、そこにアーセナル入りが噂されているナスリを初めとする87年世代が加わる。だが、25歳ぐらいのちょうど素晴らしい年齢を迎えた選手の何人がこのチームに選ばれているのか? 98年の黄金の世代とそれ以後との実力差が大きすぎるという批判はまったく当たっていない。人材の宝庫なのに、その人材が活用されていない。マケレレやテュラムは犠牲者だ。特にこのゲームを代表の最後のゲームと自ら考えていたテュラムは、アビダルがレッドを喰らっても出場機会は与えられなかった。つまりすべては「セレクショナー」の責任だ。さっき選ばれなかった選手たちの氏名を書き連ねて、彼らが出場し、「コーチ」から適切な指示を受けた場合、対オランダ戦でどんなゲームを見せてくれたかを想像せずにはいられない。GKのクペ、バックラインは右からサニャ、メクサス、ギャラス、クリッシ、ミッドフィールドはジュリ、ナスリ、フラミニ、リベリ、2トップにベンゼマ、そしてアンリ……。両翼の速度はオランダよりも速いはずだ。このメンバーならユーロ優勝も狙えたろう。もし敗れたとしても、2010年のために大きな財産になる時間を若い選手たちに与えてくれたはずだ。
 今朝からずっとレーモン・ドメネクと伴侶であるスポーツジャーナリストのエステル・ドゥニ(美形!)のことを調べているが、かつてピレスやジュリがこのチームに選ばれなかったのは、ドメネクの恋敵だったからだ、というブログを読んだ。98年世代のひとりヴィセンテ・リザラズは、これでディディエ・デシャンの番だ、と語っている。ロジェ・ルメールが去り、ジャック・サンティニが去ったとき、次はデシャンだ、ローラン・ブランだと言われたが、ダークホースのドメネクをエメ・ジャケが支持したときからすべての失敗が始まっている。ずっと前からデシャンとブランの番だったのだ。
 オランダ。ファンバステンのやり方はドメネクの対極にある。カイト、ファンデルファールト、スナイデルにゲームの仕切を任せ、ファンニステルローイには好きにやらせることでレアルでの彼の好調を維持し、切り札にロッベンとファンペルシ、副産物としての大いなる発見にエンヘラール。この日のルーマニア戦は、店晒しの選手起用だったが、ゲームを見ると、全員が俺は店晒し要員なんかではない、俺たちがプレーするのを見て欲しい!とばかりの全力投球!戦術を与え、選手交代にセレクショナーとしてのゲームを読む力を見せつけ、そして絶対的な勝利をたぐり寄せるファンバステンは本当に見事だった。特にルーマニア戦はポゼッションが8割近くになったがなかなか点の入らない「いつものオランダ」も垣間見えたが、エンヘラール→ファンペルシのラインを何度も辛抱強く試み、このゲームの完勝している。観客席のクライフも満足しているだろう。

*このコーナーのタイトルはどれもシェイクスピアからの引用です。

投稿者 umemoto youichi : 11:08 PM

juin 15, 2008

I cannot hide what I am

 昨日のオランダと並んでグループリーグ一巡目でもっとも注目されたのはスペインだ。適切な距離感を保ちながらパスが繋がることで、スペースが生まれていくフットボールも、オランダのピッチの全域を全速力で使うフットボールと共に今回のユーロの発見だった。緒戦のロシアは、正直言って弱かったので、この対スウェーデン戦がスペインの力を測る機会になる。
 ロシアよりもスウェーデンは中盤でのプレッシャーがきついし、前戦でもラーション、ズラタンという決め手があるので、スペインの華麗さは影を潜めている。だが、フェルナンド・トーレスの一発でリードする。そして、ズラタンが1点を返し1-1。
 ロシアのようなナイーヴさのないスウェーデンは、ここからゲームを殺しにかかる。勝ち点1をスペイン戦で奪えば、決勝トーナメントへの道は大きく開けるからだ。中盤のプレッシャーをきつくし、ボールを奪ったらロングボールで一気に前戦。スペインの中盤が持っている豊かな鉱脈は無意味なものになるだろう。事実、ゲームは停滞する。アラゴネス爺さんは、いつもように後半にセスクを投入する。今回は、シャビとの交代。タクトを振る人材を代えた。だが、それでも中盤は一向に活性化してこない。やや下がり気味のディフェンスライン、そして、タイトなマークを避けて、パスコースを消すことに徹したスウェーデンの中盤の守備。ボールは回るけれど、有効なアタックに繋がらないスペイン。スウェーデンの守備は本当に老獪だ。小僧たちの個人技を個人の内部に留めておき、有機的な繋がりを断ち切るという頭脳的なディフェンスをスウェーデンは辛抱強く続けた。これはドローだろう。ロスタイムに入って誰でもそう思ったろう。ぼくも例外ではない。
 だが、両チームにたったひとりだけドローでは気が済まない奴がいた。ダビド・ビジャ。ロスタイムが3分。その2分目でスウェーデンゴールにシュートをたたき込む。
 クリスティアノ・ロナウドの大会と考えられていたユーロ2008が、実はダビド・ビジャの大会であることを思い知らされた。

投稿者 umemoto youichi : 11:58 PM

juin 14, 2008

So young, my lord, and true.

 ブフォンがムトゥのPKを止めて、何とかイタリアが希望を繋ぐ。だが、大した希望ではない。ドナドーニは大幅にチームにいじり、確かに緒戦よりも良くなりはしたが、それでもユーロのピッチを支配するようなチームになっていない。
 そしてオランダ対フランス戦。左サイドバックにエヴラ、そして右のミッドフィールドにゴヴー、ワントップにアンリ。現在のフランスの面子を考えればベストの選択だろう。そして、後半から疲れてくるロートル陣に代わって、次々に87年世代を投入する。フランスの戦略はそれしかない。対するオランダは、もちろん、変わる部分など何ひとつないはずだ。対イタリア戦はすべてうまくいったのだから。
 もちろんフランスのミッドフィールドは気力にみなぎっている。当然だ。対ルーマニアのドローの記憶を消し去り、「死のグループ」を優位に進めるには、ここでオランダに勝つしかない。だがマケレレの獅子奮迅の活躍とリベリの縦横無尽のドリブルだけで、オレンジの壁を突き破ることなどもうできない。トップに文字どおり「どっしり」腰を落ち着けたアンリには、もうアーセナル時代の輝きは消えているし、左サイドを自らのドゥリブル領域にするリベリがいては、アーセナル時代にアンリがもっとも得意にした左サイドを駆け上がって中央に持ち込んでシュートという「アンリ・フィールド」がまったく使えない。アンリはクラウチではない。仕事の場所が与えられなければ、ただのヘディングの下手くそな男に過ぎない。もともとはウィンガーなのだ。ドメネクが何を考えているのかいつも分からないが、このゲームでもまったく分からなかった。チームを作ろうという気があるのか? セレクショナーでいるだけで勝てるほどユーロは甘くない。
 オランダと比べれば、その事実ももっと明瞭になる。対イタリア戦のとき、オランダは、とてもシステマティックだとぼくは書いたが、4-2-3-1というシステムに最適な人材を各所に配している。それぞれがいくつものことを一度に考える必要はなく、与えられた仕事をきっちりこなせば、自ずと答えが出るように作られている。それに対してフランスは、ボランチとセンターバックの各2名を除いて、どのメンバーも難しい応用問題を与えられアップアップだ。もちろんヴェテラン揃いだから応用問題など簡単に解けるのかも知れないが、やはり解くまでには時間がかかる。適性を思考された上でのオートマティスムと個人の自由の名の下に与えられた重すぎるタスク。オランダとフランスの差異はそこにある。それはそのままファンバステンとドメネクの差異だろう。
 圧巻は後半だった。0-1で前半を終えたフランスが、ギアを入れ替えるのは分かっている。そこで後半アタマからエンヘラールに代えてロッベン! 55分にはカイトに代えてファンペルシ! 押し込まれると次々にFWの選手を入れていく。師匠のクライフそのままの采配。これで4-2-3-1からオランダ伝統の4-3-3。押されながらも、前戦とディフェンダーまでの距離を縮めてカウンターアタックの準備をする。そして、それが見事に当たってしまう。まずロッベンの高速ドゥリブルからファンニステルローイ、そして再びロッベン、さらにファンペルシで1点。アンリに1点を奪われた直後には、ロッベンが左サイドを駆け上がってそのまま1点。フランスが、オランダのゴール前でパスを短く繋いでいる間に、ピッチを大きく使うオランダ2点決めてゲームに決着をつけてしまう。ドメネクが動くのは、そこからで、マルーダに代えて何とゴミス!(ここはベンゼマでしょう!と誰もが思った。)そしてこの日活躍したゴヴーに代えて何とアネルカ!いったい何を考えているのやら? 注目された87年組もこのゲームに使われなかった。今さら言っても仕方がないが、フランスの敗因はドメネク。
 ロスタイムにスナイデルが正面から決め、歴史の明らかな変化をピッチに刻み込んだ。ゲームの余韻が残る翌朝には東北地方を大地震が襲った。幸い四川に比べれば被害は少ない。『そして人生は続く』を思い出す。

投稿者 umemoto youichi : 11:11 PM

juin 13, 2008

Ill met by moonlight, proud Titania.

 ドイツ対クロアチア。もちろんドイツ優勢の予想。だが結果は2-1でクロアチア。ゲームを見れば決して番狂わせではない。クロアチアの監督は、ドイツ・チームをイングランドと似ていると言ったそうだが、このクロアチア・チームは、プレミア・リーグの中堅チームととてもよく似ている。大男のセンターバック、中盤での激しい守備から両サイドへ、そして両サイドがクロス。エヴァートンとかアストン・ヴィラみたいな中堅チームのように、この作業を愚直に反復するのがクロアチアだ。98年のW杯3位のときのような才能溢れるチームではなく、誠実なチームだ。誰か特筆する選手がいるのではなく、全員がタスクを忠実にそして全力で実行する。
 それに対してドイツは、言葉の真の意味でナイーヴだ。ほとんどの選手がブンデス・リーガでプレーしているせいかもしれない。別のやり方をするチームへの対応力が小さい。バラックとレーマンはプレミアで揉まれているだろうが、他の選手は、「外部」を知らなすぎるようだ。クロアチアの選手は、呼ばれればどこへでも行って、欧州各地で活躍している。だから、対応力、応用力がなければ務まらない。そして、この日のクロアチアは、その対応力をゼロ地点に置いている。つまり、相手に走り勝ち、プレッシャーをかけ続け、早いクロスを送り続け、どんな場合でもシュートを打つ。フットボールとは単純なものなのだ。その単純さを信じていれば、その信仰の大きさに相手は次第に驚き、方向性を見失っていく。作戦は単純だが、そういう場所に作戦を落とし込んでいけば、チームは絶対に強くなる。約束事以前に1対1に勝つ。ボールを奪ったらサイドに展開する。サイドを駆け上がってクロスか、コースが見えればシュート。後は全員で一生懸命走る。それの繰り返し。自ら強いと思いこんでいるチームの選手たちの鼻をあかす一番良い方法をクロアチアは選んだ。

投稿者 umemoto youichi : 11:43 PM

juin 12, 2008

Keep up your bright swords, for the dew will rust them.

 ポルトガル対チェコと言えば、好カードなのに実際のゲームを見ていてもさっぱり燃えてこない。
 今大会は彼の大会になる、と言われている「彼」とは、もちろんクリスティアノ・ロナウドのことだし、実際にこのゲームでもデコからのパスを受けて、彼が見事な1点を決めている。全回のユーロでお目見えした彼は、単なる高速ウィンガーだったのだが、この大会では、本当にトータルなフットボーラーとして成長している。と、書いてはみたが、デジャヴュな感じ。つまり、ロナウドは今大会における成長株でも何でもなく、彼の素晴らしさはマンUでの彼の姿を見た人なら先刻承知。この程度で驚いてはいけない。もう少し出来るのでは……と思うのが普通だ。チャンピオンズリーグの後半からデコの調子も戻ってきたし──とすればポルトガルは、センターバックのリカルド・カルバーリョを含めて、センターラインがしっかりしていて素晴らしいチームのはずだ。
 対するチェコだってすごい。毎回ユーロでは好成績を残すし、2006年のドイツW杯の緒戦、対アメリカ戦の3-0は今でも記憶に残っている。糸を引くようにパスが繋がり、その特徴である4-1-4-1のフォーメーションをもっとも効果的にしているのがこのチームだった。パスワークとコレルのアタマ。そして老獪なブリュクネルの采配。ロシツキの怪我による離脱はこのチームにとって(そして終盤のアーセナルにとっても)大きな打撃だが、ハードワークを惜しまない選手たちの頑張りはいつも感動ものだった。
 しかし、ゲームがつまらない。確かにポルトガルはパスが繋がるが、創造的なパスワークではなく、足下足下で繋いでいるだけ。得点もカウンターとロナウド、デコの個人技がらみ。そして、チェコの方は、寄る年波で運動量の減ったコレルではなく、これもすでに盛りを過ぎたバロシュのワントップ。つまり、最初からカウンター狙い。そう考えるとゲームの趨勢が読めてしまう。ブリュクネルは、俺たちには、ポルトガルにはないオーガニゼーションがあるんだ、とゲーム前のインタヴューで語ったそうだが、実際のゲームを見てみると、大した組織はなかった。
 否、このゲームだって、ひょっとすると否定すべきではないのだろう。クリスティアノ・ロナウドは活躍した。デコは前よりも良くなっている。それにコレルも後半には出てきたし、それなりの存在感を示した。問題は、ぼくらが、オランダとスペインを見てしまったせいだろう。ディアゴナルな距離の長いパスと、正確きわまりない個人技、そして誠実なランを組み合わせたオランダ。これ以上ないと思えるような適切な距離を保ちながら、その上に個人の創造性を発揮しつつ「人とボールが連動」していくスペインの中盤。それらに比べると、3-1で勝ったポルトガルも、かつてモニターの「フレーム外」へのパスを唐突に送りながらスペースを捏造したルイ・コスタのいたころに比べると、有機的な個人の連動性がないチームに成り下がり、チェコもその組織に創造性を欠いていた。先進的だった4-1-4-1にしても多くのチームが採用しているし、たとえば対ロシア戦の後半にスペインが見せた4-1-4-1の方がずっと魅力的だった。つまり、こういうことだ。どちらのチームも「想定の範囲内」でしかなく、「信じがたいものが展開する」(ゴダール)瞬間を欠いていたがゆえに、このゲームが魅力的に見えなかったのだ。思えばブリュクネルは、今大会で引退が伝えられ、フィリッポン(スコラーリ)は、このゲームの前日、チェルシー監督就任内定が公表された。フィリッポンは全回のユーロでも、この交代に冴えは見せたが、ゲームに創造性を吹き込んだことはなかったように思う。この人は、「戦術家」ではなく、セレクショナーなのだ。その意味で、チェルシーに相応しいのかも知れない。

投稿者 umemoto youichi : 11:11 PM

juin 11, 2008

How dost thou like this tune?

 インスブルック。この街で行われるフットボールを見るのは初めてだ。冬季オリンピックが2度開催され、年末年始のヨーロッパジャンプ週間の1戦もこの街で行われている。チロル。スキー。この街の夏の映像を見るのは初めてだ。雷の後の雨が強い。背後にチロルの山々が霞んで見える。スペイン対ロシア。前評判の高いスペイン──ぼくもテストマッチを見たが、大好きなフットボールをする──対「策士」ヒディンクのロシア。強い雨を見ると、これはロシアが番狂わせを起こすかも知れないと思う。ロングボール、背の低いスペイン・ディフェンス、雨で滑るピッチ、中盤のパス回しに狂いが生じるスペイン。
 この日のスペインは予想された4-1-4-1ではなく、ビジャとフェルナンド・トーレスの2トップ。つまり4-1-3-2。セスクがベンチスタート。ほぼ互角の立ち上がりから、次第にシャビを中心にしたスペインが中盤を支配し始める。雨が降っているのを忘れるような、それにほとんど雨の降らないスペインのチームであることを忘れるように、ボールがぐんぐん回る。イニエスタのドリブル、シャビのセンチメートル単位の配球。バルサになくなったものがこのチームで再生しているようだ。トーレスにスルーパスが通り、GKと1対1、キーパーを交わすとトーレスはビジャにパス。ビジャは問題なく決める。これがスペインのハーモニーの始まりだった。ミドルレンジのパスが連続的に繋がり、アンカーのセナと両サイドを含む8人がスペースを求めて走ると、そこにスゥーとパスが出る。ロシアの中盤は、定石通り厳しく行くが、シャビが、セナがそれをかいくぐってパスを出す瞬間、2トップが動き出し、別のハーモニーの始まり。絶好調のビジャが2点目を決め前半が終わる。これで勝負は決まった。
 スペインの若い中盤は、確かに後半開始直後は押し込まれたが、アラゴネスは、この日、絶好調のビジャを残し、トーレス→セスク。別にトーレスが不調だったわけではない。4-1-4-1を試したかっただけだろう。中盤に人が増えたスペインは、もっと多彩なハーモニーを奏で始める。回りで見ているだけのロシア。するとビジャがまた決める。ハットトリック!
 セットプレーからロシアに1点献上したが、終了間際にセスクが決め、結局4-1。雨も悪い予感もヒディンク・マジックも関係ない。ミュージシャンたちが集まり、フリー・インプロヴィゼイションを始めると、もう誰もそれを止めることはできない。饗宴に次ぐ饗宴。そして、彼らはまだまだ底を見せていない。次はどんな音響を聞かせてくるのか。楽しみだ。

投稿者 umemoto youichi : 10:31 AM

juin 10, 2008

All the world's a stage

 ユーロ3日目にして、ようやく「世界の舞台」が始まったようだ。眠いせいもあって、それまでのゲームも何となくドメスティックに感じたし、事実、スイス、オーストリアという地味な開催国のせいもあったのだが、「死のグループC」のこの日は、「世界の舞台」を堪能した。
 まずチューリッヒのフランス対ルーマニア戦。ルーマニアが守備を固めてカウンターという戦術に来るのは、ドメネクだけではなく、このゲームを見る人全員が分かっていたろう。それをフランスがどう崩すのかが焦点だった。だがフランスは安全な采配。怪我のアンリ、ヴィーラの代わりにベンゼマ、トゥララン。後は誰でもが予想通りの──つまり、「驚き」の欠片もない──人員配置。セントラルに「球拾い」がふたり並んだのだから、崩しは両サイドということになる。右のリベリ、サニョール、左のマルーダ、アビダルの連携が鍵になるはずだ。だが、その連携がない。リベリは確かに貫禄が出たけれど、もともと他との連携で崩すタイプではないし、チェルシーでは控えに甘んじるマルーダはドリブラーだ。ボールの欲しいベンゼマは空しく走り回り、(いつものように)アネルカは外しまくる。輝いて見えるのが、マケレレ。どっしりして安定感抜群なのが、ギャラスとテュラム。みんな「昔の名前」だ! ルーマニアの引いたディフェンス陣を崩すには、ワンタッチ、トゥータッチの中盤での素早しパス回しとサイドへの大きな展開の組み合わせが原則だ。だが、フランスのパスワークは遅く、オートマティックな連携が見られない。つまり、ポゼッションはどんどん上がるが、攻めあぐねている状況。驚いたことに、ドメネクは、この膠着状態を破る手を70分過ぎまで打たない。まずアネルカとゴミスの交代が72分、そしてベンゼマとナスリの交代が73分。この交代も納得できない。ポゼッションが高いのだから、2ボランチの1枚を交代させ、トップ下を置くのが定石。ならばトゥララン→ナスリがまず最初の交代(これは後半アタマからでいい)、そして、このゲームを見た人なら分かると思うのが、ベンゼマはアネルカよりも出来が良かったから、アネルカを別のFWに交代。そうあるべきだ。「別のFW」と書いたのは、ボールをこねくり回し、判断の遅いゴミスはやはりこのレヴェルではまだ力不足という感じ。アンリが怪我ならゴブーだろう。引き分けに終わったのは、ルーマニアにとって満点、フランスにとって苦しい。「ナンバー」誌で原博美は、このグループの勝ち抜けはイタリアとオランダと言っていたが、信憑性を帯びてきた。フランスが引き分けに終わる主な原因を作っているのは、ドメネクであるのは当然。
 そしてベルンのオランダ対イタリア戦。スイスの夕焼けは本当に綺麗だ。ゆっくりと日が沈んでいき、夏のヨーロッパの「蒼い夜」が静かにやって来る。「蒼い夜」の久しぶりのオランダの花火が上がった。
 このゲームは面白かった。オランダの「常数」である4-3-3をやめて、4-2-3-1を採用したこのチームが、カテナッチオをやめて4-3-3にしたイタリアとどう戦うのか──興味は膨らむ。結果はオランダの3-0の完勝。しかも、このチームに4-2-3-1が本当にマッチしていた。特筆すべきは、デヨンク、エンヘラールの両ボランチと、スナイデル、カイトの2列目の中盤。セカンドボールを拾いまくる両ボランチに、ガットゥーゾ、アンブロジーニは完全に後れをとっていたし、ピルロにボールが回るのはペナの前で前線は遠かった。それにブンデスリーガでは通用したトーニがオランダのセンターバックに歯が立たなかった。そしてスナイデル、カイトが自在に走りまくり、ザンブロッタ、パヌッチをオランダ・ゴールから遠ざけた。後半半ばから登場したデルピエーロはさすがに見せ場は作ってくれたが、ゴールネットを揺らすことはない。トータルフットボールの代名詞がオランダだが、この日に見せてくれたのは、全盛期のアヤックスを思わせるシステマティックなフットボール。金曜日のフランス戦にも十分勝てるような気がする。イタリアは苦しい。次のルーマニアにも、そしてフランスにも勝つ必要がある。トーニでは、ルーマニアの堅いディフェンスを破れないだろうし、ギャラス、テゥラムを崩すことができないだろう。このグループの勝ち抜けは、イタリア対フランス戦の来週の木曜にかかっている。ひょっとすると、ルーマニアとオランダが勝ち抜ける可能性だって十分にありそうだ。ユーロでは、この種の「番狂わせ」に事欠かない。04年のギリシャや92年のデンマークを思い出せばいい。

投稿者 umemoto youichi : 12:14 PM

juin 09, 2008

Sleep no more! Euro 08 does murder sleep.

高温多湿で息が詰まりそうなマスカット・オマーンから、バーゼルにカメラが切り替わる。6月のヨーロッパは緑に満ちあふれ、最高の気候だ。遠藤の人を馬鹿にしたようなPKがオマーンのゴールマウスに吸い込まれ、両チームとも動きが鈍くなり、モニターの画面にはポッカリ開いた中盤が、深い芝と信じがたい高温多湿を映し出すのと、緑の絨毯のようなバーゼルのピッチ。まさに天国と地獄。パスが繋がり、ボールが走り始めると、先ほどまで見ていた格闘技のようなフットボールが嘘のように、精密機械の運動のようなムーヴメントが支配している。やはり、こちらの方がフットボールなのだろう。
 だが、それにしても眠い。オマーン対日本戦のために、早寝は許されず、キックオフ前の長いセレモニーが永遠のように感じられる。図形が少しずつ変化していくマスゲームを見ていると、両目のまぶたがしっかり閉じられそうになる。ゲームが始まっても、やや引き気味のアングルが、フットボールをまるでマスゲームのように見せてくれる。機械のようなゲーム展開が、眠気を増幅させるだけだ。チェコのゴールの瞬間は残念ながら見ていない。気がつくと、モニターの左上のスコア欄にチェコの1点が記載されていた。これではいけない。ゲームを見ていることにはならないではないか。だが、開幕戦としては、このカードは少しばかり地味すぎやしないか。
 そしてカメラは、バーゼルからジュネーヴに移る。朦朧とした眼でボールの運動を眺めているだけで、どちらがトルコで、どちらがポルトガルなのが、すぐに理解できる。フットボールとは勝つためのゲームではあるのだが、ポルトガルの展開を見ていると、それだけではない、ボールを展開し、空いたスペースを探し当て、そこに選手が走り込んでーーというアクションを反復させることにフットボールの時間のほとんどが費やされていることが分かる。殺戮されたはずの「眠り」が少しずつ忘れられていく。朝早い明日の義務よりも、今の快楽に酔うことを選ぶのは正しい。ポルトガルのボール回しを見ていると、そんな確信が眠気を追い払い始めている。ときにトルコの反撃にあっても、中盤でボールをまわしながら2点を叩き込んだ。そして極東の大都会に朝がやってきた。

投稿者 umemoto youichi : 12:31 PM