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April 8, 2004

チャンピオンズリーグ準々決 2nd leg モナコ対レアル・マドリ アーセナル対チェルシー

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ホームで4-2でモナコを下したレアルと、アウェイで引き分けたアーセナルのホーム・ゲーム。共に「番狂わせ」。
まずモナコ対レアル。フットボールでもっともよく語られる対立軸は、組織対個人というものだろう。ジーコ・ジャパンでもしきりに語られている。だが、もともとそんな対立軸などあるのだろうか。このゲームを見ていてそう思った。前にも書いたが、モナコの戦術は単純なものだ。フラットな4人のバックラインの両サイドに俊足のサイドバック、イバラ、エヴレを配し、2列目にロタン、ジュリという技とスピードのあるサイドハーフ、ボランチはシセを中心とする2枚。トップにはプルソとモリエンテス。なるべく下がらずにボールを奪い、サイドに展開し、クロス。アタックはそれだけ。ディフェンスは、中盤でなるべく人数をかけて囲い込み、ボールを奪えなくてもアタックを遅延させ、バイタル・エリアへの進入を遅らせる。これが90分続くかどうかが勝敗の境目になるだろう。
つまり、アタックでもディフェンスでもサイドには常に2枚いる。確かにゲーム開始からレアルのポゼッションが上回り、モナコはなかなかボールを奪えない。だが、なんとかバイタル・エリアへの進入は押さえ込み、決定的なチャンスを作らせることはない。だが、左サイドにジダンとフィーゴが集まり、グティが上がると、そこへラウルが走り込み、レアルの先制。これで2-5になり、モナコのモティヴェーションが落ちると思った瞬間、ジュリのヴォレーシュートが決まり、前半は1-1。
後半開始早々、クロスをモリエンテスが見事に合わせて2-1、そしてペナルティ・エリアの外側に零れたボールをジュリが決め3-1。アウェイ・ゴールの差でモナコの勝利!
勝因は何か? まずサイドの人数の差だ。右でフィーゴ、左でジダンがボールを持つと、サイドに張るふたりとボランチのひとりが囲んでボールを奪い、一気にサイドに展開し、クロス。一方のレアルは、左にロベルト・カルロス、右にサルガドのひとりずつ。ジダンとフィーゴのポジションは自由だし、ディフェンスを余りしないので、エルゲラを中心とするレアルのバックラインががたがたになっていく。つぎにロナウド、フィーゴ、ジダンのスピードのなさ。流れるようなアタックが中盤で遅延されるから、トップはスピード勝負になるが、ロナウドは常に構えたまま不動! ラウルひとりが頑張っていた。モナコは、この戦術を90分間継続し、疲れの見えた選手をデシャンが次々に交代させ、チームとしてのスピードを保っていた。
チェルシーの左サイドバックのブリッジのシュートがゴールマウスに吸い込まれ、アーセナルにとって、4日間でふたつのタイトルが消えた。絶好調で完成の域にあるチームが、ここ一番の戦いに弱い──つまり勝負弱いのだろうか? 順調に見えた今年のアーセナル。プレミアでの暴力沙汰からサスペンションを出しながら、控えで乗り切り、チャンピオンズリーグのグループリーグでは文字取り土俵際から復活している。だが、おおかたの見方では絶対的に有利に思える2ゲームを連続的に落とし、ヴェンゲルの失望ぶりがよく見える。なぜなのか? 一番の原因は疲労だ。バックラインはともあれ、ヴィーラ、エドゥーのパスが少しずつ乱れはじめ、リュングベリ、ピレスが精彩を欠きはじめ、なんと言ってもアンリのスピードが影を潜める。ワンタッチ、トゥータッチでパスがつながるアーセナルのフットボールに連動性がなくなり、パスが遅れるとスペースを消される。もちろんチェルシーのディフェンスの頑張りもあったが、それ以上に、ここ数試合、アーセナルの出来は目を覆うばかりだ。もともと信じられないような人材を擁しながら、やっとチームとしての形が見え始めたチェルシーに敗れるのも当然だろう。ヴェンゲルのフットボールは、モナコの応用編なのだが、それには強靱なフィジカルが不可欠だ。
では選手層を厚くしてターンオーヴァーすればよいのか? それも選択肢のひとつだろうが、それ以上に、チームとしての型に可変性をつけねばならないと思う。負けないゲームのためには3バックにしてみたり、もっと多様なスタイルを持つことも必要になるだろう。

梅本洋一