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September 30, 2006

ジャン=ピエール・エリサルド解任
梅本洋一

[ cinema , sports ]

 エリサルドがバイヨンヌのマネージャー(日本式ではGM)に就任した後のラグビー協会の迷走は本当に醜悪だった。オノマトペで示せば、オタオタがぴったり。対外交渉事に慣れていない、体育会系の青春を過ごした親父たちとティーポットストームにしか過ぎない小さな権力闘争に明け暮れる協会役員たち。さらにこんな結果を招いても誰も責任をとろうとしない、いかにも日本的な無責任体勢。植木等の方がよっぽど責任をとっていた。
 ことの次第はこうだ。ラグビー日本代表のヘッドコーチ、ジャン=ピエール・エリサルドが、かつて強豪だったフランスのクラブチーム、バイヨンヌのマネージャーとして契約した。ヘッドコーチは代表監督だから、日本代表の監督とクラブのマネージャーを兼務したのだ。代表就任の契約には、兼務できない規定はなく、バカな親父たちが何度も雁首を揃えて議論し、挙げ句の果ては、人事権がないので、森喜朗(協会会長)が解任を決定したというのだ。彼が、HCに就任してからは、客観的に書いて、力が下のチームには勝ち、力の上のチームには惨敗を繰り返した。力は落ちなかったが、まったく伸びなかった。実力が上のチームは、もちろんもっと上を目指すので強化するから、ジャパンとそれより上の力のチームの差は開く一方だった。長い目で見て、とか、強化の最初の一歩、云々というのはクラブチームに対して言えることだが、代表チームは、各ゲームの成績がそのまま監督やコーチの評価に繋がるものだ。エリサルドは、フランスのラグビー専門サイトのインタヴューに答えてこう言っている。「私はプロだ。こんな要請(バイヨンヌのGM就任)を断ることはできない。それにW杯以後のことも考えている」。正直な発言だ。だが、彼はプロではなかった。プロならこんな発言はしない。W杯以降のことを考えているのは当然だが、それを行動で示すのは自由だが、黙っているのがプロだ。こんな発言をする男は、ネット社会が世界を被い、彼のどんな発言も公式なものであることを知らない。Elissaldeと入力するだけで彼の発言は全部読まれてしまうことを知らない。日本人はフランス語など読めないと思っているのだろう。その意味で、エリサルドもまた日本協会の人々と同じでナイーヴに過ぎる。同情してもしょうがないが……。
 遅きに失したとは言え、エリサルドは何もしていないのだから解任は当然。契約問題からの解任ではなく、成績による解任こそがふさわしかった。以前、協会には金野というドンがいて、彼が金銭から人事まですべてを取り仕切っていた(という噂)というが、その彼が、子飼いで寵愛の対象だった平尾を代表監督から解任した時の方が、まだ立派だった。テストマッチで惨敗し、こんなゲームをしては相手方に失礼だと判断したからだ。ラグビーの魂がまだあった。今ジャパンのGMを務めているのは大田治という実の性格のいい奴で、彼自身は誠実だと思うが、代表監督は誠実で実直であるだけでは残念ながら務まらない。策士で、ワルで、狡猾で、けれども、人を納得させる成績を収める人でなくてはならない。誰? サントリーには泣いてもらうしかないだろう。お国のため、と右翼的なことは言いたくないし、そうは思わないが、この国のラグビーはもう危機的な状況で、次期W杯でそれなりの成績を収めなければ、秩父宮なんて再開発の憂き目に遭うだけだ。そしてぼくは小さいときからラグビーが好きだ。