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January 5, 2007

『大人のための東京散歩案内(カラー版)』三浦展
梅本洋一

[ book , cinema ]

 一昨年にベストセラーになった『下流社会──新たな階層の出現』(光文社新書)を書いた三浦展の新刊。といっても本書は4年前の同名書物の改訂版でもある。東京は4年の間に大きく変貌してしまう。だから改訂版が必要になる。事情は小林信彦の『私説東京繁昌記』と同じことだ。
 この著者の書物は『下流社会』ばかりではない。最近の彼の主張は、『脱ファスト風土宣言』! グローバリゼーションとは、マクドナルド化であり、70年代の言葉を使えば「コカコーラ植民地化」でもあり、郊外にたくさん生まれたショッピングモールによって、街の生業の背景にした商店街が滅亡していく、という一連の流れの中で『下流社会』も記されている。
 初めてパリに住み始めた頃、毎朝マルシェで買い物をするのが、嫌になってスーパーマーケットで買い物を済ませたいと思ったことがある。マルシェに行けば、必ずフランス語を使ってコミュニケーションしなければならず、外国人であるぼくにとって、それが面倒になることがあったのだ。「インゲンください」と言っても、「何グラム?」から始まり、「今朝はシロインゲンにしとけよ」とか「インゲンより、グリンピースにしろよ」と言われたら単に応えなければならず、それによってコミュニケーションが始まるわけで、それが異様に面倒になることがあるのだ。けれども、その度にぼくは猛反省して、マルシェに出かけて「田舎風のパテ」を値切ったり、クレマンティーヌという小さな甘いミカンを2個まけさせたりしたものだ。
 つまり、ファスト風土にはそういうコミュニケーションは不要で、それによって人は意欲をなくすというのが三浦の主張であって、ぼくは、自分自身のネガティヴな部分も含めてその主張に深く頷かざるを得ない。
 本書で三浦が訪ねるのは。深川であったり、神楽坂であったり、前川圀男の傑作集合住宅がある阿佐ヶ谷であったりする。「ファスト風土」が未だに根付いていない場所を東京の中から探し出し、地図を頼りにその地域を徹底的に洗い出す。面白くないわけがない。ぼくが書いた『建築を読む──アーバンランドスケープTokyo Yokohama』とも繋がっているからだ。武蔵小山に行ったり、自由が丘に行ったりすると、まだそういう商店街がガンとして残っており、狭い街並みと路地の奥に面白い店が発見できたりする。商店街がよいと断言しても、それはノスタルジックなことではない。もちろんショボイ商店は、プロの風上に置けないが、商店街がよいと断固主張することは、政治的な行為だ。ショッピングモールに対抗して商店街がよい。つまり、スーパーよりもマルシェがいいのだ。ぼくもグローバル化のすべてが悪いとは思わないが、それがマクドナルド化だったり、コカコーラ植民地化であるのなら、ヴァナキュラーな場所を支持したいと思う。