« previous | メイン | next »

May 28, 2007

『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』西部謙司
渡辺進也

[ book , photo, theater, etc... ]

 先日、フクダ電子アリーナにジェフの試合を見に行った。現在下から三番目の順位をさまようチームにはかつてあったような躍動感もなく、度々中盤でパスミスをし、簡単に点を取られる。バイタルエリアまでボールを運べないし、シュートは打っても枠へと飛ばない。もうどこから手をつけたらいいかわからないくらい最悪の状態。すごく寂しい気持ちでスタジアムを後にしたのだが、帰り道に思ったのは確実にひとつのサイクルが終わったんだなということだった。
 だから、ジェフのファンである僕にとってはこの本をとるのに躊躇があった。ご存じイビチャ・オシムはジェフユナイテッド市原・千葉の前監督である。この本は現在日本代表の監督であるイビチャ・オシムの考えるサッカーがどういうものなのかというのをジェフでの3年半の仕事から検証した本である。西部さんがインターネットサイト、スポーツナビにて連載された自身のマッチレポートに新たにコメントを加えた形でオシムのサッカーを読み解いてくれている。だがこれは同時に3年半に渡るジェフの戦いの記録でもある。クラブ創立以来初めてのナビスコカップの優勝、リーグ優勝の可能性を残したまま迎えた2005年の最終戦の残り10分からの同点、そして逆転ゴール、鹿島スタジアムでの阿部のハットトリックをはじめこの本で触れられている試合の3分の1くらいを僕は実際に見ている。だから、この本を読んでいると今のチーム状況も考えると非常に心苦しい気持ちになるし、今は過去の栄光を振り返っている場合ではないとも思う。ここで書かれているジェフのサッカーといまフクダ電子アリーナでのピッチ上で行われているサッカーは別のチームなのだ。この本を読んでいる間そんなことばかり考えていた。
 こう書いていると良くない本のように見えてしまうかもしれないが、もちろん自信を持ってお薦めできる本である。まず、あるひとつのチームが数年間でどのように変化していったかということがよくわかる。オシムのサッカーの代名詞でもある「走る」ことを強要しカウンターサッカーをしていた1年目。単に走ることから「考える」ことが加わる2年目。相手に研究される中で攻撃の組み立てを始めていく3年目以降。また、ゲームに負けた後でどのように選手のモチヴェーションを維持させていくか。そうしたひとつのチームのリズムが継続的に見てきた筆者だからこそ目に見えるように描写される。そして、この本は数ヶ月後には初めての大きな公式戦を迎える日本代表の方向性が現在どのようなものなのかということがわかる本でもある。なぜ点をとることのない巻が使われ続けるのか。なぜ今野がストッパーをやっているのか。その理由を示すヒントがジェフの戦いの中にある。もちろん、これからオシムが日本代表で見せてくくれるサッカーは変化していくだろう。だが、この本はオシムが考えるサッカーの現在地点を示していると思う。