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May 4, 2009

『FAN』にせんねんもんだい
山崎雄太

[ music , sports ]

 音の断片が新たに重ねられる度に、いままでその音が鳴っていなかったことが不思議になるのだが、その体験が35分間も続く。にせんねんもんだい約1年振りの新譜『FAN』は、表題曲一曲が収録されたものである。CDをかけると、ギター高田さんの短いギターフレーズがひたすら繰り返される。およそ3分間もの間繰り返されるモチーフに変化はなく、金属的なギターの音が響く・・・。「FAN」は、ホントにもうすごいのだけれど、いったい何がどうすごいのか。「FAN」は、実は、(ダンス)ミュージック誕生の瞬間についての一大叙事詩なのである。現代のホメーロスが、吟遊詩人の語りが、このCDには記録されている。音楽はどう誕生するのか、人はどうやって踊り出すのかを探る航海の様子が、丁寧に紡がれている。曲の仮のタイトルは、「A DANCE ODYSSEY」だったに違いない。そう、執拗に繰り返される高田さんのギターフレーズは、終わることなく寄せては返す波の音色だったのだ。遥か太平洋で生まれた波が湾に侵入してうねりを増し、目的地(デスティネーション)であるトーキョーのコンクリートの岸にぶつかりまき散らす金属的な音は、新たに来る波と次々に重なり音楽になる。音はフレーズになり、楽曲になり、ダンスナンバーになる、その過程を記録したのが『FAN』である。
 高田さんが楽曲の誕生を記すと、姫野さんの手になるダンスミュージック誕生の瞬間が紡がれることになる。バスドラムと右手一本で打たれるハイハットだけで、10分を越える頃にはすでに誰でも踊れるスカ・ガムランとでも言った具合に(?)化けているのだが、加えて、ベースの在川さんがすごい。大作も半分が過ぎようかという時にぬっと現れ、曲の変調を指揮する大きな存在となる。ベースの圧倒的な存在感の影で残るふたりの演奏は激しさを増し、楽曲は凄みさえ感じさせる素晴らしい成長を遂げていく。そう、「FAN」は、バンド誕生の物語でもあったのだ。後半部はさまざまな音が鳴りすぎて、ハイハットとギターの金属音、バスドラムとベースの低音、ギターとベースのメロディは相互に浸食し、どれがどれだか全く分からない。——極彩色で塗り分けられた3枚羽の扇風機(ファン)が、その回転速度を増してゆく。羽の色は混じり合い、見たこともない色彩が生まれる—— 「FAN」の後半部を聞いているとそんなイメージも湧いてくる。ぜひともできるだけ大きな音で聞いてほしい。
 5月末からフランス、ドイツを回るヨーロッパツアーに旅立つにせんねんもんだいであるが、本当は船に乗ってギリシャに出かけ、「ただいま」と言うべきに違いない。

5月3日発売