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November 22, 2011

『カウントダウン』ホ・ジョンホ
高木佑介

[ cinema , cinema ]

 本年度の東京フィルメックス・コンペ部門の一本。余命3カ月の肝臓ガンと宣告された、借金の「取り立て屋」を生業とする男が主人公で、彼の死んだ息子の心臓を移植されたことのある女から肝臓を移植してもらうために奮闘するというのがこの物語の主な筋。つまり自分が生きるために肝臓を取り立てに行く、ということである。こう書くと至極シンプルなお話のように思えるのだが、実際に映画を見ていると物語の「錯綜ぶり」に驚く。というのも本作には、主人公の記憶喪失であるとか、息子と父の絆であるとか、『荒野の用心棒』のように2つのマフィアが対立していく展開であるとか、さまざまな「ネタ」が随所に散りばめられているのだけれど、どうもそれらが巧く絡み合っていない感が否めず、結果的に本当にこの映画にそれほど多くの「ネタ」が必要なのかと疑問に思えてきてしまうのだ。それはちょうど、「冬ソナ」的な波乱万丈なドラマのおいしいところだけを抽出して、2時間に圧縮しようとしたかのような錯綜ぶりなのである(と言っても「冬ソナ」全部は見たことないけど)。とはいえ、この映画一本で何やらテレビの連続ドラマを一気に見通したかのような錯覚が得られるので、ある意味すごい映画ではあるのだが。
 いやもちろん、物語の内容やらネタ云々といったものがありきたりすぎてつまらない!とここで言いたいわけではない。要するに、画面そのものからそういった物語の説得力が感じられないと言えばいいのだろうか。余命3カ月の末期ガンにしては顔色も動きもいい主人公の描写であるとか、どう見ても親子に見えない父と息子(あるいはヒロインとその娘)のやり取りであるとか。ストーリーの伏線や設定ばかりが重視されて、演出や映像そのものが放つ面白さ・説得力といった、肝心な部分がおざなりになってしまっているのだ。だから、この映画の終盤でこれでもかと展開する「お涙頂戴」的な流れには少々辟易してしまった。死んだ息子とは実はダウン症児だったのでした、とこれ見よがしに語り、映画にただ奉仕させるためだけの「ネタ」にしてはやっぱりダメでしょうよ。それは単なる搾取でしかないんだ。


第12回 東京フィルメックス 2011年11月19日(土) ~11月27日(日)有楽町朝日ホールほかで開催中!