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June 14, 2012

ユーロ2012──(1) オランダは古くなった!
梅本洋一

[ cinema , sports ]

 ユーロのグループ・リーグも2巡目に入った。すべてのチームが1ゲーム以上消化したことになる。ポーランド=ウクライナという馴染みのない場所での開催。毎ゲーム開催場所を地図で確かめている。ワルシャワやキエフといった大都市名は知っているし位置も分かるが、ハリコフとかリビウなんて初耳でいったいどこにあるのか確かめてみるとハリコフはハリキウだったりするし、ポーランドにしてもグダニスク、ボズナニという場所は知っていたが、ワルシャワとどういう位置関係にあるのか知らなかった。その都度、グーグルマップ! なるほどグダンスクと言ったりボズナンといったりするようだ。本当の発音を知らないので、どっちが本当か分からない。ウクライナの地名はホントぜんぜん知らない!地図で見ると、ウクライナって実に広いねぇ。
 まず今朝見たドイツ対オランダ。
 対デンマーク戦の0-1に次いでこのゲームも1-2で落としたオランダ。クライフ=ニースケンス時代からこのチームを見始めたぼくらにとって、オランダはモダン・フットボールの象徴だった。ローテーション・フットボールから、トータル・フットボール。世界に常に先んじてフットボールの脱領域化を常に推し進めてきたのがオランダだった。3-4-3のフォーメーションから両ウィングがサイドラインを駆け上がり、センターFWと中盤の連携でどこからシュートが放たれるのか予想できなかったオランダがあった。90年代の初頭までアヤックスのフットボールは世界を席巻したが、ボスマン判決以降、エール・ディビージは凋落する。だが、それでも、オランダは選手や指導者を外国に輸出することにかけてはずっと先進国だった。ハンス・オフトだって、今、好調ロシアを率いるディック・アドフォカート、そしてちょっと前ならフース・ヒディンクだって、ラーカールトだっていた。彼らはトータル・フットボールの使途として世界にオランダ・フットボールを広めたのだった。
 だが、この2ゲームを見る限り、オランダは相当落ちている。選手のせいではない。プレミアの得点王ファン・ペルシとブンデスの得点王フンテラールを擁し、バイエルンのロッベンとバルサの成長株アフェライを抱えている。そして中盤にはインテルのスナイデルとトットナムのファン・デル・ファールト。悪くない、否、すごい面子だ。ファン・ペルシもロッベンの個人で突破を試みるが、フンメルス、バドシュトゥパーの若く才能あるセンターバックを中心にするドイツのディフェンス・ラインを突破できない。もちろん個人技の高さというのは最低限必要だが、ポジションを決めただけのセレクション・チームであるだけでは勝利をたぐり寄せることができない。スタメンだけを考えると、4バックはアタックを止めてまずクリア。ファン・ボメルとデヨンクは、球拾いと相手アタックの遅延、スナイデルはパサー、あとの3人はアタックに専念と分業体制が確立しているようだ。センター・バックがミドル・シュートを放ち、2列目の選手がときにはセンターFWまで駆け上がるトータル・フットボールは見る影もない。4-2-3-1に固定されたフォーメーション、それぞれの選手に決まったタスクが与えられている。ロッベンは右に張る。ファン・ペルシは中央に構える。アフェライは左。スナイデルだけはやや自由を与えられているようだが、前方の3人にしかパスコースはない。ビハインドの後半には、決まってフンテラールたちのアタッカーを次々に投入する決まり切った采配。
 思えば、デブール兄弟、ダービッツ、セードルフが走り回り、コクーが後ろに構え、スタムがどっしり腰を据えているオランダからは遙か昔話だ。今のオランダの中盤でワンタッチ・パスが繋がるのを見たことがない。固定されたフォーメーションとそれぞれが役割を担った10人では相手にまったく驚きを与えないし、ファンタスティックなアタックなど最初から禁じられたも同然だ。ひとりが2つ以上の役割を持ち、その選択肢の中から適切なものを使い分けながら、流動的なアタックを仕掛けるかつてのオランダはもう存在しない。このオランダがデンマークに敗れ、ドイツに完敗するのも当然な気がする。
 
 1巡目の最高のゲームはスペイン対イタリアだった。このゲームを目にした人は同感だろう。チャビもすごいがやはりピルロだった。緩急と長さに変化をつけたパスは、チャビにはない。このゲームのイタリアは、多くの人が探していたバルサに勝つ方法の一部を見せてくれた。カデナッチオではない。浅いラインとポジショニングでチャビからのパスコースを消すことだ。チャビがボールを持っても、パスするところがない。イニエスタのドリブルが結果的にキレキレに見えたのは、彼にパスコースがなく、仕掛けるしか選択肢がなかったからだ。メッシを欠いたバルサであるスペイン。ビジャ待望論が出るのも、フェルナンド・トーレスの弱気の虫を見ていると当たり前のことだ。何もせず手をこまねいているばかりのデル・ボスケ──それがこの人の長所のはずだった──に対して、ブランデッリは、バロテッリをディ・ナターレに代え速度をチームに注入することで一点をもぎ取った。スペインが、より大きな流動性を手に入れるためには、(もちろん芝をもっと短くし、ゲーム前にもっと水を撒くこともであるけれども)ブスケツとシャビ・アロンソの並びを横一列にするのではなく、ブスケツをアンカーに据え、シャビ・アロンソを一列前に上げて、チャビからの単調なパス回しにロングパスを交えながら、変化を付けることだろう。