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December 31, 2016

『ピートと秘密の友達』デヴィッド・ロウリー
結城秀勇

[ cinema ]

『セインツ-約束の果て-』のデヴィッド・ロウリーの新作が公開されている、しかもとんでもなく傑作である、と荻野洋一さんから聞き、見に行った。するとその言葉に違わぬ作品で、もうただただ泣けた。
どこかドゥニ・ラヴァンを思い出させる面構えの少年が、裸足で川の水を跳ね上げながら走り出すだけで泣けた。彼が住み慣れた森の中から文明社会へと連れ出され、そこからどうにか森に帰ろうと、駆け出し、跳躍するのを見るだけで泣けた。さらに彼が、彼の友人であるドラゴンに向かって、なにかの軛を外してやるかのように「Elliot, fly!」と叫ぶだけで泣けた(そこでエリオットが飛ぼうと飛ぶまいと泣けた)。結果、上映時間のだいたいを泣いていた。
ディズニー製作の、CGのドラゴンと少年の友情物語である(と書いていてもまったくおもしろくなさそうなのだが)『ピートと秘密の友達』のなにがいったいすごいのかは、正直よくわからない。ピート少年を引き取ろうとするブライス・ダラス・ハワードを中心とした主要登場人物たちが、みなどこか欠損を抱えた家族であり、かつそれを決して誇張することなくさらりと見せてしまう手腕を褒めることはできる。また、ストーリー上はのちのちドラゴンと敵対関係となる製材業者の人間たちですら、その作業の風景をある種の尊厳や崇高さとともに見せてしまう公正さを褒めることもできる。しかしこの映画にある感動を説明するには、あまりに些細な部分に過ぎない気がする。
だから、劇中でロバート・レッドフォードが何度か発する「魔法がある」という言葉を思わず口にしたくなる。彼は、数年前に森の中でドラゴンと出会った体験を次のように語る。「怪物と遭遇して思わず銃を構えたが、そこで不思議な感情が沸き起こり銃を置いた。そして腰を下ろし、しばらくの間ドラゴンと見つめあった。やがてドラゴンは去り、幸福な気分の私だけが残った」。
......やがて映画は去り、幸福な気分の私だけが残った。そこには魔法があった、としか言いようがない。

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