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December 28, 2019

『死霊の盆踊り』A・C・スティーヴン
千浦僚

[ cinema ]

 「駄作と傑作を分かつものはなにか」に関して個人的な好悪を越えた、ある程度理論立てた説明や判断基準を持ってはいるが、それと同時にある映画について駄作的にならざるを得なかった背景などが伺い知れてその必然なり事情なりが感じ取れると、私的な感覚として傑作駄作の境界は曖昧になる。だがそれを素直に他人に敷衍して語ることはない。ただ迂遠に、映画そのものを、その"或る映画"と"映画というもの全体"を肯定したい気分を伝えるのみ。
 『死霊の盆踊り』(65年)の駄作感、サイテー感は監督A・C・スティーヴンはじめ製作者(原案、脚本のエド・ウッド)らの至らなさに加えて、ヌード、トップレスダンスを見せるための映画だということに起因する。延々と見せる、そのために娯楽映画の面白味の大きな要素である緊密さが失われている、というか、まったくない。これで当時は充分喜ばれもしたということもあるかもしれない。そういう条件的なもの、時代的なものを考慮しても、もうちょっとなんとかしろよ、とも思われる。
 だが九十年代に本作をフィルムで映写したこともあり、ポスターの柄がプリントされたTシャツも持っていたこともあり、ゼロ年代にはDVDも所有していて今回また見直したという逃れようがない腐れ縁のいま、むしろむくむくと愛着が湧いてきた。
 バカみたいだけど、きれいな映画だ!裸、ハダカ、はだか!ものすごい質感と量感(しかもおそらく誰もあからさまな豊胸などしていない)。むしろその実存しか見るところはないが......

 よって以下にザッと調べた本作『死霊の盆踊り』の出演女性のことを記す(登場順で。役名?は彼女らを呼び込む"闇の帝王"(クリスウェル)と"闇の女王"(ファウン・シルバー)が発する紹介の台詞から)。

①"炎を愛した女、恋人を炎に殺され自らも炎に死んだ女"。インディアンふうの扮装と踊りを披露する黒髪の女性。赤いパンティ。この踊り子さんの名はバーニー・グレイザー Bunny Glaser 。出番は約三分半。

②"夜ごと孤独にさすらう女"。ピンクのワンピースで青いマラボー(羽根ショール)を振り回す赤毛の女性。スリムな肢体。お名前はコリーン・オブライエン Coleen O'Brien 。    
 このふたりはこれに続く本作監督A・C・スティーヴン(aka スティーヴン・C・アポストロフ)の映画に出ている。

③"黄金を愛した女"。製作陣が『007 ゴールドフィンガー』(64年)の全裸金粉塗り女性にインスパイアされたためにできた黄金漬け・黄金メッキされる女性。演じたのはパット・バリンジャー Pat Barringer (バリントン Barrington 名義でも知られる)(1939~2014)。彼女は墓場に迷い込んで縛りつけられ、死霊ダンサーズの踊りを無理矢理見せられているヒロインのシャーリーと二役。これはちゃんとまったく別人に見える。シャーリー役のほうでは赤毛でバストトップ露出場面なし。ゴールド女のほうでは金髪でその出番は約10分。パット・バリンジャーの映画出演は本作につづく四年間ほど、六十年代のみだが密度あるフィルモグラフィー。当時のベリーダンス、ヌードダンス界の第一人者だったようでダンサー役でドラマ『ナポレオンソロ』(66年)、ラス・メイヤー『モンド・トップレス』(66年)、『かわいい女』(69年 監督ポール・ボガート)などに出ている。......『かわいい女』でリタ・モレノがやったストリップダンサーが本職そこのけの凄さだったため、それを現場で目撃したパットは自分に限界を感じ、映画出演をやめていく......というのは私の妄想。パット嬢の来歴で衝撃的なのは二十歳のときに同棲していた相手の男が連続殺人犯だったこと。この、ローカルに活動してたジャズマンは彼女と同棲しているときに或る一家四人を殺している。この男の前に彼女が付き合っていたというか結婚していた男はギャングで、その男に斡旋(強制?)されてストリッパーになったそうだし、めちゃくちゃいろいろギリギリでいろいろ背負っていた女性だと思う。また、彼女は本作『死霊の盆踊り』の撮影をやったロバート・カラミコと結婚するが長く続かなかった。90年代までストリップをしていた。晩年は動物愛護の活動をしていた。
 ロバート・カラミコはなんと言ってもトビー・フーパー『悪魔の沼』(76年)の撮影で記憶に残る。あの強烈な色彩、陰影の禍々しさ。あそこで描かれる女の子の地獄めぐり、あれを撮るカラミコの脳裏にパットのことはよぎらなかったか。そのなにかがあったと思いたい......そうやって『死霊の盆踊り』と『悪魔の沼』が連関していると。お気づきだろうか、カットを割らない方向性ゆえに全体に間が抜けている『死霊の盆踊り』だが技術的なミスはほとんどない(60分あたりのところで右に若干レフ板らしきものがかすめる程度)。『死霊~』の画面には美しさとパワーがある。ロバート・カラミコの実力か。カラミコ、ほかに代表的な撮影担当作品として『ザ・ブラック・クランズマン』(66年 監督テッド・V・マイクルズ)、『ドーベルマン・ギャング』、『同2』(共に73年)、『SF異星獣ガー』(95年)など。1932年生まれ、1997年死去。

④"猫を愛するとは猫になること"と紹介される猫娘。乳房が露出している白黒まだらの衣装に猫耳。近く公開される映画版『キャッツ』に劣るとも勝らない姿か。演じたのはテキサス・スター Texas Starr 。ロラリ・ハート Lorali Hart の名義でも知られる。1935年生まれ。『死霊~』での出番は三分半。『裸の銃(ガン)を持つ男』(88年)と同シリーズ三作目『裸の銃(ガン)を持つ男PART33 1/3/最後の侮辱』(94年)に出ている。

⑤"拷問される奴隷女"はオレンジ色のドレス、茶色の髪のナデシダ・ドブレフ Nadejda Dobrev 。ナデシダ・クレイン Nadejda Klein 名義での活動が多い。ここでは約六分半のダンスを披露。ブルガリア出身。地毛は黒。本作のキャストのなかでは一番息長く活動している。スティーヴン・C・アポストロフ(A・C・スティーヴン)監督作にもう一本と、テレビドラマの『超人ハルク』(79年の1エピソード)やブレイク・エドワーズ『S.O.B.』(81年)に出た。ゼロ年代2010年代にいくつかのテレビドラマや映画に出ている。アサイラム映画の『メガ・パイソンvsギガント・ゲイター』(2011年)にもちょい出。

⑥"闘牛と闘牛士を愛し、その死を讃えて踊り、自らの死のために舞う女"。フラメンコふうの衣装と踊り。途中、トップレスになってからはメキシコの死者の日のイメージか、ドクロを掲げて踊る。ステファニー・ジョーンズ Stephanie Jones 。出番は約三分。67年に『Uncle Tomcat's House of Kittens』なる成人映画に出ているそう。

⑦"火山に身を捧げた女"パレオ的な衣装の黒髪の女性はミッキー・ジーンズ Mickey Jines 。約七分のハワイアンふうのダンス。ラス・メイヤー『ワイルド・ギャルズ・オブ・ザ・ネイキッドウエスト』(62年)に出演。地毛は明るい茶色。

⑧"初夜に夫を殺し、その骸骨と踊る女"。彼女の衣装はウエディング・ドレスで、やがてトップレスになっても顔にかけたウエディング・ベールはとらない。ツイストやスイムの動きを見せるもののあまり上手なダンスじゃない......。出番は約六分。演じるはバーバラ・ノーディン。Barbara Nordin(Norton, Nortin の表記も)。のちにパム・グリア映画などで知られるようになる名匠ジャック・ヒルの監督第一作目(ジョン・ラムと共同)『Mondo Keyhole』(66年)に出演。先述のバーニー・グレイザー、コリーン・オブライエンとともにアポストロフ(A・C・スティーヴン)の映画にも出演。

⑨"ゾンビ女"緑のドレス。すぐ脱ぐ。キョンシーポーズでうろつくだけでろくに踊っていない。彼女はディーン・スターンズ Dene Starnes 。出番3分半。69年に『Down and Dirty』なる映画に出たという。

⑩"羽飾りのために死んだ女"、と紹介されるがその意味、内実がよくわからない。五色のカーテンみたいな衣装で登場。『黄金の腕』(55年 監督オットー・プレミンジャー、音楽エルマー・バーンスタイン)のテーマ曲のパクリみたいなジャズで踊る。演じたのはルネ・ド・ボー Rene De Beau 。約七分の出演。彼女もまた『Mondo Keyhole』に出ている。

 おっと、ホステス的司会的な存在でずっと出ていた"闇の女王"役、ファウン・シルバー Fawn Silver のことを忘れていた。映画女優として活動したのは『死霊~』の65年から72年までで、『Unkissed Bride』(66年)、『Terror in the Jungle』(68年)、『Legend of Horror』(72年)という映画に出ている。『Terror in the Jungle』は結構面白い映画でアメリカからブラジルへ向かう飛行機がアマゾン上空で墜落し生き残った乗客がサバイバルする、主人公的な5、6歳くらいの男の子は原住民の生贄として狙われて逃げまどう、という70年代イタリアンカニバル映画を先取りするような内容。ファウン・シルバーさんはブラジルでミュージカル映画に出るため機に乗ったセクシーな女優さんの役。ここでは茶髪で髪のボリュームも常人なみ。飛行機のなかでややセクシーなダンスを踊ったりするが、芝居も抜群にうまくなっていて(この映画の役者のなかで一番巧いくらい)気品もあっていいのだが、前半四分の一、飛行機が墜落したところで死ぬ。『Terror in the Jungle』は三人の監督の分担共同演出作品だがファウン嬢が光っている飛行機墜落以前のパートを撮ったのはなんとトム・デ・シモーネ。リンダ・ブレア主演の『ヘルナイト』(81年)、『監獄アマゾネス 美女の絶叫』(86年)、『エンジェル3』(88年)のトム・デ・シモーネ!『Terror in the Jungle』はトム・デ・シモーネの監督デビュー作らしい。
 ここでひとつの感慨にひたってしまう。先述のバーバラ・ノーディンさん、ルネ・ド・ボーさんもジャック・ヒルのデビュー作に出てた。撮影ロバート・カラミコとパット・バリンジャー嬢の映画人としての関わりは『死霊の盆踊り』だけだとか。つまり彼女らは皆、"B級、でもまぎれもなく傑作"というところにかすってはいる、が、コンスタントにそこに関われなかった、そこに居続けられなかった。男運だけでなく映画運も悪いのか。しかし、裸になる女優さんとしての彼女らがいて、そのことで人目を惹く映画が成立し、そこからあのB級の名匠たちが出てきている。
 ギブだけでテイクのなかった彼女たち。しかしそのオッパイがいくつもの無冠の名作、名匠を育てた。彼女らをゆめゆめ粗末にあつかうことなかれ。盆にはちゃんと供養せよ。
 それゆえの全女優紹介だが、単にこれは imdb と wiki まとめであってまだまだ不足、掘りの足りない資料の盆踊り。興味を持たれた方、ヒマな方はさらに追われるがよい。以上。

サイテー映画の大逆襲2020!『死霊の盆踊り』(HDリマスター版)&『プラン9・フロム・アウタースペース』(総天然色版)