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February 28, 2022

『宝島』ギヨーム・ブラック監督インタビュー

[ cinema , interview ]

やさしくて幸せな場所を描きたかったのです

メイン写真LILEAUTRESOR_05.jpgフランスはもとより、世界中で高く評価されているギヨーム・ブラック監督の『宝島』が、動画配信サービス「JAIHO」にて配信される。この作品はブラック監督3本目の長編作品であり、パリ郊外のレジャー施設が舞台となっている。ヴァカンスを楽しむ人々やそこで働く人々の何気ないやりとりや会話がのびのびと映し出され、老若男女問わずさまざまな人たちが集まるその空間で、思い思いの時間を過ごしている。この光景こそが監督の言う「やさしくて幸せな場所」なのだろう。限られた取材時間であったにもかかわらず、製作過程の裏側、カメラの存在について、さらには作品における社会問題の扱われ方についてまで、ギヨーム・ブラック監督から直接聞くことができた。


――まずは製作の経緯についてお聞かせください。今作はご自身の制作会社であるannée zéroではなく『ONODA 一万夜を越えて』(2021、アルチュール・アラリ)などで有名なBathysphereが参加しています。どのような出発点だったのでしょうか。

ギヨーム・ブラック(以下、GB) 自分で製作した映画は最初の『女っ気なし』(2011)だけで、それ以外の作品に関しては他の製作会社とプロデューサーがついています。『やさしい人』(2013)はRectangle Productions、そして今作の『宝島』はBathysphereですが、最新作ではまた別のプロダクションがついています。企画のはじまりとして、私は何年も前からこの場所(セルジー=ポントワーズ)で映画を撮りたいと思っていました。子どもの頃から知っている場所だったし、大人になってからも行くほど好きな場所なのです。異なる環境から来ている人々が集まって、夏のあいだにだけ形成される一種のユートピアのような場所でした。いろんな人がいて、いろんな物語があって、それぞれに物語があります。その場所に行けば面白いものにも出会える。男女間の誘惑もあるだろうし、面白がってゲームをしたり、規則を破ったりすることもあるでしょう。若者の世界なので、何かしらの出会いがあるのは間違いありません。そのようにBathysphereのニコラ・アントメに話したところ、1、2ヶ月でお金を集めてくれたので、それで撮影することにしました。

――『7月の物語』(2017)の第1部「日曜日の友だち」と舞台は同じですが、製作を進めていく上で影響などはあったのでしょうか。

GB プロデューサーは撮影中一度もその場所には行っていません(笑)。ただ、そのレジャー・アイランドで撮影したいというのは私の心の中で決めていて、実際の撮影は4人で行っています。(カメラマン、助監督、録音、私)。そのようにして長いあいだずっと撮りたいと思っていた時に、撮影の1年前、コンセルヴァトワール(フランス国立高等演劇学校)の若い俳優たちと一緒に撮影をする機会があったんです。そこで私が撮りたいと思っていた場所でロケハンも兼ねて撮影することにしました。結局フランスではこの2作はほとんど同時期の公開となりましたが、『宝島』が公開されて3週間後に『7月の物語』が公開されることになります。面白い偶然でしたね。

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――最初の子どもたちと管理人が揉めているシーンでは、子どもたちがカメラを全く意識していないように見えたことが不思議でした。

GB ドキュメンタリーとフィクションのあいだのシーンですが、演出としてはどんな状況であってもカメラはなるべく見ないようにと指示していました。最初のシーンは数ヶ月前からまずは自分一人であのエントランスに行って、色々な人々を観察していました。そうすると、お金を払わずに何とか入ろうとするグループが何組もいることがわかるんですね。それでああいう風に川を泳いで行ったり、柵を登って入ろうとしたりするわけですが、実際にその現場をドキュメンタリーで捉えるのは不可能です。それに撮影隊がいればすぐにセキュリティに通報されて見つかってしまいますからね。公園の経営者たちには撮影の許可を取ってはいたんですが、それでもそのシーンを撮っているとデリケートなシーンだということもあって、セキュリティの人がすぐに駆け付けて「やめなさい!」と言われたこともありました(笑)。たとえ映画であっても、料金を払っていないお客さんの入場を成功させるのはダメだと。ただ経営者からのOKは出ていたし、「やってみたい!」という子どもたちの熱に後押しされて「じゃあ、やろうか」という気持ちになったんです。本当はやってはいけないことをやってもいいという興奮と、映画に出る興奮が子どもたちのすごいエネルギーに繋がったことであのシーンが生まれました。

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――男の子たちが女の子たちをナンパするシーンにおいても、カメラが真正面に置かれているにも関わらず、彼らはまるでカメラが存在していないかのように彼/彼女たちは振舞っています。

GB 浜辺で観察していたら、女の子をしょっちゅうナンパしている男の子が二人いました。私はまずその二人と仲良くなって「女の子をナンパするシーンを撮りたいんだけど」と提案しました。その後に今度は女の子を二人見つけて「ナンパされるシーンを撮ってもいいですか」ということで出演してもらいました(笑)。ナンパのシーン自体は好きなようにやってもらっています。

――なるほど。おそらく観客のみなさんもそこが一番知りたかったところだとは思います(笑)。

GB ミステリアスにしておいたほうがよかったかな(笑)。

――『女っ気なし』においてもそうですが、ギヨームさんの作品には浜辺の人々がたくさん登場します。今作でも不特定多数の人々の「肌」が撮影されていますが、このような撮影行為はある種のリスクを伴うことでもあるのではないかと思います。そうした問題を解決するために、どのような工夫やコミュニケーションを行ったのでしょうか。

GB 撮影権に関しては気をつけていたので、公園の入り口とさまざまな場所に「今ドキュメンタリーの撮影中です」とコメントを出して、「撮影されたくない方はクルーのところまでいらしてください」というようにしていました。ロングショットは多くの場合においてとくに問題にならず、近くで撮る人に関しては撮影に関する合意書を書いてもらっています。でも2ヶ月半ほど撮影をしていて、「撮らないでください」と言いに来た人は少なかったですね。

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――警備員に注意された少年たちが「レイシストたちめ」と抗議するシーンをはじめ、単なるヴァカンス映画として描かれることなく、絶えず現実と隣り合わせにある話題が展開されていきます。そういった人々の言葉を聞いていくと、まるで単なるレジャー施設だった場所が、ひとつの「国家(社会)」のようにも見えてきます。なぜそのように社会的な問題を差し込もうと思ったのでしょうか。

GB たしかにこの場所がひとつの国のように見えてきますよね。実際に境界があってその線を越えるとか越えないとか、入れるとか入れないとか、そういった国境があるようにも思える。この映画の舞台はパリ郊外ですが、郊外には移民の人々がたくさん住んでいるような下町のイメージがあると思います。パリ郊外を映画で撮る時は、そういった恵まれない人々が住んでいるアパートについて描かれたりもするのですが、この映画のこだわりとして、全くそれを描いていません。身体やその人自身を見せることで何かを感じ取ってもらう。それも遮断された、緑に囲まれた自然の中でそれを感じ取ってもらえるために映画にしたところがあります。正面からパリ郊外の実情を詳らかにするのではなく、あえてずらした視線で物事を捉えていくということです。でも僕は社会的な問題を全部消してしまうことも、かえって問題だと思っています。かといって社会的な問題を中心に据えるわけでもなく、『宝島』ではエピソードの一部としてあちこちに散らばせて感じ取ってもらうように描きました。例えば人種差別という言葉も、最初の若者と警備員とのあいだのやりとりと、売店で働くアルバイトの人が自分の将来を話す場面にしか出てきません。編集のKaren Benainousとは「これくらいの差し込み方でいいよね」と話しながら決めていきました。実際の場所にはいろいろな人たちが住んでいるわけですが、ひとたびそこに行けば人々にとってのユートピアが待っている。そういったやさしくて幸せな場所を描きたかったという想いがあったのです。

2022年2月14日|オンライン
取材・構成:松田春樹、中里若葉、井上千紗都、隈元博樹


LILEAUTRESOR_02.jpg宝島 L'Île au trésor
2018年/フランス/カラー/97分
監督:ギヨーム・ブラック
製作:ニコラ・アントメ
撮影:マーティン・リット
音楽:ジョン・ヨンジン
2022年3月2日(水)より「JAIHO」にて配信

<あらすじ>
パリの北西にあるレジャー・アイランドでのひと夏。ある者たちにとっては冒険、誘惑、ちょっとした危険を冒す場所。他の者たちにとっては避難、逃避の場所となっている。世界の喧騒とどこかで響き合いながら、この場所には有料の海水浴場もあれば、人目につかない片隅、あるいは子どもたちが探求する王国もある。※「アンスティチュフランセ」サイトより引用


Photo Brac 1.jpegギヨーム・ブラック Guillaume Brac
1977年フランス・パリ生まれ。フランス国立映画学校を卒業後、幾つかの作品で助監督を経験し、自身の製作会社「année zéro」(アネ・ゼロ)を立ち上げる。同会社製作で『遭難者』(2009年)、『女っ気なし』(2011年)を製作。フランスをはじめ海外のさまざまな映画祭で賞を受賞する。2作品はフランスにて公開され、大ヒットしロングラン上映された後、ベルギーと日本でも上映された。2013年には初の長編映画『やさしい人』を手掛け、第66回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に出品される。その後、2016年に短編ドキュメンタリー映画『勇者たちの休息』、2017年に2本の短編で構成された『7月の物語』を製作。同作の第1部「日曜日の友だち」は、第70回ロカルノ国際映画祭にてジャン・ヴィゴ賞を受賞(短編部門)した。

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