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March 20, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『はじめて好きになった人』 キャンディ・ン(吳詠珊)、ヨン・チウホイ(楊潮凱)
佐竹佑海

[ cinema ]

CO08_The First Girl I Loved_main.jpg 本作は女学校に通うウィンラム(ヘドウィグ・タ)とサムユ(レンシ・ヨン)の学生時代から大人になるまでを追った物語だ。学校の班長で風紀委員のウィンラムは、ある日親友サムユが自分に恋心を抱いていると知る。彼女たちは親密な日々を送るが、数年の間離れ離れになった後、大学生になって再会した2人は「30歳になって共に独身だったら結婚しよう」と約束する。そして彼女たちが30歳になる直前、結婚式のブライズメイドを頼みたいというサムユからの電話がウィンラムのもとに届く。
 女学生時代のパートは特にまばゆさ、瑞々しさを感じるせいか、画面内で制服や肌の白さが映え、太陽の眩しさが強調されている。2人が通う学校の白い制服は、まるでウェディングドレスのようだ。ある日ウィンラムをかばって罰を受けることになったサムユは校内にあるチャペルの掃除をさせられる。サムユは教会の前方で1人、モップを持ちながらくるりと回り、彼女のスカートがひらめく。同じく白い制服を着たウィンラムは、そんな彼女の姿をこっそりと境界の後方から見ている。 距離感の近さは思春期の女の子同士、特に女子校では珍しくはない。劇中においても以前からウィンラムとサムユの近さは描かれていたが、互いを恋愛対象として意識し始めてからはより一層彼女たちの身体の距離が近づいているように思える。カメラも近づく2人の顔を大きく捉えたものが多い。あまりに被写体との距離が近いために、髪型や服装から2人を判別することが難しく、ネックレスをしている方がウィンラムでピアスをしている方がサムユ、と見分けるしかないほどの親密なショットである。
 映画はサムユと男性の結婚式で幕を閉じるが、この場面にはサムユとウィンラムの誓いも描かれている。彼女たちは思春期の頃から何度も、結婚式を連想させる「誓い」を行ってきた。女学生時代、彼女たちはチャペルでベールを着け、結婚式の真似ごとをして互いへの思いを誓い合っていたし、雨の降るグラウンドでは、たくさんの生徒たちに目撃されながらもキスを交わしたことが描かれている。大勢の人の前でキスをするというのは、結婚式における誓いのキスを彷彿させる。そして大人になってブライズメイドを頼んだサムユとそれを受け入れたウィンラム。参列者たちの前できつく抱擁を交わす彼女たちは、ブライズメイドという形を通してその友情を誓い、祝福されるのだ。
 サムユは女学生時代、自らが先にウィンラムに恋愛感情を抱いたことに負い目があったからか、恋心をはぐらかしたり冗談めかしたりする。ウィンラムから自分たちの関係は何かと問われても答えず、友人でもキスくらいするかもしれないとさえ言った。ラストシーンを踏まえたところで、彼女たちの関係について名前を付けることは難しい。しかし青春時代に2人が過ごしたまばゆい時間は、決して消えることはない。当時も今も、2人の愛は確実に誓われている。

第17回大阪アジアン映画祭にて上映