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December 19, 2022

FIFAワールドカップ2022 アルゼンチン対フランス 3−3(PK4-2)
梅本健司

[ sports ]

 4年間でサッカーはそれなりに変わったはずだ。けれど、ワールドカップを見ているとサッカーは4年前のままだとも思わされる。たとえばゴールキック。前大会まで、ボールを受ける選手はペナルティエリア内に入ることができず、ゴールキックは前線へのロングフィードほぼ一択だったが、2019年あたりから、ルールが改定されペナルティエリア内に複数の選手が入れるようになり、そこからショートパスを繋ぐのが基本となった。ゴールキックは、そのチームがサッカーに対してどのような考えを持っているのか、組む陣形によってもっとも見て取れる場面であり、映画で言えばファーストショットのようなものとなった。にも関わらず地上波放送では、ゴールキックの瞬間を映さずに、特定のフィールドプレイヤーの寄りを挟むことが多く、ゴールキックなど取るにたらないものとして扱っていた。とはいえ、どちらにせよ後ろからショートパスでしっかりと繋いでいくチームはかなり少なかったが。
 キーパーから前線へ、いかにボールを奪われずに運ぶか、その形が仕込めていたのはやはりドイツ、スペインくらいのものだったと思う。練習時間が限られるナショナルチームでそれを目指すことは難しかったのか、その2チームは確かに良い結果を残すことができなかったけれど、試行錯誤の痕跡が攻守に渡って絶えず見えていた。番狂わせな結果や国家ぐるみで演出された感動によって、戦術の細部など見落とされ、不当な批判をされてしまうかもしれないなかで、エンリケもフリッグもそうした拘りを捨てなかった。ただゲームに勝とうとするのではなく、ゲームのなかで見えるかもしれない新たな可能性を楽しんでもいた。だから、こんなワクワクさせられる試合を見たあとでも、ベストゲームはスペイン対ドイツだったと言いたい。
 
 フランスもアルゼンチンも後ろから繋ぐ形、ビルドアップは仕込めていない。4バックが無駄に幅を取るアルゼンチンの最終ラインは、ちょっとプレスをかければすぐにハマってしまうし、フランスはアンカーに位置するチュアメニのポジショニングが低すぎて、相手の守備を楽にしていた。どちらの監督も細かい指示ができるタイプではないので、問題は解決されずに放置される。アルゼンチンは、スペースへ走り込む動きは圧倒的に増えていたけれど、前線と最終ラインの分離は何度か起きており、サウジアラビア戦から大きく改善したのかというと、別にそうでもなかった。後ろでボールを保持することはできないが、前線にボールが渡ったあと、極上の選手たちのスーパープレイで打開する、どちらもそのようなサッカーだった。無理の効く個の力がなくとも勝てるサッカーを目指しているマンチェスターCやアーセナル、ブライトンを普段から見ていると、そうしたサッカーはとても古いものに見える。
 ただどちらも守備はよかった。右か左、どちらか一方のサイドに、追い込み漁をするように激しくプレスをかけていく。相手を引き込むリトリートの守備だけではなく、相手を狩りにいく、攻撃的な守備。ふたつの守備の使い分けの見事さ。モロッコの快進撃もこれを練度高くやった成果と言えるだろう。メッシやエンバペの守備タスクを軽減しながら、アルゼンチンもフランスもよくやっていた。最低限やらなくてはならないのは前からの守備の形なのだ。日本は、それすらもできておらず、4年後も選手たちの判断に丸投げするのだろうか。

ひとまず。アルゼンチンの選手はほとんど泣いていて、メッシだけが泣いていなかったのが記憶に残った。メッシがチームを勝たせようとし、チームがメッシを勝たせようとしてきた、アルゼンチンの今大会が凝縮されたような気がした。おめでとう。マラドーナも地獄で喜んでるはず。細かい展開は起きてから。