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July 14, 2019

中山英之展 , and then@TOTOギャラリー・間
隈元博樹

[ architecture , cinema ]

 会場の「ギャラリー・間」には、展示と上映を行うための3つの空間が存在する。3Fの展示空間には中山英之がこれまでに手がけた「2004」「O邸」「道と家」「弧と弦」「mitosaya薬草園蒸留所」「かみのいし」にまつわる参考文献やスケッチ、図面、写真、模型が縦横に広がり、台座の側面や壁面には自身の着想と考察を交えた直筆のキャプションが施されている。また外のテラスには、ベニヤ板に石の表面がプリントされた「きのいし」が窓越しに顔を覗かせており、ごろんとひとつ裸一貫の構成だ。そして3Fと4Fをつなぐ階段を上っていけば、「CINE間」と呼ばれる3面スクリーンの映画館が姿を現し、計6つのプロジェクトをタイトルに付した短編映画が約1時間置きに上映されている。映画は設計者の知らない時間を過ごしてきた建物や施主のその後を撮影したものであり、それぞれが建築家ではない別の誰かによって制作されたものだという。このことからもCINE間で上映される映画とは、建築物やオブジェクトの存在によって生まれたものであると考えるのが当然なのだろうし、3Fに展示されたプロジェクトに紐付けられたものであるならば、各々の短編とは建てられたものの先に立ってつくられたものではないことが一目でわかるだろう。
 ただ、CINE間で上映された短編を観終えたあと、そのまま裏導線の階段やエレベーターを使って会場を立ち去ればよいものの、なぜだか3Fの展示空間に立ち寄ってしまう。それは本編とは別に収録されたDVDのメイキングや特典映像を視聴するかのように、あるいは壁に貼られた新聞や雑誌の切り抜きに目を通すかのように、さらには他館で上映されている据え置きのチラシを手に取るかのようにして居座ってしまいたくなるのだ。たしかにそれは映画の中に映るプロジェクトの経緯や過程を再確認するためではありつつも、いわば目の前の展示空間を映画館のロビーに見立てることで、あたかも映画をつくる前提で建築が存在していたかのような錯覚さえも同時に想い起こしてしまう。しかし、そのパラドクスが生じてしまうのも、チラシの裏に書かれてあるとおり、本展が「建築の展覧会というよりも建築のそれから/ ,and thenを眺める上映会、と言ったほうが正しいかもしれません」なのであり、「ばらばらなイメージの並んだ小さな映画祭のような展覧会、と言うこともできるかもしれません」なのだろう。建築の展覧会に根差した上映会であり、上映会に根差した建築の展覧会でもあるということ。「卵か先か、鶏が先か」といった議論を呈するまでもなく、つくられた映画の上映空間とつくられた建築の展示空間は、相互補完の名のもとに「, and then」(=それから)を眺める行為によって分かちがたく結びつけられている。
 そんな「, and then」という接着剤のような観念は、中山の著書『1/1000000000』(現代建築家コンセプト・シリーズ25、LIXIL出版)に記された「領域」(P16)のことでもあるだろう。「もしも建築をつくることが、自分の領域を生み出す仕事であると同時に、意識のなかに大きな『それ以外』をつくりだす仕事でもあるのだとしたら......」と同著の中で仮定されているように、建築があるはずの領域からそれ以外の別の領域を生み出すこととは、建築の「それから」によって生まれた映画を通して、建築そのものをふたたび見つめ返すことでもある。だからこそ「ギャラリー・間」の空間は、3Fの展示から4FのCINE間へ向かうことも、テラスでじっと「きのいし」と対峙することも、そして4Fのシネ間から3Fの展示へ向かうこと(あるいはそれ以外の順路の発見)をも可能とさせているのだ。
 しかし、そうした「, and then」の精神は、何も建築だけの問題にとどまらない。ベルクソンの逆さ円錐を元にした「一本の映画を観ることが、時にその顛末を超えて、私たちの歴史を含む記憶に触れることであるなら...僕たちが建築をつくることも、どこかで宇宙という織物にピンホールを空けるようなものでありたい」というキャプションは、「映画」を「建築」に言い換えることもできるだろう。あらかじめ設えられた領域に囚われることなく、建築と同時に映画をつくることの矜持であると捉えたとき、まだ見ぬそれ以外の領域を発見すべく、時折中山が末尾に加える「〜かもしれません」という可能性の余地をもって追求していかなければならない。

2019年8月4日(日)まで開催中

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中山英之「1/1000000000」 (現代建築家コンセプト・シリーズ25)
LIXIL出版
価格:¥1,800(税抜)


  • 『建築と日常』公開座談会「個人と世界をつなぐ建築」 結城秀勇
  • ALC CINEMA vol.2 『PASSION』濱口竜介 増田景子