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November 3, 2022

《第35回東京国際映画祭》『タバコは咳の原因になる』カンタン・デュピュー
秦宗平

[ cinema ]

09413684-A650-4D9E-B1CB-D98C2DA4D004.jpg 『タバコは咳の原因になる』は、ニコチン、メタノールなどとタバコの成分で呼ばれる5人のメンバーで構成された「タバコ戦隊」が、有害物質をビーム光線でお見舞いし、ごつごつねちょねちょした怪人を倒すチープなアクションシーンで幕を開けるが、そこに現れるのは一人の少年である。草むらにいる少年は、双眼鏡を借りるため車に乗った父親を呼び寄せ、彼らのことを問われるとこう口走る。
「タバコ戦隊は世界一かっこいい」
怪人の飛び散った肉片を顔に浴びても、そのまま笑顔で記念撮影を申し込む少年に、私はこんなことを考えた。誰も見ていないような殺風景な場所で地味に戦うヒーローに、こんな熱狂的なファンがいるんだなと。
 その後、遠隔モニターで隊長らしいネズミの人形が命令をくだし、戦隊の面々は絆を深めるため、湖のそばで静養することになり、彼らは日夜、それぞれが自慢の「怖い話」大会を繰り広げる。観客は怖い話を具体的な映像で見ることになるが、ばからしさを引っ剝がしてもまだばからしいオチに驚き、笑い、その即物的でグロテスクでありながら、見ていると絶妙に生々しくは思えない描写に、不思議と惹き込まれていく。タバコ戦隊も面白いとか怖いとか、なんだその話はとツッコミを入れながら、誰一人その場を離れることはない。
 最後には、まったくデタラメなヒーローものにふさわしく、「世界の終わり」がやってくる。これが二転三転どころではなく、五転六転、七転八転の展開なのだが、その静かで飛んだ結末はお楽しみとして、5人のヒーローが姿勢正しく、日が暮れるまでは付き合っていられないようなその結末を、座って仲良く待ちつづけたことは印象に残る。
 盗んだ車のトランクにデカいハエを見つけたバディの珍道中を描く『マンディビュル 2人の男と巨大なハエ』の冒頭、「こいつを調教して、自分の手を使わず銀行の金でも奪う大金持ちになろう」という男の計画に、もう一方の男は500ユーロの簡単な儲け仕事を打ち捨て、迷うことなく乗ってしまう。「デカいハエ」でなかったらそれほど乗れない話、おかしな話には思えなかったかもしれないなどと、まじめな想像も考え併せて、信じられない計画に賭け、男たちがともに行動しはじめる瞬間は、爽やかで胸躍るものだった。
 有楽町のよみうりホールにはたくさんの観客がつめかけ、80分弱の短い上映時間のなかで、笑いがどかどかと起こる。フランスでデュピューの映画は、どれもヒットを飛ばしているらしい。映画の中と外で、このおかしな物語にどんどん集まる人々を垣間見、想像していると、言われたそばから拍子抜けするしかないような、『マンディビュル』のバディが言う「金より友情」、ネズミ隊長が言う「仕事より愛だ」という台詞は、これからのファンになる仲間たちをクールに手招いているように聞こえてきた。