『外と』金子由里奈
浅井美咲
[ cinema ]
2025年12月28日、満員のポレポレ東中野にて上映された『外と』。本作はドキュメンタリーとも劇映画ともつかない、それらのあわいにあるような形式の作品と言える。金子由里奈さんと二井梓緒さん、実際に本作の監督とプロデューサーを務める二人が会話するシーンでは、「12月28日」に上映する作品について話している。二人が突然フレームを飛び越えて、客席に座っている自分と繋がってしまったような感覚を覚えてドキリとする。二井さんが「でも映画ってどこから発生するんですかね?」と金子さんに問いかけたのをきっかけに、二人の間には「映画とは何か」という根本的な問いが立ち上がっていく。そして、公園で目の前の風景をノートに書き留め、言葉で記録する男性(新谷和輝)と、同じく公園の風景の絵を描いていた男性(五十嵐竜)が出会う一連の場面。人の声を発する鉢植え(アフタートークでは「植物スピーカー」と呼ばれていた)をきっかけに二人は出会い、紛失したスケッチブックを探すために公園の中を一緒に歩いて回る。この新谷さんと五十嵐さんが登場するパートは『外と』の中で展開される劇中劇と言っていいかもしれない。それなら、さっき観ていた金子さんと二井さんのやり取りは「劇外劇」みたいなものなのだろうか?レイヤーがずれたように感じるシーンの連なりをすぐには咀嚼できないまま、それでも彼らのやり取りを見つめる。さらにこれらのシーンには、過去に撮影されたと思われる写真や映像が差し挟まれる。映画館のスクリーンを背景にマイクを持つ、おそらくアフタートークに登壇しているであろう新谷さんの写真や、喫茶店で厨房に立ち、料理をしている五十嵐さんの映像。さらに、金子さん、二井さん、新谷さん、五十嵐さん四人のLINEのやり取りであろう文章がテロップで出てきたりもする。新谷さんと五十嵐さんが出会い、公園の中を歩き回り、スケッチをするパートと、金子さんと二井さんが映されるパート、さらに過去のフッテージ。この3つが映されることでよりいくつもの時間が重なり合い、立ち上がっているように見える(「時間が変」で「編み物みたいに何層にもなっている」)。
金子さんと二井さんの映画談義が流れてくる植物スピーカーは新谷さんと五十嵐さんによって発見され、2つの世界、ないし時間の接地面となる。新谷さんと五十嵐さんは、植物スピーカーを通して金子さんと二井さんの会話を聞くわけだが、2つの世界や時間はどのように繋がっているのだろう。新谷さんと五十嵐さんが鉢植えを発見するまさにその時、金子さんと二井さんは広い公園のどこか離れた場所にいて、リアルタイムの音声が届いているのか。それとも、過去に金子さんと二井さんが話した会話が植物スピーカーに録音されていて、それを掘り起こすように聞いているのか。あるいは植物スピーカーはこれから金子さんと二井さんが話すであろう内容を前もって知っているのか......。どう考えても面白いなと思うけれど、ここにも不思議な時間が生まれていると言えるだろう。また、金子さんと二井さんの会話は植物スピーカーに記録され、植物スピーカーから聞こえてきた二人の会話は新谷さんと五十嵐さんに届き、カメラに記録される。そしてフレームに切り取られたこれらの記録を観客が発見し、また記録する。そういった記録の連鎖が、この映画を形作っている。これは、カメラがあるものを撮影した時点で映画になり、そしてまたその映像がスクリーンに投影された時点で映画になることとよく似ている。
『外と』に映る、ある時誰かが発した言葉も、赤い葉と黄色い葉が重なった絶妙な色合いも、飛び交う鳥の少し上擦った声色も、発生した瞬間にその場にいる誰かや何かに記録されて、この秋の公園に堆積しているように思える。それはまさに「記録します、出会ったから」という、五十嵐さんが作中で口にする言葉通りのシンプルさで。一方で、フレームによって切り取られた記録は、入れ子構造のようになって時間差で我々のもとに届く。金子さんは自らのことを「視線人」と呼ぶが、その姿勢は本作の「記録」のあり方にまさに体現されているように思う。誰かや何かに眼差しを向けるというのは、それらを一人ぼっちにしないという姿勢の現れだ。誰かや何かから眼差しを向けられているということは、私は今一人ぼっちではないということだ。『外と』を観ることで、観客は記録の連鎖の一端となることができる。『外と』は、OKプロジェクトによる「記録するだけで映画になる」という宣言なのだと思う。
2025年/日本/カラー/16:9/20分
監督:金子由里奈
撮影:島津昂平
音楽:日高理樹
録音・MA:戸田航
出演:五十嵐竜 新谷和輝
プロデュース:二井梓緒
製作:OK Project
公式HP 2026年1月23日(金)、ポレポレ東中野にてアンコール上映決定
公式サイト:https://okprojectfilm.tumblr.com/