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July 11, 2026

FIFAワールドカップ2026 フランス対モロッコ
梅本健司

[ sports ]

 FWの位置にいながら中盤まで下りてくる、いわゆる偽9番的な役割を担っていたモロッコの攻撃の要サイバリが前の試合でケガをしたため、その代役に誰を置くかがモロッコにとっての最初の課題。そのままワントップに収まるなら、サイバリのように下りてボールをさばくタイプではないにせよ、ラヒミが無難な選択肢だろう。だがこの試合では、もともと左WGだったエル・カヌースをワントップに、エル・カヌースがいた位置にはドリブルが持ち味のタルビを置くという采配。所属クラブではトップ下での起用が多いエル・カヌースをワントップで使うということは、サイバリと同じく、低い位置でボールに絡みながら試合を組み立てる仕事を期待される。しかも、それまでSBを務めていたマズラヴィをCBにもってきているので、要はモロッコはボールを保持することでこの試合を作ろうとしていた。
 しかし、サイバリ不在の影響もありつつも、どちらかといえばそれ以前の場面でモロッコの保持はつまずいてしまう。プレーが止まるたびに監督の表情やスタジアムに来ているセレブを映すカットに切り替わりがちで見落とされやすいが、ゴールキックの始め方にはそのチームの状態がよく表れる。序盤、モロッコはGKからショートパスをつなごうと試みていた。フランスの一列目を越え、相手の陣形を押し下げながら、センターサークルの少し手前あたりでボールを落ち着けたかったのだろう。たしかに、それができていたハイドレーションブレイクあけの30分台の時間帯はモロッコの狙いが見えた。ボランチの一角のエル・アイナウイが、DFラインに落ちる、いわゆるサリーと呼ばれる動きをし、中の空いたスペースに左SBのサラー=エディンが代わりに入って中盤化することでフランスのプレスの基準点を曖昧にしていた。ただ実際にはそこまでボールが届くことは稀で、結局GKかCBが自陣ゴール近くから、前方に蹴り出す場面が多かった。ロングボールで対抗しようにも、フランスは中盤(とくに今大会を通じてコネが素晴らしい)と2CBのスピードと強さが際立っており、モロッコにとっては分の悪い勝負に持ち込まれてしまった印象。
 つなぎたいモロッコがクリアせざるを得なくなっている理由のひとつは、フランスの第一プレス隊の前に両SB(もしくは両CB)を低い位置で張らせていたことにある。両SBを張らせるのは、多くの場合、相手を釣って陣形を横に広げさせるのが狙いなのだが、現代のハイプレスは、左右均等にマンツーマンで食いつくのではなく、どちらかのサイドへ誘導しながら逆サイドは絞ってゾーン気味で暈すことが多いので、個人的にはむしろリスクが増してしまう配置に思える。
 事実この試合のフランスのハイプレスも、右WGのデンベレがモロッコの左へのパスコースを消しながら右へ追い込み、そこから一人ずつマーカーを前に出して捕まえていくというものだった。結果、モロッコは右サイドのタッチライン際でボールを詰まらせる場面が頻発。さらに、左から右へ追い込むこのプレスが効いたのは、GKのボノが左利きだから、というのもある。利き足側からプレスをかけられると身体を開いてボールを持つことができず、プレーが自然と制限されてしまう。少なくとも、左右に蹴り分ける余裕はなかったはず。前半21分のゴールキック、DFラインを押し上げ、ボノがロングボールを蹴りにいく準備についたとき、モロッコのファーストプランはすでに挫折していた。
 振り返れば、今のところフランスがこの大会で一番苦戦したのは、点差はついたものの初戦のセネガル戦だったと思う。前に書いたように、守備へどの程度貢献するかが曖昧なエンバペのところを使われ、何度かチャンスを作られていた。ただ、その試合以降、トップ下(オリーセ)とエンバペを横並びにするのではなく縦関係に置き、守備の負担分配を明確にしてからのフランスは、ずっとうまくいっている。敵陣の奥では全員でプレスに行き、少し運ばれれば、エンバペが参加しない前提のミドルゾーンを組む。そのふたつの移行がとても滑らかで、自分たちのやっていることへの迷いのなさを感じさせる。
 モロッコのように保持でゲームを作ろうとすれば、カウンターのハイリスクと常に向き合わなくてはならず、パラグアイのように下がってブロックを組んだとしても、タフなシューターが揃っていて怖い。このフランスにどう勝てばいいのか。より高い水準でボールを持てるスペインとノルウェーなら、もしかすると。