特集『急に具合が悪くなる』
© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners
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『急に具合が悪くなる』
出演::ヴィルジニー・エフィラ 岡本多緒 長塚京三 黒崎煌代
監督:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
製作:Cinéfrance Studios, オフィス・シロウズ, ビターズ・エンド, Heimatfilm, Tarantula
配給:ビターズ・エンド
提供:Soudain JPN Partners フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作
公式HP:https://www.bitters.co.jp/soudain/
公式X:@FilmAOAS https://x.com/FilmAOAS
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『急に具合が悪くなる』は、がんと闘病する哲学者の宮野真生子と文化人類学者の磯野真穂の間で交わされた往復書簡を原作とする映画である。知的であると同時に互いの魂に触れあうような濃密な言葉の応酬は、濱口竜介によって、パリを舞台とした二人の女性の物語へと置き換えられる。介護施設「自由の庭」でディレクターを務めるマリー゠ルー(ヴィルジニー・エフィラ)と、日本からやってきた舞台演出家の真理(岡本多緒)の物語。そして、認知症、自閉スペクトラム症、ケア、演劇といった内容が盛り込まれ、さらには資本主義、家父長制といった社会の「構造」の問題まで組み込まれる。これでもかと様々なモチーフを詰め込みながら、それらを緊密に織り上げていく手つきは見事という他ない。
『急に具合が悪くなる』は、前作『悪は存在しない』(2024)と対照的な映画だろう。もともと石橋英子のライブ用サイレント映像として構想された『悪は存在しない』は、余白の多い、それゆえ観客が空想を逞しくすることが比較的容易な作品であった(同作についてはNOBODY掲載の拙稿をお読みいただきたい)。対して、『急に具合が悪くなる』は余白が少ない。隙のない映画だ。私たちは、綿密に織り上げられた映画を辿りつつ、二人の主人公の、施設の人々の様々な瞬間に立ち会うことになる。いずれが優れているということではない。以下では、本作の緊密な作動ぶりを追いながら、そこにある余白、遊びを見つめてみたいと思う(以下、物語の顛末に触れるため見終えてからお読みいただければと思う)。
続き
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——まず物語の全体的な構成についてお聞きしたいです。とくに真理の故郷である京都に一旦舞台が移るものの、またパリに戻り、最後にマリー=ルーがディレクターを務める介護施設で演劇が上演される後半はどのような経緯でそうした展開になったのでしょうか?
濱口竜介(以下、濱口)
まずフランスでユマニチュードを実際に運用しているいくつかの施設に取材に行ったのですが、その中で本作のモデルとなる施設を見つけました。その施設には同じように中庭があり−−映画に登場するほど大きくはないのですが−−ちょうどユマニチュードを導入しようとしつつも苦労していた。実は前のバージョンでは最後は演劇をしていないんです。ひたすら徘徊を肯定するような、中庭を歩くワークショップをしている設定でした。
演劇を最後にもう一回、というアイディアが生まれたのは、確かちょうど長塚京三さんにオファーしたタイミングだったと思います。長塚さんとであればこういった場面を実現させることができるかもしれないと思って、最後に中庭で演劇をする場面を書きました。長塚さんに「いっちょやってやるか」と思ってほしくてですね(笑)。
日本パート自体は脚本の第0稿と呼んでいた叩き台的脚本の時点からありました。この時点ではまだ、フランスでのリサーチは行われておらず日本人の介護士がフランスでユマニチュードを学ぶという設定で、出会ってからも、お互いの国に分かれて電話やZOOMをしたりする。割合としてももう少し、日仏半々という感じでした。でも、やはり離れているとダイナミズムに欠けるとは感じていて。そこからフランスでの実地取材などを経て、お互いの設定が変わって現在のかたちになったというわけです。
続き
NOBODYでは監督作『PASSION』の発表以来、これまでに濱口竜介監督への取材を行い、作品について考え、「対話」を試みてきました。過去に刊行されたバックナンバーやWEBを通して掲載された、濱口監督にまつわるいくつものアーカイブをここでご紹介します。