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October 27, 2019

『宮本から君へ』真利子哲也

[ cinema ]

 宮本(池松壮亮)という男がわからなくなる。と言っても、別に彼の気持ちだとか感情だとか性格だとかがわからないと言いたいわけじゃない。わからないのは顔だ。時間軸が激しく前後して進むこの作品で、前歯のない宮本、目にアザをつくった宮本、左手にギプスをはめた宮本、なんだか知らないがいきなり声が嗄れてる宮本、とさまざまなレイヤーで損傷したり修復したりする宮本を見ていると、ふと無傷でなんの変哲も無いスーツを着...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:33 PM

October 22, 2019

『囚われの女』シャンタル・アケルマン

[ cinema ]

 主人公がフィルムに映った若い女性たちの一団を眺め、その中のひとりに何度も愛を呟く場面から始まるこの映画は、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中の同名の一章が映画化された作品だ。この冒頭のシーンからすでに、スタニスラス・メラール演じる主人公シモンが恋焦がれる女性に向けるまなざしにはどことなく執拗で狂気を秘めた雰囲気が感じられ、一方で彼がまなざす先にいるヒロイン、アリアーヌを演じるシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

October 19, 2019

釜山国際映画祭日記2019

[ cinema ]

2019年10月6日 人生初の釜山は少し肌寒い。空港に降り立ったのは13時だが、次の飛行機に乗ってきた友人と待ち合わせしていたのは17時だったので、先に海雲台のホテルに向かう。海雲台は今回のメイン会場であるセンタムシティとジャンサンのちょうど間にあり、夜遅くまで開いている店も多い。23時くらいまで映画を観ている身としては好都合だ。 海雲台の駅を出ると、大きな通りが海まで続いている。そして、大小様々...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

October 17, 2019

『これは君の闘争だ』エリザ・カパイ

[ cinema ]

 ブラジル・サンパウロでの2013年の公共交通機関の値上げ、2015年の公立校の実質的な廃校に伴う教育予算の削減提言。それらに対する蜂起として、ブラジル全土を巻き込んだ特大規模の学生運動が組織される。『これは君の闘争だ』の主人公たるルーカス("コカ")、マルセル、ナヤラの3名は、もちろんその運動に積極的に参与した高校生たちである。本作でフォーカスされるのは、先述した教育予算の削減が立案された201...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:59 PM

October 16, 2019

『十字架』テレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス

[ cinema ]

 チリの映画で「1973年9月11日以降」を扱ったものと聞けば、おおよそのイメージがすぐに思い浮かぶ。アジェンデ政権を破壊したクーデターの衝撃的な爆撃映像、その後の独裁政権下で次々と行方不明となった市民たち、彼らを探して今なお苦しむ遺族......。これらのイメージが定着しているのには、パトリシオ・グスマンが自身のライフワークとして発表してきた作品群で、チリの「被害の歴史」を繰りかえし描いてきた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:36 PM

October 14, 2019

『空に聞く』小森はるか

[ cinema ]

 タイトルにある「空」にはふたつの意味が込められている、と映画祭カタログに所収の監督のことばにはある。多少言葉を自分なりに言い換えてみると、ひとつは死者の魂の居所としての空(sky)、もうひとつはこの作品の主人公である阿部裕美さんの声が響く仮想の空間としての空(air)、というようなことではないだろうか。前者には過去が、後者には未来が対応している、などと言えなくもなさそうだが、その辺は見る者それぞ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:55 PM

October 13, 2019

『死霊魂』ワン・ビン

[ cinema ]

 王兵(ワン・ビン)の『鳳鳴中国の記憶』(2007)を見た体験は、忘れられない、特異な記憶として残っている。ひとりの老女が雪道を歩き、彼女の住む小さなアパートへと入って行き、テーブルの前に腰を下ろす。そして和鳳鳴という名の女性は語り始める。ほぼフィクスの映像の中の彼女の着ている赤い服、その小さな部屋、照明、そしてしだいに暗くなっていく外の光の推移と共に感じられる時間。一度、電話がかかってきて話を中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:23 PM

October 10, 2019

『典座ーTENZOー』富田克也

[ cinema ]

 『サウダーヂ』以降、富田克也が監督する長編劇映画は、先行する「リサーチ」の成果物と対になっている。『サウダーヂ』に対する『Furusato 2009』、『バンコクナイツ』に対する「潜行一千里」(『映画 潜行一千里』も書籍の『バンコクナイツ 潜行一千里』もある)。「リサーチ」は出来上がった劇映画のいわばパラレルワールドのようにも見えて、同じ話題が繰り返されたり(『サウダーヂ』のモール建設予定地で目...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:03 PM