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August 29, 2022

『寛解の連続』光永惇

[ cinema ]

 私が一人暮らしをはじめたばかりの頃、近所のレンタルCDショップでLIBROの『COMPLETED TUNNING』というアルバムを借りた。収録された曲の中でも、一際異彩を放っていたのが小林勝行というラッパーが参加した『ある種たとえば』という楽曲だった。太古の時代に生きた男が出会いと別れ、生と死、輪廻転生を繰り返し最終的に現代に生きる小林勝行という一人の人間へとつながっていく壮大な物語が五分の中に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 PM

August 18, 2022

『戦争と女の顔』カンテミール・バラーゴフ

[ cinema ]

 冒頭、超クロースアップの女性の顔がスクリーンいっぱいに広がる。その顔は不自然に硬直していて、か細い呻き声と耳鳴りのような音がはっきり聞こえるのに対し、周囲の物音や人々の声はくぐもっている。カメラが徐々に後ろへ下がっていくにつれ、「のっぽ」と呼びかけられたこの背の高い女性、イーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)が、職場である病院の一角で直立不動のまま「いつもの発作」を起こしていることがわかる。彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:01 AM

August 13, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第三回

[ cinema ]

 今回は第二回に掲載された『サッド ヴァケイション』のテクストをはじめ、小誌にて建築、映画について多くの批評を寄稿し、多大な貢献をしてくださっている建築家・藤原徹平氏の追悼文から始まる。ある作家や作品と出会うことで、「同時代」の感覚を知ったという経験が語られると、羨ましく思わずにはいられない。それが、最後まで「現在」への興味を絶やさなかった青山真治のような作家に向けられていればなおさらだ。POPE...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

August 10, 2022

『ワンダ』バーバラ・ローデン

[ cinema ]

 『ワンダ』にはひとつの奇蹟(miracle)があると思うわ、とマルグリット・デュラスは言った。「普通、演じることとテクストとのあいだ、演じる主体と話の筋とのあいだには、距離がある。でも、あのなかではその距離が完全に消えて、バーバラ・ローデンとワンダは、直接的に、決定的に一致している」1)。こう語ったデュラスと同じようにこの映画で初めてバーバラ・ローデンという女性の存在を知ることになるほとんどの観...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:02 PM

August 9, 2022

『Underground』小田香

[ art ]

 札幌の地下歩道が、それを初めて見る人たちにどこか無機質で、他の都市の地下空間と違った印象を与えるとしたら、それはその直線性と無時間性によるものかもしれない。この空間は、例えば渋谷の地下のように電車の乗り換えを主たる目的とするスペースというよりは、冬の間の人々の移動の負担を減らす目的も兼ねているため、札幌駅からすすきのに至るまでの全長1900mにもなる通路が一直線に続いており、札幌の碁盤の目状の道...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:54 PM