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May 27, 2026

第79回カンヌ国際映画祭報告(2)映画祭総括
槻舘南菜子

[ cinema ]

クリスチャン・ムンジウ監督『Fjord.jpg 今年のコンペティション部門の受賞結果は、適度に社会的なテーマを組み込んだ作家映画が連なることとなった。審査員は委員長であるパク・チャヌク監督を筆頭に、ルース・ネッガ、デミ・ムーア、クロエ・ジャオ監督、ステラン・スカルスガルド、イザック・ド・バンコレ、ローラ・ワンデル監督、ディエゴ・セスペデス監督、ポール・ラバーティという顔ぶれ。二度目のパルムドールを受賞したクリスティアン・ムンジウ監督『Fjord』は、そのフィルモグラフィにおいて優れた作品とは言い難いが、通底する作家性の見える作品となっており、敬虔な信仰を持つ家族と進歩的なシステムが孕む矛盾の中で、それらを単純な二元論には収められることのないフィルムとなっている。今年のコンペティション部門における三本の日本映画(是枝裕和監督『箱の中の羊』、濱口竜介監督『急に具合が悪くなる』、深田晃司監督『ナギダイアリー』)が人間の善性に目を向けた作品である以上、現代の日本の暗部を隠蔽していることとは対極にあると言えるだろう。
エマニュエル・マール監督『Notre Salut』.jpg 一方、グランプリ作品であるアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『Minotaure』では、戦争の現在性が不倫の復讐劇の添え物のようにしか機能していない。精密でダイナミックな映像は、その偽装に大きく貢献し、ジャック・リヴェットによるテキスト「卑劣さについて」における「カポのトラヴェリング」を想起せずにはいられなかった。ただ、戦争の表象という点で、脚本賞を受賞したエマニュエル・マール監督『Notre Salut』は、戦時下で生きる普通の人々がいかにその混乱の中で希望を失っていくのか、個人と大きな社会の関係性を繊細なタッチで描かれた良作だった。
 男優賞を主演俳優二人(エマニュエル・マッキアとバランタン・カンパーニュ)が受賞したルーカス・ドン監督『Coward』にとっての戦時下は、その極限状態で生まれる感情と欲望の生成を強める道具としての機能に留まっている。この作品を前にすれば、仏レジスタンスの英雄、ジャン・ムーランを描く伝記、ラズロ・ネメズ監督『Moullan』にすら誠実さを感じるほどだ。そして、監督賞をハビエル・カルボ&アームブレス監督『La Bola Negra』と分かち合うのは、パヴェウ・パブリコフスキにとって、十年前にジャン=リュック・ゴダール監督『さらば、愛の言葉よ』が、グザヴィエ・ドラン監督の愚作『マミー』と共に同賞を受賞したのと同様、侮辱以外の何者でもないだろう。前者が光、カメラワーク、俳優のディレクション、あらゆる演出において、テレビシリーズの延長線上にある駄作なのに対し、パブリコフスキは彼特有の美学、静謐なモノクロの映像によってトーマス・マン『祖国』を巡り、引き裂かれた二つのヨーロッパを横断する。決して驚きの多い作品ではないが、ムンジウと同様に強い作家性を感じさせる受賞作の一本と言えるだろう。
 審査員賞を得たバレスカ・グリーゼバッハ監督『Das geträumte Abenteuer』は、今年のコンペティション部門において最もラディカルな作品だ。ブルガリア国境にある小さな街で、考古学者のヴェスカが旧友に出会ったことをきっかけにこの街の闇に飲み込まれていくのだが、敢えて感情や出来事の劇化を廃し、困難へと立ち向かっていく彼女の姿には惹き込まれる。性的嗜好の転換が物語に安易に組み込まれる仏映画(ジャンヌ・エリー監督『Garance』&シャルリーヌ・ブルジョワ=タケ監督『La Vie d'une femme』)の奇妙な傾向に反して、性的マイノリティとして生き、誰かを愛することを純粋に描いたアイラ・サックス監督の『The Man I Love』があったことは忘れてはならないだろう。
ジェームス・グレイ監督『Peper Tiger』.jpg また、もう一本のアメリカ映画であるジェームズ・グレイ監督『Paper Tiger』は彼の初期作品を再訪するかのような原点回帰となる優れた作品だった。その他に監督週間部門は、カンテミール・バラーゴフ監督の『Butterfly Jam』で開幕した。三本目の長編として、アメリカを舞台にバリー・コーガンとライリー・キーオを迎えた本作は、監督自身の出身地であるカバルダ・バルカル共和国のコミュニティに属する少年を主人公に据えているが、巨大な製作規模によって制御不能になったとしか思えない、成熟からは遠い仕上がりとなっている。また閉幕上映作品は、公式部門のミッドナイト上映部門でも『Full Phil』が上映されたカンタン・デュピュー監督による実写をキャプチャーした3Dアニメーション『Le Vertige』であった。異常に多作でジャンルを横断する監督ではあるものの、彼の狂逸と称されるユーモアもその手法も荒唐無稽の域を出ておらず、ファスビンダーのような「映画作家」ではないのは明らかだろう。例外的に初長編『Libertad』(2001) の続編であり、新たな映画的探究の幕開けになるリサンドロ・アロンソ監督『Double Freedom』や、監督本人が遺作であることをアナウンスしたアラン・カヴァリエ監督『Merci d'être venu』は素晴らしかったが、これらの選択は映画作家の擁護を誕生の起源とする監督週間にとっては当然の選択であり、そこに独自性は見られない。
 女性監督作品に関しては、批評家週間部門にて壮大なロマネスクを描いたマリーヌ・アトラン監督の初長編『La Gradiva』(同部門でグランプリを受賞)、少女のアイデンティティの探究を精密な演出で描いたズー・ジン監督『A Girl Unknown』を発見したのに対し、監督週間では政治的なバランスを取るためにしか機能しておらず、多様な「ジャンル」の凡作が目立つ印象だった。すでにジュリアン・レジ氏のアーティスティックディレクター就任から四年が経つが、いまだに大きな発見はなく、プログラムのアイデンティティを見つけられていないようにも思えてしまった。

カンヌ国際映画祭公式部門受賞結果一覧

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