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2007年09月30日

Back to the Future : フィジー対ウェールズ 38-34

 身体がその基底部で覚えている習慣、ほとんど自律神経のような運動、もともと存在していた要素の上に練習によって培われたオトマティスムではなく、もっと前から存在している何か──フィジーは、ここ一番の勝負で、そんな自らの基底部にごく自然に回帰し、ウェールズに勝利を収めた。
 かつて誰かがそれを「フィジアン・マジック」を呼んだこともあったし、第1回のW杯では、驚きを以てそれを見つめたものだが、第1回のW杯でベスト8に進み、それ以上の成績を指向するとき、彼らの基底部から目をそらし、ワールドスタンダードを導入したことで、封印されてしまった「フィジアン・マジック」。今回、それを思い出すことは監督の意図でも、ゲームメイクの方針でもなかったろう。選手がごく自然に選び取った何か、その魅力的なフィジーのプレイによって、ウェールズは沈んだ。
 もちろん、ウェールズはベスト8に進むに値するチームではない。セクシー・フットボールで前々回W杯を席巻し、オールブラックスをすんでのところまで追い込んだパスプレイから、スタンダードなラグビーに回帰することは、限りない後退であり、そうした後退を意図的に選択したチームは、ベスト8であってはならない。たとえこのゲームでスティーヴン・ジョーンズが、あろうことか、ゴールキックを3本ポストに当てた──ポストの間を通す方がよほど簡単だと思うが、ラグビーの神がいたなら、ウェールズよりもフィジーを選んだということであり、この選択は正しい──ことが直接の敗因であるにせよ、ジャパンを簡単に退けたからといってウェールズは、シックスネイションズにおいてはイタリア以下の力しかないだろう。
 無闇なコンタクトを避け、瞬時にスペースをさがしながら、多様なパスを繰り出す。ゲインラインという考え方よりも、ボールを保持し、スペースを見つけ出しながら、前進を図る。防御法の進歩したモダンラグビーでは、もちろん詰まってしまうことになり、そこでモールラックになる。そうしたブレイクダウンを強化することが現代的なチーム強化ということになり、フィジーもニュージーランドからコーチを招いたこともあった。だが、テストマッチの成績が示すように、そうした強化に失敗し──それなら、サモアとかトンガのやり方でいい──、方向を失いつつあったところだろう。この日のゲームでもウェールズは、フィジー・ゴール正面で得たペナルティにスクラムを選択したし、拮抗したゲームを展開したジャパンもモールからトライをひとつ取っている。
 だが、オフロードも織り交ぜながら、パスを繋ぐフィジーのゲームを見ていると、もう新しい戦術など生まれようがないくらいに画一化されたラグビーにも、そのスタイルにまだ大きな可能性があることがわかる。浅く広いラインばかりのライン攻撃よりも、狭く深いラインにも可能性が残されていること、ポジショニングとハンドリングによって、もっと面白いラグビーが可能であること。フィジーを見ていると、少なくともウェールズよりもずっと勝利にふさわしいチームであると思う。

投稿者 nobodymag : 14:13 | コメント (0)

2007年09月26日

Written on the Wind : カナダ対ジャパン 12-12

 ボールをプレイスし終わり、構えに入って、相手ゴールポストの位置を見つめる大西将太郎の瞳はとても澄んでいた。ひょっとしたら入るな、と思った。このチームの中では彼に肩入れしたくなる。解説の小林さんも涙声になった。ぼくもちょっと感動したけど、ちょっとだけ。なぜなら、このゲームは勝てるゲームで、頑張ったから引き分けられたのではないからだ。
 金が入ってからバックラインが動くようになった。球捌きが「まとも」だからだ。ウェールズやオーストラリアには通用しなかったディフェンスもカナダには通用していた。つまり、カナダは弱い。その証拠にジャパンは対カナダのテストマッチに勝ち越している。高さの差はあるが、ウェイトの差はあまりない。ラインにスピードがない。パスプレイに芸がない。それでも、遠藤の個人技のトライ以外、前半、ジャパンはまったくいいところがなかった。ウェイトの差があまりなければディフェンスは粘れるだろう。だが、ロビンスのキックがまったく伸びない。同志社時代、確かSOだった大西とポジションを代えればいいのに、そうした知恵もない。マイボールは吉田の捌きがもったりして、速攻を仕掛けることができない。何度も書くがトップリーグでやっている東芝のSHでは、劣勢のFWをリードすることはできない。事実、金が入ってから何度もラインブレイクしていた。
 3試合に敗れたジャパンは、つまり、完全に「負け犬」になっていた。いつも相手が強いと信じ切り、凡庸にディフェンスするだけ。勝つためには、ボールを奪い、マイボールをトライラインは運ぶか、ボールをゴールポストの間を通過させる手だてを考えなければならない。たとえば、こんな場面があった。77分、カナダ・ゴール近くで得たペナルティ。ゴールほぼ正面。ジャパンはスクラムを選択した。このとき5-12。インジュリータイムを入れればあと5分近くはあるだろう。この判断はまちがいだ。PGを入れ、3点とって(誰でも入る位置だった)、8-12にし、カナダのキックオフからライン攻撃が正解。結果論ではない。ぼくはスクラムを選択したジャパンに「バカ!」と叫んでしまった。競ったゲームを勝った経験が余りにも少ないから、どうやって勝つのか知らない。結果的に勝っているのではなく、結果としての勝利をゲームの中でどうやってつかみ取っていくのか、というのが正しいゲームメイクだ。
 こんな場面もあった。今村がターンオーヴァーしたが、結果的にノットリリースになり、自陣ゴール前でのカナダのPG。ここでカナダのキャプテンであるSHは左ウィングにキックパスに左ウィングは難なくトライ。セットピースから何の抵抗もなくやられている。前半から、両ウィングがタッチライン際にずっと貼り付いていたことは、このゲームの見た人なら誰でも分かっている。キックされた瞬間、有賀があわてて追いかけたが、遠藤はまったくつめていなかった。これでは、それまでゴールラインを背にして粘っていたディフェンスの価値がなくなる。遠藤はワントライ取ったが遠藤のミスでワントライ取られたので、何もならない。
 つまり、どう考えても、勝てるゲームを引き分けにしてしまった、ということだ。

 ジャパンの4ゲームを振り返ってみよう。
 まずリクルートの問題。これはJKの責任だ。安藤と心中まではまだ許す。だが、その後に呼んだ選手がまったく活躍できなかった。ハーフ団の問題は、勝てるゲームを落とす原因になった。多くの人々が書いているように、辻が必要だった。そして、バックアップ選手にも入らなかったが、セレクションしたことのある廣瀬(東芝)が必要だった。そしてゲームメイクの問題。これはもちろんハーフ団のセレクションとも関わるが、これはJKの責任とばかりは言えない。必死に頑張るだけでは勝てない。ゲームをどうやって勝利に導くのかを考え続けることがゲーム中の選手たちに求められる。それができていない。いろいろな部分では劣るけれども、ゲームは勝っていく。そういう戦術眼を選手たちが身に着けるためには、経験が必要だろう。競ったゲームを勝つ体験、あるいは、どうやって競ったゲームを勝っていくのかというラグビーを思考する経験。それが圧倒的に欠けている。ワラビーズやウェールズに、負けても善戦する体験と、トンガやサモアやフィジーに対して負けゲームを勝ちに持っていく経験。プロ化以後、たとえばスーパー14やトライネイションズを見ていると、ゲームメイクで勝ちを拾うゲームをいくつも見ることができる。
 そしてJKの評価。目標の2勝を達成できなかったのだから、その意味ではマイナス。まず選手たちのディフェンス能力を上げるだけでW杯を迎えたということだろう。JKは、育成型だ。長いスパンで同じチームを育てるのに向いている。短期決戦に勝つには向いていない。勝負師というよりもスキルを伝えるコーチだ。
 フランスには来たけれど、ワラビーズ戦だけに登場した選手たちの労をねぎらいたい。ワラビーズに勝つためにはどうすればいいのか考えて欲しい。ぼくらにとってワールドカップは、ようやく少しだけ始まったばかりだ。アイルランド対アルゼンチン、フィジー対ウェールズなど楽しみなゲームがこれからだ。ぼくは、北半球のチームがどうやって巻き返すのか見ていきたい。

投稿者 nobodymag : 11:41 | コメント (0)

2007年09月24日

It's always fair weather : ニュージーランド対スコットランド 40-0

 次戦に備えてメンバーを落としたスコットランドは、専守防衛。ボールは回されても、トライラインの一歩手前で必死に耐える。フットボールで言えば、11人全員がペナルティエリアに立て籠もったような状況。だが、それでもオールブラックスは40点取る。ハウレットの快走に比べると、もう一方の翼であるシヴィ・ヴァトゥは、さっぱりだったし、ダン・カーターのキックも調子が悪かったが、それでも40点取り、完封で勝つ。これは強い。もちろん、ハンドリングエラーはまだ多く、ハンドリングエラーがなければ60点は取れた勢いだった。
 一方のスコットランドは、ホームのマレーフィールドでのゲームだというのに、セカンドジャージに身を包み、それがオールブラックスのセカンドジャージに似ているので、低俗な猫だましにも見えるジャージの近似。ラックになると、解説の梶原も「どっちがどっちか判りませんね」と言っていた。
 
 ワラビーズもフィジーをまったく問題なく下した。北半球のチームに「問題なく」という副詞を使えるのは、いつになるのだろうか。それとも、このワールドカップは、トライネイションズの続きなのだろうか。

投稿者 nobodymag : 22:38 | コメント (0)

2007年09月23日

The Big White Ten:イングランド対サモア 44-22

スプリングボクス対イングランド戦についての文章の最後に、今のイングランドに処方箋はない、と書いたが誤りだった。たったひとつだけ処方箋があった。カンフル剤などというものではない。この薬を投薬すれば、チーム全体が甦るばかりか、惨敗を勝利に変えることができる。その魔法の薬は、ジョニー・ウィルキンソン。
 トンガに敗れたサモアもこのゲームに負ければ、ベスト8の望みは絶たれる。だから彼らにとってもベストのゲームで、一番の力をぶつけてきた。だから好ゲームになった。紙一重のパスを通し、走りまくった。イングランドはディフェンス一方。だが、後半の一時期を除いて、負ける気はしなかったろう。結局ファンタスティックなラグビーは展開できたが、サモアは一瞬もリードを奪えず、終わってみればダブルスコアの敗戦。トライ数も1-4。数字は完敗と示している。だが、ここにも魔法の薬の秘密が隠されている。ゲームはほとんどイーヴンに見えた。イングランドもしてもこのゲームに負ければ予選リーグで姿を消すことになるから、絶対に負けられない。渾身のディフェンスで、寄せては返す波にも似たサモアのアタックを受け止める。だが、大丈夫なのだ。スプリングボクス戦ではチーム全体がみるみる崩壊していくのが分かったが、このゲームは、とにかくディフェンスを一生懸命やれば勝てる。ウィルコの存在はそのくらいに大きい。
 スタッツもそれを示している。コンヴァージョン3(6点)、PG4(12点)、DG2(6点)、総計24点が彼のゴールデンブーツからたたき出されている。つまり、ウィルコがいなかったら、このゲームは2点差でイングランドの負けだ。しかもウィルコは、本当に久しぶりのゲームで、コンヴァージョンを1本とPGを2本失敗しているから、彼が完調なら、あと8点を稼げていたろう。じっくり攻めていれば、いずれPGのチャンスが回ってきてウィルコの左足から放たれたボールがゴールポストの間を通過する。それを待てばいい。あのぜんぜん面白くないラグビーがまた始まったのだ。どうやってトライを取るのかと命を削って考え、手練手管を繰り出す必要はない。ゴドーを待つ忍耐力があれば、このチームには必ずゴドーはやってくる。

 対トンガ戦にBチーム仕様でスタートしたスプリングボクスは冷や汗をかいた。サモアを敗り、勢いに乗るトンガは、ガンガン来るから、Bチーム仕様では、いくらスプリングボクスとは言え、追いつめられてしまった。焦ってAチームの面子を後半店晒しにしたが、準備が十分ではなく、ゲームにうまく入っていけなかった。やっと勝つには勝ったが5点差の辛勝。ラグビーとは気青でやるものだ。PNCのとき、このトンガに勝ち、サモアに良い勝負をしたのがジャパンだった。そのジャパンが、トンガが僅差の勝負をしたスプリングボクスやファンタスティックなラグビーを見せてくれたサモアが負けたイングランドよりも「格下」のウェールズに大敗している。

投稿者 nobodymag : 01:28 | コメント (0)

2007年09月22日

Confidential Report:フランス対アイルランド 25-3

 フランスの快勝。その理由はディフェンス、そしてハーフ団。アイルランドのアタックはオガーラ、ダーシー、オドリスコルのフロント3。そこに照準を合わせたディフェンスにまったく綻びはなかった。そしてハーフ団の2本のキックパスがヴァンサン・クレールに収まり2トライ。
 シックスネイションズで好調だったアイルランドはなぜ勝てないのか。グルジアと14−10のゲームまで演じている。誠意ある好感の持てるラグビーをしているのに、格下に冷や冷やのゲームをし、フランスに完敗している。前のW杯でもフランスに完敗した。FWで勝てないとき、フロント3にプレッシャーがかかり、そこでラインブレイクができない。これではオガーラのキックのみしか手がなくなる。別の戦術をクリエイトしないとこれからも厳しいだろう。
 対ナミビア戦の圧勝はともあれ、フランスはようやくクリーンに勝てた。だが、フレアの一端が2本のキックパスだけでは寂しい。FWで勝つこと。そして、キックのトライユ、タックルのマルティと役割分担した両センター。素早いパスからラインブレイクして抜くプレイがなかった。この程度は南半球3チームには厳しい。確かにトライユのキックは魅力だが、この辺で決勝トーナメントに向けた戦術を整えておかないとベスト4止まりになるだろう。
 そのためにはまずセットのこれ以上の安定。特にスクラムの一層の整備と、この日、良かったボネールを中心としてラインアウトのヴァリエーションを増やしておくこと。そして、何よりも必要なのは、ミシャラクをフレアの中心に置くことだ。ラポルトは何度ハーフ団を代えたことか。エリサルドーミシャラクあるいはミニョーニーミシャラクとして、ラインでトライを取る方法に磨きをかけるべきだ。ワイド、シザースなど多くのオプションを試しておくこと。そのためにはグルジアに圧勝し、まず自信をつけておくことだろう。
レキップ紙に連載されているオリヴィエ・マーニュの分析が面白い。安心させてくれるのがちょっと遅かった、と彼は語り始める。そして、これから必要なのは、何と言っても速度だ、と付け加える。プレイが遅い、エリサルドーミシャラクでもっと速く、というのがマーニュの意見。同感。それがなければ、カーディフのオールブラックス戦に勝利はない。

投稿者 nobodymag : 17:04 | コメント (0)

2007年09月21日

The Awful Truth :ウェールズ対ジャパン 72-18

 トライ数11-2の惨敗。
 チーム・オーストラリアとチーム・フィジーで戦い、3戦目──つまりこのゲーム──はベストメンバーとJKは語っていた。ベストメンバーで、低調きわまりないウェールズ相手に11トライを献上する。ゲームを見た人なら、このゲームは両チームともミスの山だったことを忘れないだろう。愚戦だ。特にひどいのがハンドリング・エラー。ノックオンの山。こういうゲームをしていては、いくら完勝とはいえウェールズ関係者は、フィジー戦が思いやられるだろう。
 ところでジャパンだ。ミレニアム・スタジアムには空席が目立った。ウェールズの戦術への批判もあるだろうが、それ以上に、このゲームでは心躍ることがないだろうと観客が予想したからだろう。そして、観客は正しかった。3年前の98-0に比べれば2トライ奪ったのだからマシだ。そんな意見もあるだろう。だが、3年前のウェールズは今よりも強かった。ジャパンは、3年前からぜんぜん進歩していない。箕内には悪いけれど、この3年間、萩本、エリサルド、JKと誰も君たちに勝つ味を味わう体験をさせてあげられなかった。
 驚いたことがある。SHだ。ウェールズのSHより、球捌きが遅い。FWが劣勢なら、できるだけ早くモール、ラックから遠くへボールを運ばなければ、スペースは生まれない。そんなことは子どもでも分かる。パスアウトは遅い。東芝ならFWが優勢だから、モール、ラック周辺でもいいのかもしれないが、どう考えてもW杯ではFWのひとりひとりを比べれば、相手が上だ。ならば、早く遠くへ、そしてフォロー。それしかない。だが、出場している選手は誰もそう考えていない。いざアタックとなっても、捌きが遅いので、すぐにタックルの餌食だ。たまたま早く裁けたケースでも、ラインが浅すぎて、トップスピードでボールを受ける選手がいない。小野沢の個人技で一本とウェールズのミスから一本(こっちのトライはよかったが)トライを取ったが、仕掛けて取ったトライはない。何ゲーム消化してきても、トライを取る形もスキルもない。これはセレクションも含めたコーチの責任だ。スタッツでは、このゲームでもテリトリーでは上回っている。サムライ精神だけでは、何もできない。どうやってボールを保持し、それを前に進めてトライを取るのか。誰も考えていないようにしか見えない。
 セレクションの問題にも触れたい。吉田よりもよいSHは、トップリーグなら何人もいるだろう。辻、後藤……。SOもキックで距離の出ないロビンスより、もっとよいセレクションがあったろう。クリスチャンは、スキルの面でインターナショナル・レヴェルにない(落球の多さ、判断力の悪さ!)。キックとタックルのいい大西将太郎はFBにふさわしい。つまり、ポジションと選手の適性についても、このHCは選手を見る眼を持っていない。今さらながら、宿澤の死を悼む。

投稿者 nobodymag : 15:32 | コメント (0)

2007年09月16日

End Game : イングランド対南アフリカ 0-36

 イングランドがまったく見る影のないほど衰退している。力もスピードも技も若さもないFWとまったく切れ味を欠いたライン攻撃しか持たないバックス。スプリングボクスの前に屈辱的な大敗を喫した。このチームを上向かせる処方箋はあるのか?
 4年前の同じカード。接戦を制したのはウィルキンソンの左足だった。ほとんど五分のFW勝負でキック力の差で乗り切った。だが、このゲームを見る限り、たとえウィルキンソンが復帰したとしても、結果はそう変わらないだろう。4年間もほぼ同じメンバーでFWが戦い、すでに4年前もヴェテランだったFWがさらに年齢を重ねれば、体力の衰えは目を覆うばかりになる。ここ一歩が届かなくなり、ディフェンス網は次第に決壊を開始する。こういうチームのカンフル剤は一発必中のタックルなのだが、気迫はあっても、それが相手に「届かない」。4年前も「面白くない」「ラグビーの未来を拓くものではない」と酷評されたが、そんな批判にも耳を貸す必要のないFWの強さと、ウィルキンソンの必中のキックがあった。だが、このチームにFWの強さがなく、ウィルキンソンの左足がなければ、単に何もないチームになってしまう。伝統の白いユニフォームが血で染まり、手負いの獅子のように、最後の力を振り絞っても、「届かない」。つまり、チームは完全に崩壊した。
 だから、結論を書こう。処方箋はない。イングランドはもうダメだ。この程度の力ならサモアにも危ない。

それにしてもトライネイションズの3チームの快進撃とシックスネイションズの6チームの低迷は誰の目にも対照的に映っている。トライネイションズを終えたばかりで力が充実している3チームと、すでにシックスネイションズ以降半年が経過し、その後は真剣勝負の機会を失している6チーム。だから、ゲームを重ねれば6チームも力が上向いてくるはずだ。ジャーナリズムはそう書く。だが、事実上、6月にも交流マッチは行われているし、世界のラグビーカレンダーは変わっていない。イングランドとウェールズは明らかに強化の失敗だ。ヘッドコーチの首をすげ替えなければ変わりようがない。アイルランドとフランスをもう少し観察する必要があるだろう。だが、この2チームは同じ予選プールに属していて、トライネイションズのチームとは当たらない。

投稿者 nobodymag : 00:11 | コメント (0)

2007年09月13日

Once Upon a Time in Toulouse : ジャパン対フィジー 31-35

 スタード・ミュニシパル・ドゥ・トゥールーズ! なつかしい! かつて、ガラガラのこのスタジアムで、ジャパンを応援したことがある。もう30年近く前のことだ。テストマッチ。後半の30分すぎまで3-11。結局、最後には3-23になってしまったけれど、興奮した。後でテレビのニュースを見たら、「Match fantastique!」とアナウンサーが叫んでいた。ジャパンはボールを奪うと、(飛ばしパスではなく)一気にウィングまで展開し、スピードのあるアタックを何度もした。戸嶋と藤原の両ウィングが快足を飛ばし、そして金谷と南川の両センターが素早いパスでディフェンスを交わしていた。
 あのゲームは、この日スタジアムが「ジャポン! ジャポン!」と一体で応援してくれた対フィジー戦よりも何倍も感動した。だって、相手はフィジーではない。フランス代表だった! つまり、かつてはアウェイでフランス代表にもイーヴンに近いゲームをやったことがあった。タックルミスなんてほとんどなく、ノックオンも少なかった。
 対フィジー戦、良いゲームをしたと言われるが、あのゲームに比べれば、レヴェルの差は大きいと思う。フィジーは緒戦のためか、本来の調子になく、イージーミスを繰り返し、ジャパンは、(皆、頑張ってはいるけれど)ほとんどラインブレイクできない。とった3つのトライも、2トライはモール、あとのワントライはルーク・トンプソンの個人技。そして、スクラムから4トライ奪われている。確かに吉田と矢富の怪我もあるだろう。けれども、このゲームに勝つためにチームを2つに分けたはずだが、結果は敗戦。惜敗ではるけれど、敗戦。フィジーのそれほどよいとは思えないディフェンスを破れず、大西のキック(安藤よりずっといい!)で何とか付いていけただけ。
 まだジャパン・オリジナルと伝統工芸が残っていた時代、ジャパンのFWはひたすらタックルを繰り返し、ジャン=ピエール・リーヴのフランスと渡り合い、BKは、針の穴を通すようなパスプレイでゲインラインを目指していた。そして、今は?
 真っ向勝負! でも勝負になるのはマキリとトンプソン。今村も、小野沢も、クリスチャンも、遠藤も「fantastique」なラインブレイクができない。その方法を持っていない。ポゼッションに勝り、テリトリーでも勝っているとスタッツは示すが、それを活かす方法論を持っていない。どうやってトライを取るのか。どうやって、このチームの特長を全面に押し出したプレイを作っていくのか。道は遠い。

投稿者 nobodymag : 22:59 | コメント (0)

2007年09月11日

Déjà vu:インターミッション

 まだ少しばかり残っているとはいえ、ほぼすべてのチームが1ゲームずつ消化した。以前のW杯ならば、盛り上がったのだが、今回に関してはどうもゲームが面白くない。もちろん開幕戦を除いて対戦カードがつまらないこともあるが、ラグビーの新たなページがまったくめくられていないように思えるからだ。
 有望チームの多くが似たようなスタイルで戦っていることがその大きな原因だろう。第1回大会のオールブラックスのモールとか、第4回大会のワラビーズのボールのリサイクルとか、第5回大会のウェールズのパスプレイなど、チームの特色を活かしたスタイルがなく、SOがキックで陣地を取り、相手陣に入ってから勝負するというのはどのチームにも共通するやり方のようだ。アルゼンチンが対フランス戦に採用した徹底したキックとハイパントを除いて、これでは単に強い方が勝つとしか言いようがない。かつてラグビーは「スタイルの戦い」であって、フランス語ではguerre de stylesと翻訳され、劣勢のチームが大きくてスキルのあるチームを倒すべく、新たなスタイルを産み出すことに専心したはずだ。ラグビーが国際化し、交流が盛んになると、手の内を隠すことが難しくなるし、互いのスタイルについての研究が進むので、差異がそぎ落とされ、同一性ばかりが目立つようになる。とすれば、単に大きくてスキルのあるチームが勝利を収めることになり、日本を初めとする弱小国はまったく勝利が望めなくなる。
 そんな中で、前半をカナダにリードされたウェールズは、尻に火が点いたせいか、SOをフックからジョーンズに代えた。するとラインが動き出し、チームにリズムが生まれ、まるで蘇生手術成功のようにチームが甦った。同一性ばかりが目に付いたチーム──それだけでウェールズはカナダを上回れない──に差異が生まれ、チーム自体が03年のW杯を思い出したように活性化してきた。すでに書いたが、アルゼンチンはフランスを封じるために、徹底してキックを使い、フランスの推進力を削ぐことで、戦いをFW周辺に限定させて勝利を手にした。「もう忘れてつぎの戦いに備えよう」とラポルトは語るが、就任当初こそ、ロングパスによる大外展開、ディアゴナルなキックパス等、新たなスタイルに手をつけたが、結局は、iインターナショナル・スタンダードのラグビーに回帰したフランス。フレアの影も見えない。
 JKが就任してからジャパンには「武士道」精神が根付いたかも知れないが、「新たなラグビー」はさっぱり見えてこない。フィジーやカナダに対して、単に大きくて強い者が勝つという戦法をとるのだろう。「2軍」が出場した対ワラビーズ戦は、何の工夫もなかった。朽木は新聞に「哀しい」と書いたが、ぼくが、これでは特攻隊と同じだ、と書いたのと似たようなことだろう。
 すでに戦術的な「隠し球」は許されない時代になり、それぞれのチームのコーチたちも戦術の創出よりは、言葉の正しい意味でセレクショナーになり、手持ちtの選手たちの選択のみで頭が一杯なようだ。あとはゲームの中で選手たちが、自らの方法を産み出し、結果的に、そのラグビーはかつて見たこともないようなものであることを祈るだけだ。

投稿者 nobodymag : 21:40 | コメント (0)

2007年09月09日

There is always tomorrow:ワラビーズ対ジャパン 91-3

 前半こそ3-23というスコアで「いつもながらの善戦」とも思えたが、ディフェンスばかりしていては、後半10トライの猛攻を受けてしまう。終わってみれば3-91、そして13トライを奪われる惨敗。ミスマッチと言われても何の言い訳もできないだろう。
 敗因はこのゲームを見た人なら誰の目にも明らかな通り、圧倒的な力の差。都立高校に在学していたぼくは、かつて同じようなゲームを見たことがある。対目黒高校(松尾がいた)3-60(当時はトライが4点)。圧倒的な力の差があるゲームにのぞむとき、正攻法でいっても惨敗は目に見える。スキルがない。体重がない……。そこをどうするのか、という方法論がまず最初に必要なことだろう。残念ながらJKにはその方法論はまったくなかった。低くいくタックル。常識だ。だが、スタッツは131回のタックルで38回のミスタックルと伝えている。「低いタックルでミスを誘う」と選手は口を揃えるが、肝心のタックルを「ミス」していては、ぜったい相手のミスは起こらない。
 大西鐵之祐の時代は、ポゼッションが低くてもバックスにさえボールを供給すればトライを奪えるかも知れないという期待はあった。だが、ワラビーズに対するジャパンの選手たちにその方法論は伝授されていなかったようだ。インサイドセンターのオトはタックル要員だった。相手がいかなる面においても優れていることが分かっているとき、それでも戦わねばならないなら、それなりの方法論があると思えたが、世界一低いタックルを30%近くミスしていてはタックルにいかないのと同じことだ。渡辺の頑張りが空しく感じられた。
 JKが就任して確かに個人のスキルは上がったろう。だが、天文学的にスキルの差があるとき、スキルの多少の向上は目に認知することなどできない。スキルや体力にある程度目を瞑っても、戦術で補えるようなプラスαがまったく見えなかったのは哀しい。哀しさは、絶対的に負けが確実なのに、それでも低いタックルに行って、簡単に交わされてしまう選手たちの姿を見るとき倍増する。太平洋戦争末期の特攻隊の戦闘機がアメリカの艦船にたどり着く前に水中に没していく映像を見たときの感じに似ている。
 昨夜(時差の関係で今朝)見たフランス対アルゼンチン戦。アルゼンチンの整備されたディフェンス網がフランスのアタックをまったく許さず、ラインブレイクされる寸前に誰かが止めていた姿を見て、終いにはアルゼンチンが勝ったとき、アルゼンチンの選手たちは文字どおりヒーローだった。だが、今日のゲームを見る限り、このゲームに出場した選手は自信の失い、自分の行動がほとんど成就しないのを感じなかった人はいないだろう。これは、どうしても哀しい。2ゲーム勝つという戦略のために、2チーム制にして、戦う前から負けが決まっているようなワラビーズ戦に出て、完膚無きまでに打ちのめされる選手たちはどんな気持ちだろうか。ぼくならそんなゲームに出場したくはない。145点とられたオールブラックス戦の再現を見ているような感じ。
 相手への敬意というのは、やはりチームとして、一戦毎にベストの布陣でベストワークをすることではないのか。どんなに哀しくても明日は来る。でも、それがもっと哀しい明日だとしたら、生きているのは嫌になる。

投稿者 nobodymag : 00:56 | コメント (0)

2007年09月08日

Beyond the reasonable doubt:フランス対アルゼンチン 12-17

 開幕戦、フランスがアルゼンチンに何とか勝利を収めるだろうという予想が外れた。自国開催のホームアドヴァンテージ、それにランキング(フランス3位、アルゼンチン6位)が、その予想の拠り所だった。だが、接戦になるだろうとも思っていた。2002年から2004年にかけてアルゼンチンはフランスに負けていないし、その後、フランスが勝ったときも、常に僅差の接戦だったからだ。
 展開は予想通り。フランスに対してアルゼンチンが徹底して前に出るディフェンス。そしてフランスのミスを誘いPG。FWを前に出すため、アルゼンチンはキック。多様なキック。ハイパントというアナクロなやり方も有効だった。結果は12-17。レミ・マルタンのパスをインターセプトされたことがきっかけでアルゼンチンがとった1トライ差。あとは4PG同士。アルゼンチンの気迫が勝利を呼び寄せた。
 だが、フランスは、常に僅差の勝負が続いているとき、勝敗を決するのはPGだ。アルゼンチンがコンヴァージョンを除いてほぼすべてを決めたのに対して、フランスは、スクレラとミシャラクがイージーなPGを外している。つまり6点。もしその6点が入っていたとすれば、フランスが1点差で勝利を収めたことになる。だから、ここ最近のフランス対アルゼンチンのゲームがここでも再現されたということだ。
 問題はアルゼンチンがハイパントという戦術を使ってきたのに対して、フランスは戦術的な応用力がなかったこと。かつてのフレアは影を潜め、ディシプリン偏重によって確かにディフェンスはよくなったが、かつて体験したことがある「信じがたいトライ」がなくなっている。だが、この1戦で勝負が決まるわけではない。前々回のW杯もグループリーグはさっぱり調子が出なかったフランスが、決勝トーナメントに入ると一気に調子を上げオールブラックスを敗ったこともある。ジョジオンの語る通り「今は一体感が必要だ。下を向かずに次戦に備えること」だろう。
 快勝したアルゼンチンにしても問題がないわけではない。17-12というスコアは30点の攻防戦という近年のラグビーからすれば、極めつけのロースコア・ゲーム。つまり、アルゼンチンも1トライしか上げていない。トライを取るのが、インターセプトとディフェンスからということ。仕掛けがハイパントだけではきつい。

投稿者 nobodymag : 21:15 | コメント (0)