2018年ベスト

井戸沼紀美 (『肌蹴る光線 ーあたらしい映画ー』主催)

映画ベスト(今年スクリーンで見た順)

  • 『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』ビー・ガン
  • 『レディ・バード』グレタ・ガーウィグ
  • 『グッド・ヴァイブレーションズ』リサ・バロス・ディーサ、グレン・レイバーン
  • 『寝ても覚めても』濱口竜介
  • 『ワイルドツアー』三宅唱

ビー・ガン『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』は中盤から3D(59分長回しシーン)という大胆な一手を打っただけでなく、前作『凱里ブルース』の要素(回転)を再び、大々的に取り扱っているところにも気概を感じた。ロマンスの洪水と、中盤ふいに現れる茶目っ気に骨抜きにされ「ビー・ガン最高」としか言えない体に。『レディ・バード』はウィメンズ・マーチで人々が「LADY BIRD for PRESIDENT」ポスターを掲げている様子なども含めて心に残っている。2月に日本初上映された『グッド・ヴァイブレーションズ』は片目が義眼になった主人公、テリー・フーリーのもう片方の目に宿る表情に、どうしようもなく湧き上がる生を感じて身体中熱くなった。もっと観られるべき映画だと思う(上映を企画した岡俊彦さんに敬意を)。『寝ても覚めても』については友人が「唐田えりかさんを観ていたら、スキージャンプの高梨沙羅選手のことをどうしても考えてしまった、彼女はあんな風な幼い顔をして、何故あんな高いところをスキー板を履いて飛んでいるのか…」と書いていたのが印象的。日常がぐらつき、帰りの電車を何度も乗り間違えた。『ワイルドツアー』は1シーン目からエンドロールまで終始ワクワクして、鑑賞後とにかくポジティヴな気持ちで溢れた。(『きみ鳥』公開と同じ年にこんな青春映画も生まれていたなんて!)。その他『13回の新月のある年に』(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)の全ての抱擁シーンが脳裏に焼き付いて離れない。

その他

  • 豊田市美術館『ビルディング・ロマンス-現代譚(ばなし)を紡ぐ-』(展示)

    同時開催のコレクション展『ビルディング・ロマンス-盲目と洞察』もあわせて。

  • 『爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3 プレイヴェント』(ライブ)

    クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンドのライブに祭りの精神を教わった気がする。

  • 「ビールは人生を明るく豊かにする健康的な飲み物です」(言葉)

    柳澤寿男『ビール誕生』より。瓶ビールをグラスにトプトプ注ぎながら、この言葉を反芻したい。

  • Trefle(花屋)

    夏の『肌蹴る光線』開催時に清原惟ちゃんと訪れ、店長さんと談笑したのが良い思い出。微音で流れるバッハ、風を感じるブーケなど。

  • 『にぎやかな別れ』(小説)

    アメ横の居酒屋・魚草が「紙上の闇市」と銘打って創刊したフリーペーパー『魚草旬報』に掲載された高井苛実こと城李門くんの小説。恐ろしく顔の整った人が口をあんぐりあけて遠くを見ているような色気がある。夏に亡くなった祖父と気丈な祖母、こぼれそうに咲くノウゼンカズラを想った。

梅本健司 (大学生)

映画ベスト(今年スクリーンで見た順)

  • 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグ
  • 『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』クリストファー・マッカリー
  • 『草の葉』ホン・サンス
  • 『Ash Is Purest White』ジャ・ジャンクー
  • 『バルバラ セーヌの黒いバラ』マチュー・アマルリック

一般公開された作品にかかわらず、特集や映画祭で上映された作品も含めて、素晴らしい女優たちが、魅力的な人物を演じていた、あるいは魅力的な人物を 生み出していた5本を選んだ。弱さや孤独を抱えつつも、仕事や出会い、別れ、そして孤独を通じて、より強く、かっこよくなっていくスクリーンの中の彼女たちを心底好きになってしまったのと同時に、彼女たちのように生きたいと思った。
イーストウッドやガレル、クレール・ドゥニなどベテランの監督たちの若々しい作品に出会えたり、三宅唱や濱口竜介の驚くべき新作を同時期に見られたり、10代最後の年を魅力的な映画に囲まれながら過ごすことが出来た。

その他
サッカー、ベストゲーム2018

  • 03/08トッテナム対ユヴェントス(CL・ベスト16・セカンドレグ)
  • 06/16ポルトガル対スペイン(W杯グループB・第1節)
  • 09/30チェルシー対リヴァプール(プレミアリーグ第7節)
  • 10/08リヴァプール対マンチェスターシティー(プレミアリーグ第8節)
  • 11/11ドルトムント対バイエルン(ブンデスリーガ第11節)

アーセン・ヴェンゲルが昨シーズンでアーセナルにおける22年の監督生活を終えたこと、ティエリ・アンリが、かつてヴェンゲルが監督をし、自身を見出したモナコの監督に今シーズン途中で就任したこと(成績はヴェンゲル時代とうって変わって全く振るわないが)。時代は一周し、逝ってからもうすぐ6年となるサッカー好き、スポーツ批評家でもあった父が見ていた頃のサッカーとはまるで違うものになっている。攻撃も守備もよりデザインされたものになり、ヴェンゲルの選手の即興性を生かすジャズのようなサッカーは、父が亡くなった後すぐに翳りを見せ始めたのだ。もし父が生きていたら、アーセナルでのキャリア終盤のヴェンゲルをどう見たのか、今の若いスペイン人に率いられるアーセナルをどう見るのか。その声をどこかで聞きながら、今年も世界のサッカーの動静をしっかり見届けたい。

海老根剛 (表象文化論/ドイツ文化研究)

映画ベスト5

  • 『希望のかなた』アキ・カウリスマキ
  • 『泳ぎすぎた夜』ダミアン・マニヴェル&五十嵐耕平
  • 『あなたはわたしじゃない』七里圭
  • 『ゾンからのメッセージ』鈴木卓爾
  • 『Western』ヴァレスカ・グリーゼバッハ

見逃している作品も多く、本来は参加する資格はないのだけれど、とりあえず見たものの中で最も印象に残った作品を5つ挙げてみる(順不同)。『希望のかなた』は大阪では1月封切だったので、やはり入れておきたい。カテゴライズすることも、説明することもいっさいせずに、異質なものどうしが並存する状態を示すこと、それは映画のショットに備わる力だろう。個々の作品におけるショットの力が衰弱し、人々のショットに対する感覚が麻痺していくにつれて、そうした並存の可能性もまた忘れさられ、不寛容が世界に蔓延していくように思える。『泳ぎすぎた夜』で私たちが見る、どこまでも抽象的で匿名的な登場人物たち。しかしそこではまた、すべてはどこまでも具体的である。「少年」は「活動する生命」とでも呼ぶほかない何物かとして私たちの前に現れる。『あなたはわたしじゃない』と『ゾンからのメッセージ』も、未知なる異物の感触を映画そのものに回復させんとする作品で、スリリングな興奮とともに大いに勇気づけられた。グリーゼバッハの『ウェスタン』は実に11年ぶりの新作。この野心的でデリケートな作品が近いうちに日本でも公開されることを願って、ここに挙げておく。

その他ベスト5

  1. 京都移住

    個人的な話で恐縮だが、今年最大の出来事はやはり10月に京都(出町座徒歩圏!)に引越したこと。大阪の人たちは本当に京都が嫌いらしく、大阪に住んでいて、京都の悪口を聞く機会は多かったが、自分はもともと大阪人ではないので京都に対して特別な思いを抱くことはなく、住んでみたいと思うこともまたなかった。なので事の成り行きで鴨川左岸に住むことになって、驚いてしまった。外から見る京都と実際に住む京都はこれほど違うのかと。少なくとも自分にとっては、(いまのところ)圧倒的に住みやすい。東京にも大阪にもない都市のエートスが息づいている。自分でも驚くのだけれど、自転車で京都の街を走っていると、不意にベルリンに住んでいた頃の感覚を思い出すことがよくある。それと映画館に徒歩や自転車で行けるようになって、映画館で見る映画の本数が倍増した。それが何よりも嬉しい。そして京都に住みはじめたことで、あらためて大阪という都市の特徴も鮮明に見えてきた。大阪人が京都を嫌う理由もようやくわかってきたように思う。そういうわけで最近は宮本又次の大阪についての著作などを読んだりしてもいる。

  2. Susanne Kennedy "Women in Trouble" [Volksbühne Berlin]

    フォルクスビューネ・ベルリンにおけるクリス・デーコンのプロジェクトは1年ももたずにあっけなく瓦解したが、スザンヌ・ケネディを演劇部門のトップとしてベルリンに呼び寄せ、この新作を実現する機会を与えた功績は素直に認められるべきだろう。「ポストヒューマン演劇」というものがあるとしたら、ケネディのこの作品は間違いなくその最重要作品として位置づけられることになるだろう。現時点でおそらく最も先鋭的な演劇表現の探求者の一人と断言できるケネディの仕事からは、今後も目が離せない。

  3. ジョン・グムヒョン『リハビリ トレーニング』[Kyoto Experiment]

    今年の京都エクスペリメントで圧倒的に面白かったパフォーマンス作品。風変わりな整骨院のようにも整形外科のリハビリ室のようにも見える空間でグムヒョンが医療用の原寸大人形を相手に様々な「施術」を施していく。グムヒョンと人形の関係はいつしか医療の文脈から逸脱し、施術する人間と施術される人形との関係も異様なものへと変容していく。単なるモノでしかない人形を用いることでかえってオブジェクトにおける行為主体性(エイジェンシー)の発動を鮮明に浮かび上がらせ、医療やケアの問題をも包摂するインタラクティヴィティの概念を問い直す刺激的な作品だった。

  4. Jaron Lanier "Ten Arguments For Deleting Your Social Media Accounts Right Now"

    タイトル通り、ジャロン・ラニアーが「あなたが今すぐにソーシャルメディアのアカウントを消去すべき10の理由」を淡々と述べていく本。ラニアーの本はどれも面白いし重要だと思うが、『人間はガジェットではない』で翻訳が止まってしまっている。前著 "Who Owns the Future?”(2013)に続いてこの本も翻訳されないとなると少しマズイのではないか、ということで選出。トランプ、ブレグジット、ドゥテルテ、黄色いベスト運動からネット上の身近で不毛な小競り合いまで、現在のソーシャルメディアの惨状を考えるために読んでおいて損はない本。

  5. Samin Nosrat "Salt Fat Acid Heat"

    "Mastering the elements of good cooking"という副題からも分かる通り、料理の本である。しかしいわゆるレシピ本ではない。素敵なイラストで飾られ、まったく堅苦しいところのないこの本で、著者は料理を構成する4つの要素、塩、脂肪(油)、酸(酢)、熱の特性と機能を説明し、料理の様々な「おいしさ」がこれらの要素の組み合わせによって生み出される仕組みを示していく。この本を読んだ読者はだから、新たなレシピを手に入れるのではない。むしろレシピへの依存から解放される。というのも、いまや誰もがその都度みずからレシピを発想できるようになるのだから。その意味で、これは革命的な料理本である。

岡田秀則 (映画研究者/フィルムアーキビスト)

映画ベスト

  1. 『レディ・プレイヤー1』スティーヴン・スピルバーグ
  2. 『ゾンからのメッセージ』鈴木卓爾
  3. 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー
  4. 『寝ても覚めても』濱口竜介
  5. 『王国(あるいはその家について)』<150分版>草野なつか

本当の1位は『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』の方かも知れないが、勢いで『レディ・プレイヤー1』にしておく。完成試写で拝見した『王国(あるいはその家について)』は、生身の人間が演じられた人物になってゆく過程、そのふるえを目撃できる得難い一篇。名古屋では34分版がフェスティバル上映されているが、2月の恵比寿映像祭でついにこの150分版が一般上映されるのでお見逃しなく。そのほか、劇場公開作としては『バルバラ セーヌの黒いバラ』(マチュー・アマルリック)『ルイ14世の死』(アルベール・セラ)『菊とギロチン』(瀬々敬久)『イカリエXB1』(インドゥジヒ・ポラーク)『パンク侍、斬られて候』(石井岳龍)『顔たち、ところどころ』(アニエス・ヴァルダ、JR)『あみこ』(山中瑶子)がすぐ思い浮かんだ。劇場外では、東京国際映画祭で上映されたドキュメンタリー『カンボジアの失われたロックンロール』(ジョン・ピロジー)や、広島国際映画祭でかかったウジェーヌ・グリーンの短篇『いかにフェルナンド・ペソアはポルトガルを救ったか』も印象に残った。前者など今からでもいいから劇場公開されてほしい。ミカエル・アース作品は、残念ながら東京国際映画祭の『アマンダと僕』を逃したが、『この夏の感じ』の臆面もないネオアコ度の高さには感激+苦笑。

映画以外ベスト5

  1. 「ゴードン・マッタ=クラーク展」東京国立近代美術館(展覧会)

    情況に風穴を開ける、という語がこれほど似つかわしいアーティストもいない。家を真っ二つに割ったり、爽快に風穴を開けまくって、たった35歳で亡くなってしまった。東京国立近代美術館は秋の「アジアにめざめたら」展も目からウロコが落ちたし、上階のコレクション展も含めて本当にがんばっている。

  2. 『松本圭二セレクション第9巻 チビクロ』(書籍)

    自身の詩集を出すたびに、造本に徹底的に注文をつけ続けたという松本圭二が、いわば全集的なシリーズの刊行を認め、デザインもあっさり出版社に任せるとは思わなかった。『チビクロ』は、中でも彼の映画に関するテクストをごっそり収めた巻である。ここには、福岡市総合図書館の中にある彼の作業室の中で、彼が実践的につかんできたフィルムアーカイブへの思索が詰まっている。日本の映画アーカイブ界は、その内側にひとりの詩人を擁していることをもっと誇りにしなければならない。私もそれを心の拠りどころにしている気がする。彼はただの酒飲みではないのだ。

  3. 「映画パンフは宇宙だ!」(展覧会+トーク)

    厳密に言えば「映画以外」ではないのかも知れないが、面白かった。映画パンフレットだけで、これだけ楽しくためになるイベントが成立する時代になったのだ。シネコン時代になって売店の隅に追いやられ、パンフの売り上げが減ったことは随分聞かされていたが、その事実だけではつかみきれない多様な愛着が新しい世代にも生まれていると分かった。ここ数年、映画という文化が、フィルム自体の外側にも明るく広々とひらけていることが徐々に意識されてきたように思う。

  4. 『俺たちはみんな神様だった』ベンヨ・マソ著/安家達也訳(書籍)

    永遠の名著、ルイゾン・ボベの『自転車チャンピオン』を読んで以来、未知谷の自転車ロードレース本はずっと気にしている。2017年の暮れに出た本書は、オランダの社会学者による、1948年ツール・ド・フランスの日々をワンステージごとに追ったルポルタージュの傑作。まだ戦後処理中で疲労した国も多く、しかも当時のツールは国別レースだったので、国家格差・階級格差・ナショナリズムもむき出しになる。しかも当時のレースは距離も長く、ルールも選手に残酷すぎた。その年の山々は天気も悪すぎた。そんな中、地獄のレースをこなし続けるイタリア代表のジーノ・バルタリや数々の名選手を複数の軸にして、混迷する「ヨーロッパの戦後」を見事に浮かび上がらせている。

  5. 「映像」ザ・なつやすみバンド(音楽)

    バンドにとって4枚目のアルバムだが、過去の名曲のリテイクも収められ、これがあれば永遠に夏の終わりでいられる一枚。特に空気公団の山崎ゆかりと組んだ「なつやすみ(終)」が最高。今年はceroのニューアルバム「POLY LIFE MULTI SOUL」にも感激したが(前作「Obscure Ride」がかすんでしまうほどだ)、ひとまずこっちに軍配を上げておく。

他には、SHIMURAbrosの美術作品「映画なしの映画 – 創造的地理」、将棋の菅井竜也七段の反則負け(プロの仕事としては屈辱だが、私には爽快だった)、東京都庭園美術館「ブラジル先住民の椅子 野生動物と創造力」展、千葉市美術館「1968年 激動の時代の芸術」展、川崎市市民ミュージアム「さいとうたかを ゴルゴ13」展、展覧会図録『グラフィック・デザイナー 土方重巳の世界』など。

荻野洋一 (番組等映像演出/映画評論)

映画ベスト

  1. 『無頭人(Acéphale)』パトリック・ドゥヴァル
  2. 『風の向こうへ』オーソン・ウェルズ
  3. 『ワンダーストラック』トッド・ヘインズ
  4. 『花札渡世』成澤昌茂
  5. 『8人の女と1つの舞台』關錦鵬(スタンリー・クワン)

2018年の劇場公開作ベストについては他メディアで既発表なので、NOBODY誌ベストのユルユルな選考基準に甘え、2018年初見作品から真に最高の5本を並べた。上から順にそれぞれ見た場所はアンスティチュ・フランセ、NETFLIX、劇場公開、シネマヴェーラ渋谷、東京FILMeX。
1位のパトリック・ドゥヴァル『無頭人(Acéphale)』は1968年夏、サンジバル集団により、五月革命を受けて撮影された自主映画。私事で恐縮ながら、これを見ているあいだ、筆者が早大シネ研時代に作った8ミリ映画『のらくら夜間飛行』(1988)をついつい思い出してしまった。拙作『のらくら夜間飛行』は、ブレヒトが1928年に発表したマルクス主義的な戯曲「リンドバーグ(たち)の飛行 少年少女のためのラジオ教育劇」の手前勝手な映画化である。ここに、1928-1968-1988-2018という4つの8による時間軸が浮上するのだ(笑)
オーソン・ウェルズ未完の遺作『風の向こうへ』がひょっこり「2018年の新作」としてNETFLIXで公開された。これを事件として感知し得ぬ感性は、永遠に映画を取り逃すことだろう。2019年もすばらしい映画との出会いがたくさんあることを期待したい。

本ベスト

  1. 『ゲームの規則 III 縫糸/IV 囁音』ミシェル・レリス(平凡社)
  2. 『小村雪岱随筆集』真田幸治編(幻戯書房)
  3. 『涯テノ詩聲 詩人吉増剛造展図録』(書肆子午線)
  4. 『混血列島論 ポスト民俗学の試み』金子遊(フィルムアート社)
  5. 『エリー・フォール映画論集1920-1937』須藤健太郎編訳(ソリレス書店)

NOBODY誌ベスト企画には毎年「美術展ベスト5」を提出してきたけれど、2018年はとにかく新作映画を追うのに忙殺されたため今回は断念せざるを得ず、「本ベスト5」に変更した。
その他のジャンルについてもベストを。美術展=マルレーネ・デュマス『鉛白』『アイボリー・ブラック』の2枚(横浜美術館《ヌード──英国テート・コレクションより》展)。写真=中村早写真集『STILL LIFE OF MEMORIES』(私家版)。演劇=トニー・クシュナー作、マリアン・エリオット演出『エンジェルス・イン・アメリカ 第1部 至福千年紀が近づく 第2部 ペレストロイカ』(ナショナル・シアター・ライブ)。音楽=マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラアンサンブル金沢による演奏 ドビュッシー歌劇『ペレアスとメリザンド』(東京オペラシティコンサートホール)。飲食=「慶楽」(NOBODY issue39梅本洋一追悼号でも言及した日比谷の広東料理店が2018年末をもって閉店。68年間お疲れ様でした!)。テレビ=カツライス劇場(日本映画専門チャンネル)。スポーツ=イバイ・ゴメス(スペイン・アラベス所属)。彼のインフロント&アウトフロントによる美しいクセ球を「悪魔のタマスジ」と名づける(笑)。

隈元博樹 (NOBODY)

映画ベスト(順不同)

今年は公開作のほか、発見の機会に恵まれた映画祭や特集関連で上映された作品を中心に選びました。イベントでの限定上映から日本での一般公開へと拡大された『タイニー・ファニチャー』は、配給宣伝を担当したグッチーズ・フリースクールの尽力もさることながら、レナ・ダナムという若き才能を発見したこと自体が大きな事件でした。アーロン・ソーキンの監督デビュー作となる『モリーズ・ゲーム』は、モリーをめぐる実父との和解から彼女を救う弁護士へと続く一連のエモーショナルな展開に演出の業を見せつけられ、『ストップモーション、スローモーション』はイメージフォーラム・フェスティバル2018「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」(1月19、20、25日に「寺山修司」で上映予定)にて上映された大賞作品で、タイ、ミャンマー、ラオスでのごく個人的な滞在記が作家自身の独特なナレーションと、デジタル撮影機材による数多の実験を通して描かれた傑作です。TIFFで上映された『アマンダと僕』(6月、日本公開予定)は残された者たちの生き様とスーパー16の鮮やかなフィルムの質感にいたく感動し、フィルメックスで上映された『草の葉』の老境や死というモチーフは、これまで語られることのなかったホン・サンスの新たな境地に立ち会えたような気がします。
上記のほか、2018年は『ロストシティZ 失われた黄金都市』(ジェームズ・グレイ)、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(ケリー・ライヒャルト)、『幻土』(ヨー・シュウホァ)、『バルバラ セーヌの黒いバラ』(マチュー・アマルリック)、『BOY』(タイカ・ワイティティ)といった印象深い作品に巡り合えたこともここに記しておきたいと思います。

その他

  • 「ドラッグ・フェミニズム」五所純子(連載)

    「月刊サイゾー」で連載中の薬物と女性にまつわるルポ。初回は今年読んだ磯部涼『ルポ川崎』(サイゾー)に登場するゴーゴー・ダンサーの桐島かれんさん、第2回からは元ドラッグディーラーの真弓さん(仮名)の話ですが、彼女たちの人生を通して語られる五所さんの言葉の節々に、鋭利な批評性がつねに漲っています。

  • 「平野甲賀と晶文社展」ギンザ・グラフィック・ギャラリー(展示)

    あたり一面に陳列された植草甚一のスクラップブック、片岡義男の小説、鶴見俊輔のエッセイなど、平野さんがこれまでに手がけてこられた膨大な仕事量に圧倒されっぱなしのひとときでした。サイのマークはありませんが、ひさしぶりに津野海太郎『おかしな時代』(本の雑誌社)が読みたくなりました。

  • KEIRINグランプリ2018@静岡競輪場(スポーツ)

    今年から京王閣や川崎へ足を運ぶようになりました。さすがにグランプリ遠征は断念しましたが、帰省の合間にLIVE映像を見ながら思わず興奮。先行の脇本雄太を直線で捉えた番手・三谷竜生の追込も素晴らしかったけれど、赤板からのチャージと最終2角からの鮮やかな捲りを見せた清水裕友の走りには今後も期待大です。

  • Bangkok, Thailand(旅行)

    2年前に知り合った友人によるエスコートのもと、初めてタイに行きました。バンコク市内やアユタヤの観光名所に加え、近郊に位置する「タイ・フィルムアーカイブ」では、建設中の新たなオフィスと保存施設を見学させていただきました。訪れたタイ飯屋もハズレ知らずで、「バックブーンファイデーン」(空芯菜炒め)とチャーンビールの組み合わせは最強でした。

  • 名店たちの閉店(グルメ)

    神保町「いもや」、渋谷「富士屋本店」、新宿「ボンベイ」、日比谷「慶楽」など、今年は街に繰り出すことで馴染みのあった東京の飲食店が相次いで閉店しまった年でもありました。最終営業日にはどこにも駆けつけることができなかったものの、また復活の日に期待をこめて。

坂本安美 (アンスティチュ・フランセ日本 映画主任)

映画ベスト(2018年日本公開作品より)

  • 『ペンダゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグ
  • 『15時17分、パリ行き』クリント・イーストウッド
  • 『夜の浜辺でひとり』ホン・サンス
  • 『若い女』レオノール・セライユ
  • 『寝ても覚めても』濱口竜介

日常の中、ごく親密な空間中の、些細な仕草、言葉のやりとりから見えてくる人々の感情、そしてそこから生まれてくる選択をアクションで繋ぎ、「歴史」が作られていく様を見届けようとするスピルバーグ。「歴史」からあっけらかんと遠くにいるようで、ある日、偶然にもヒーローになってしまう、しかしその逆もあり得るかもしれない人々。彼らの仕草、アクションに寄り添うことで「アメリカ」の現在を見続けるイーストウッド。両者とも、映画におけるアクションの持つ力、内実を問い直している。孤独、暗闇の中で女性たちが何かを選択し、アクションを起こすその過程を現代映画はどれだけ描いてきただろう。『夜の浜辺でひとり』、『若い女』、『寝ても覚めても』、そして『ペンダゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、言葉、動作、身振りを通して、女たちの思考の運動、アクションを見せてくれた。

その他

  • 「誰かと付き合っていると以前より孤独を感じなくなる、大きなコートに包まれているよう」「でも何かしたり、行動したり、考えたりできるのは孤独の時じゃないかしら」「そう、すべてを思考し始めるわね」「とにかく孤独というのは、まるで厳寒に挑んでいくようだわ」(台詞)

    アンスティチュ・フランセ東京「カイエ・デュ・シネマ週間」で日本プレミア上映を行ったため、『つかのまの愛人』の字幕を担当された寺尾次郎さんが翻訳の確認を一緒にさせて下さり、僭越ながらも何箇所か提案させて頂いた。とくにアリアンヌとジャンヌ、ふたりの女性たちの会話の部分に少し拘り、寺尾さんは私の生意気な意見を寛大にも受け入れて下さった。上記の台詞はそのふたりの会話の一部を字幕の翻訳とは異なる形で訳出したものだ。女性たちが性について、愛について、孤独について、シンプルな言葉でやりとりするのをガレルがこれまでになく丁寧に見せている。これからもスクリーンの中で、素晴らしい字幕とともに寺尾さんに出会い続けたい。


  • 『『ハッピーアワー』論』三浦哲哉/羽鳥書店(書籍)

    4年ほど前、映画「ヒッチコック/トリュフォー』(ケント・ジョーンズ監督)のために黒沢清監督にインタビューをした際、同監督が『「エモーション」というヒッチコックがよく使う言葉、日本語には簡単には訳せないこの言葉の難しさの中に、ヒッチコックの映画のある面白さとか矛盾とか、もっと言うと映画そのものの、あるとらえどころのなさ、があるのではないか」と述べていた。『『ハッピーアワー』論』を著した三浦哲哉によると、それは「『関係』ありきで生起する繊細で複雑なもの」と表されるものであるだろう。そして本書についてその「繊細で複雑なもの」を「どうにかして言語化する」チャレンジであると述べられている。その試みを『ハッピーアワー』という現代映画の最先端にある一本の中への旅へと何度も誘ってくれる旅行案内書として、そして前述の「エモーション」についての言葉を想起しながら、もしかしたら黒沢清というつねに未来の作家であり続けるこの巨匠の現在に触れるかもしれない試みでもあるのでないかと、ひそかに受け止めたのだった。また「評論家もいま生まれつつある映画について思考することによって、映画史を別様に捉える道を拓く」という著者の言葉(「NOBODY issue47」掲載インタビューより)も、少しでも映画を語り、また見せることで批評を行っている者として、強く心に刻みたいと思った。

  • 「『ハッピーアワー』と妊娠」木下千花/ユリイカ 特集 濱口竜介(批評)

    上記の三浦哲哉氏の著書や発言にも繋がるが、映画批評の豊かな土壌を望む者として、あるいは「日本社会を根底から決定づける生殖、セクシュアリティ、ジェンダーをめぐる権力の布置に亀裂を入れる」批評、作品を待ち望む者として、木下千花氏の同論考に興奮し、同氏の今後の批評活動にも大いに期待を抱いた。

  • 山口YCAM(旅行)

    夏休みに息子と共に、山口のYCAMを訪れた。以前、オーディトリウムでプログラマーとしてインディペンデント作品、作家たちの紹介を丹念に行っていた杉原永純氏が映画プログラムを担当しているうちに一度は訪問したい、また樋口泰人氏が同センターの素晴らしいセット、スタッフとともに行う爆音映画祭に参加したいと思っていたところ、『散歩する侵略者』が黒沢清監督のトーク付きで行われ、かつジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』、『ゼイリブ』と同時上映、何とも贅沢なプログラムに山口行きを即決。有意義な夏休みを過ごさせてもらった。同地に滞在し撮影された三宅唱の傑作『ワイルドツアー』は今年公開予定!

  • 2018年11月30日 フィリップ・アズーリによるフィリップ・ガレル『現像液』についての講演会 (講演会+トーク)

    2006年11月に同氏と共にフィリップ・ガレル特集を行ってから12年。その間にフィリップ・アズーリはガレルについての優れたモノグラフを発表した他、ジム・ジャームッシュ、ヴェルナー・シュレーター、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドについての書物も手がけ、批評家としてのキャリアを着々と積んできた。そのことは重々承知していたつもりだったのだが…、12年の時を経て、同じ作家について語ってくれた彼の言葉の中に、50年前に撮られた作品が、現在進行形の思考の中で新たに立ち現われていくかのような驚き、幸福感を与えてもらい、同氏の批評家としての資質をあらためて確認したのだった。

杉原永純 (山口情報芸術センター[YCAM]シネマ担当/あいちトリエンナーレ2019キュレーター(映像プログラム))

映画ベスト5

  • 『空に聞く』小森はるか(愛知芸術文化センター/2018.11.3)
  • 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグ(ミッドランドスクエア シネマ/2018.3.30)
  • 『典座 -TENZO-』富田克也(曹洞宗大本山總持寺/2018.11.10)
  • 『恐怖の報酬 オリジナル完全版』ウィリアム・フリードキン(松竹試写室/2018.8.30)
  • 『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』デヴィッド・ロウリー(メトロ劇場/2018.12.31)

『きみの鳥はうたえる』と『寝ても覚めても』は一上映者として応答したためここには挙げない。nobody本誌でも充実した特集とトークイベントも組まれ、二作品について複数のコメントがここに載っているだろうから他の選者にお任せする。
『空に聞く』は会議机が並んだままの会場で見た。どんな環境で見ようとも傑作は傑作である。被写体と撮影者の優しい眼差しの交錯。精緻な時間の積み重ね方。編集の柔らかさ。全てにおいて率直に感動した。
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は公開初日に。その時の国内の時事的ニュースとの関連が感じられる内容とはいえ、金曜日中にほぼ満席だったことに勝手に嬉しくなった。トム・ハンクスが握りしめた新聞が舞う風の豊かさ。『レディ・プレイヤー1』も合わせて一年に二本もスピルバーグの新作を見れただけでも特別な一年だったと思う。
お披露目上映があると聞いて『典座 -TENZO-』を檀家さんの集まる曹洞宗の大本山で見た。タイから戻った空族が仏教の映画を撮ることになったのはこれまた必然と感じる。今、あるべき映画である。
『恐怖の報酬』。ならず者たちの必然の展開、必然の結末。文句なしの映画中の映画。付け加えることは何もない。
『ア・ゴースト・ストーリー』は帰省中時間を持て余した大晦日に。始まってすぐスタンダードの画角にやや不安を覚えたのもつかの間、見えるものと見えないものに焦点を絞るための必然の選択に対して腑に落ちる。矩形の世界からはみ出す語りの広がりが心地よい。

その他5選

  • 『バンコクナイツ』タイ初上映(1月/タイ・フィルムアーカイブ)

    国際交流基金アジアセンター主催の東南アジアと日本の映画プログラマーの共同企画ワークショップに参加した。もともとバンコク(正確にはタイ・フィルムアーカイブはバンコク郊外のサラヤにある)で上映するなら『バンコクナイツ』しかないと信じ、企画を全うできたこと、また立地の決して便利とは言えない会場が、多くのお客さんで満席になったこと。タイ語字幕付きで初めてタイの人に見せられたこと。現地のお客さんから賛否含めて激しく意見をもらえたこと。全て貴重な経験になった。

  • カナザワ映画祭2018 in 京都みなみ会館 でのウィリアム・キャッスル特集

    『ホミサイダル』『ミスター・サルドニクス』『ティングラー』3本を鑑賞。同様にPFFでのロバート・アルドリッチ特集も堪能させてもらった。例年になく旧作アメリカ映画をスクリーンで見ることができた。

  • 圡方宏史『さよならテレビ』

    東海テレビがすごい。テレビ局の中心とも言える報道局を社内の圡方ディレクター(『ヤクザと憲法』監督)が飄々と、しかし執拗に追う。テレビのナラティブを知り尽くした巧者の仕事に感服した。

  • ヒスロム「仮設するヒト」(せんだいメディアテーク)

    個人的に2018年最も良かった展示。パフォーマンスの残骸をインスタレーションと称して置いているだけの展示が巷に蔓延る中、結構な容積の会場空間に極めて適切に配置された無機物と有機物が、ヒスロムの身体パフォーマンスを通じて接続する感覚がここにはあった。情報をパケットに掬った時にこぼれ落ちる余剰によって構成された世界。

  • 作家的(と云われる)AVを勝手に回顧したこと

    カンパニー松尾「YOGA」(2008)/平野勝之「アンチセックスフレンド募集ビデオ 劇場版」(1994)/梁井一「True Love」(2016)&「True Love2」(2017)/バクシーシ山下「バクシーシ山下が突撃取材!花岡じったVSホームレス 耐久セックス中出し本番映像」(2013)などなど記憶に残っている。特に最後の花岡じった作品は見たら全員じったファンになるに違いない。

田中竜輔 (NOBODY)

映画ベスト

  • 『30年後の同窓会』リチャード・リンクレイター
  • 『きみの鳥はうたえる』三宅唱
  • 『教誨師』佐向大
  • 『ノン・フィクション』オリヴィエ・アサイヤス
  • 『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』デヴィッド・ロウリー

いま「アメリカ映画」っていったいどんな映画のことを示し、そしてそれはいったいどこにあるんだろう……といったことを考えているうちに、自然と頭に浮かんだ5本。最初と最後の2本を除いてぜんぜんアメリカ映画じゃないわけだが、ひとつの指標となったのは『30年後の同窓会』で、この作品に共鳴していると感じられた作品を選んだ。どの映画も、ごく限られた領域を生きる人々が、その場所を超越した世界の広がりと対峙する、そんな不安を積極的に生きているように思えている。『15時17分、パリ行き』(クリント・イーストウッド)『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(ジェームズ・グレイ)『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(アンソニー&ジョー・ルッソ)が、それぞれ意味合いは違えど、この5本の選択の背後にあることを付け加えておきたい。

OTHERS

常川拓也 (映画批評)

映画ベスト

  1. 『パディントン2』ポール・キング
  2. 『I, Olga Hepnarová』ペトル・カズダ&トマーシュ・バインレプ
  3. 『イングリッド ネットストーカーの女』マット・スパイサー
  4. 『REVENGE/リベンジ』コラリー・ファルジャ
  5. 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー

至福の『パディントン2』は別格。ほか、『悲しみに、こんにちは』(カルラ・シモン)『ディザスター・アーティスト』(ジェームズ・フランコ)『愛がなんだ』(今泉力哉)『Love, サイモン 17歳の告白』(グレッグ・バーランティ)『デンジャラス・プリズン 牢獄の処刑人』(S・クレイグ・ザラー)『きみの鳥はうたえる』(三宅唱)『荒野にて』(アンドリュー・ヘイ)『まったく同じ3人の他人』(ティム・ウォードル)『ヘレディタリー/継承』(アリ・アスター)なども素晴らしかった。
『Krisha』『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツをはじめ、『ナンシー』(クリスティーナ・チョウ)『エマの瞳』(シルヴィオ・ソルディーニ)と途中でスクリーン・サイズの変化を試みる作品、あるいは『アメリカン・ハニー』(アンドレア・アーノルド)『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(デヴィッド・ロウリー)『轢き殺された羊』(ペマツェテン)『First Reformed』(ポール・シュレイダー)などスタンダード・サイズを採用した作品をやけに目にした(『ナンシー』も多くの部分はスタンダードで撮られていた)。ヨーロッパビスタである『ワイルド・ボーイズ』(ベルトラン・マンディコ)も角丸のフレームが印象的だった。アスペクト比、フレームそのもののあり方も世界観やストーリーテリングの装置のひとつとして潜在意識的に観客に影響を与えるべく活用されていること、実験的に新たな映画文法が探求されていることもSNS時代の現代映画の現象のひとつなのかもしれないと思った。

ベスト・ソング+α

  • 「Changes feat. JJJ」STUTS

    2018年2月に急逝したFebb as Young Masonと新たな命を授かったKid Fresino。変化していくライフのなかで盟友の喪失の痛みを「Mind」「Changes」そして「Way too nice」と歌い続けるJJJにリリシストとしての進化/深化を感じた。Fla$hBackSのエンディング曲。

  • 「愛のままに feat. 唾奇」BASI

    聴き惚れてしまう美しいトラック。「夢の途中であなたに出会い愛を覚えた」

  • 「Liberated」DeJ Loaf & Leon Bridges

    私たちを束縛する社会的慣習や固定観念からの解放の歌。リオン・ブリッジズの歌声の艶。Amber Mark「Put You On feat. Dram」やKasai「Pretty Boys feat. Joey Bada$$」といった新しい才能も記憶したい。

  • 「GRRRLISM」あっこゴリラ

    日本で明確にフェミニズムのメッセージを込めたエンパワーメント・ソングを歌う彼女の存在は貴重だと思う。

  • 「Dream」Febb as Young Mason

    Young with The Old Soul。

  • かねかつ(ラーメン店)

    今年はつけ麺にハマったのだが、殺人的な酷暑のなか、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の帰り道に寄った川口のかねかつがベスト。カウンター5席の店内で注文を受けてから手動製麺で作られるつけ麺が忘れがたいうまさ。

中村修七 (映画批評)

映画ベスト

  • 『わたしたちの家』清原惟
  • 『レディ・プレイヤー1』スティーヴン・スピルバーグ
  • 『ルイ14世の死』アルベール・セラ
  • 『つかのまの愛人』フィリップ・ガレル
  • 『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』フレデリック・ワイズマン

タイトルに「家」という語が含まれるように「住むこと」を主題として持つのは言うまでもない『わたしたちの家』は、それのみにとどめてなるものかとばかりに、「捨てること」・「拾うこと」・「贈ること」といった主題も配置された聡明で魅惑的な作品だ。
『レディ・プレイヤー1』は、両親のいない少年が表象について学ぶ映画だ。『ブリッジ・オブ・スパイ』において人質の交換が不等価であることを悲劇的に体現していたマーク・ライランスが、ここでは、現実世界と仮想世界は等価ではないと主人公に諭す教師となっている。
『ルイ14世の死』は、君主制とスペクタクルについての研究だ。この作品は、スペクタクルの主役を演じることで王の地位を揺るぎなきものとした末に亡霊(スペクトル)と化したかのような男を反スペクタクル的に描きだす。
『つかのまの愛人』のフィリップ・ガレルは、長年にわたるキャリアを経た人間でなければ獲得することができないような軽やかさに達している。
アメリカ人とはどのような人たちなのかを捉えてきたフレデリック・ワイズマンだが、『ジャクソンハイツ』は、アメリカの外で生まれさまざまな事情によってアメリカで暮らすことになった人たちがどのようにしてアメリカ人となるのかを捉えている。移民たちは、基本的な権利を獲得し、集会を開いて情報共有と支援を図り、不当な扱いに抗議の声を上げ、対抗運動を立ちあげることによって、アメリカ人となっていく。

美術展ベスト

ちいさなもの、かわいらしいもの、色がきれいなもの、たくさんの思い入れが込められたもの、さまざまな記憶がしるされてきたものに石内都はレンズを向けてきたように思う。そして、彼女の写真はそれらが従来は見過ごされてきたことを教えてくれる。​
熊谷守一の絵を製作年順に見ていくと、まるで近代以降の絵画史の展開をたどっているかのような思いにとらわれる。後半生の数十年間はほとんど自宅の敷地から外に一歩も出ることのなかった画家がこのような画業をなしえたことに驚かされる。
作品名を見ても分かるように言葉遊びを好んだ陽気でアナーキーなゴードン・マッタ=クラークは、チェーンソーとキャメラを手にして都市へと飛び出し、そこに「余地=遊びの空間」を作り出した。
美術品と博物学資料を混在させる「石の想像界」の展示は、運動性の乏しい硬く無機質な物体とともに人類がどのように想像の翼を広げてきたかを探る野心的で興味深い試みだ。
辰野登恵子の画業は、ほぼ10年ごとに変貌を遂げるものだった。それは、20世紀後半から21世紀初頭にまたがる時代において比類のないものだったと思う。

降矢聡 (映画批評/グッチーズ・フリースクール主宰)

映画ベスト

  • 『アメリカン・ハニー』アンドレア・アーノルド

以下、順不同

  • 『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』デヴィッド・ゴードン・グリーン
  • 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー
  • 『トレイン・ミッション』ジャウム・コレット=セラ
  • 『意表をつくアホらしい作戦』デヴィッド・ウェイン

真面目さと奔放さを兼ね備えた『アメリカン・ハニー』がようやく公開されたことは(たとえAmazon Primeの配信であれ)、2018年で何より喜ばしいことの一つだ。
ようやく、といえば久々にロードショー公開となったデヴィッド・ゴードン・グリーン監督の『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』のタチアナ・マズラニーは実に素晴らしく、本作で描かれたアメリカとスポーツ(あるいは英雄)の関係は、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の「私はアメリカと同じ。愛されるか、とても嫌われるか」というセリフと合わせて心に残った。同じく、英雄に関する映画『ブリグズリー・ベア』は、炭酸絵飲料のヒーロー、コカ・コーラの使い方にとても味があったと思う。今年のコーラは例えば『アンダー・ザ・シルバーレイク』や『30年後の同窓会』も実に印象深いが、爽やかに刺激的な炭酸飲料描写をぶち込んだ『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を特別な一本としてあげたい。
ようやくとは逆に着実にキャリアを伸ばしているジャウム・コレット=セラの『トレイン・ミッション』で、なにかと家族を人質に取られがちなリーアム・ニーソンが1枚のドル札は掴みとる拳は、『クワイエット・プレイス』のエミリー・ブラントが銃をジャキンっと構える音響とともに、今年一番パワフルで美しいヴィジュアルとオーディオだった(いささかどちらも真面目すぎだが)。そして『意表をつくアホらしい作戦』の奔放であろうとするためのどうしようもない真面目さが2018年のベストだ。

2018書籍ベスト

  • 『マニエリスム談義 驚異の大陸をめぐる超英米文学史』高山宏、巽孝之著(彩流社)

    あるときは学魔、またあるときは超人として知られる高山宏が、実は神であったことが宣言される!本書は、トランプ大統領誕生からますますなにがファクトかわからない現代において、「ファクト」は「フィクション」と語源上区別がなく、コピー、イミテーション、マンネリズムから生まれたマニエリスムが語られた、実に“役に立つ”人文学書だ。様々な盗作疑惑に揺れた2018年の日本にも思いを馳せながら。

  • 『意識の川をゆくー脳神経科医が探る「心」の起源』オリヴァー・サックス著/太田直子訳(早川書房)

    「マニエリスム」のことは一言も語られないが、初恋の相手が化学だったという脳神経学者、オリヴァー・サックス先生による最後のエッセイ集にもヘレン・ケラーにマーク・トウェイン、そしてコールリッジらの「剽窃」=パクり(あるいはクリプトムネシア)について書かれているから面白い。やっぱり平成最後は「剽窃」の年である。

  • 『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』鈴木智彦著(小学館)

    暴力団を長年取材し描いてきたフリーライター鈴木智彦が、5年もの年月をかけて「ファクト」を積み重ねた渾身の潜入ルポ!築地市場でバイト(潜入労働)していたかと思うと、北方領土問題まで話は広がり、ヤクザ、密漁者、警察、海保に政府と複雑に絡み合ったタブーを暴いていく。アワビに、カニ、ウナギ……よく見るこれらはホントは真っ黒だったわけだ。そういえば僕の身近でも、バイト先の新人が一ヶ月も経たず辞めさせられた時「知り合いのヤクザに言いつける」と残して去っていった。あと僕は、うなぎも食べた……。

  • 『素数の未解決問題がもうすぐ解けるかもしれない。』ヴィッキー・ニール著/千葉敏生訳(岩波書店)

    タイトルがすでにいいですよね。「かもしれない 」で一冊の本になるなんて!未解決問題とは双子素数問題のことで、その解に向けて、最高峰の知能がおかしなくらい中毒になったPolymathの共同研究を追うのだが、それとは別に、ゴールドバッハ予想、フェルマーの最終定理などを読んでる間はなんだか掴めたような気にさせるニクい本。個人的には「掛け算は可換」(掛け算の順序は意味を持たない)でない場合があると知って驚きました。

  • 『酔っ払いの歴史』マーク・フォーサイズ著/篠儀直子訳(青土社)

    イギリスの植民地であったオーストラリアを囚人の更生場所にしようとしたシドニー卿には道徳的なアイデアがあった。更生に必要なのは苦しさじゃない。必要なのは、「重労働、綺麗な空気、自然、その他そんな感じの、何となく気持ちが上がるものたち」だ、と。
    最後、曖昧か。
    シドニー卿は(たぶん)酔ってはいなかったが、しかし本書は、現代の政治は酔っ払ってすべきである、という提言や、ロンドンでジンが流行ってことでアメリカが誕生したという瞠目すべき事実が語られる、ふざけてて極めて鋭い惚れ惚れするような一冊!

三浦翔 (NOBODY)

映画ベスト

『自由行』は静かでウェルメイドなメロドラマに収まるものでは断じてない。中国を追われて移住を余儀なくされたイン・リャン監督は「自分は逃げてきただけなんじゃないか」と述べているが、『自由行』はそんな監督が改めて家族や「国」と向き合い、映画を撮るという戦いの場を見定めようと苛烈な思考を刻み込んだ傑作であったように思える。政治的な問題を告発することでもなく、前衛的な手法を試すことでもなく、イン・リャン監督の戦いは、旅行で訪れた異郷の地にも隔てられた「国」の向こう側にも、思想が食い違っているようでいたとしても、歴史の層の中では複数の共闘する戦線があることを映すことにある。そしておそらく、この映画こそ、内部で友/敵の分裂を続ける日本にいま最も必要なものである気がする。
シャーネレク監督との出会いは、映画の時間という問題を根本から覆させられるような体験であった。シャーネレク作品は毎回作風が変わっていく。おそらくその驚異的な達成は『はかな(儚)き道』にあるだろうが、ここでは個人的に凄くお気に入りな『私の緩やかな人生』を選ぶことにした。そして、シャーネレクが時間を考えさせてくれたならば、三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』は空間の問題を新たに発見させてくれた。役者同士の距離感で演出が行われること、単純なことではあるがいままで深く考えもしなかったことで、その精度に映画の概念をまたもや覆させられた(詳しくは最新号に書かせてもらいました)。
『ひかりの歌』のなによりも心から安心の出来る映画のリズムに驚いた。監督の杉田協士さんは、とんでもなく凄い人なんだと思う。もっと杉田さんの映画が見たいし、映画について、それだけではなく色んなことについて教えて頂きたい。また、撮影の飯岡幸子さんもとっても素晴らしく、「海に浮かぶ映画館」での『ヒノサト』(飯岡幸子監督)上映後にお話しさせてもらったとき多くの示唆を頂かせてもらい、同じくとても感銘を受けた。
最後に選んだ『レディ・バード』は見終わった瞬間に今年のベストだと確信した。パワフルな映画だし、知的で愛に溢れてる。なによりも、共感するという気持ちにさせられる映画は本当に久しぶりだった。『タイニー・ファニチャー』(レナ・ダナム監督)の発見も今年で、遅ればせながらアメリカのインディペンデント映画が面白いことに気付く。これくらい軽妙かつパワフルに若者たちを描くアメリカ映画をもっと見たい。そして欲を言うなら、こういう若者映画が日本で作られる日を本当に夢見て何かをしていきたい。

三浦哲哉 (映画研究)

映画ベスト

  • 『レディ・プレイヤー1』スティーヴン・スピルバーグ
  • 『ワイルドツアー』三宅唱
  • 『泳ぎすぎた夜』ダミアン・マニヴェル&五十嵐耕平
  • 『映画HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』宮本浩史
  • 『ピートと秘密の友達』デヴィッド・ロウリー

諸事情あってベストを選べるほどの量をまったく見ることができておらず、参加辞退するほかないかと思っていたのですが、ふと「子ども映画」ならば特筆したい作品がいくつもあると思い、「枠」ありの限定ベストですが、以上、挙げさせていただきました。むかし松浦寿輝が、絵画や詩や音楽とちがって、子どもに映画の創作はできない(金・政治・義理ふくむ大人の意思疎通能力なしにはワンカットも撮れない)、それゆえ、子どもは撮られる側にいるしかない。そこに非対称性があり……という話をしていました(『映画1+1』)。その非対称性の壁の感触を聡明に手探りしつつ、なおかつ果敢にもう一歩踏み込みながらそこに遊びの余地を見つけ出す作品は、予算規模の大小にかかわらず、本当にスリリングで面白い(『ワイルドツアー』と『泳ぎすぎた夜』)。プリキュアは、使われなくなったアナログ写真機の亡霊が主人公たちの記憶を奪う、という話で、面白さにうなった。このデヴィッド・ロウリーは2016年公開作だが、『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』の予習としてようやく見た。主人公の両親の交通事故死をどう撮るか、というところから、「題材処理」の手腕が全編冴え渡る。『野生の少年』を彷彿とさせる話もほんと良くて。『レディ・プレイヤー1』は少年少女たちのこっぱずかしさが本当に愛おしく、悦ばしい肯定感をつくづく堪能。ベスト外だが、『ボヘミアン・ラプソディー』は冒頭の「キープ・ユア・セルフ・アライブ」までがほんと好きでした。「貴族的精神を持ったフリークス」という古典怪奇映画的人物造形に針を振っていて、それがまたはまっていて。でも、最後の最後にでてきたフレディーの本物の映像を見て、やばいぐらいエロいですね~と思った。このエロさを演じられるとしたら誰だろうか。

料理入門書ベスト5

2018年は「料理本書評」の連載をし終えました(いま単行本化作業中)。そこであらためて読み直した本のなかから、この5冊を読んだら料理観も人生観も激変するかも、というエクストリームなものを選出してみました。辰巳浜子は、柳刃包丁で野菜も超精細に切っていた、歴代最強主婦。力道山とか双葉山とかそういう位置づけの人物である。これを本棚の目立つところに飾って気合いを入れたい。丸元のこれは料理写真一切なしだが味のイメージが頭に鮮明に浮かび上がる名著で、料理文章のリテラシーが鍛えられる。有元の「整理術」は読んでいるだけで頭がおかしくなるぐらいすごいです。金はないがうまいものは食べたい、と思い立ったときに読んで、最高に励まされるのが魚柄のこれ。桐島は規格外で真似しようがないというか、昨今はもはやギャグとして読まれているのかもしれないが、ここに書かれた「聡明」に心を奮い立たせられることは全然まだありうると思う(もちろん男も女も)。

山中瑶子 (映画監督)

映画ベスト

  • 『早春』イエジー・スコリモフスキ
  • 『スリー・ビルボード』マーティン・マクドナー
  • 『心と体と』イルディコー・エニェディ
  • 『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』デヴィッド・ロウリー
  • 『恐怖の報酬』ウィリアム・フリードキン

16歳から本格的に映画を見るようになって5年、2018年度は最も、本数的にも心身的にも映画を見ることができなかった。2月から10月まで月に一度は外国の映画祭に行き、自分の映画が公開され、毎日が時差ボケのような状態で、空き時間はずっと寝ていた。これほどまでに映画館で寝たこともないくらい、無差別に寝てしまった。起きていても例えば、自分の映画が上映されている時間帯なら、今日の動員はどうかしらとか、「これは『あみこ』でやりたかった」とか。落ち着かない。そんな中でも上記5本は、我を忘れて没頭できた映画である。完全に『あみこ』のことなんて一切想わなかった。『あみこ』から逃げ切った。映画に没頭した!!!
全く我を忘れることはできなくとも大好きだったのは『レディ・バード』(グレタ・ガーウィグ)、『アンダー・ザ・シルバーレイク』(デヴィッド・ロバート・ミッチェル)、『寝ても覚めても』(濱口竜介)。
そして映画祭で出会った素晴らしい作品たちには『ひかりの歌』(杉田協士1/12より公開)、ベルトラン・マンディコ監督作『Boro In The Box』『The Wild Boys』、『Globalizing Beauty』(Sonja Kessler) 今年はまた以前のように落ち着いて映画に没入できますように。

その他

  • ジェノベーゼ(パスタ)

    モントリオールのファンタジア映画祭のキュレイターたちに連れて行ってもらった農場で、鶏やヒツジ、馬を愛でた。しかし彼らの目的は動物とのふれあいではなく、農園野菜だったのだ!! 売り物のラズベリーをこっそりつまみ食いしながら、適当に色とりどりの葉っぱや根っこを袋に入れ、つい昨日知り会った夫妻のアパートへ押しかける。キッチンを借りて各々動き出す。わたしは自分の役目が曖昧で、火の番をしたりカメラを回したり。気がつけば先ほどの野菜たちが、テーブルいっぱい、見事な愛しきディッシュに!2018年で一番豊かな食事でした。忘れられないフェットチーネのジェノベーゼ。

  • 『経験を欠いた世界(缺乏经验的世界)』盛可以(書籍)

    早稲田文学女性号にて。作家である主人公の中年女性は、自身の人生経験にかなりの自負があるのだが、しかし列車で乗り合わせた若者の肉体的な魅力に心をかき乱される。彼の隣には同級生らしき、丸顔の女の子。丸顔は若さの象徴。あなたたちより人生経験豊富だし、と、冷静を装いつつも内心パニック、ついにはアイデンティティまで曖昧になってくる。原文もキレキレ。今年とは言わないけどいつか翻訳してみたい。

  • ヘルシンキ(旅行)

    ベルリン国際映画祭の帰り、トランジットでヘルシンキを経由し3泊滞在した。他にパリ、ロンドン等選択肢はあったが、3泊くらいならヘルシンキが妥当では…?と思ったが地獄の幕開け、2月末の真冬のヘルシンキは零下20°、大馬鹿者であった。ベルリンは寒いと聞いていたがヘルシンキが寒いなんて誰も教えてくれなかった。指とか耳とか取れそうでした。カウリスマキのバーのお客たちには思わず、映画に出ていましたか?と聞きそうになった。酔っ払って外で寝たら20分くらいで死ねます。

  • 『ムランの聖母子』ジャン・フーケ(絵画)

    ベルリンの絵画館にて、大量の聖母子を見たがこれがダントツ。目を引くのはお椀よりもまん丸なおっぱい、そして天使たちの鮮烈な赤と青もさることながら、でっかいタッセルにも注目していただきたい。冠のドレンチェリーのような宝石たちもソーキュートです。ゴシックは最高!

  • 坂本慎太郎日比谷野音(ライブ)

    とにかく雑念が多く没頭しづらい人間なので、アーティストにも失礼だと思い近年はあまりライブへ行かなくなった。が、これは幽霊の気分で行ってみた。ありがとう、ありがとう!

結城秀勇 (NOBODY)

映画

見た順に。ベストというよりもコンピレーション。

  • 『デトロイト』キャスリン・ビグロー

    けっこうな数読んだこの作品への批判の中で、この作品は同事件から巻き起こった黒人運動のダイナミズムを描いていない、しかも意図的にそうしているとの指摘があったが、それはもちろんその通りだろうと思う。だが『デトロイト』は、それと引き換えにあらゆる連帯から引き剥がされ(黒人たちからも、モータウンからも)、圧倒的な恐怖を前にひとり暖房もないデトロイトの冬を生きる男の姿を用意するのであって、そのことの方が私には重要だった。詳しくはこちら
    これにつなげてクレール・ドゥニ『レット・ザ・サンシャイン・イン』を並べてみたい気もするが、それはもちろん女性監督云々、なんて意味ではない(そしてさらに『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグも並べてみたくもなる)。黒人問題や女性問題やさまざまなマイノリティの問題に共感と理解を示す、なんて傲慢な態度はとれない。ただ、かっこいい黒人になりたい。かっこいい女性になりたい。かっこいい性転換者になりたい。
    そのへんの思いのありったけを、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 『13回の新月のある年に』のパンフレットに書いた。

  • 『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』ジェームズ・グレイ

    詳しいことはこちらで。きちんとした公開というかたちではないのがほんと残念で、いつかちゃんとしたDCP、もっと言えばエンドクレジットを見る限りどこかに存在するのであろう35mmフィルムで、出征直前の廊下の暗闇を、ジャングルの闇の奥で揺らめく篝火を、見てみたい。

  • 『はかな(儚)き道』アンゲラ・シャーネレク

    こうしたまだ知らない作家がいた、ということに対する素直な驚きと喜び。もしこの作品がなければ、『きみの鳥はうたえる』「ワールドツアー」という三宅唱作品の時間の流れ方に対してここまで敏感になることはできなかっただろう。詳しくはこちら
    切り返しをめぐる文章になっているが、改めて論じるならば文字通り断片化された映像たちが織り上げる時間について、書くだろう。

  • 『殺人者にスポットライト』ジョルジュ・フランジュ

    この作品とアラン・ロブ=グリエの『ヨーロッパ横断特急』『嘘をつく男』『快楽の漸進的横滑り』などによって、ジャン=ルイ・トランティニャンという俳優に対する見方が一転した一年。ベルトルッチ追悼で『暗殺の森』も見直したが、決して悪いわけじゃないんだが、上記作品の究極の薄っぺら俳優トランティニャンにはやや劣る。そしてこの再認識によって、オーソン・ウェルズ『審判』のアンソニー・パーキンス→『嘘をつく男』のトランティニャン→『アンダー・ザ・シルバーレイク』のアンドリュー・ガーフィールドという漸進的横滑り男たちの系譜を見出す。
    「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ」パンフレットに『嘘をつく男』について文章を寄せてますが、このパンフがほんとにすばらしい。怪しげだがとても楽しい仮装パーティに招待された気分。

  • 『アンダー・ザ・シルバーレイク』デヴィッド・ロバート・ミッチェル

    ということで満を持して今年のベストワン作品だが、ちゃんと書こうとすると、文字量がすごいことになりそうだ。普通にデヴィッド・ロウリー『ア・ゴースト・ストーリー』や アリ・アスター『ヘレディタリー/継承』といったほぼ同時期の公開のA24作品群と並べて語りたい気もするし、前述したようにロブ=グリエともあわせて語りたいし、 クリント・イーストウッド『15時17分、パリ行き』における映像の交換可能性とも並べて語ることができる気もする。そのココロはこちらで。
    そしてこの映画の、アンドリュー・ガーフィールド演じるサムの精神的冒険を通じて、なんだか 濱口竜介『寝ても覚めても』終盤における朝子の心境にちょっとだけ近づけたような気がするのだ。「謝りたい。でも謝っても、謝りきれん。そういうことをした。だから、謝らへん」。そう言う、朝子に。

これだけ盛り込んでもまだ溢れるので『現像液』フィリップ・ガレル『バルバラセーヌの黒いバラ』マチュー・アマルリックの文章のリンクだけ貼っとく。

その他

今年は銭湯ベスト5にしようと早くから決めていたのだが、結果ベスト選ぶほどいろいろ巡れなかったなあ、という反省。ということでベストというよりも、なにか突出したところのあるおすすめ銭湯4選。

  1. 久松湯 桜台

    泣く子も黙る都内銭湯界の最高峰。これはもう銭湯ではない。リゾートだ。
    天気のいい夏場の午前中とか露天に入れば、460円で南国リゾート感が満喫できます。

  2. 千代の湯 学芸大学

    デザイン性が、みたいな話もできるんですが、他を圧倒して特筆すべき点はふたつ。使われてる軟水がまじやわらかすぎてヌルヌルすること。もうひとつは、炭酸泉の強炭酸っぷりが半端ないこと。都内屈指のパチパチです。

  3. 大黒湯 押上

    いまだ行ったことがないのに絶対行こうと思ってたから、いれます。なんといっても驚異的な営業時間。ほんとに近所にあったら最高なのに……。それ以上のことは2019年に行ってから追記します。

  4. 翠山の湯 山口市

    これはもはや銭湯ですらないのですが、特別枠。三宅唱「ワールドツアー」はここの風呂に入って初めて完全版、くらいなもんです。
    酒もうまい、肉も魚もうまい、温泉もある。いやあほんとに山口はいいところですよ。

  • バスケットボール批評

    昨シーズンのベン・シモンズ、ドノバン・ミッチェル、ジェイソン・テイタムによる白熱した新人王争い以来NBA熱が再燃。日本人2人目のNBAプレーヤー渡邊雄太が生まれ、さらには来年にはドラフト上位がほぼ確定視される八村塁がいる。15チーム中14位までがほぼ団子になったウェストカンファレンスの行方からも、目が離せない。グレタ・ガーウィグ『レディ・バード』によってだいぶ目覚めたサクラメント愛から、ディアロン・フォックス、バディ・ヒールド率いる若いチーム、サクラメント・キングスを密かに応援している。
    そんな中で毎日欠かさず見るサイトがこちら「NBAのデータ見ながら語ります! | バスケをデータを使って分析・紹介するブログ」。「データ見ながら」というタイトルからは、試合そのものを見ることよりもデータを重視するかのような印象を受けがちだが、逆なのだ。試合をよりよく見るためにこそ、高速で展開するゲームの中でなるべく見落としを少なくするためにこそ、データは必要とされる。そしてこのデータと反射神経の相互補完のような関係性は、映画批評に求められるものでもあると思うのだ。

渡辺進也 (NOBODY)

映画ベスト

  • 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグ
  • 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー
  • 『きみの鳥はうたえる』三宅唱
  • 『寝ても覚めても』濱口竜介
  • 『教誨師』佐向大
  • 『外国人1 船と大砲』ペーター・ネストラー

新作5本と特集上映で1本。みている映画の本数は年々少なくなっている気がするのに、作品はいくらでもあげられる気がする。日本映画だけで5本選べるし、アメリカ映画だけでも5本選べるし、あるいは劇場未公開作品だけでも5本選ぶことができそうだ。楽しくないことの方がずっと多いから、2018年に生きててよかったと感動した作品を選ぶ。
気になる俳優はミシェル・ウィリアムズ。ケリー・ライヒャルトの映画とかずっと重い役ばかりだったのに、ブロンド女子になってるしすごく軽い感じになってる。『ヴェノム』、『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』とかもうラブコメの女優ですよね。

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