journal

メイン

 1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  |  10  |  11  |  12  |  13  |  14  |  15  |  16  |  17  |  18  |  19  |  20  |  21  |  22  |  23  |  24  |  25  |  26  |  27  |  28  |  29  |  30  |  31  |  32  |  33  |  34  |  35  |  36  |  37  |  38  |  39  |  40  |  41  |  42  |  43  |  44  |  45  |  46  |  47  |  48  |  49  |  50  |  51  |  52  |  53  |  54  |  55  |  56  |  57  |  58  |  59  |  60  |  61  |  62  |  63  |  64  |  65  |  66  |  67  |  68  |  69  |  70  |  71  |  72  |  73  |  74  |  75  |  76  |  77  |  78  |  79  |  80  |  81  |  82  |  83  |  84  |  85  |  86  |  87  |  88  |  89  |  90  |  91  |  92  |  93  |  94  |  95  |  96  |  97  |  98  |  99  |  100  |  101  |  102  |  103  |  104  |  105  |  106  |  107  |  108  |  109  |  110  |  111  |  112  |  113  |  114  |  115  |  116  |  117  |  118  |  119  |  120  |  121  |  122  |  123  |  124  |  125  |  126  |  127  |  128  |  129  |  130  |  131  |  132  |  133  |  134  |  135  |  136  |  137  |  138  |  139  |  140  |  141  |  142  |  143  |  144  |  145  |  146  |  147  |  148  |  149  |  150  |  151  |  152  |  153  |  154  |  155  |  156  |  157  |  158  |  159  |  160  |  161  |  162  |  163  |  164  |  165  |  166  |  167  |  168  |  169  |  170  |  171  |  172  |  173  |  174  |  175  |  176  |  177  |  178  |  179  |  180  |  181  |  182  |  183  |  184  |  185  |  186  | all

June 14, 2024

倫理的な映像とはなにか
梅本健司

 他人には見せるつもりがない登場人物たちの表情が随所で捉えられている。山添くんが部屋でひとりでいるときの顔、藤沢さんの耐えている顔、栗田社長や辻本の泣きそうな顔。そうした顔たちはカメラで不意に抜かれてしまうことはなく、常に流れのなかで見えてくるように演出されている。  辻本の泣き顔は元部下である山添くんが移動式プラネタリウムについて語る流れのなかで見せられる。役というよりも演じる松村北斗自身の癖...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:58 PM

June 8, 2024

『左手に気をつけろ』『だれかが歌ってる』井口奈己監督インタビュー ──出会うとか、すれ違うとか、別れるとかに意味がないってことこそ奇跡──

まだ映画のことなどよく知らない、自由に映画を撮れるはずのこどもたちであっても、じっさいに制作の場に立てば、人としてちゃんとしなければいけない、ということを『こどもが映画をつくるとき』は教えてくれた。人の話を聞かなくてはいけないし、無断で撮影をしてはいけないし、そのためにタイミングを見計らって色んな人に丁寧なお願いをしなくてはいけない。映画は仲間や仲の良い人たちだけで好き勝手につくれるものではなく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:07 PM

『マッドマックス:フュリオサ』ジョージ・ミラー
金在源

「暴かれた男性性を私たちは受け止められるだろうか」 熱狂できない私  ジョージ・ミラーによる『マッドマックス 怒りのデス・ロード(以下:『怒りのデス・ロード』)』の前日譚にあたる『マッドマックス:フュリオサ』が公開された。『怒りのデス・ロード』では軍隊の大隊長フュリオサが独裁者であるイモータン・ジョーのもとから、彼の子を産むことを強要された女性たちを連れ、フュリオサの生まれ故郷である緑の地を目指し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:03 AM

June 7, 2024

『違国日記』瀬田なつき
結城秀勇

 「あなたを愛せるかどうかはわからない」。心底憎んだ姉の娘であり、交通事故で両親を失い孤児となった朝(早瀬憩)を自分の家に引き取ろうと決意する葬儀場の場面で、槙生(新垣結衣)はそう言う。原作漫画のシャープな描線を彷彿とさせるメイクの槙生と、ショートボブで全体的に小さくくりっとした朝の顔(そう、瀬田なつき作品の主人公と言われて微塵の違和感もないような)とが、真正面の切り返しで並ぶ。年齢が20歳離れた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 AM

June 2, 2024

『夜明けのすべて』三宅唱
結城秀勇

 母親の住む家のある小さな駅に降り立った藤沢さん(上白石萌音)が改札を出てくるときに、彼女の方向に向かってずっと手を振っている老夫婦がいるので、なんだ藤沢さんめっちゃ歓迎されてるな、と思ったが、藤沢さんはそのまま彼らの横を荷物を引きずりながら通り過ぎるので、老夫婦が到着を待ち望んでいたのは藤沢さんではなくて、彼女の後ろにいた幼い子供を連れた親子なのだということがわかる。だからなんだ、というただそれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:45 AM

May 27, 2024

第77回カンヌ国際映画祭報告(4)ファブリス・アラーニョ インタビュー《後編》
槻舘南菜子

インタビュー《前編》はこちら ーージャン=リュック・ゴダールは、常に新しいテクノロジーに関心を持ってきました。たとえば、彼に強い影響を受けたフィリップ・ガレル監督は、フィルムでしか映画を撮りません。ゴダールは、自分の映画を変化させ続けること、そして、結果として映画の定義そのものを変化させました。彼のテクノロジーへの関心についてどう思いますか。 私はあなたからの影響もあるのではないかと思っています。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:02 PM

第77回カンヌ国際映画祭報告(3)ダフネ・ヘレタキス インタビュー
槻舘南菜子

カンヌ国際映画祭には、四つの短編部門が存在する。公式部門には、コンペティションと学生映画(Le Cinef)部門 、そして、併行部門である監督週間短編部門(ノンコンペティティブ)と批評家週間短編部門(コンペティション+特別上映)である。とりわけ公式部門と批評家週間部門のコンペティションにノミネートすることは、ヨーロッパを出自にするか否かに関わらず、初長編を製作するに当たっての大きな飛躍となる。なか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:39 PM

May 26, 2024

本読みと鹿――濱口竜介『悪は存在しない』をめぐって
角井誠

 冒頭、木立を真下から仰角でとらえた見事なトラベリングショットと、青いニット帽とダウンの少女のショットに続いて、一心不乱にチェーンソーで木を切る男がとらえられる。『悪は存在しない』の主人公と言ってよいであろう、この安村巧(大美賀均)なる男は一体何者なのか。この映画の不気味さと魅力の一端は、やはりこの主人公――と、その娘の花(西川玲)――の得体の知れなさにあるように思う。  ごく単純に、この二人が何...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:52 PM

May 25, 2024

『ゴースト・トロピック』バス・ドゥヴォス
二井梓緒

©︎ Quetzalcoatl, 10.80 films, Minds Meet production フィルムで撮影されたブリュッセル郊外の夜景は心地よく、静かな環境音とそれを決して邪魔しない音楽は観客を落ち着かせ、作品に没入させる。映画館で見ることにぴったりな作品だと思う。  清掃の仕事を終え、いつも通りに列車に乗るが、気づいたら終電まで寝過ごしてしまう中年の女性ハディージャ。彼女は娘に電...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:44 PM

May 24, 2024

『美しき仕事』クレール・ドゥニ
池田百花

 かつてアフリカのジブチで外国人部隊の上級曹長を務めていたガルー(ドニ・ラヴァン)は、フランスの自宅で回想録を書いている。彼自身の声によってそれが静かに読み上げられると、画面には、当時彼が指導していた部隊の兵士たちが日々の訓練をする様子が映し出されていくのだが、そこで彼らがまとっている白いユニフォームは、緑がかった青い空や海の背景とコントラストをなすと同時に、こうしたアフリカの大地の色の反射で輝い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 PM

May 20, 2024

第77回カンヌ国際映画祭報告(2)ファブリス・アラーニョ インタビュー《前編》
槻舘南菜子

ファブリス・アラーニョは、長年ジャン=リュック・ゴダールの右腕としてサポートを続け、終着点となる作品『Scnéarios』は、生前のゴダールによる詳細な指示のもと、彼の手によって完成した。自身も映画作家であり、ゴダール作品をインスタレーションという形で、別の「生」を与えることを使命としている彼の言葉を聞いた。 ーーあなたは20年来、ジャン=リュック・ゴダールと共犯関係にあり、アシスタントを務めてき...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:22 PM

May 18, 2024

第77回カンヌ国際映画祭報告(1)ミトラ・ファラハニ インタビュー

「芸術」という言葉に身を委ねて

槻舘南菜子

ジャン=リュック・ゴダールが残した最後の作品となる『Scnénarios』が、公式部門カンヌクラシックにて上映された。 『イメージの本』の危機を救い、『A Vendredi Robinson』で我々の知らないゴダールの姿を捉え、そして、彼の終着点まで寄り添った、ミトラ・ファラハニに話を聞いた。 ――監督やプロデューサーになる前に、あなたはまず第一に画家でしたね。映画制作であり、製作(特に監督)を始...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:00 AM

May 14, 2024

『マグダレーナ・ヴィラガ』ニナ・メンケス
浅井美咲

©1986 Nina Menkes ©2024 Arbelos  『マグダレーナ・ヴィラガ』では、娼婦であるアイダ(ティンカ・メンケス)が仕事をするシーン、すなわち行きずりの男とセックスをするシーンが幾度となく挿入されるが、アイダは男を誘惑するような素振りを一切見せない。男をホテルの一室に招き入れた後、彼らの顔を見ることもなければ自ら服を脱ぐこともなく、いかなる甘い言葉をかけることもない。部屋に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 PM

May 13, 2024

『悪は存在しない』大美賀均インタビュー「森を迂回して」

早急に建設されようとしているグランピング施設を巡る、地元住民と東京から来た芸能事務所の二人組との討論は、『悪は存在しない』においてもっとも魅力的な場面のひとつである。不透明な計画の粗を地元住民たちは各々の言葉、語り方で的確に詰めていく。そんな場面を見ながら、ではこの映画の監督である濱口竜介は謎多き『悪は存在しない』というプロジェクトをスタッフ、キャストにどのように説明したのだろうか、と気になった。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:59 PM

May 11, 2024

『走れない人の走り方』蘇鈺淳
白浜哲

この映画の中で、主人公の桐子(山本奈衣瑠)は幾度となく空を仰ぐ。上の空でいるというよりは、どこからか流れてくる風や光を浴びているのか。それとも向こうからやってくる何かを見つめているのか。彼女が空を仰ぐたしかな理由ははっきりとわからないが、そのさまをどれだけ見つめていても見飽きることはない。ただ、そんな桐子はひとつの映画をつくり上げるために、まるで映画を撮影するカメラのようにして目の前に広がる世界へ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:41 PM

April 30, 2024

『ガザ=ストロフ -パレスチナの吟(うた)-』サミール・アブダラ、ケリディン・マブルーク
中村修七

 2008年12月28日からイスラエル軍によるガザへの軍事攻撃が始まり、この攻撃は翌2009年1月18日まで続いた。イスラエル軍による空爆の続く2009年1月1日に、ガザに暮らすある人物は世界に向けて次のように発信していた。「死がガザを覆い尽くしている。嘆きと哀しみが2009年という新年の挨拶なのだ。/血と大量の死体の匂いがする! 毎分のように悪い知らせが新たに届く。(中略)どこに行けばいいのか、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:59 PM

April 27, 2024

『ラジオ下神⽩ーあのとき あのまちの⾳楽から いまここへ』小森はるか
結城秀勇

© KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro  山形国際ドキュメンタリー映画祭2023でこの作品を見たときの記憶では、カラオケシーンが多いこの映画で、カラオケだけではなく歌手本人の歌うバージョンもラジオとしてチラッと流れる気がしていた。美空ひばりの「愛燦燦」や加山雄三の「君といつまでも」が部分的に流れていた気がしたのだが、見直したらそんなことはなかった。さらに山口百恵...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 PM

『ラジオ下神⽩ーあのとき あのまちの⾳楽から いまここへ』小森はるか監督インタビュー「贈る歌⇄受け取る歌」

 2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故によって、浪江・双葉・大熊・富岡町から避難してきた方々が暮らす下神白団地。そこに住む人々に、かつて暮らしたまちの思い出を語ってもらい、当時聞いた曲とともにラジオ番組風のCDにして配布するのが「ラジオ下神白」というプロジェクトだ。  その活動風景を記録したのが映画『ラジオ下神⽩ーあのとき あのまちの⾳楽から いまここへ』である。ではあるのだが、この映画に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:59 AM

April 21, 2024

『ヒノサト』飯岡幸子
結城秀勇

 これからこの映画を見ようとする人に、この作品は、監督の祖父である飯岡修の絵画が所蔵された場所を巡り、そこに彼の日記の一節が引用されるというつくりになっている、ということを前もって伝えるべきなのかどうかがよくわからない。なにも知らずに見てもタッチのよく似た何枚かの少女の肖像を見ていれば自然とひとりの画家を追っていることはわかると思うし、逆にあらかじめそれを知っていたとしても、日付もコンテクストも欠...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:13 PM

April 14, 2024

ダニエル・シュミット『デ ジャ ヴュ』デジタルリマスター版
山田剛志

 映画は、主人公であるジャーナリスト・クリストフが男と並んで、過去のニュースフィルムを見るシーンから幕を開ける。トップシーンを構成するのは次の3つの映像である。17世紀スイスの革命家・イェナチュの肖像画と亡骸、彼の墓を発掘した人類学者トブラーの姿を捉えたスタンダードサイズのモノクロ映像。横並びになった二人の男が画面外に視線を注ぐヨーロピアンヴィスタサイズのカラー映像。持続する音声(トブラーの語り)...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:16 AM

April 13, 2024

『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン
三浦光彦

 クリストファー・ノーランの作劇は常に「誰が物語作者になりうるのか」を巡るゲームとして展開され、このプロットの組み立て方は初期から『オッペンハイマー』まで基本的には一貫している。複数の軸を用意した上でそれぞれの軸に作者を用意し、各々による物語の奪い合いによって映画を駆動させる。並行モンタージュや時間軸の錯綜といったノーランの代名詞的な編集はそのようなプロット構築から必然的に要請される手法であった。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:20 PM

April 2, 2024

『ファースト・カウ』ケリー・ライカート
結城秀勇

 ただのネタバレでしかないです。見てから読んでください。  ここで書きたいことをひとことで言えば、この映画のラストカットが冒頭の骨発見につながる理由がまったくわからなくて、そこにとにかく感動した、ということだけだ。  クッキーがあのまま眠るように死んだというのは百歩譲ってわかるにしても、キング・ルーは外部の干渉なしでそのまま安らかに死んだりはしないだろと思うのだ。いやもちろん、あのこれ見よがしに登...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:47 PM

March 7, 2024

『落下の解剖学』ジュスティーヌ・トリエ
梅本健司

  男の転落死は自殺なのか、事故なのか、妻による殺人なのか。『落下の解剖学』は事件のはじめから、妻に対して行われる裁判の終わりまでを見せつつ、真実を明かすことはない。法の下では完全に到達することができない真実よりも、夫婦や親子の関係に潜む不均衡や無理解こそをこの映画は描いていくのだ。しかし、だからといって事件の真相が重要でないわけではない。それぞれの関係はまさに事件の解釈をめぐって浮かび上がってく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:35 PM

March 1, 2024

『すべての夜を思いだす』清原惟監督インタビュー「夜道をひとりで(どこかの誰かと)歩く」

 3人の女性が、徒歩で、バスで、自転車で、多摩ニュータウンを移動する、たった一日のお話。その日は誰かの誕生日で、誰かの命日でもある。長い間会っていなかった友達に会いに行こうする日であり、いなくなった人を見つける日でもある。その日がありふれた毎日のようで実はいつもとは少しだけ違う日であるように、彼女たちもまた平凡なようでいてどこか不思議なものたちと出会う。鳥の声、蛙の声、電車の音、震えるラベンダー、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:04 PM

February 29, 2024

『瞳をとじて』ビクトル・エリセ
中村修七

 何しろビクトル・エリセの31年ぶりの新作長編なのだからと心して劇場に足を運び、上映が始まって10分も経たないあたりだと思うが、スクリーンを見ていて何やら奇妙だぞと感じていた。それは、映画内映画『別れのまなざし』において、撮影途中で失踪した俳優フリオの演じる男が老齢の男と会話するシーンでのことだ。背の低いテーブルを挟んで2人の人物が向かい合うショットが繋げられているのだが、老齢の男が正面よりやや右...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:59 PM

February 28, 2024

『作家主義以後 映画批評を再定義する』須藤健太郎
鈴木史

   本書ほど、書き手の揺らぎを隠そうとしない映画批評の書籍も珍しい。 『作家主義以後――映画批評を再定義する』には、2017年から2023年の半ばにかけて著者・須藤健太郎により多様な媒体へ寄稿された映画評のほか、講演録や対談が収録されている。本書での須藤は映画を語るにあたって自身の戸惑いや不安を隠すことがない。しかしそれらの戸惑いや不安は須藤の判断によってそこに残され、読者の前に示されてもいる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:13 PM

February 26, 2024

『ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー』ジャック・リヴェット
結城秀勇

 この作品の舞台であり、原題の一部ともなっているピク・サン・ルーという山には伝説があるのだという。三兄弟がひとりの女を愛し、しかし彼女が愛しているのが三人のうち誰なのかを聞くことがないまま、兄弟たちは十字軍に従軍することになる。やがて戦場から戻った彼らを待っていたのは、最愛の女性の死の知らせだった。三兄弟は隠者となり、それぞれモン・サン・ギラル、モン・サン・クレール、ピク・サン・ルーと後に呼ばれる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:45 PM

February 23, 2024

『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』セルジュ・ゲンズブール
千浦僚

 相当な映画である。エグくて下卑ていて、それと同時にかっこよく、天上の真善美と純粋なエモーションがある。  よくもまあこのキツい一発を文化ファッションアイテムふうに流通させていたものだ。1976年の映画だが日本初公開は83年、リバイバルされたのが1995年だった。筆者がリアルタイムに記憶し・鑑賞したのは95年のほう。その頃そしてそれ以降もふとカジュアルに、『ジュ・テーム〜』いいよね〜、みたいなおし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:33 PM

February 22, 2024

『熱のあとに』山本英
松田春樹

 階段を駆け下りる女の足元から映画は始まる。その足元は半ズボンにサンダルで、部屋着で飛び出してきたままの勢いであることが分かる。次のショットでは、下着姿の金髪の男がエントランスの床に血塗れで横たわっている。奥の扉が開くと、そこから階段を駆け下りてきた女が現れる。フルサイズであらわになる女の白いTシャツは血に赤く染まっており、この二人の男女の間に一体何が起きたのか、明確なことはすぐには分からない。女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:00 PM

February 14, 2024

『ゴースト・トロピック』 『Here』バス・ドゥヴォス監督インタビュー「Refinding normal, refinding everyday」

 現在絶賛公開中の、『ゴースト・トロピック』 『Here』。公開にあわせて来日したバス・ドゥヴォス監督に話をうかがった。  前日に日本に着いたばかりだというドゥヴォス監督。ブリュッセルという都市のダイバーシティ、16mmフィルムで切り取られる夜の闇、目の前にあるのに小さすぎて気づかない苔、名前をつけること、といった話を矢継ぎ早に聞いているうちに、いつのまにか窓の外はすっかり陽が暮れていた。そして、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:56 PM

February 9, 2024

梅田哲也展「待ってここ好きなとこなんだ / wait this is my favorite part」
山田愛莉

 最近私は日記を書き始めた。日記に書くことで、私の記憶は蓄積される。そして、数日前または数か月前の日記を読むと、私は当時の記憶を取り戻したかのような気分になる。日記は、私の存在の連続性を保証してくれるかのような安心感を与えてくれる。そんなとき、福尾匠さんの日記を題材にした授業を受け始めた。一番初めの授業から、私の日記観は崩れ落ちた。日々を連続的に生きる私が、分散的で不連続な私を生産することが日記な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:23 PM

February 5, 2024

『熱のあとに』山本英監督インタビュー

「生きること、愛することが地続きにあるように」

『小さな声で囁いて』の山本英による新作『熱のあとに』が公開されている。本作は実際の事件を元にしたオリジナル作品であり、橋本愛演じる主人公の沙苗を中心とした「愛」を巡るフィルムだ。彼女の抱く愛とは、けっして一概に理解できるものではないかもしれない。しかし、私たちが生きる現在を振り返った今、自然に芽生え、また素直に訴えかけられてくるものとして見る者を鋭く惹きつけることになるだろう。脚本のプロセスを始め...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:14 AM

February 3, 2024

『女性として生きること』『都会の名もなき者たち』他 チェチリア・マンジーニ
結城秀勇

 『都会の名もなき者たち』『ステンダリ 鐘はまだ鳴っている』『マラーネの歌』という3本のピエル・パオロ・パゾリーニがテキストを担当した短編を見ていて、あれ、テキストが語ってることと映像が語ってること、なんかすげえ違うぞ、と思った。  たとえば、『都会の名もなき者たち』。テキストは、社会構造から必然的に生み出された「恐るべき子供」たる不良少年たちだが、しかしながら彼らの中には優しさと残酷さ、無謀さと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:35 PM

January 30, 2024

『マハゴニー(フィルム#18)』ハリー・スミス
結城秀勇

 ニューヨークの街角、人物の肖像、あやとり、草木や水、ウイスキーの瓶や骸骨や六芒星やダンサーやインドの神々のアニメーション、色とりどりの砂や粉や積み木や液体が織りなす図形。そうしたものたちが2×2の四つの画面に配置されていく。左右並んで鏡像のように反転した景色が同時に提示されたかと思えば、上下に並んだ映像がものすごく生理的に心地よいリズムのずれをともなって反復したりもする(たとえば、上の画面でバン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:06 PM

January 25, 2024

『ある方法で』サラ・ゴメス
新谷和輝

 キューバの映画作家サラ・ゴメスが亡くなって今年で50年が経つ。31歳で夭折した彼女の生涯とそのフィルモグラフィは、キューバ革命がもっとも若く溌剌としていた時期と重なる。激変する社会の中で彼女は革命の陰日向を行き来し、忘却されそうな周縁部に生きる人々とその世界を追い続けた。  サラ・ゴメスとはどんな人物だったのか。アニエス・ヴァルダの『キューバのみなさん、こんにちは』(1963)を見た人なら、映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:05 PM

December 28, 2023

『ショーイング・アップ』ケリー・ライカート
結城秀勇

 夜、愛猫リッキーが窓の隙間から入り込んできた鳩をおもちゃにして、羽根を散らばらせて床に横たわるその鳩を、リジー(ミシェル・ウィリアムズ)は箒とちりとりで窓の外に捨ててつぶやく。「どこか他の場所で死んで」。そして窓を閉めすぐさまこう続ける。「私って最低ね」。  翌日、隣人のジョー(ホン・チャウ)がその鳩を救出し、居合わせたリジーも否応なしに巻き込まれて、ふたりは鳩の骨折の手当をする。自分が留守の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:24 AM

December 26, 2023

『枯れ葉』アキ・カウリスマキ
山田剛志

 車窓から光が差し込み、女の顔を照らす。女を乗せた路面電車はバス停を横切り、男の顔に影を走らせる。ニュアンスを欠いたふたつの顔の上で光と影が織りなすダンス。女と男は偶然と意志の相互作用によって出会いと別れを繰り返しながら、時には同一フレームに収まり、時には交互に映し出されることでスクリーンに豊かな陰影を刻み続ける。瞳で味わうメロドラマ。そんな言葉が脳裏をかすめる。  白色蛍光灯の厚かましい光が隅々...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:02 AM

December 13, 2023

『きのう生まれたわけじゃない』福間健二
結城秀勇

 七海を演じるくるみの顔。この映画について書きたい理由のほとんどがそれだ。『きのう生まれたわけじゃない』を初めて見たとき、20年以上前に大島渚の『少年』を初めて見たときのように、「この顔を引き受けて生きたい」と思った。それだけで言いたいことのだいたい八割は言った。  でも本当に大事なのは残りの二割なのかもしれない。『少年』の阿部哲夫演じる少年が「少年」であるほどには、七海は「女の子」ではない。家の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:17 PM

December 9, 2023

『王国(あるいはその家について)』草野なつか監督インタビュー 「あの日のことであり、これからのことでもある」

12/9よりポレポレ東中野にて劇場公開される『王国(あるいはその家について)』。奇しくも最新作短編「夢の涯てまで」(映画『広島を上演する』中の一編)が同日より公開となる草野なつかだが、彼女の決して多くはないフィルモグラフィの中でも最も重要とも言える本作は、完成から5年越しの公開となる。  俳優の身体の変化を主題とした本作では、「役を獲得する過程」を「声を獲得する過程」であると捉え、同場面の別テイク...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:10 AM

November 30, 2023

《第24回東京フィルメックス》『雪雲』ウー・ラン
浅井美咲

 10年の刑務所生活を終えたジャンユーは島の小さな美容室を訪れる。店の中に入るとすでに中年男性が女性店員から施術を受けていて、ジャンユーは待合の椅子に座る。先の男性の会計が終わり、ジャンユーがセット椅子に案内される。彼が施術を受けている間、10歳くらいの少女が店に帰ってくる。ジャンユーは彼女を一瞥する。それから彼も会計を済ませ、店を後にする。キャメラは会計をキャッシャーに戻す女性店員を捉えるのだが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:50 PM

November 20, 2023

《第36回東京国際映画祭》 『20000種のハチ』(公開題『ミツバチと私』)エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
鈴木史

  人はこの世界に生まれ落ち、物心がついた時、自身が何らかの名前で名指されているという事実に気づく。多くの人はそれを当たり前のこととして何の気もなく受け入れていくだろう。あるいは幾らかの人は、そのことに戸惑いながらも、名指されてしまった名前を自ら名乗ることで自己をかたち作ろうとする。しかし、そのなかにごくわずか、名指された名前を引き受け切れぬほど傷ついた魂の持ち主がいる。  8歳のルシアはある一家...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:06 AM

November 18, 2023

『ザ・キラー』デヴィッド・フィンチャー
鈴木史

 ザ・キラー(マイケル・ファスベンダー)がパリのうらぶれた廃ビルの一室で獲物を待っている。彼の前にはちょうどスタンダードサイズのスクリーンのような四角形の窓があり、そこからは道向かいにある豪奢なホテルが見える。彼のモノローグは、平静を保ちながら暗殺という職務を遂行するための条件を語ってゆく。パリと他の国の都市が異なる気候や環境音を持っていること、そのなかで暗殺をするのに最適な手段を選ぶこと、スナイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:33 AM

November 15, 2023

『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』菊地健雄
結城秀勇

 人魚の血によって永遠の生を得たふたりの男が、百年に一度人間として生まれ変わるその人魚と30日間だけ巡り会う。その30日間が過ぎると人魚は死んでしまうので、その前にどうにか彼女に魂を返してこの呪いの連鎖を解きたい主人公と、そうなったら永遠の生を孤独に生きなきゃならなくなるので邪魔をする相方、ということを千年繰り返してきた三人の現代篇がこの映画版ということらしい。  漫画、映画、舞台版が並行して制作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:23 PM

November 12, 2023

『あずきと雨』隈元博樹
浅井美咲

 『あずきと雨』においてとりわけ印象的なのは、登場人物たちを照らす陽の光であった。主人公ユキ(加藤紗希)の家、ユキの職場である不動産屋、ユキと家出少女のリコ(秋枝一愛)が内見に訪れる二つの家、ロケ地はいずれも日当たりが良い場所ばかりで、窓からたっぷりと日光が降り注ぎ、たびたび外を眺める彼らの顔を照らす。  本作は、ユキが別れた後も同棲を続けている元恋人ノブ(嶺豪一)に家を出ていってほしいと告げてか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:29 PM

October 31, 2023

《第36回東京国際映画祭》『タタミ』ザル・アミール、ガイ・ナッティヴ
作花素至

 ジョージアで開催された柔道女子世界選手権。新進気鋭のイラン代表、レイラ(アリエンヌ・マンディ)が突然同国の政府から棄権を命じられる。彼女と代表監督のマルヤム(ザル・アミール)が抵抗すると、当局の容赦ない攻撃が始まる――。『タタミ』は、試合と政治的圧力との二重の戦いの果てに、抑圧的な体制からの解放を希求する女性たちのもう一つの戦いを浮き彫りにする。そのアクチュアルなテーマもさることながら、サスペン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:58 PM

《第36回東京国際映画祭》『女性たちの中で』シルビア・ムント
浅井美咲

 本作は1970年代〜80年代にかけてバスク州エレンテリアで、千人以上もの女性の中絶を手助けした女性支援団体から着想を得て製作されており、作品の中でも中絶の権利を訴える団体が描かれ、主人公ベアもこれに参加するようになる。ベアと団体の仲間は、街中にバスを走らせて中絶の権利を訴えるデモを行ったり、望まぬ妊娠をした少女ミレンと一緒に国境を越え、フランスで中絶手術を受けさせることに成功したりする。全編を通...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:00 PM

October 29, 2023

《第36回東京国際映画祭》『ミュージック』アンゲラ・シャーネレク
結城秀勇

 あらすじを普通に書こうとすることが、こんなに深掘りというか謎解きみたいに見える映画もそうそうないだろうと思うし、そこはこの映画の良さを語るにあたって別にどうでもいいことだとは思うだが、しかし他に書きようもないので仕方なく少し書くことにする。  なんらかの事故あるいは事件によって、生後まもなく育ての親の元に送られそこで成長したヨン(アリオシャ・シュナイダー)は、(実は実の父である)ルシアン(セオ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:11 PM

October 27, 2023

《第36回東京国際映画祭》『野獣のゴスペル』シェロン・ダヨック
板井仁

 フックで吊るされた豚の腹は切りひらかれて、赤黒い内臓が露わになっている。男たちはレーンに吊るされた豚の死体を、淡々とした流れ作業で次々に処理していく。床にひろがる豚の血を水で洗い流していると、主人公のマテオ(ジャンセン・マグプサオ)は、壁の向こうから聞き馴染みのある声を聞く。それは、父の親友であったベルトおじさん(ロニー・ラザロ)の声である。マテオは、ベルトに一ヶ月前から失踪している父の居場所を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:28 AM

October 26, 2023

《第36回東京国際映画祭》『パッセージ』アイラ・サックス
池田百花

 映画監督のトマ(フランツ・ロゴフスキ)は、思い通りに動いてくれない俳優に対していら立ちを隠せない。まるで子供のように気まぐれで自己中心的な人物として画面に姿を現わすこの主人公は、作品のタイトルになっているPassagesが持つさまざまな意味を一身に引き受けながら、文字通り物語を駆け巡っていく。  第一に、この言葉には、通過や通行、短い滞在、さらには移行や変化などの意味がある。まさに物語のはじめか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:52 AM

October 25, 2023

『シャティーラのジュネ』リヒャルト・ディンド
鈴木史

 「誰も、何も、いかなる物語のテクニックも、フェダイーンがヨルダンのジュラシュとアジュルーン山中で過ごした六ヶ月が、わけても最初の数週間がどのようなものだったかを語ることはないだろう。数々の出来事を報告書にまとめること、そういうことならした人々がある。季節の空気、空の、土の、樹々の色、それも語れぬわけではないだろう。だが、あの軽やかな酩酊、埃の上をゆく足取り、眼の輝き、フェダイーンどうしの間ばかり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:11 AM

October 15, 2023

『マリの話』高野徹
細馬宏通

 新橋駅そばにあるTCC試写室への道のりはどこか風変わりだ。ビルの入口は手動の片引き戸で、勝手口のようにさりげない。それでいて、下に降りる階段は広く、ちゃんと車椅子用の昇降機がついている。地下に降りると、白くそっけない廊下が思いがけない長さで続いている。まるで狭くて長い地下街を歩いているような気になる。東京の真ん中に、どうしてこんな空間がぽかんと開いているのか。本当にこんなところで映画をかける場所...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:33 PM

September 27, 2023

『バーナデット ママは行方不明』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

 シアトルが雨の多い街であることは有名だが、それにしてもここまでボタボタと重たい雨が降り続くとは。そのせいでバーナデット(ケイト・ブランシェット)の家はいたるところで雨漏りしている......、のかと思いきや、よく見れば別にシアトルの雨でなくとも容易く雨漏りしそうなボロボロのこの家は、壁紙が無惨に剥がれ落ちておどろおどろしいシミをつくっていたり、絨毯の下をブラックベリーの蔦が張っていたりもする。後...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:18 AM

September 20, 2023

『アル中女の肖像』ウルリケ・オッティンガー
浅井美咲

 『アル中女の肖像』をはじめとしたウルリケ・オッティンガーによるベルリン三部作は、監督が戦禍の暗い傷跡を未だ残す70年代のベルリンの街並みに魅了され、ベルリンを散策することを作品にするというアイデアから生まれたそうだ。彼女(タベア・ブルーメンシャイン)がただ酒を飲み続ける様子が映される本作において、彼女が次第に酩酊し、意識が混濁し、足取りもおぼつかなくなっていくその姿が、荒廃した街の雰囲気と調和し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:18 AM

『イノセント』ルイ・ガレル
安東来

 ファーストシーンは、男の緊迫した表情とトーンを抑えた声から始まる。画面奥、窓外のぼやけた灯りによる逆光の中、男は拳銃を片手にブツの取引をめぐって脅し文句を並べる。その直後、照明が明転し切り返しで映された受刑者たち=生徒と教師であるシルヴィ(アヌーク・グランベール)が、男=ミシェル(ロシュディ・ゼム)の演技に対する賛辞のコメントを発する瞬間、それが刑務所内の演劇教室で実演されたダイアローグの練習だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:11 AM

『春に散る』瀬々敬久
山田剛志

 渾身の力を込めて放ったパンチが空を切る。と同時に、雷に撃たれたような衝撃が意識を揺さぶり、目を覚ますと天井が見える。対戦相手を捉えたはずの拳が、意識の外から到来する一撃として自身の身体を貫く。カウンターパンチを受けたボクサーが膝から崩れ落ちる寸前に思い描くのは、そんな出鱈目なイメージかもしれない。  難病を患う初老の元ボクサー・佐藤浩市と理不尽な判定負けで日本タイトルを逃し、闘う気力を失った若き...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

September 19, 2023

『エスター・カーン』アルノー・デプレシャン
結城秀勇

 波止場の近くの「どこにもつながっていないような」小路、そこにある一軒の家からこの映画は始まるのだが、エスターの父(ラズロ・サボ)が営む仕立て屋の作業場が本当に素晴らしい。幼いエスターを作業台の上に乗せ、型紙を写し取った布を裁断させる。裁断した布を仮縫いしてエスターに着せる。心臓がある側が左なのだと教えられたエスターは、自分の左手首に小さなハートマークを描く。しかし、薄暗くも心地よい空間に思えたそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 PM

August 31, 2023

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
結城秀勇

 前作『イントゥ〜』を見た人にはすでにお馴染みの、見てない人も『アクロス〜』を見ている間にすぐお馴染みになる、スパイダーマン(たち)の紋切り型自己紹介でこの映画は幕を開ける。しかし語り手であるグウェンは「すごく違ったふうに」に始めようと言うのであって、彼女が語るのは彼女自身のバックグラウンドではなく、本シリーズの主人公であるマイルズ・モラレスの物語だ。放射能グモに噛まれたり、いろいろ大変なことがあ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:26 PM

August 24, 2023

『CLOSE/クロース』ルーカス・ドン
浅井美咲

  ルーカス・ドンは『CLOSE/クロース』でレオとレミ、二人の少年の身体的な触れ合いとその名付けようもない親密さについて描いた。彼らは恋愛や友情などに必ずしも規定されない関係であったにも拘らず、パブリックな場所においては彼らの身体的な触れ合いが「恋愛」の枠に押し込められ、セクシャリティをジャッジされ、レオとレミの間には次第に溝が生まれてしまう。レミが自ら命を絶つことで、レオとレミの関係は終わり、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:55 PM

August 20, 2023

『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』ウルリケ・オッティンガー
結城秀勇

 2枚の写真がある。1枚は愛を交わすカップル、もう1枚は仲違いするカップル。そのふたつの映像の間にある物語をでっちあげるのが、この映画ではタブロイド紙に代表されるマスコミの役目である。ふたつの映像をつなぐ方法を考えるということは映画の編集に似ていると言えるのかもしれないし、いやいやふたつの映像を映像外の言葉でつなぐなどもってのほかでふたつの映像それ自体が語る言葉に耳を傾けるのが映画なのだなどとも言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:53 PM

August 8, 2023

『幸運を!』サッシャ・ギトリ
結城秀勇

 なにげなくかけた「幸運を!」という呼びかけが、本当に幸運をもたらす。ギトリ演じるクロードは、「自分には運はないが、人に幸運を与えることはよくある」と自らの特殊な能力(?)を説明するのだが、この物語を真に動かすのは彼の幸運を人に与える力それ自体よりも、ジャクリーヌ・ドゥリュバック演じるマリィの、自らに与えられた幸運を与えてくれた当人へと再分配しようとする行為の方にある気がしてならない。  あなたに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:08 PM

June 23, 2023

「真夜中のキッス」唐田えりか×佐向大監督インタビュー「変わらない夜のその先へ」

佐向大監督作品に、唐田えりかが出演するーー。想像もつかないプロジェクトのようでもあるし、すごくアリな気もする。6月23日(金)より公開の映画小品集|三篇『無情の世界』の一編「真夜中のキッス」を観るや、いささかの不安は杞憂に、期待は確たる信頼に変わった。間抜けな人間たちをむき身のまま飾り気なく映しとる佐向監督と、スクリーンの中で浮遊するように存在する唐田えりか。「真夜中のキッス」という佳品によって生...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:57 AM

June 14, 2023

『EO イーオー』イエジー・スコリモフスキ
中村修七

 『EOイーオー』において、ロバたちは、拘束を脱し、自由を求める本能に導かれるかのように、逃走する。拘束を象徴するのが円環だ。ここでは、サーカス小屋、ウマを延々と走らせる円形の小屋、風力発電の風車が円環として現れる。さらに、物語においても、再生から死へ、死から再生へといった円環構造を見出すことができる。なお、ここで「ロバたち」と書いているのは、主人公のイーオーとして登場するのが6頭のロバたちだから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 PM

June 3, 2023

『ヒトラーは死なない』ドン・シーゲル
千浦僚

 『ヒトラーは死なない』Hitler Lives は1945年12月29日から米国で公開された17分の短編ドキュメンタリー映画。  その主題・主張は第二次世界大戦終戦後もドイツにナチズムやファシズム、19世紀から続く覇権主義が潜行してはいないか、それらを警戒すべし、というもの。既存の記録映像を編集することだけでつくられている。監督はドン・シーゲル。46年のアカデミー優秀ドキュメンタリー短編賞を受賞...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:41 PM

June 1, 2023

『ベツレヘムの星』ドン・シーゲル
千浦僚

 『ベツレヘムの星』Star in The Night は1945年10月13日から公開された、長さ22分の短編映画、ドン・シーゲルの単独初監督作品である。本作は46年のアカデミー賞優秀短編賞を受賞している。  クリスマスイヴ。三人のカウボーイが燦然と輝く星に向かって馬を進める。すごい輝きだなあ。妙に低いな、あの星。彼らは長期の荒野での仕事を終えて人里恋しく、久方ぶりの文明世界が楽しかったせいか(...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:13 PM

May 31, 2023

カンヌ国際映画祭報告(5)すべては「単純さ」へ
槻舘南菜子

 第76回カンヌ国際映画祭が5月28日に閉幕した。審査員長を務めたのは、昨年『逆転のトライアングル』(2022)で2回目のパルムドールを受賞したスウェーデンのルーベン・オストルンドであった。ジョナサン・グレイザーはグランプリ受賞作品の『The Zone of Interest』によって、アウシュビッツをコンセプチュアルで奇怪に再解釈し、ビジュアルと音楽が与える分かりやすい衝撃を通して審査委員長の心...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:00 PM

第76回カンヌ国際映画祭報告(4)カトリーヌ・ブレイヤ『L'Été dernière』ーー欲望の純粋さ
槻舘南菜子

道徳的な芸術は、人間を醜くし、萎縮させます。しかしながら、芸術が道徳的であるとすれば、人間を飾り立て、華やがせ、そして、変容させるようなやり方で見つめるからなのです。 カトリーヌ・ブレイヤ  カトリーヌ・ブレイヤ『L'Été dernière』は、長年、映画制作から離れていた彼女のカムバックとなる作品だ。イザベル・ユペールを主演に迎えた『Abus de faiblesse』(2013) では、脳出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:52 PM

May 23, 2023

第76回カンヌ国際映画祭報告(3)ワン・ビン監督とともにーー『鉄西区』に魅せられて

カメラマン、前田佳孝インタビュー《後編》

槻舘南菜子

ーーその後、北京電影学院の監督科に入学されます。ワン・ビン監督との出会い、彼と共犯関係を結ぶようになった経緯を教えてください。助監督として参加した『収容病棟』(2012)がワン・ビンの現場に関わった最初の作品ですね。 前田佳孝(以下、前田) 映画美学校に行ったことで映画への道は前進しましたが、大学へ進学するための勉強はまったくしなかったので、当然のように受かるはずもありませんでした。親からは「どう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:29 PM

May 21, 2023

第76回カンヌ国際映画祭報告(2)ワン・ビン監督とともにーー『鉄西区』に魅せられて

カメラマン、前田佳孝インタビュー《前半》

槻舘南菜子

今年のカンヌ国際映画祭の公式コンペティション部門に、長尺のドキュメンタリーであるワン・ビン監督『Jeunesse』が異例のノミネートを果たした。これまでの彼の作品とは違ったある種の軽さを持ち、官能性を感じる作品だが、このフィルムに日本人のカメラマンである前田佳孝が関わっていることはあまり知られていない。ワン・ビン監督の第二の「眼」として本作で共犯関係を結んだ前田氏に話を聞いた。 ーーワン・ビン監督...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:23 PM

May 18, 2023

第76回カンヌ国際映画祭報告(1)第76回カンヌ国際映画祭開幕
槻舘南菜子

 第76回カンヌ国際映画祭(5月16日ー27日)が開幕した。今年の公式コンペティションの顔ぶれも、ほとんど変化がない旧世界の様相を見せている。すでに、パルムドールを受賞し、ほぼ自動的にカンヌ入りする常連監督たち(是枝裕和『怪物』、ナンニ・モレッティ『IL SOL DELL'AVVENIRE』、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン『KURU OTLAR USTUME』、ケン・ローチ『THE OLD OAK』)や...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:07 PM

May 14, 2023

『それでも私は生きていく』 ミア・ハンセン=ラブ
松田春樹

 ある場所からある場所への移動が省略せずに描かれる。ミア・ハンセン=ラブの映画といえばまずそれである。日差しが反射したパリの街路。画面奥から歩いてくるサンドラ(レア・セドゥ)は路地を曲がり、ある外門の扉を開く。鮮やかな緑が生い茂る中庭を通って、アパートメントの階段を登る。その先にある緑色の扉。そこから展開される、扉の向こうにいる父ゲオルグ(パスカル・グレゴリー)とのダイアローグによって、サンドラに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:09 AM

May 10, 2023

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』金子由里奈
二井梓緒

 言葉にすること、そしてそれを声に出して他者に向けることがいかに疲れることなのか、また「誰か」に対する危険がいかに伴うことなのか。いつもは忘れがちな、自分の思いを言葉にして他者に発するのはあまりにも難しいということを、この映画は脚本=文字に起こし、俳優に発話させて、思い出させてくれる。それだけでもなんと尊いことなのだろうか。  主人公の七森(細田佳央太)は恋愛感情がない。  「いい感じ」になった同...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:53 PM

May 9, 2023

『レッド・ロケット』ショーン・ベイカー
山田剛志

 西海岸に面したエンターテイメントの都・ロサンゼルスからメキシコ湾に浮かぶ石油化学工業で賑わうテキサス州の港町へ。主人公・マイキー(サイモン・レックス)を乗せたバスは、故郷・ガルベストンの地に彼を運ぶ。着の身着のままのマイキーはバスを降りると、脇目もふらず、10年近く疎遠にしていた妻のレクシー(ブリー・エルロッド)とその母・ソフィーが暮らす平屋を訪れることになるのだが、バスを降りてから家に着くまで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:30 PM

April 29, 2023

『私、オルガ・ヘプナロヴァー』トマーシュ・バインレプ &ペトル・カズダ
浅井美咲

 映画中盤、オルガが犯行前夜に声明文を書くシーンが挿入され、ヴォイスオーバーによってその内容が読み上げられる。路面電車を待つ群衆にトラックで突っ込み、結果的に8名を死亡させることになる凄惨な事件を起こした動機は、社会への復讐、さらには自らを痛めつけてきた人々への死刑の宣告であると。具体的には父をはじめとした人々から幾度となく暴行を受けたことやどんな職場でも侮辱を受け、嘲笑されたこと、また私的な問題...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:53 PM

『AIR/エア』ベン・アフレック
結城秀勇

 この映画の最終盤で、ソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)はマイケル・ジョーダンが表紙を飾るスポーツ・イラストレイテッド誌をレジに出して、顔馴染みの店員にこう聞く。「彼はどうだい?」。対して店員は、いいに決まってる、おれなら彼をドラフトしてたね、「みんな知ってたさ=everybody knew」、と答える。  このひと言が、この映画のほとんどすべてを説明している。直接的には、物語の中盤で「だって...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 PM

April 27, 2023

『聖地には蜘蛛が巣を張る』アリ・アッバシ
荒井南

 編み上げた巣に獲物をからめ捕るようにして被害女性を部屋に引きずり込み16人を殺したサイード・ハナイは、その手口から"Spider Killer"と呼ばれたらしい。アリ・アッバシ監督『聖地には蜘蛛が巣を張る』は、2000年から2001年にかけて起きたこの連続殺人事件を主軸にしている。しかしこの正視に耐えない惨事自体のおぞましさには、さほど驚かない。今から130年以上前にイギリスで起きていた娼婦殺害...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:35 AM

April 24, 2023

『上飯田の話』たかはしそうた
隈元博樹

 冒頭から聴こえてくる電子音につられるまま、上飯田の話たちに耳を傾ける。語弊を承知で申せば、そのサウンドの安っぽさに妙な高揚感さえ覚えてしまうのだが、劇中の人々にとってみれば、そんな軽快なリズムとは裏腹に、単純明快なできごとが繰り広げられるわけでもない。生命保険のセールスマンと乾物屋の店主による一向に噛み合わないやりとり(「いなめない話」)、弟夫婦の結婚式に出席しようとしない兄への説得(「あきらめ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:37 PM

March 28, 2023

『フェイブルマンズ』スティーヴン・スピルバーグ
山田剛志

 長さの異なるフィルムの切れ端が編集台の上に並べられる。切れ端にはシーンナンバーの書かれた付箋が貼られ、主人公・サミー(ガブリエル・ラベル)はそれを真剣な眼差しで点検し、慣れた手つきで繋ぎ合わせる。サミーの母・ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)が繰り返す、「すべての出来事には意味がある(everything happens for a reason)」という言葉は、現実に起こった出来事をフィルム...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 PM

March 27, 2023

《第18回大阪アジアン映画祭》『天国か、ここ?』いまおかしんじ
斗内秀和

 見終わった後にしみじみとしてしまった。川瀬陽太演じる伊藤猛と武田暁演じる川島麻由子の再会の場面があまりに感動的だったからだ。伊藤猛は死に別れた妻である麻由子に言う。「ずっと一緒にいられなかった、先に死んじゃってごめんな」と。この「一緒」という言葉が鍵のように思えた。  『天国か、ここ?』は、天国で登場する人物たちの生きていた時の記憶が多く語られる。林由美香(平岡美保)はお爺ちゃんに習ったという将...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:45 AM

March 26, 2023

『フェイブルマンズ』スティーヴン・スピルバーグ
作花素至

 少年にとって、映画は両親との思い出と分かちがたく結びついているはずだった。彼を映画館へと誘い、同じスクリーンを見つめていた両親との幸福な一体感とともに、初めて目にした映画の衝撃は描かれるし、少年が自らの手でカメラを回すようになるのも、家族や友人たちとの親密なコミュニティの中においてであった。しかし、フェイブルマンという名を持つ一家はやがて解体へと向かい、彼のもとには映画だけが残される。そのとき彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:02 PM

March 25, 2023

『うつろいの時をまとう』三宅流
池田百花

 曙光。夜明けに太陽の光が差し込むその一瞬、夜の終わりと朝の始まりが重なる。かつて平安時代の人々は、この光景に見られるような異なる色の布を重ね合わせてその配色を楽しんでいたという。そして現代の日本のファッションブランドmatohu(まとふ)を追ったドキュメンタリーである今作の冒頭では、この「かさね色目」と呼ばれる色づかいから着想を得て生み出されたコレクションのひとつ「かさね」が紹介される。そこで異...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:25 AM

March 23, 2023

《第18回大阪アジアン映画祭》『朝がくるとむなしくなる』石橋夕帆
養父緒里咲

 飯塚希(唐田えりか)に朝が来る。少し白味がかっていて冬の冷えた空気を湛えつつも、優しい手触りの画面が広がる。これが本当にむなしくなる朝なのだろうか、と思うくらいだ。しかし、彼女はすぐさま家のカーテンを開けることができない。つっかえたカーテンを引っ張ると、レールの金具が壊れ、カーテンは半開きのまま放置される。自ら朝を迎えるための最も典型的な身振りすらままならないのだ。バイト先のコンビニでは、のっけ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:07 PM

ワールド・ベースボール・クラシック2023決勝 アメリカ対日本 2-3
隈元博樹

 劇的な幕切れだった。試合後の大谷翔平のインタビューによると、9回表2死でトラウトとの勝負を迎えることは当初から自身のシナリオに描かれたものだったという。とはいえ、直球の連投から最後に投じたスライダーが捕手のミットに収まり、バットが空を切るまでの数分間は、たとえどのような結末を迎えようとも、まるで二人のためだけに用意されたような時間だったと言ってもいい。思えば限られた状況の中で、自分たちの時間をゲ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

March 10, 2023

《第73回ベルリン国際映画祭報告》アンチ・ドラマティックの勝利
槻舘南菜子

 第73回ベルリン国際映画祭が、2月16日から26日まで開催された。公式コンペティション部門のセレクションは華やかさに欠けてはいたものの、受賞結果は、映画産業において危機にある「作家映画」を擁護するものとなった。昨今の映画祭の受賞作品の多くが、女性やマイノリティといった出自や背景に影響を受ける傾向があるのに対し、今年のベルリン映画祭の審査員は作品そのものを判断材料にしていることが明白に見て取れる。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:51 AM

February 28, 2023

『別れる決心』パク・チャヌク
三浦光彦

 本作の主人公ヘジュン(パク・ヘイル)はエリート刑事であり、基本的に物事を単独で解決する能力に優れている。所々にヒッチコック作品へのオマージュが見てとれるが、身体的・精神的な欠損を抱えた『めまい』や『裏窓』の主人公たちとは違い、彼は自身の限界を何らかの道具を用いることで突破していく。寝不足による目の疲れは目薬で無理やり回復し、スマートフォンを用いて事細かなことをいちいち記憶することによって、事件を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:30 PM

February 21, 2023

《ロッテルダム国際映画祭報告》『とおぼえ』川添彩監督インタビュー

パンデミックを経て、三年ぶりにロッテルダム国際映画祭が1月25日から2月5日まで現地開催された。今年、大規模な組織改革によって多くのプログラマーが映画祭を去ったが、ディレクターの交代によってスタッフが一新するのはどの映画祭でも当たり前のことだろう。映画の現在を追い続けるために、数年ごとにアーティスティックディレクターが変わり、映画祭は生き物のように変化していく。しかしながら、創立以来、強い実験性と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:57 PM

February 8, 2023

《第13回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル》『揺れるとき』サミュエル・タイス
池田百花

 肩の下まで伸びた長い金髪に、目を引く美しい顔立ち。冒頭、10歳の少年ジョニーの横顔が、窓から光の差し込む静かな部屋の中で捉えられ、彼が、テーブルをはさんで隣に座る若い男性と会話を交わして固く抱き合うと一転、その男性が声を荒げながら窓の外に家具を放り投げ始める。どうやらジョニーの家族は、しばらく一緒に住んでいた母親の恋人の家から追い出されることになってしまったらしい。こうして映画は、束の間の静けさ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:59 PM

January 22, 2023

『ピアニストを待ちながら』七里圭
結城秀勇

 正確な語句を忘れてしまったうえに、それが劇中劇のセリフだったのかセリフの解釈を討論する言葉だったのかすら忘れてしまったのだが、とにかく5人の登場人物が出揃ってすぐに、「それって外の中にいるってこと?」という言葉が発せられる(さらに呆れたことには、それを言うのが木竜麻生だったのか大友一生だったのかすら覚えていないのだが)。  夜の図書館に閉じ込められて、外に出たと思ってもそこは中、「ゴドーを待ちな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:40 PM

January 12, 2023

『にわのすなば』黒川幸則
隈元博樹

 方々に点在する更地や駐車場、町工場の外観が画面上に姿を現すと、鋳物産業の街として有数な埼玉の川口であることがわかってくる。タイトルにある「すなば」は鋳物づくりに欠かせない鋳物砂から来ており、たとえ映画の中で「十函」(とばこ)という架空の名があてがわれようとも、目の前には鋳物づくりを支えてきた土地の記憶の断片がそこかしこに息衝いているのだ。そんななか、キタガワ(新谷和輝)の紹介で初めてこの地を訪れ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:31 PM

December 31, 2022

『あのこと』オドレイ・ディワン
浅井美咲

 『あのこと』は1960年代、中絶が違法であったフランスにおいて意図せぬ妊娠をしてしまった大学生アンヌの物語である。労働者階級の生まれながら、その優秀さで教師からも一目置かれるアンヌ。学位取得を目指す彼女にとって学業を諦めての出産など考えられなかった。  なぜタイトルが『あのこと』なのか。それは、当時、中絶が固く禁じられ、「中絶」という言葉自体も、口に出すのも恐ろしいほど忌避されるものであったから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 AM

December 30, 2022

『ケイコ 目を澄ませて』三宅唱
藤原徹平(建築家)

私たちの街の映画、という存在がある。私たちの、というからにはこれは共同性を問題にしている。 ケイコにとって、ようやく辿り着いた家(戦火を経た街に誕生したボクシングジム)が、なくなる。 劇中、おそらく荒川と思われる大きな川と、荒川と交差する鉄道や高速道路が執拗に画面に切り取られ、眼前に現れる。 これは東京の物語なのだろうか? そうではないだろう。東京タワーやスカイツリーなど東京らしさを表象するアイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 PM

December 29, 2022

『浦安魚市場のこと』歌川達人
結城秀勇

 マグロ「血ぃ気にしないで、おいしいから」、タコ「みんな頭嫌がるけど、柔らかくておいしい」、シャケ「魚屋は切り身で決まる」、マグロの皮「千切りにしてポン酢にタバスコいれてアサツキをかけるとうまい」、トリ貝「これは小さいから開かなくていい、だからうまみが逃げない」、サメ「加熱すると本当にうまいから、ソテーとかフライとか」。なんてことを言われれば誰でも「今晩はお魚にしようかしら」となるのだが、そんない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 PM

December 27, 2022

『柳川』チャン・リュル監督インタビュー

2014年に製作された『慶州 ヒョンとユニ』(日本公開は2019年)を除き、チャン・リュルのフィルムは国内の映画祭や一部の上映機会を通じた紹介に留まっていた。だが、短編から長編、あるいはドキュメンタリーに至るまで、2000年代初頭からコンスタントに新作を発表している映画作家であり、中国朝鮮族3世というバイカルチュラルな出自のもと、中国や韓国、また最近では日本を舞台に、各々のロケーションをタイトルに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:49 PM

December 24, 2022

『メルヴィンとハワード』ジョナサン・デミ
結城秀勇

 メルヴィン「と」ハワード。そんなふうに結びつけられるふたつの名は、片方は世界に名を轟かす大富豪を、もう片方はそんな大物の名とつがいにされることがなければ誰の気も引くことのないような凡庸な人間を指している。でもこの映画のこのタイトルは、そんな極端な対照性によって成り立つというよりも、ふたりの名を結びつける「と」の力が極めて弱いことによって成り立っているのだと思う。実際、このタイトル通りのふたつの名...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:01 PM

December 19, 2022

FIFAワールドカップ2022 アルゼンチン対フランス 3−3(PK4-2)
梅本健司

 4年間でサッカーはそれなりに変わったはずだ。けれど、ワールドカップを見ているとサッカーは4年前のままだとも思わされる。たとえばゴールキック。前大会まで、ボールを受ける選手はペナルティエリア内に入ることができず、ゴールキックは前線へのロングフィードほぼ一択だったが、2019年あたりから、ルールが改定されペナルティエリア内に複数の選手が入れるようになり、そこからショートパスを繋ぐのが基本となった。ゴ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:06 AM

December 16, 2022

『RRR』S・S・ラージャマウリ
作花素至

  美しい森に暮らす純朴な民。異人種の暴君に母親を虐殺されたうえ攫われる幼い娘。嘆く村人たち──。観客がこれまでにも数え切れないほど目にしたであろう物語の光景の、いっそう誇張されたようなバリエーションによってこの映画は始まる。事実、インド独立運動の闘士となるべき男たちの大英帝国との戦いを見せる本作はスーパーヒーローものと呼ばれるジャンルのクリシェに満ちていて、その思わず笑ってしまうような極端さはヒ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:57 AM

December 13, 2022

『やまぶき』山﨑樹一郎
結城秀勇

 群像劇というほどには、明確な主人公がいないわけではない。でも群像劇と呼びたくなるほどに、フレームの中に映り込んだ人たちがしっかりとそこに根を張っていると思える瞬間がある。一例を挙げるなら、和田光沙演じる美南が松浦祐也演じる元夫と話す場面。松浦が東北のイントネーションで語り始めた瞬間、映画の序盤で「私はもう帰れない」と呟いた美南の、「帰るべき方角」はそっちなのだとわかる。ただそれだけのことで、彼女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:17 PM

December 11, 2022

【再掲】吉田喜重ロングインタビュー

12月8日吉田喜重監督が逝去されました。哀悼の意をこめて、2006年、多くの観客が吉田喜重を再発見した年に行われたロングインタビューの一部を公開します。 2004年秋、そして2006年冬。2度にわたって吉田喜重のレトロスペクティヴが大々的に催された。会場のポレポレ東中野は連日活況に沸き、興奮した観客の身体から多くの熱量が放たれていた。往年のファンから、学校帰りとおぼしき学生服の高校生までもが駆けつ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:15 PM

December 10, 2022

『セールスマン』アルバート&デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズワーリン
板井仁

 「みなさんは人生で今がもっとも尊いはずです。なぜなら今のみなさんは、お客様に幸福を届けているのだから」  大勢の販売員たちが集う研修会の壇上で、メルボルン・フェルトマン博士と紹介される男は語る。博士の熱意とは対照的に、無表情、あるいは煙草を吹かしながらこの講演を眺めている販売員たちは、家族のもとを離れ、列車や車でアメリカ各地を巡回しながら高価な聖書の訪問セールスをおこなっているものたちなのだが、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:59 AM

FIFAワールドカップ2022 クロアチア対ブラジル 1−1(PK4-2)
梅本健司

 華やかで、ピッチ外での問題がないわけではないネイマールは、でもピッチ内ではとてつもなく気の利く選手だ。ブラジルは左サイドバックのダニーロが中に絞り、初期配置では中盤の底であったカゼミーロの横、あるいはカゼミーロを少し前に出して、ダニーロが代わりにアンカーの位置に可変する。ダニーロのポジショニングが、さほど上手くないことが気になるが、この形自体はプレミアリーグのトップを走る2チーム、アーセナル、マ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:18 AM

December 9, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》「異邦人であること」ジャン=マルク・ラランヌによるデルフィーヌ・セリッグについての講演 後編

想像力と蜂起する欲望  ここで意味深いと思われるある問題を検討していきたいと思います。それは、出演した映画の中でどのようにデルフィーヌ・セリッグがしばしば暴力的な仕方で死ぬかということです。この問題に注目すると、あらゆる女優たちがフィクションにおける死の前では平等ではないということがわかります。たとえばカトリーヌ・ドヌーヴのような女優は映画でほとんど死を演じていません。彼女が死ぬシーンは120本近...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:47 AM

December 7, 2022

『はだかのゆめ』甫木元空
中村修七

 これはジャンルを問わず映画一般に言えることだと思うが、映画に出てくる人物たちは、生々しい存在感を露わにして見る者を圧倒するかと思えば、ふと気がついた時には希薄な存在感を漂わせていて見る者を心もとない気持ちにさせる。だから、映画の登場人物たちには、どこか亡霊的なところがある。「生きているものが死んでいて、死んでいるものが生きているような」と述べる者がいるように、『はだかのゆめ』に登場する人物たちも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:52 PM

FIFAワールドカップ2022 日本対クロアチア 1−1(PK1-3)
梅本健司

 エンバペが活躍できるのは、アンカーのチュアメニと左インサイドハーフのラビオが高低のバランスをうまく取り、彼への道を作っているからだし、なにより今大会はジルーが素晴らしい。36歳とヴェテランになり、もともと高くはなかった敏捷性がさらに落ちたものの、しかしいつどこに立てばいいかをほとんど間違うことがなく、気の利き方が異次元だ。エンバペやデンベレがスピードを上げた状態でボールを受けられるのはジルーのお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:57 AM

December 2, 2022

『In-Mates』飯山由貴
鈴木史

 暗い画面が俄かに明るんでゆく。しかしその明るさは、あくまで仄暗いトンネルを照らすために点在する電灯によってもたらされたもので、延々と続くかに思える長い長いトンネルのなかを照らし出すには心許ない。遥か遠くで、警告のようなアナウンスがこだましているが、声が言葉としての像を結ぶ以前に、そのアナウンスはトンネルのなかの反響として消えてゆき、なにを語ろうとしているのか聞き取ることはできない。同じように、声...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:07 PM

FIFAワールドカップ2022 日本対スペイン 2−1
梅本健司

 スペイン対ドイツの試合後、肩をくみ、笑い合うでもなくピッチを同じように鋭く見据え、語り合うルイス・エンリケとハンジ・フリックの姿は、『フォードvsフェラーリ』でレース後にただ2人見つめ合うクリスチャン・ベイルとレモ・ジローネ演じるエンツォ・フェラーリを思い出すような美しさがあった。勝負において、しかし勝ち負けではない価値を知っている者たちだけが味わえる幸福な瞬間である。お互いが、お互いの用意して...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:37 PM

November 30, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》「異邦人であること」ジャン=マルク・ラランヌによるデルフィーヌ・セリッグについての講演 中編

構築される女性性、あるいは女性としての闘争   フランソワ・トリュフォーの『夜霧の恋人たち』の抜粋に移ります。その中ではジャン=ピエール・レオーが靴屋の若い店員を演じていて、彼はその店主の妻に狂おしいまでに恋をすることになります。そしてある日、彼女は魔法のように出現して、彼の部屋を訪れるのです。 抜粋4 : 『夜霧の恋人たち』  このシーンで、フランソワ・トリュフォーはデルフィーヌ・セリッグに登場...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

November 28, 2022

FIFAワールドカップ2022 日本対コスタリカ 0−1
梅本健司

 コスタリカは少しサウジアラビアと似たような状況で、最終ラインを低く設定していないのに、前線から激しくボールを狩りに来るわけでもない、引くのかプレッシャーをかけるのか、中途半端な陣形である。だから、日本が後ろからパスを繋いでゲームを作ることは容易だったし、難しい相手というわけではなかった。ローテーションをして主力を温存したことが槍玉に挙がっているが、このコスタリカ相手ならば、森保が選んだメンバーで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:19 AM

November 24, 2022

FIFAワールドカップ2022 日本対ドイツ 2−1
梅本健司

 前日に、2対1でサウジアラビアがアルゼンチンを下したことは奇跡と呼ばれているらしいが、決してサウジアラビアが良いチームだったとは思わない。前線の選手たちは前からボールを狩りにいかず、引き下がり、にもかかわらず後方はハイラインを組み、フィールドの後ろよりで歪に収縮してしまったサウジアラビア。対して、中盤が全体を繋げるポジションに適切に立てず、前方と後方に分断されてしまったアルゼンチンとでは、どちら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:07 AM

November 23, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》「異邦人であること」ジャン=マルク・ラランヌによるデルフィーヌ・セリッグについての講演 前編

今回で4度目を迎えた「映画批評月間」の開催に際して、10月、フランスのカルチャー雑誌『レ・ザンロキュプティーブル』の編集長ジャン=マルク・ラランヌ氏が来日し、デルフィーヌ・セリッグについてのレクチャーが行われた。今年はすでにシャンタル・アケルマンの特集上映でスクリーン越しにセリッグの姿を見る機会に恵まれたが、今回の特集にも多くの人が集まったのを目の当たりにし、改めて、この女優が生きた時代から時を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:58 PM

November 22, 2022

『語る建築家』チョン・ジェウン
結城秀勇

 建築家チョン・ギヨンが語る映画なのだから、このタイトルにはなんの不思議もないのかもしれない。ただ、彼と同年代で仲の良い建築家が、彼の言葉はおもしろいけど彼の建築には首を傾げることがあると言うとき(「彼は絵が下手だから、"お前は話だけしてればいいんだ"と言ってやったんだ」)、このタイトルは、建築家という建物をつくったりする人がその資格の下でなにかを語るというよりも、「建築家 」という言葉が持つ意味...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:19 AM

November 11, 2022

『アムステルダム』デヴィッド・O・ラッセル
山田剛志

全編を通じて、ローアングルから登場人物を仰角で捉えたショットが印象的である。ものの本によると、ローアングルには被写体を力強く、尊大に見せる効果があるというが、定説めいたものは一旦脇に置き、虚心坦懐に画面に視線を注いでみる。すると、重要なアクションが、ことごとく登場人物の目線より下、厳密に言うと"腰の高さ"で行われていることに気が付く。  主人公のバート(クリスチャン・ベール)が、第一次大戦の戦友に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:47 AM

November 10, 2022

ジャン=リュック・ゴダール追悼 ケント・ジョーンズ

9月13日に逝去したジャン=リュック・ゴダール監督に哀悼の意を捧げ、ある批評家の文章を掲載する。その名はケント・ジョーンズ。批評家としてキャリアをスタートさせ、ニューヨークのリンカーン・センターやフィルム・フォーラムで映画プログラマーとして活躍。90年代にはマーティン・スコセッシのアシスタントを務め、2012年にはアルノー・デプレシャン『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』の脚本家を務めるなど、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:20 PM

November 8, 2022

《ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形 in 東京2022》『沈黙の情景』ミコ・レベレザ&カロリーナ・フシリエル
板井仁

 海の中、あるいはその表面において、うねりを映しだす画面はひどく揺れている。われわれは高速で過ぎ去っていく波のなかへとかき混ぜられていく。岩礁へと上陸すると、カメラはその動きを静止させ、日差しを受けるその岩肌をとらえる。そこには、ゆるやかに触角のようなものをのばす、不思議な影が映りこんでいる。  アカプルコに由来する架空の地、メキシコの太平洋沖カパルコにある島に建てられながら、打ち棄てられたままと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:23 PM

November 7, 2022

《第23回東京フィルメックス》『すべては大丈夫』リティ・パン
鈴木史

 広がる砂丘。突如、砂を切り裂いて、地中からオベリスクのような四角柱がせり上がってくる。それが、微速度撮影でとらえられた植物の発芽の光景のようですらあるのは、実際の砂漠に比べて、ひとつひとつの砂の粒が大きく、ミニチュアを撮影したものだとわかるためだ。やがて、村々があらわれ、素朴な表情を持った人間やイノシシ、猿といった動物たちの人形が姿をあらわす。そしてそこに、まるで人類の野蛮と汚辱にまみれた歴史を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:45 PM

November 5, 2022

《第23回東京フィルメックス》『ソウルに帰る』ダヴィ・シュー
梅本健司

 韓国歌謡が冒頭のクレジットとともに小さく響き渡り、やがてヘッドフォンを付けた面長でボブカットの女性が映し出される。彼女は目の前にいる誰かに気付き、慌ててヘッドフォンを外す。その女性テナはソウルのゲストハウスで働いていて、今は客に応対しなくてはならない。英語で話すアジア系の女性客が、テナが聴いていたのはどんな音楽なのかと問うと、テナはヘッドフォンをその女性に渡す。女性がヘッドフォンを付けた途端、先...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:08 PM

November 3, 2022

《第35回東京国際映画祭》『タバコは咳の原因になる』カンタン・デュピュー
秦宗平

 『タバコは咳の原因になる』は、ニコチン、メタノールなどとタバコの成分で呼ばれる5人のメンバーで構成された「タバコ戦隊」が、有害物質をビーム光線でお見舞いし、ごつごつねちょねちょした怪人を倒すチープなアクションシーンで幕を開けるが、そこに現れるのは一人の少年である。草むらにいる少年は、双眼鏡を借りるため車に乗った父親を呼び寄せ、彼らのことを問われるとこう口走る。 「タバコ戦隊は世界一かっこいい」 ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:32 AM

《第35回東京国際映画祭》『イルマ・ヴェップ』(2022)オリヴィエ・アサイヤス
松田春樹

 1996年の『イルマ・ヴェップ』(以降、旧『イルマ・ヴェップ』と記載する)をHBOの連続ドラマシリーズとしてリメイクしたこの新しい『イルマ・ヴェップ』(以降、新『イルマ・ヴェップ』と記載する)は八つの章立てから構成されている。ドラマシリーズとしての全体尺も413分と膨大になり、オリジナルの99分と比較すればその違いは明らかだ。しかしそもそも、この作品のコアとなっているもう一つの映画、1915年か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:32 AM

October 31, 2022

《第35回東京国際映画祭》『フェアリーテイル』アレクサンドル・ソクーロフ
作花素至

ソクーロフの映画には「超時間性」とでも呼べる特質がしばしば備わっている。たとえば、『エルミタージュ幻想』(2002)は全編ワンカット撮影という現実の時間の極端な制約の中にありながら、数百年に及ぶ想像の時間がそこに重ね合わされていた。また、私の大好きな『精神(こころ)の声』(1995)でも、やはりドキュメンタリーの形で歴史の局限的な場面としての戦場を記録しているにもかかわらず、生命の気配のない岩山...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:27 PM

October 30, 2022

《第35回東京国際映画祭》『ザ・ウォーター』エレナ・ロペス・リエラ
板井仁

 レイヴパーティーは一夜にして人の波をかたちづくる。その黒いうねりのなかで踊る若者たちは、夜明けとともに瓦礫然とした大量のゴミを残して去ってゆく。まだその余韻を保ちつづける何人かの若者たちは、引き寄せられるように川へと向かい、もはやすっかり朝になった土手に腰を下ろし、この退屈な村から抜け出したいという漠然とした将来像を語りあう。しかしそうした未来の話は、そのうちの一人が川に浮かんだヤギの死体を見つ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:05 PM

『さすらいのボンボンキャンディ』サトウトシキ
千浦僚

 たやすく踏みつけられるやさしいものが逆襲するとか、へこたれないで生きのびるとか。彼女ら、彼らがそこに居続けてくれるだけで世の酷薄さに対してひとつ勝てたと思うし、そのたたかいを自分のなかにも引き取って引きずっていきたい。映画監督サトウトシキの作品世界というのはそういうものだと、『さすらいのボンボンキャンディ』を観てあらためてそう思った。  女優のほたるさんが企画・プロデュースして公開したオムニバス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:16 AM

October 29, 2022

《第35回東京国際映画祭》『This Is What I Remember』アクタン・アリム・クバト
作花素至

 記憶を失くして二十数年ぶりに故郷に帰ってきた老齢の男と、彼を迎える息子一家や旧友の老人たち、そして元妻の物語。だがドラマやそこから窺われるテーマなどよりも数々のショットが印象に残る。画面の構図の厳格さとか、フォトジェニックで情緒的な一枚絵としての美しさとかではなく、被写体とカメラとの距離感、そしてワンショットの中で流れる時間が好ましい。巻頭の、白く塗られた木々の根もとだけをとらえた無人かつ無音の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:19 PM

《第35回東京国際映画祭》『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ
鈴木史

 人の姿をした孤独な魂が急に人であることをやめて、明後日の方向に飛び去っていくのを取り逃すまいとするように、厳かな固定ショットやゆるやかな移動撮影を見せていたカメラが、取り乱したようにパンやティルトをする。等間隔に街灯が並ぶ整備された小綺麗な歩道では、愛する幼な子に外の景色と風を感じさせるべく、ベビーカーを押した男女が行き交うばかりで、まるでミケランジェロ・アントニオーニ『太陽はひとりぼっち』(1...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:10 PM

October 28, 2022

《第35回東京国際映画祭》『輝かしき灰』ブイ・タック・チュエン
作花素至

 ベトナムの都市ではなくメコン・デルタの田舎が舞台ということもあり、画面に次々と現れる見慣れない景色や風物がまず目を引く(見ている私の勝手なエキゾチシズムや観光趣味と言われればそうかもしれない)。家々は川に面している、というよりいくらか水に浸かるくらいそれに接続していて、人々は舷側が水面ぎりぎりの高さしかない小舟を生活の足にしている。鬱蒼として視界を極度に制限する熱帯雨林は家並みの間に広がっている...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:41 AM

October 27, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『ドン・ジュアン』セルジュ・ボゾン
結城秀勇

 結婚式の当日に結婚相手が現れなかったロラン(タハール・ラヒム)は、その後出会う女性の片っ端から、失踪した恋人ジュリー(ヴィルジニー・エフィラ)の面影を求めてしまう。......と書けば誰しもヒッチコックの『めまい』(1958)を想起してしまうような序盤部分だが、実際に映画を見ているときの感覚はだいぶ違う。『めまい』においてもオリジナルとコピーの転倒が起こるとはいえ、『ドン・ジュアン』のそれはさら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:45 PM

《第35回東京国際映画祭》『ザ・ウォーター』エレナ・ロペス・リエラ
秦宗平

 水が女に入ってくる、水が女に恋をする、水が女を連れ去っていく、奪い去っていく......スペイン南東部のある小さな村で女性たちが語り継ぐ神話は、村に大洪水がやってくるたびに、宿命をもって生まれてきたある女たちが消え去ってしまうというものだ。きっと水にさらわれるか、対決する運命にあろう、主人公のアナを見つめていると、外から女たちに影響する水だけではなく、女たちが自らの身体に抱えんでいる内なる水も存...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:34 AM

October 20, 2022

『アフター・ヤン』コゴナダ
浅井美咲

  近い未来、「テクノ」と呼ばれる人型AIロボットが一般家庭にまで浸透した世界を描いた『アフター・ヤン』では、ある日突然動かなくなったテクノ、ヤンに一日あたり数秒の動画を記録する特殊なメモリバンクが埋め込まれていたことが発覚したことから、本来感情を持たないはずのヤンに感情が存在したのではないかという謎が深まってゆく。  ジェイクは、ヤンのメモリバンクに保存されていた数多の動画を一つ一つ再生してゆく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:18 PM

October 8, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『恋するアナイス』シャルリーヌ・ブルジョワ=タケ
梅本健司

 花屋から勢いよく飛び出してきたかと思えば、早送りの映像を見ているのかと思うほど素早く鋪道を駆け抜けてゆき、アパートの入り口を突き破るように通り抜け、エレベーターには目も暮れず階段を駆け上がり、部屋の前で待つ妙齢の女性に声をかける。部屋に入ってからも忙しなく辺りを行ったり来たりし、部屋の管理人だと思われるその妙齢の女性は呆然と立ち尽くすしかない。手持ちカメラも完全にフォローすることはできず、仕方な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:41 PM

October 2, 2022

『大いなる運動』キロ・ルッソ
三浦光彦

 映画冒頭、ボリビアの首都ラパスの光景がロングショットで映し出されるのと共に、目覚まし時計のアラーム、クラクション、犬の鳴き声、街全体を行き交うケーブルカーの駆動音といった、活気あふれる都市の喧騒が左右のスピーカーから鳴り響く。しかし、カメラが都市へと近づいて行くのに並行して、鳴り響いていた街のリズムは徐々に間伸びしていき、最終的には、リズムを失ったドローンミュージックへと変貌していく。ラパスの中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:40 PM

October 1, 2022

『コルシーニ、ブロンベルグとマシエルを歌う』マリアノ・ジナス
三浦光彦

 ある古典的な楽曲を演奏する際、基本的な進行、メロディ、リズムさえ守られていれば、その他の細かい部分の解釈は演奏者に任されるのが常だろう。アルゼンチンの歌手、イグナシオ・コルシーニの1969年のアルバム『Corsini intepreta a Blomberg y Maciel(コルシーニ、ブロンベルグとマシエルを歌う)』内の楽曲「La Guitererra de San Nicolás(サン・ニ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:05 PM

September 30, 2022

『秘密の森の、その向こう』 セリーヌ・シアマ
池田百花

 8歳の少女ネリーは、おばあちゃんの最期にさよならを言えなかった。すでに祖母が亡くなった後の時間から物語は始まり、少し前まで彼女が暮らしていた老人ホームのような施設を母とともに訪れたネリーが、そこに住む年老いた女性たちに別れのあいさつをするため、部屋から部屋へとさよならを言って回っている。祖母のいた部屋にネリーが戻ると、片付けをしている母がいて、その後カメラに背を向けてベッドに腰かけ、閉じた窓か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:16 PM

September 27, 2022

ヴェネチア国際映画祭「ヴェニスデイズ部門」公式コンペティション作品

『石門(Stonewalling)』ホアン・ジー&大塚竜治監督インタビュー

主人公の若い女性リンは、英語を学びながら、客室乗務員を養成するための学校に通っている。しかし予期せぬ妊娠が発覚した後、パートナーに中絶したと告げると、反目していたはずの経営難の診療所を営む両親の元へと戻り、未来を模索し始めることになる。ホアン・ジー&大塚竜治監督は、実際に妊娠から出産に至るまでの彼女の10ヶ月を、静謐な演出で捉えていく。表情を変えず、けっして感情を露わにすることがないにも関わらず、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:00 PM

September 23, 2022

『伴奏者』クロード・ミレール
結城秀勇

9月23日(金)よりの「生誕80周年記念 クロード・ミレール映画祭」に合わせ、『伴奏者』の日本盤初DVD化(2014年、発売:IVC)の際に封入リーフレットに寄せた文章を再掲する。一読してわかる通り、先立ってアップされた梅本洋一氏の文章「見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて」に多くを依る文章なので、この機会に併せてお読みいただければ幸いだ。   1942年から43年にかけての冬...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:18 PM

September 21, 2022

見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて 後編
梅本洋一

距離の運動  〈目〉と呼ばれる初老のしがない私立探偵は、彼の所属する探偵事務所に出向く。またあの口うるさい社長に会わなければならない。仕事はまた尾行だろう。案の定、大金持の中年婦人に依頼された彼の仕事は、息子のフィアンセの尾行だった。誰も彼女のことを知らないのだ。緑が一斉に吹き出したような館の巨大な庭の草むらの影から、依頼主の息子と彼の恋人が楽しそうに語り合っ ているのを覗き込む〈目〉。2人は館に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:02 PM

September 19, 2022

見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて 中編
梅本洋一

距離の認識  クロード・ミレールの処女長篇 『一番うまい歩き方』が公開されたのは1967年のことである。友人のリュック・ベローとミレールが共同でこの映画のためのシナリオを書き終えたのが72年のことだから、実際の撮影にこぎつけるまで実に3年以上の歳月が費やされていることになる。ミレールが映画に接近をはじめたのが60年代初頭のことだから、78年までには15年近い年月が経過している。ミレールは映画を前に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:15 AM

September 17, 2022

見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて 前編
梅本洋一

生誕80周年記念クロード・ミレール映画祭が9月23日から開催される。それに合わせて、季刊「リュミエール」2号に掲載された梅本洋一氏のミレール論を、編集長だった蓮實重彦氏のご許可をいただき、全3回に分けて再掲する。言及される作品は今回の特集で上映されるものだけはないが、ミレールの映画への情熱、あるいはそれゆえの諦念がどのように彼のフィルムに息づいているのか、それが鮮やかに描き出されており、ぜひご一読...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:33 AM

September 9, 2022

『ザ・ミソジニー』高橋洋
千浦僚

 映画作家高橋洋はマッチョイズム傾向を持つひとであるが全方向にフェアでクリアな姿勢を持ち、メインに活動するホラージャンルにおいて女性賛美、女性崇拝的なところの強い作り手でミソジニー(女性蔑視)の逆、反ミソジニストに見える。  映画『リング』(98年)は、原作の「貞子」と「呪いのビデオ」を具現化したことと、もともとは我が子の呪いを解こうと奔走する主人公が父親であったのを母親に変えた脚色ではっきりパワ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:31 PM

August 29, 2022

『寛解の連続』光永惇
金在源

 私が一人暮らしをはじめたばかりの頃、近所のレンタルCDショップでLIBROの『COMPLETED TUNNING』というアルバムを借りた。収録された曲の中でも、一際異彩を放っていたのが小林勝行というラッパーが参加した『ある種たとえば』という楽曲だった。太古の時代に生きた男が出会いと別れ、生と死、輪廻転生を繰り返し最終的に現代に生きる小林勝行という一人の人間へとつながっていく壮大な物語が五分の中に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 PM

August 18, 2022

『戦争と女の顔』カンテミール・バラーゴフ
作花素至

 冒頭、超クロースアップの女性の顔がスクリーンいっぱいに広がる。その顔は不自然に硬直していて、か細い呻き声と耳鳴りのような音がはっきり聞こえるのに対し、周囲の物音や人々の声はくぐもっている。カメラが徐々に後ろへ下がっていくにつれ、「のっぽ」と呼びかけられたこの背の高い女性、イーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)が、職場である病院の一角で直立不動のまま「いつもの発作」を起こしていることがわかる。彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:01 AM

August 13, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第三回

 今回は第二回に掲載された『サッド ヴァケイション』のテクストをはじめ、小誌にて建築、映画について多くの批評を寄稿し、多大な貢献をしてくださっている建築家・藤原徹平氏の追悼文から始まる。ある作家や作品と出会うことで、「同時代」の感覚を知ったという経験が語られると、羨ましく思わずにはいられない。それが、最後まで「現在」への興味を絶やさなかった青山真治のような作家に向けられていればなおさらだ。POPE...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

August 10, 2022

『ワンダ』バーバラ・ローデン
池田百花

 『ワンダ』にはひとつの奇蹟(miracle)があると思うわ、とマルグリット・デュラスは言った。「普通、演じることとテクストとのあいだ、演じる主体と話の筋とのあいだには、距離がある。でも、あのなかではその距離が完全に消えて、バーバラ・ローデンとワンダは、直接的に、決定的に一致している」1)。こう語ったデュラスと同じようにこの映画で初めてバーバラ・ローデンという女性の存在を知ることになるほとんどの観...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:02 PM

August 9, 2022

『Underground』小田香
三浦光彦

 札幌の地下歩道が、それを初めて見る人たちにどこか無機質で、他の都市の地下空間と違った印象を与えるとしたら、それはその直線性と無時間性によるものかもしれない。この空間は、例えば渋谷の地下のように電車の乗り換えを主たる目的とするスペースというよりは、冬の間の人々の移動の負担を減らす目的も兼ねているため、札幌駅からすすきのに至るまでの全長1900mにもなる通路が一直線に続いており、札幌の碁盤の目状の道...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:54 PM

July 31, 2022

『アイ・アム・サムバディ/I AM SOMEBODY』マデリン・アンダーソン
板井仁

 冒頭、ロングショットで映し出されたチャールストンの街とともに、ナレーションは、この地が南北戦争の火蓋が切られた場所であり、現在は観光地として多くの観光客で賑わっていることを語る。カメラは、橋や船、馬車やそれを曳く馬、サムター要塞の記念碑や銅像、砲台跡などを映しだすのだが、そこに集う観光客の身体や顔、その表情は、暗くつぶれて判然としない。こうした一連のショット、観光地においてあらゆるものごとを消費...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:35 PM

July 30, 2022

『ついのすみか』井川耕一郎
千浦僚

 (......ひよめき【顋門】 幼児の頭蓋骨がまだ完全に縫合し終らない時、呼吸のたびに動いて見える前頭及び後頭の一部)  『ついのすみか』は早稲田大学シネマ研究会に所属していた井川耕一郎氏が1986年に制作し公開した8ミリフィルム映画。同年に(おそらくこれに先立って)『せなせなな』という作品もつくられている。  なかなか上映の機会がないが、2021年11月に亡くなった井川氏の追悼上映会が20...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

『夜を走る』佐向大
結城秀勇

 谷口家の洗面所の照明は、はじめに切れかかっていることを示唆されてから、少なくとも2ヶ月から3ヶ月くらいはそのまま放置されている。やがて劇中に初めて洗面所が登場するとき、点滅する蛍光灯の激しい光と闇との交換運動が暴力的なまでに観客の視界を襲う。「なんでこうなるまで気づかなかったの」、夫をなじる妻の声は、もはや冷め切った夫婦関係を隠喩として示唆するにとどまらず、もっと根源的な人の生死に関わること、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 PM

『せなせなな』井川耕一郎
千浦僚

 『せなせなな』は早稲田大学シネマ研究会に所属していた井川耕一郎が1986年に制作し公開した8ミリフィルム映画。同年に『ついのすみか』という作品もつくられている。  『せなせなな』は長さ65分ほど。明確なストーリー、わかりやすい起承転結はなく、密室か、屋外であっても他者や広がりを持たないいわば「密室化した荒野」という空間での男女の身体的からみと感情の交錯を描く。  この「からみ」とはいわゆるポルノ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:24 AM

July 23, 2022

『炎のデス・ポリス』ジョー・カーナハン
結城秀勇

 警官の中にもシングルアクションのリボルバーの愛好者とオートマチックの方がいいと言う者がいて、ルガー好きにもレッドホーク派とブラックホーク派がいる。同じように留置所は酔っ払いとそうじゃないやつ用に分けられていて、そこには結果的に詐欺師と殺し屋がいて、殺し屋にもプロフェッショナルとサイコパスがいる。言わずもがな、そのどちらがいいとかどちらが悪いとかなんて話には全然ならない。汚職警官も連邦レベルの陰謀...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:52 PM

July 16, 2022

『リコリス・ピザ』ポール・トーマス・アンダーソン
梅本健司

私が要約を拒むのには、また別の理由がある。要約というものは、付随的な筋や結果の出ない筋を犠牲にして、決定的な筋を出現させるものだからである。ところが私の主題は、取るに足らない筋の継起のなかに、重要な筋を組み入れるにはどうすればよいか、ということなのだ。つまり、映画的な作劇に特有の図式的な短縮をすることなく、出来事の普通の流れを描くことが、ここでの主題である。 *1(ジャン・ユスターシュ)  も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

July 14, 2022

『レア・セドゥのいつわり』アルノー・デプレシャン
松田春樹

 テムズ川に架かる二つの橋を写した二枚の静止画がスクリーンを分割し左右に分かれていくと、暗闇に佇むひとりの女がいる。その女が愛人との馴れ初め話をカメラに向かって語り始める時、彼女の周囲には明かりのついた鏡があるだけで、その場所がロンドンのどこであるかは明示されない。鏡に取り付けられた幾つもの電球とデスク上に散らかったメイク道具だけが辛うじてその場所を楽屋なのではないかと思わせてくれる。しかし女の話...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:18 PM

July 9, 2022

『夜の最前線 東京㊙︎地帯』井田探
千浦僚

恋人に振られたの よくある話じゃないか 世の中かわっているんだよ 人の心もかわるのさ......    日吉ミミ「男と女のお話」(1970年 作詞 久仁京介 作曲 水島正和)  郷鍈治の肉体美がスクリーンを圧する!セックス、セックス、金、セックス!だがそこに叙情。夜の最前線、すなわちこれが当時の日活映画の最前線!  ......ぶっちゃけ、ニューシネマ代表作『真夜中のカーボーイ』(69年 監督ジ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:54 PM

『機動捜査班 東京午前零時』小杉勇
千浦僚

 ――何か、小粋でシャープな旧作邦画を観たいと思って、1962年の日活映画『機動捜査班 東京午前零時』というやつを観たんだが、こりゃあ当たりだったね!  ――レトロかつ勇ましいタイトルじゃないか。そいつはどういうんだい。  ――うん、この『機動捜査班』は、1961年から1963年までのあいだに13作がつくられたシリーズで、覆面パトカー、無線連絡、科学捜査などを紹介した知る人ぞ知る警察ものの連作映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:31 PM

July 8, 2022

『リコリス・ピザ』ポール・トーマス・アンダーソン
結城秀勇

「全部2回言うね」 「全部2回なんて言わない。全部2回言うってなによ」  ゲイリー(クーパー・ホフマン)とアラナ(アラナ・ハイム)が初めて出会うシーンで交わされるそんな会話を、ニーナ・シモンの歌声と波間に揺れるような横移動の心地よさで、なんとなく聞き流してしまう。だが映画を見ている間もこの会話はずっとどこかに引っかかっていて、なぜなら彼女はこの後、このシーンほどの頻度で「全部2回言う」ことはない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:00 PM

『0課の女 赤い手錠』野田幸男
千浦僚

 顔面と風景が激突しその迫力が拮抗するとき、映画にみなぎるものがある。  このことはペルー密林と山岳において、ヴェルナー・ヘルツォークとクラウス・キンスキーによって試行され『アギ-レ 神の怒り』(72年)といったフィルムに結実するだろうが、そこまで遠隔地に出かけなくても野田幸男と郷鍈治と東映東京で充分実現され、『0課の女 赤い手錠』となる。  本作主演は杉本美樹。それは見間違いなく動かしようのない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:20 AM

July 5, 2022

『あさぎり軍歌』石田民三
鈴木並木

 東京にある国立映画アーカイブで、特集上映「東宝の90年 モダンと革新の映画史(1)」が始まっている。1930年代のアニメーションから近年の大ヒット作『シン・ゴジラ』『君の名は。』(共に2016)に至るまで、日本映画史に残る数々の名作やヒット作が並ぶラインナップで、ということは、比較的上映機会に恵まれている作品が多い。うるさ型のファンが、「あの監督ならこの作品ではなくて......」だとか、「どう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:44 PM

July 2, 2022

『トップガン マーヴェリック』ジョセフ・コシンスキー
結城秀勇

 0.1ずつ上昇していくデジタル数字によって達成しなければいけない速度が示され、作戦成功の必要条件であるタイムリミットも同様にカウントダウンされ、越えてはいけない高度の線には目印のように地対空ミサイルが設置されている。目標は目に見えるし、見えさえすればマーヴェリックはなんとかする、だいたいそんな話だ。死んだ仲間の息子には同じ口髭が付いているからわかるようになっているし、トップガンOGOB全員につ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:11 PM

June 23, 2022

『花芯の誘い』小沼勝 『色暦女浮世絵師』曽根中生 <後編>
千浦僚

 『色暦女浮世絵師』は、絵師の雪英(福島むつお)の妻おせき(小川節子)が、富裕な商人伊勢屋の息子清太郎(前野霜一郎)に辱められ、おせき夫婦はそれを忘れて生きようとするもののその傷は折に触れ夫婦の間に浮上してふたりは苦しむ、浮世絵の版元にもっと露骨で淫猥な絵を、と求められながらそれを果たせず体調を崩してゆく雪英を助けて、おせきが男女交合の体位や構図のアイディアを出し、下絵を描き、色をつけるうちに彼女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:17 PM

『花芯の誘い』小沼勝 『色暦女浮世絵師』曽根中生 <中編>
千浦僚

 2012年に出た小沼勝自伝「わが人生 わが日活ロマンポルノ」の自作回顧のなかで今作を語った部分によれば、小沼監督は現場では新人女優の演出に集中することになるだろう、という意識で、プロデューサー伊地智啓とともに小沢啓一宅を訪問してシナリオ改変の了解をとりつけたという。その改変がどういうものか、どの時点で行われていったのかはわからぬままとりあえず「~わが日活ロマンポルノ」の記述を見ると、もともとの脚...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:13 PM

『花芯の誘い』小沼勝 『色暦女浮世絵師』曽根中生 <前編>
千浦僚

 池袋のピンク映画館、シネロマン池袋で小沼勝と曽根中生のデビュー作、『花芯の誘い』と『色暦女浮世絵師』を観たのでそのことを記す。  シネロマン池袋ではいまだに毎週替わり三本立てで番組が組まれている。その番組はだいたいエクセス(新日本映像)+ロマンポルノ、新東宝、オーピー(大蔵映画)という映画会社区分のローテーションが一週間ずつ巡っていく流れ。エクセス+ロマンポルノ週ではエクセス作品2本を一週間やり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:03 PM

June 21, 2022

『冬薔薇』阪本順治
山田剛志

  ©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS    船の中心にぽっかり空いた、四角い、巨大な空洞に黒々とした砂利が注ぎ込まれる。砂利は対岸まで運ばれ、クレーン式のバケツによって掻き出される。作業が終わると、船は元の港に舞い戻り、からっぽとなった空洞に再び、大量の砂利が注がれる。  『キネマ旬報』掲載の、短くも充実した監督インタビューによると(註1)、中心に巨大な空洞を持つこの船...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

June 16, 2022

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』サム・ライミ
千浦僚

 初めてサム・ライミの映画を見たのは1986年あたり、小学校5年生、11歳ぐらいの頃か。高知市立第四小学校の校門真ん前のおうちのA藤くんとこに数人集まって、A藤くんのお兄ちゃんが持っているもんのすご怖いビデオを観る会、として。特に安藤くんと仲が良かったわけではなかったのにあれは何だったのか。  ......という状況で観た『死霊のはらわた』(81年 日本公開85年)。いや、エグいし、怖いし.......全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:40 AM

June 15, 2022

『夜を走る』佐向大
渡辺進也

 鉄屑工場に勤める秋本と谷口の生きるその場所の、さらにその外側に、いろいろなことが起きている場所があるように思われる。スマートフォンで見る海の向こうで起きた銃撃事件のニュース、車のラジオから流れるどこかわからない国の天気情報。それらは彼らとは関係のない遠い世界のことのようだ。さらに空間の捉え方においても特徴がある。秋本の姿を矮小化するように現れる巨大な工場、工場の中にある山となった鉄屑、鉄屑を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:36 AM

June 13, 2022

『日本の痴漢』渡辺護
千浦僚

 石井隆監督の死を知りがっくりくる。  訃報を知る少し前にも原作、脚本作である『赤い縄 果てるまで』(監督すずきじゅんいち 脚本石井隆 87年)を見直して感銘を受けたばかりだった。  『赤い縄~』は何度か観てるしDVDも持っている(ピンク四天王直撃世代なので佐野和宏映画の主演女優としての岸加奈子さんへの崇敬やみがたく、その初期代表作をソフト所有する誘惑に抗えなかった)のだが、数日前にシネロマン池袋...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

June 7, 2022

『トップガン マーヴェリック』ジョセフ・コシンスキー
秦宗平

   映画が生還した。冒頭、カリフォルニアの砂漠に赴任しているマーヴェリック(トム・クルーズ)は、マッハ10を記録するため、超音高速機に乗ってテスト飛行を行う。"グース"と、前作『トップガン』で失った盟友の名前を口にする直前、画面の右下に薄くまたがる右翼とともに、広い、大きな空が写し出される。私たちが経験したことのない速さと高さのなかで、見たことのない色の重なりをそなえた空が、一瞬、画面いっぱい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:12 AM

May 30, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(6)カンヌ国際映画祭受賞結果を巡ってーー「映画」は抹殺された
槻舘南菜子

 第75回カンヌ国際映画祭が28日に閉幕した。審査員とプレスの評価が一致しないのは当然のことだが、今年の受賞結果はイエジー・スコリモフスキ『EO』を除くと醜悪極まりないものとなった。前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に続き、リューベン・オストルンド『Triangle of Sadness』に二回目のパルムドールが授与されたのだ。一度となく二度までも、凡庸な過激さとわかりやすい悪趣味で冷笑主義的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:09 PM

第75回カンヌ国際映画祭報告(5)リトアニアの新しい才能、ヴィタウタス・カトゥクス監督インタビュー
槻舘南菜子

ヴィタウタス・カトゥクス(Vytautas Katkus)は撮影監督としてキャリアを重ねた後、2019年カンヌ国際映画祭批評家週間短編部門に初監督作品『Community Gardens』がノミネートされた。ソビエト時代に形成された農村共同体に生きる人々は、ノスタルジーの漂う現代とは異なった時間、空間を生きている。そこに帰京してきた主人公が覚える、彼と家族、共同体との強い違和感。とりわけ、父親や地...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:11 PM

May 28, 2022

『夜を走る』佐向大
鈴木並木

 我慢しきれずにオンライン試写で見てしまった映画を、公開を待って劇場で再見する。洗車機の門を通って映画の中へと入っていく冒頭、自宅のパソコンでは感じられなかったささくれだった音響に揺さぶられながら、そういえば『ランニング・オン・エンプティ』(2010)もこうした武骨な音の響きの映画だったんじゃなかったかなと、細部はまったく思い出せぬまま、感覚だけが生々しくよみがえってくる。  見ているあいだは2時...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:38 PM

May 27, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(4)
槻舘南菜子

アルノー・デプレシャン『Frére et Soeur (Brother and Sister) 』  公式コンペティション部門にノミネートされた、フランス人監督による今年のフランス映画はかなり低調だ。『クリスマス・ストーリー』の系譜である「憎悪」の主題の延長線ともされたアルノー・デプレシャン『Frére et Soeur (Brother and Sister) 』は、分かり易い言葉と振る舞いに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

May 25, 2022

『夜を走る』佐向大×足立智充インタビュー「レボリューションする身体」

絶賛公開中の佐向大監督最新作『夜を走る』。職場の同僚ふたりがひとりの女性と出会うことで、平穏な日常生活から転落していく。そんな発端から、やがて映画は予測もつかない展開を見せていくのだが、その中で文字通りの変貌を繰り返す主人公の秋本。見たことがないほど異様なようでもあり、しかし我々自身にどこかよく似たところもあるような、秋本という人物はどのように造型されたのか。彼を演じた足立智充と佐向大監督に話...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:22 PM

May 22, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(3)それぞれの開幕上映作品を巡ってーー作家性は遠い彼方へ
槻舘南菜子

ミシェル・アザナヴィシウス『Coupez!』  開幕上映作品に華やかさが求められるのは周知の通りだが、今年はその裏に作家性を微塵も感じない作品ばかりが並んだ。公式部門の開幕作品『Coupez!』の監督であるミシェル・アザナヴィシウスは、『OSS 私を愛したカフェオーレ』、『アーティスト』や『グッバイ・ゴダール』と、オマージュとは言い難い歪な模倣を繰り返してきた。その彼が、公式部門の開幕上映作品『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:53 PM

May 20, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(2)スペインの新星、エレナ・ロペス・リエラ監督インタビュー
槻舘南菜子

2015年、カンヌ国際映画祭監督週間にノミネートされた短編『Pueblo』から七年を経て、エレナ・ロペス・リエラ監督、初長編『El Agua (The Water) 』が同部門でとうとうお披露目される。思春期の少女は、自然との強い関係性のもと謎と欲望を抱えながら、社会の重圧に立ち向かい、自由と独立を求め、若い「女性」へと変貌していく。これまでに監督した短編『Los que desean (The ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:15 PM

May 19, 2022

『too old to camp』只石博紀+杉本拓
鈴木並木

 冒頭、カメラは地面に対して90度になったまま。ごつごつした大小の岩が点在する川原で、何人かの男女がスズランテープをひっぱって地面に図形を描いたり、棒で岩を叩いたりするパフォーマンスをおこなっている。昆布状の太い紐だか布だかが束ねられた、神社で使う御幣のようなものも出てくる。カメラは無造作に運ばれ、演者たちがフレームに入っていようがいまいが、かまわずに回り続け、不意に地面に置かれてはピンボケの地表...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:30 PM

May 18, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(1)第75回カンヌ国際映画祭開幕
槻舘南菜子

第75回カンヌ国際映画祭が5月17日に開幕した。パンデミックを経た2019年以来、3年ぶりの通常開催となる。レオス・カラックス『アネット』と比較すると、強烈なまでに商業色が強い『カメラを止めるな!』の仏版リメイク、ミシェル・アザナヴィシウス監督『Coupez!』で幕を開けた。映画祭前にウクライナ映画協会からのクレームで当初の『Z (comme Z)』から題名は変更されたものの(「Z」はロシアの支...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:48 PM

May 15, 2022

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』チャン・イーモウ
荒井南

チャン・イーモウ映画の主人公たちはいつも必死だ。『初恋の来た道』のチャン・ツィイーは酷寒の村道で恋焦がれる相手の帰りを待ち続けるし、『妻への家路』のチェン・ダオミンは認知症で記憶を喪いつつある妻に自身の存在を気づかれないまま寄り添い続ける。常軌を逸するくらい頑固で、観る者を戸惑わせるほど必死で、しかしそこがいい。だから『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』で、ニュース映画に1秒だけ映る娘の姿を見る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:29 AM

May 14, 2022

『距ててて』加藤紗希
隈元博樹

 些細なことがきっかけとなり、ひとり、またひとり、アコ(加藤紗希)とサン(豊島晴香)の住む家に人々が訪れる。例えばそれは鹿児島から上京した不動産屋の新卒社員である田所(釜口恵太)だったり、宛先を間違えて送った友人からの手紙を待ち続けるフー(本荘澪)だったり、他所の台所を使って華麗に手料理を振る舞う彼女の母(湯川紋子)だったり......。またサンの職場の先輩であるともえ(神田朱未)の家では、別れた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:29 PM

May 10, 2022

『明日は日本晴れ』清水宏
秦宗平

 1948年の公開以来、74年ぶりの上映とされる『明日は日本晴れ』は、『蜂の巣の子供たち』に続く、清水宏の戦後第二作である。国立映画アーカイブ研究員の大澤浄さんが、集まった人たちにおそるおそる聞く。 「皆さんのなかに、当時この映画を見たという方はいらっしゃいますか」  一瞬、会場が緊張する。手を挙げる人はいなかった。気持ちがほぐれて端々に笑顔がもれ、そして一気に、上映にむけて気持ちが引き締まる。 ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

May 6, 2022

『バンビ:ある女の誕生』セバスチャン・リフシッツ
鈴木史

 揺らぐ波形が画面いっぱいに広がる。波を切って進む客船が青い海に白い泡を立てているのだ。客船の甲板にはベージュのコートに身を包み、薄いブルーのスカーフを巻いた人物がいる。海の向こうを見るその人物は、サングラスをかけ、うっすらと微笑みをたたえているようにも見える。彼女の名はマリー=ピエール。フランスでは「バンビ」という愛称で知られている。このひとりの女性の孤高とも言える肖像を『リトル・ガール』(20...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:20 PM

May 5, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『徘徊年代』チャン・タンユエン(張騰元)
隈元博樹

 戦後の状況下を説明する冒頭のフッテージに引き続き、どこからともなく「彼らにとっての幸せな時代が いつか訪れると思っていた」という女性の声が聴こえてくる。この「幸せな時代」とは、レンガを無骨に積み上げていく男性の姿とシンクロすることからも、当初はそうした時代を希求する彼についての物語だと思っていた。だがその推測は、ほどなくして間違いであったことに気付く。なぜなら『徘徊年代』は、異国の地で自らのフィ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 AM

May 4, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『遠くへ,もっと遠くへ』いまおかしんじ
塚田真司

 いまおかの作品は、その気の抜けたような世界観や緩い文体とは裏腹に、毎回生命と愛の叡智を感じさせられ、思わず涙が溢れるのだが、今回も例に洩れずであった。  小夜子(新藤まなみ)は将来を描けない夫婦生活に倦怠を感じており、離婚を考えている。友人からのアドバイスで離婚後の住居を探している最中に、彼女は不動産屋に勤務する男、洋平(吉村界人)と知り合う。二人は距離を縮めていくが、やがて小夜子は洋平が突然失...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 PM

April 30, 2022

『オルメイヤーの阿房宮』シャンタル・アケルマン
結城秀勇

 黒い夜の川の水面に、どこか向こうから来る光が反射して、波紋だけが白く浮かび上がる。それは動く船の後方に過ぎ去っていく水面のようにも見えるし、光源である船が到着するのを桟橋で待っているようにも見える。  カメラはひとりの男の歩みを追いかけ、場末のクラブのような場所へと入っていき、ステージ上を見つめる男の顔をじっと映し出す。ステージでは、別の男が「Sway」を踊りながら歌っている。そこに先程の男が彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:57 PM

April 24, 2022

『カモン カモン』マイク・ミルズ
金在源

 私が思春期を過ごしているとき、家の中には閉ざされた部屋があった。鬱病の父がそこで寝ていて、気軽に部屋に入れるような雰囲気ではなかった。父の病は次第に悪化し、自宅から遠く離れた病院に入院することになった。閉ざされていた部屋は空になり、休日には母と一緒に電車に乗り面会に行った。病院の談話スペースに設けられた卓球台で父と卓球をしたことを覚えている。私が物心つくころから父は鬱病を患っており、そんな彼が私...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

April 20, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第二回

青山真治は以後にやってきたのだ。フォード以後に、アントニオーニ以後に、レネ以後に、モンテ・ヘルマン以後に、ヴェンダース以後に、そして北野武以後に青山真治はやってきたのだ。彼が生み出しているのは、ポスト・シネマというよりはむしろ、今日、われわれのなじみになってしまったマニエリズムやポスト・マニエリズムの枠の外部にあるすべてのパーツを含んだ「以後」の映画なのである。彼は、すでに倒れたもの、飲み込まれた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

April 11, 2022

『愛なのに』城定秀夫
山田剛志

 古書店のレジカウンターに腰掛け、くつろいだ表情でハードカバーに視線を落とす店主の多田浩司(瀬戸康史)を、斜めからウエストアップで捉えたファーストカットは、フレーム右方に不自然なスペースが空いている。程なくして、スペースを埋めるように女子高生・岬(河合優実)がフレームインし、画面が切り替わると、多田に熱い視線を向ける岬の表情が鮮明に浮かび上がる。背景にはショートカットの女性の肖像画がさりげなく配置...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

April 8, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『柳川』チャン・リュル
荒井南

 『柳川』は冒頭からスペクタクルに富んでいる。カメラは上から下へくぐるように動き、喫煙所で止まると、煙をくゆらせる老女を捉える。そこへ本作の主役の一人であるドン(チャン・ルーイー)が姿を見せ、自身の深刻な病状について、言葉少なに彼女に打ち明ける。しかし初対面の老女は気にも留めない様子だ。それよりも、彼が煙草を持っているにもかかわらず火を借りたことが訝しい。よく作風の相似で引き合いに出されるが、もし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:48 PM

April 3, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第一回

3月21日に亡くなられた青山真治監督に哀悼の意をこめて、青山監督とNobodyの過去20年近くに渡る歴史を、寄せられた追悼文とともに全4回に渡って振り返ります。 教えてくれた人  知らせを受けたばかりで、こうして書いています。青山真治の訃報。彼は私たちの世代でもっとも生き生きした監督でした。 もう何年も前のある夜のこと、東京で『ユリイカ』と『エスター・カーン めざめの時』が併映され、それを見終えた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 AM

April 2, 2022

『ポゼッサー』ブランドン・クローネンバーグ
作花素至

 映画は、ある女性の地肌の見える後頭部のショットで始まり、続くショットではコードに繋がれた針が突き刺さるその頭皮が超クロースアップで痛々しくとらえられる。皮膚に対する強い執着が伝わってくる。「私」の外部と内部とを隔てる皮膚は、ふつう、固有の「私」と分かちがたく結びついているはずだ。ところがこの映画では、(たとえ比喩的なイメージだったとしても)「私」から剥離していく皮膚の居心地の悪さばかりが際立つ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:51 PM

April 1, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『あなたの顔の前で』ホン・サンス
荒井南

 もはや「韓国」というより「世界の」という枕詞で語るべきホン・サンスのプロリフィックな作品群の中で、近年目を引くのが死の匂いを感じさせるフィルムたちだ。老詩人がとあるホテルを死に場所として選び、人生を終えるまでのモノクロの記録『川沿いのホテル』(2018)は言うに及ばず、『あなた自身とあなたのこと』(2016)では主人公の画家が死の床にある自身の母親についてつぶやき(2015年に実母を亡くしている...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:34 PM

March 31, 2022

『憧れの地』アピチャッポン・ウィーラセタクン
三浦光彦

 札幌市の中心部、JR札幌駅から大通公園を経て、歓楽街すすきのへ至るまでの道には、冬に地上に雪が積もった際も人々が安全かつ気軽に街へ出歩けるよう長い地下通路が整備されている。ジャミロクワイの大ヒット曲"Virtual Insanity"が、この地下歩道空間に着想を得ていたことが数年前SNS上で少し話題になったが、札幌にかれこれ6年間住み続けている筆者にとっても、雪がしんしんと降り積もる地上には誰一...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:54 PM

March 28, 2022

フランス映画を作った女性監督たち ―放浪と抵抗の軌跡

 国立映画アーカイブでついに開催される「フランス映画を作った女性監督たち ―放浪と抵抗の軌跡」では、現代の映画から黎明期の映画にまで遡り、女性たちがいかに映画史に参加してきたかを検証する。われわれは120年近くの年月を辿り直すなかで、女性たちが唐突にそこに現れたわけではなく、さまざまな映画、社会的な状況に影響を受け、あるいは与え、大きな流れのなかで映画を撮っていたことを確認できる。だが、それはひと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:35 PM

March 25, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『エンクローズド』ヤン・イー(楊翼)
養父緒里咲

 オイディプスが描かれた絵画のパズルを解く少年フリオ(アシュトン・ミラモンテス)は、失くした最後のピースを家政婦のエイプリル(タリア・マーティン)と探すことで、彼女との限られた時間の中に身を投じる。ただしこの偶然のひとときは、言わば必然のように感じられるものでもあり、むしろ偶然を装った行為であったことがのちに暴かれていく。それは失くしたものを口実とした時間の引きのばしであるとともに、エイプリルに対...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:14 PM

March 20, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『遠くへ、もっと遠くへ』いまおかしんじ
斗内秀和

 映画の序盤で主人公の小夜子(新藤まなみ)とその夫(大迫一平)が食卓を囲む場面がある。「ごめんね、お惣菜ばかりで」と小夜子が言うと夫の五郎が「美味しいよ、よー、よー、よー」と言う。ラップ調の「よー、よー、よー」は何の脈絡もなく、どこか唐突な印象を受ける。その後で小夜子がこの台詞を受け流して、全く新しい話題を切り出すことからも、「よー、よー、よー」という台詞はこの場面で何を意味しているのかが分からず...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:42 PM

《第17回大阪アジアン映画祭》『はじめて好きになった人』 キャンディ・ン(吳詠珊)、ヨン・チウホイ(楊潮凱)
佐竹佑海

 本作は女学校に通うウィンラム(ヘドウィグ・タ)とサムユ(レンシ・ヨン)の学生時代から大人になるまでを追った物語だ。学校の班長で風紀委員のウィンラムは、ある日親友サムユが自分に恋心を抱いていると知る。彼女たちは親密な日々を送るが、数年の間離れ離れになった後、大学生になって再会した2人は「30歳になって共に独身だったら結婚しよう」と約束する。そして彼女たちが30歳になる直前、結婚式のブライズメイドを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:36 AM

March 19, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『北新宿2055』宮崎大祐/『めちゃくちゃな日』チャオ・ダンヤン(趙丹陽)/『姉ちゃん』パン・カーイン(潘客印)
佐竹佑海

 異なる映画の中にそれぞれが繋がりを見出し、上映全体を1本のストーリーとして観ることは、短編プログラムを続けて観る上で大きな楽しみのひとつである。ともすれば、「短編6」のプログラムの中で上映された『北新宿2055』(インディ・フォーラム部門)、『めちゃくちゃな日』(特別注視部門)、『姉ちゃん』(特集企画《台湾:電影ルネッサンス2022》)の3作品からは、自ずと「よそ者」という繋がりをそこに見出すこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:03 PM

March 15, 2022

『都市とモードのビデオノート』ヴィム・ヴェンダース
鈴木史

「君はどこに住もうとも、どんな仕事をして、何を話そうとも、何を食べ、何を着ようとも、どんなイメージを見ようとも、どう生きようとも、どんな君も君だ。人、もの、場所の"アイデンティティ"。 "アイデンティティ"......。身震いがする、嫌な言葉だ」  監督であるヴィム・ヴェンダース本人の語りで幕を開ける本作は、彼によって撮られたエッセイのような映画だ。この企画はポンピドゥー・センターにより「ファッシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 PM

March 14, 2022

『ドン・カルロスのために』ミュジドラ&ジャック・ラセーヌ
井上千紗都

 この作品はスペインの王位継承権を巡って勃発したカウリスタ戦争を題材とした作品ではあるが、中心に描かれているのは歴史的出来事ではなく、ミュジドラ演じるアレグリアというキャラクターと周囲の人間模様である。アレグリアは副知事を務めており、幼いときから兵士たちに囲まれて育ってきたという環境もあってか、男性社会でも物怖じせずに堂々とした態度で振舞う人物である。しかしそんな勝気で勇ましい彼女にも、繊細で愛情...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

『パリ1900年』ニコル・ヴェドレス
川瀬恵介

C)DR  夜が明ける。陽がオベリスクを、次いでエッフェル塔を照らしパリの街に降り注いでいく。ニコル・ヴェドレスが1909年から1914年のあいだにパリを中心として、フランス各地や諸外国で撮影された700本以上のフィルムを再編集し、ナレーション(クロード・ドゥファン)と音楽(ギイ・ベルナール)を加えて作品化したのが『パリ1900年』(1946)である。冒頭、夜明けのパリにドゥファンの落ち着いた声...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:12 PM

『オリヴィア』 ジャクリーヌ・オードリー
板井仁

C)DR  森は、社会の外延をかたちづくる境界としての役割をはたしながら、それじたいが社会の外部としてあり、どこからが森であるのか、はっきりとした輪郭をもつものではない。映画の冒頭、オープニングクレジットが流れているあいだ、カメラは左から右へと流れていく森の木々を映し出すのだが、社会と隔絶された森の奥の寄宿学校を舞台とするジャクリーヌ・オードリー『オリヴィア』の主題は、こうした境界へと向けられて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:02 PM

『冬の旅』アニエス・ヴァルダ
金在源

©Ciné-Tamaris  ヌーヴェルヴァーグ の祖母と呼ばれ2019年にこの世を去ったアニエス・ヴァルダは1985年に本作『Sans toit ni loi(屋根も法律もない)』を製作した。日本では『冬の旅』と題して公開され、VHS化に伴って『さすらう女』に題が変更された。  この映画は主人公モナが死体で発見される場面から始まる。彼女は畑に倒れ凍死している状態で見つかるが、警察は彼女の死...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:37 PM

『奥様は妊娠中』ソフィー・ルトゥルヌール
渡辺進也

C)DR  『奥様は妊娠中』には、2回の出産シーンがある。1度めは、世界的なピアニストである、妻・クレアが海外ツアーのために乗った飛行機の中で、夫で彼女のマネージャーであるフレデリックが、出産を迎えようとする妊婦の手助けをする。お客様の中にお医者さんはいませんかというアナウンスに応じて、その場になぜか居合わせた彼は、出産間近の女性に励ましの声をかけ、そして無事生まれた赤ちゃんを母親に見せるために...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 PM

March 8, 2022

『弟とアンドロイドと僕』阪本順治
山田剛志

 印象的ではあるが、記憶に定着しづらいタイトルである。もしこれが「僕と弟とアンドロイド」というタイトルだったら、一人称である「僕」を基点とする安定した構図が形成され、スムーズに記憶できるのではないだろうか。「弟」と「アンドロイド」の後ろに、「僕」が並列するタイトルの"座りの悪さ"。それは、本作が問題とする「孤独の性質」と深く関わっている。  「"究極の孤独"を描いた禁断の問題作」という触れ込みから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:14 PM

March 6, 2022

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン
大内啓輔

 思い返して何より忘れがたいのは、アナクロニックなカウボーイのフィルを演じるベネディクト・カンバーバッチの手のことばかりである。妖艶という言葉がぴったりな美少年のピーター(コディ・スミット=マクフィー)が作った精巧な紙の造花を指でいじる、あからさまな「陵辱」のシーンをはじめとして、血のついた手で手紙をしたため、素手で牛を去勢し、皮をなめて縄を編むフィルの手仕事が、クロースアップによって頻繁に映し出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:56 PM

March 1, 2022

『暴力の街』ジョセフ・ロージー
千浦僚

 初期ジョセフ・ロージー映画とは、明晰な理念と的確な演出を行いうる手腕が、それをもってしても処理不可能になる複雑で困難な主題に相対し、苦闘したさまの記録ではないだろうか。ある種の類似を持つ『暴力の街』(1950)と『M』(1951)などを立て続けに観るとそう思う。  そういう重みのある『暴力の街』の脚本を書いたのは、ジェフリー・ホームズGeoffrey Homes=ダニエル・マンワリング(メインウ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:05 PM

February 28, 2022

『宝島』ギヨーム・ブラック監督インタビュー

やさしくて幸せな場所を描きたかったのです フランスはもとより、世界中で高く評価されているギヨーム・ブラック監督の『宝島』が、動画配信サービス「JAIHO」にて配信される。この作品はブラック監督3本目の長編作品であり、パリ郊外のレジャー施設が舞台となっている。ヴァカンスを楽しむ人々やそこで働く人々の何気ないやりとりや会話がのびのびと映し出され、老若男女問わずさまざまな人たちが集まるその空間で、思い思...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:56 PM

February 23, 2022

『仕事と日(塩谷の谷間で)』C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム
秦宗平

 『仕事と日(塩谷の谷間で)』はフィクションであると、監督自身があえて宣言し、観客もそれに続くことは、フィクションとドキュメンタリーに関するさみしい議論を繰り返させはしない。さらには、そのような区分の境界を露呈させながら、偶発的にやって来るものとあらかじめ準備されたもの、演じられる「現在」とたしかにそこにあった「記憶」―相反するかに見えるさまざまな事柄が一枚岩となって形づくる場所こそ映画である、映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

February 19, 2022

『ウエスト・サイド・ストーリー』スティーヴン・スピルバーグ
梅本健司

 ロバート・ワイズ版において、リチャード・ベイマーが演じたトニーは、不良集団で過ごした日々を過去のものにしながらも、怖いくらいに精力的で、露出した肌はテカテカに汗ばんでおり、これから起こる何かをナイーブなまでに期待していた。一方で、アンセル・エルゴード演じるトニーはどこか乾いていて、登場シーンでは総じてメランコリックな表情を浮かべている。「おまえはウエストサイドの伝説だったんだぜ」と兄弟分のリフは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:45 PM

February 15, 2022

『三度目の、正直』野原位
濱崎海帆

©2021 NEOPA Inc.  いったい、「わが子」というのはどこからやってくるのだろうか。母胎から? いや、コウノトリが運んでくる?『三度目の、正直』においては、電車によって母と子が引き合わされる。子どもを産むことができなかった春は、元夫から授かり婚の報を受けたあと、電車の窓から 「里親募集」の文字を見つける。次のシーンでは、相談所で里親について話を聞いている春の姿がある。パートナーで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:35 AM

February 8, 2022

『クライ・マッチョ』クリント・イーストウッド
山田剛志

 盛りを過ぎた老人がひょんなことから血の繋がらないヒスパニック系の少年の護送を託され、ボロボロの車で追っ手から逃げ切り、少年を肉親のもとに送り届けるーー。  新年早々、都内ではよく似たプロットを持つ2本のアメリカ映画が立て続けに封切られた。先陣を切ったのは、イーストウッド作品で長らく助監督、プロデューサーを務めた経験を持つ、ロバート・ロレンツの長編第2作目『マークスマン』(主演はリーアム・ニーソン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:04 PM

February 1, 2022

『三度目の、正直』野原位×川村りらインタビュー

映画がこの時代をえがくために必要なことを探して 野原位による長編デビュー作『三度目の、正直』は全編を通して驚きに満ちている。この登場人物はこういう人なのかと思ったら、次の瞬間にはその人がまったく別の人物に見えるほど印象が変わっていたり、最後まで謎に包まれた人物がいたり、毎シーン新しく映画と出会い直せるようだ。そうした魅力はどのようにして生まれたのか。制作過程、登場人物の造形や彼/彼女らにセリフを言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:15 AM

January 31, 2022

『二重のまち/交代地のうたを編む』小森はるか+瀬尾夏美
鈴木史

 冒頭、喪服のように黒い服を着た女が、人気の少ないバスに乗っている。車窓の外光はそこまできつくはない。それでも、なかばシルエットになりかけた彼女。窓の外を深い深い緑が流れていく。ふと目を凝らすと、彼女の服が黒ではなく、深い深い赤色なのだと気付く。わたしの目には、その赤い服が、薄暗がりのなかで、真っ黒の喪服に見えた。彼女は「旅人」だ。彼女は、多くの人が被災地と呼ぶ、その場所に向かおうとしている。  ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:58 PM

January 29, 2022

「タル・ベーラ伝説前夜」タル・ベーラインタビュー

タル・ベーラの主人公は、しばしば受動的な観察者であり、そのカメラは遠く距離を保ったまま、目の前で起こるあり様に対して悲嘆に暮れる傍観者であり続ける。大量の泥や雨とともに荒廃した町を長回しでゆっくり描くタル・ベーラの白黒世界は、彼の長編第五作『ダムネーション/天罰』(1988)を基点に形成されている。これこそ『サタンタンゴ』(1994)のスローシネマの美学のまさに原点である。 「タル・ベーラ伝説前夜...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 AM

January 28, 2022

『街は誰のもの?』阿部航太
金在源

 原風景と言うのだろうか。過去を振り返ったとき、あの日の街、匂いや緑、そしてそこにいた人々が浮かび上がる。わたしがあの瞬間切り取って胸にしまった風景はもう二度と同じ形でわたしの前に現れることはない。  『街は誰のもの?』は監督が2018年10月から2019年3月の半年間ブラジルに滞在した中で出会ったグラフィテイロ(ブラジルにおけるグラフィティライターの呼称)やスケーター、民衆によるデモやカーニバル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:37 PM

January 20, 2022

『GUNDA/グンダ』ヴィクトル・コサコフスキー
三浦光彦

 農場で飼われている動物たちの姿を追っただけのドキュメンタリーが、ある種のポスト・アポカリプティック的な雰囲気を漂わせているのは、我々がまさしくそういった時代、つまり、「人間以降」の時代を生きているからかもしれない。  親豚が自身の子を踏み潰し、子豚が甲高い鳴き声をあげるとき、我々はこう思う。「なんて野蛮なんだ」。そして、カメラは動物たちの肌へと顕微鏡学的な視線でもって接近していき、観客たちを穿つ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:02 AM

January 16, 2022

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ジョン・ワッツ
結城秀勇

 自社のスターを総出演させて観客を動員するオールスター映画なんて別に昨日今日始まったわけじゃないんだから、別にやりたきゃやればいい。でもキャラクターや設定の整合性をとるために必死になって囲いこんで、端から端まで精密に作られた箱庭を愛でるなんて、本来のオールスター映画の無駄なゴージャスさとは真逆の貧乏くささじゃないか。MCUについてそんなふうに思っていた時代が僕にもありました。サム・ライミ版や「アメ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:11 PM

『決戦は日曜日』坂下雄一郎
鈴木並木

 なにか調べ物をしていて、いまでは傑作とされている古典が発表当時はたいして評価されていなかった、と知ることがある。昔の人は見る目がなかったんだなあとか、当時はこんなものが高く評価されていたのか、などと驚きながら、そんなとき、自分もそのうち「昔の人」になることも、いま生きている現在が歴史上の任意の「当時」になりうることも、たいてい都合よく忘れている。たまには少し頭を働かせて、今日見た映画が未来の名画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:21 AM

January 13, 2022

『東洋の魔女』ジュリアン・ファロ
板井仁

 高下駄を履き大きな棍棒を持つ侍は、何ものかによる「助けて」という声を聞きつけて画面外へと駆けていくのだが、そのとき画面はおどろおどろしい太鼓の音とともに右へと半回転する。襖を蹴飛ばして部屋へ押し入ると、蜘蛛の巣の下、美しい女性がロープに縛られている。駆けつけた侍がそのロープをほどきはじめると、女性は恐ろしい姿へと変化し、腕をぐるぐると回す魔術によって侍の目を回し、眠らせてしまう。映画の冒頭を飾る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:29 PM

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』トッド・ヘインズ
秦 宗平

 「これはあなたの物語」などと銘打つ映画が、間接的に、もう少しよく言って、本質的、根本的にこそ私たちにかかわるとしても、私たちの身体に働きかける、もっと言えば身体の中にまで侵入してくるほど直接的であったためしは、ほとんどない。『ダーク・ウォーターズ』は、「永遠の化学物質」ともいわれる汚染物質を取り上げ,世界中の全生物の体内にまで投げかけられる大きな問題を含んでいる(「人類の99.9%に関係する」と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:31 PM

December 31, 2021

『ドント・ルック・アップ』アダム・マッケイ
作花素至

 映画の冒頭、天文台で地球に迫る巨大彗星を発見した大学院生ケイト(ジェニファー・ローレンス)とメンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)がただちに首都へ呼び出される。ところが、窓のない倉庫のような輸送機の腹に揺られて行った先は、どこか様子がおかしい。ホワイトハウスは彼らをさんざん待たせた挙げ句に追い返す。付き添いの将軍は彼らから小金を騙し取る。今は非常事態ではないのか。ここは本当に彼らの知っているア...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:21 PM

December 28, 2021

『愛すべき夫妻の秘密』アーロン・ソーキン
松田春樹

 カメラがゆっくりとラジオに近づいていく。「ウォルター・ウィンチェル・ショー! 提供は時計のグリュエン 」ラジオ番組の開始を聴くソファに寝そべる女性(膝だけが見えている)。そこへ男が帰ってくる。「ルーシー!ただいま!(Lucy, Iʼm home!)」男女の顔は見えず、カメラは依然としてラジオを大きく映し出しているものの、マイクがラジオの音声に比して二人の会話を大きく拾い始める。「どこをほっつき...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:53 PM

『セールスマン』アルバート&デヴィッド・メイズルス
品川悠

「聖書は世界で最も売れている書物なのです」。訪問販売員のポール・ブレナンはそう口にする。ロッキングチェアに座る女性は、そのセールストークに耳を傾けながら、なんとか断る方便を探しているようだ。ポールが売ろうとしている聖書は、ただの聖書ではない。特注仕様の装幀にサイズは広辞苑並のヴォリューム感、そしてなによりも高額なのである。さらにカトリック大事典とのセット購入を選択すれば、値はより張るだろう。そのた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:53 PM

December 23, 2021

『ラストナイト・イン・ソーホー』エドガー・ライト
山田剛志

 エドガー・ライト監督はこれまで手掛けてきた作品において、自身が過去に影響を受けたフィルムにオマージュを捧げてきた。個人的には、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985)のセリフがそっくりそのまま主人公によって叫ばれる、『ホット・ファズー俺たちスーパーポリスメン』(2007)のクライマックスがとりわけ印象深い。  本作はホラー映画としてカテゴライズされてはいるものの、悪夢に囚われてしまった主...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:03 AM

December 19, 2021

【特集上映】70ー80年代アメリカに触れる!名作映画鑑賞会 in 京都みなみ会館レポート
斗内秀和

12月4日  「70ー80年代アメリカに触れる!名作映画鑑賞会 in 京都みなみ会館」の初日に行って来た。ひさしぶりの京都みなみ会館だ。大学が京都だったので、学生時代は結構な頻度で通っていたがそれも10年前になる。新装されてからはとてもおしゃれになっていて、外国の建物のようだと来る度に思う。映画館に着くとN'夙川BOYSの「プラネットマジック」がかかっていて、それも妙に雰囲気に合っていた。上映の3...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:29 PM

December 17, 2021

『まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響』ポール・ニューマン
養父緒里咲

 少なくともこの長い題名を見ただけでは、何のことやらさっぱりわからない。だけどこの知的で秘密を孕んでいそうな語感の良さに、観る前から不思議と惹かれるものがあった。そしてこの映画を観終えたとき、その感覚は間違っていなかったのだと確信することができた。  冒頭から母親のベアトリス(ジョアン・ウッドワード)は、何やらウィッグをいくつも試着し、冷たい無表情で自分の姿を見つめる。またある場面で、彼女は車のド...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:45 PM

December 16, 2021

『おかしな求婚』エレイン・メイ
佐竹佑海

 暗い面持ちのスーツ姿の男性。視線の先には心電図の画面。白衣を着た別の男性も同じ画面を見つめる。波打ち規則的な音を鳴らしていた心電図だが、ふとその波形は崩れ、直線に近づき、不安げな顔が映る。白衣の男たちも心電図を深刻そうな顔で眺める。心電図の波は直線を映し出し、しかし一呼吸おいて「大丈夫です」と言う白衣の男。病院での手に汗握るワンシーンかと思いきや、直後画面に映し出されるのは赤いフェラーリである。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:22 PM

December 15, 2021

『レズビアンハーレム』細山智明
千浦僚

 画面に出るタイトルでは『レスビアンハーレム』。日本語で常用されている女性の同性愛を指すレズ、レズビアンはなぜか濁点つきだが、原語のlesbian からすればたしかにこの「レスビアン」のほうが正しい。  小沢昭一の文章や藤井克彦監督によるにっかつロマンポルノ『実録 桐かおる にっぽん一のレスビアン』(74年)、『レスビアンの女王 続・桐かおる』(75年)でその存在がいまも知られるストリッパー桐かお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 AM

December 3, 2021

『17 Blocks/家族の風景』デイビー・ロスバート
金在源

 私が以前、自分の家族についてとある雑誌にエッセイを書いたとき、読んでくれた人が家族について「壮絶な痛みと救いの混在する場所」と表現していたことが今でも強く記憶に残っている。  『17 Blocks/家族の風景』はワシントンD.Cのホワイトハウス近郊にある最も危険な区域と言われる街で暮らす黒人の家族、サンフォード一家の20年間を記録したドキュメンタリーである。監督からカメラの使い方を教わった末っ子...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:34 PM

November 27, 2021

『リトル・ガール』セバスチャン・リフシッツ
鈴木史

 フランス北部のセーヌ県。いかにもフランスの郊外といった風情の街並みには、古びた石造の塀と、家々を区切る無愛想な金網が目立つ。しかし、少し行けば、野原があり、草木が目に付く。そんな、ありふれたヨーロッパの田舎街に7歳になる少女が住んでいる。名前はサシャ。彼女はバレエ教室に通っている。教室の少女たちはみな一様に、青地に白い花柄などが施された華麗な衣装を着ているが、サシャだけはその身体を覆い隠すような...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:27 PM

November 23, 2021

『夢のアンデス』パトリシオ・グスマン
川瀬恵介

 雷鳴なのか、地鳴りなのか、遠くから響いてくる音と共に画面は白んでいき、やがて雲を抜け山脈が姿を現す。チリ出身で彼地の歴史と記憶にまつわる作品を手がけてきたパトリシオ・グスマン監督の新作『夢のアンデス』はこうして始まる。太平洋を前にして、チリはその背をアンデスの峰々に預けている。そびえ立つ山脈は、それぞれに地層を持ち、人々がまだいない頃の記憶すら留めている。グスマンは、自らの作品の随所に人間の歴史...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 PM

November 12, 2021

『記憶の戦争』イギル・ボラ
二井梓緒

  ベトナム終戦から40年以上が経過しようとしている。ベトナム戦争時における韓国軍による民間人虐殺の真相究明を求める市民平和法廷が始まろうとするカットで、映画は幕を開ける。原告として法廷に立つ赤いスカーフをした女性の緊張と不安の表情が目に焼き付く。    ベトナム戦争時、韓国はアメリカの同盟国だったため、多くの韓国兵がベトナムに派兵された。そこでは当時9000人あまりの民間人の虐殺があったという説...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:05 PM

November 10, 2021

『TOVE/トーベ』ザイダ・バリルート
金在源

 地方に住んでいると都心で公開された映画がこちらの劇場でかかるまで長くて3カ月ほどのタイムラグがあったりするので、ツイッターなどで見る世間の盛り上がりに追い付けずもどかしい気持ちを抱えたまま鑑賞することがしばしばある。『TOVE/トーベ』は10月に東京で上映が始まっているが、私が住む石川県では1ヶ月遅れて11月の上映となった。  本作はムーミンの生みの親であるトーベ・ヤンソンが画家として苦悩し、出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 PM

November 9, 2021

第34回東京国際映画祭日記③

2021/11/6 カルトリナ・クラスニチ『ヴェラは海の夢を見る』©Copyright 2020 PUNTORIA KREATIVE ISSTRA | ISSTRA CREATIVE FACTORY ◆土曜日夕方の銀座。もう日は暮れているが、街はおしゃれをして闊歩する人でいっぱいである。そんなキラキラした大通りを曲がり、シネスイッチ銀座のある銀座ガス灯通りに入る。少し通りの様子が落ち着いただけでも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 PM

November 7, 2021

第34回東京国際映画祭日記②

2021/11/2 ソイ・チェン『リンボ』©2021 Sun Entertainment Culture Limited. All Rights Reserved ◆プロデューサーがウィルソン・イップ、音楽・川井憲次に主演ラム・カートンときっちり揃えてくれたソイ・チェン監督の『リンボ』を、香港映画ファンが拒めようか。ドニー・イェンの『Raging Fire』が観られない恨みも手伝って前のめりによみ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:00 PM

November 6, 2021

『三度目の、正直』野原位
池田百花

 かねてから子供を持つことを望んでいたがその機会に恵まれなかった春は、再婚した夫の連れ子が留学に旅立ったのをきかっけに里親になることを考え始めていた。そんな時彼女は、偶然道で倒れていた青年を見つけて保護し、心的なショックが要因で記憶を失ったと考えられる身元不明の彼を半ば強制的に引き留め、母と息子のような関係を築こうとする。春は、この青年の意識が戻って何よりもまず、彼に、生人(なると)という名前で呼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:59 PM

November 5, 2021

第25回アートフィルム・フェスティバル 小特集「出光真子の実験映画とビデオ・アート」
鈴木並木

TIFFとフィルメックスの同時開催を横目に見つつ名古屋に向かい、愛知芸術文化センターの第25回アートフィルム・フェスティバルへ。この上映会はすべて無料なので、何本か見ると往復のバス代(早めに予約したので片道2350円)の元は取れる計算。 今回は「特集 映画の声を聴く」と題して、これまで製作された同フェスティバルのオリジナル作品(草野なつか『王国(あるいはその家について)』や小森はるか『空に聞く』な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:29 AM

November 3, 2021

第34回東京国際映画祭日記①

2021/10/30 クリント・イーストウッド『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved ◆夜勤バイト明けの朝、慣れないメトロの乗り継ぎと日比谷の駅ビルの贅沢な空間使いに狼狽混じりの興奮でクラクラしたので、少し歩いて有楽町駅近くの喫茶店に入った。わりかし高級な類の店で朝一番だったこともあり、優雅なクラシック音楽と赤地のソファを独り占...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:13 PM

November 2, 2021

『劇場版 きのう何食べた?』中江和仁
千浦僚

 一応説明すれば、「きのう何食べた?」は、2007年に講談社のモーニングに連載され同年に単行本の1巻が出てから現在まで18巻が出ているよしながふみ氏による人気漫画で、40歳代のゲイカップル、筧史朗(弁護士。親と親しい人物以外にカムアウトしていない)と矢吹賢二(理容師。カムアウトしている)の生活を、料理上手でまめな筧史朗がつくる日々の献立、食生活から描く物語で、2019年に全12回のドラマとして放映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:29 PM

October 15, 2021

『自画像:47KMのおとぎ話』ジャン・モンチー
渡辺進也

 「47KM」シリーズの9本目。この村を撮影するようになって10年になろうとするという。連作シリーズのいいところは、撮る対象(人、村)が年を経るごとに少しずつ変わっていっていくことと、作品の作り方もまた少しずつ変わっていくところにある。だから、そもそも何本目が良いと言うことはナンセンスであり、1本1本が比較対象となるものではない。 『自画像:47KMのおとぎばなし』の中で起きている、この村の大きな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:23 AM

『沈黙の情景』ミコ・レベレザ、カロリーナ・フシリエル
渡辺進也

 前回の映画祭で上映された、ミコ・レベレザ監督『ノー・データ・プラン』はなんとも孤独な空気を纏った映画として記憶に留まっている。アメリカ西海岸から大陸を横断する列車に乗っている場面がほとんどなのだが、その旅の道中カメラはいつも横に流れていく窓の外を映し出し、時々その情景に対するコメントがナレーションとして重なってゆく。他の乗客と交流するわけでもなく、何ひとつ出来事らしい出来事は起こらない。後に、監...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:13 AM

『光の消える前に』アリ・エッサフィ
隈元博樹

 冒頭から次々とコラージュされていく写真やフィルム、それからテレビ映像などによるフッテージ。しかしそれらがモロッコの過去を捉えた断片であることはわかるものの、どういった基準の下に抜粋された映像なのか、あるいはコラージュによってどんな効果がもたらされるのかに最初は戸惑ってしまう。しかも本編の語り主のひとりであるアブデラジズ・トリバクは、なぜ動画ではなく静止画や声だけでしか登場しないのか。ただしそのこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:59 AM

October 13, 2021

「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 オンライン日記③」
荒井南

 『ミゲルの戦争』(エリアーン・ラヘブ)は豊かな映像表現と複雑なナラティブを持つ。1975年から1990年にかけて起きたレバノン内戦と内的な葛藤という"戦争"を4つのパートで分けた主人公ミゲルの半生は、監督によるシンプルなインタビューシーンの他、写真やイラストのコラージュ、再現演劇とそのためのオーディション風景などで彩られるが、次第に浮き彫りにされてゆくのは、これは実話ではなくミゲル自身が語りたい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:29 PM

October 12, 2021

「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 オンライン日記②」
荒井南

 逃亡犯条例改正反対運動で香港理工大に立てこもる学生らと香港当局が熾烈な衝突を繰り返した2019年11月に迫る『理大囲城』(香港ドキュメンタリー映画工作者)のカメラは、肉薄する、という言葉が陳腐なほど、危険な瞬間や応酬を幾度もさらけ出す。その一方で、クレジットされているとおり、この映画の撮り手は匿名だ。映される若者たちは一様に防毒マスクで顔を隠し、モザイクで加工もされるなどの保護もなされている。だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:10 AM

October 11, 2021

『ルオルオの怖れ』ルオルオ
渡辺進也

 今回の山形国際ドキュメンタリー映画祭はオンライン開催となった。結果、いつものように一日中、映画祭に参加するというのが難しい。今回、日記の方は荒井南さんにお任せして、私の方は作品評という形で参加したいと思う。 『ルオルオの怖れ』はタイトルの通り、本作品の監督であるルオルオのコロナウィルスへの怖れが描かれているのだと、とりあえず言うことができるだろうか。コロナウィルスが報道された2020年の1月から...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:09 AM

October 9, 2021

「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 オンライン日記①」
荒井南

 山形国際ドキュメンタリー映画祭は、今年はオンラインでの作品上映となった。映画祭につきものの「何本鑑賞できるのか?」に加え、暗がりで観ることに慣れ切った体がオンライン視聴に集中できるのかも気にかかる。とはいえ、開催されたことが喜ばしい。  テキストが書かれた透明なスライドがテーブルの上に置かれ、我々に示される。そのささやかに滑るような音が、かえって耳に残る。16mmで撮影された、なめらかな映像も感...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:18 PM

September 23, 2021

『ジュデックス』ルイ・フイヤード
千浦僚

 これは映画『ジュデックス』1916年、についての評とも言えない、メモ。ほぼ、単なる全12話のあらすじガイド。  judex とはラテン語で"審判者"という意味だそう。恐ろしい手立てや強硬さで悪を罰する本作の"ジュデックス"は、二十世紀以降のダークヒーローの始祖という感じ。  サイレント期のスタンダードなスタイルである目の高さの、引いた位置からの撮影の一種平板さは、純粋に「筋」「物語」を見ていく、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:28 PM

September 13, 2021

第78回ヴェネチア国際映画祭 山下つぼみ監督インタビュー《後編》

(前編はこちら)ーーイメージフォーラム研究所で制作されたアニメ作品を除くと、かなり台詞が多く、状況や心情がほとんど言葉で説明されているような作品が多いように見えます。それに対して、『かの山』では、言葉を削ぎ落とした、まったく逆のアプローチをしています。『かの山』に登場するカップルは、関係の溝を視線によって語っています。後半の入浴シーンまで二人の視線はまったく合いません。背中を向ける、あるいは、遮蔽...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:41 PM

第78回ヴェネチア国際映画祭 山下つぼみ監督インタビュー《前編》

第78回ヴェネチア国際映画祭、オリゾンティ部門の短編コンペティションに、山下つぼみ監督の新作『かの山』がノミネートされた。 複数の短編を制作しながらも、まだ私たちにとって未知の若手監督である彼女に、ここに至るまでの道のり、新作に込められた思いを伺った。 *インタヴューは前編、後編に分けてお送りします ーー『かの山』に至るまでの映像、あるいは映画との関係を教えていただけますか? 山下つぼみ 子供の頃...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:33 PM

September 11, 2021

『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介
中村修七

 濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』を見て、ここにはワーニャ伯父さんと2人のソーニャがいる、と思った。この映画は村上春樹の短編小説を原作とするが、濱口が「もう一つの原作」と述べるほど、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』が重要な位置づけを担っている。  途方もなく豊かな魅力をもつ傑作である『ドライブ・マイ・カー』をめぐっては既に多くの言葉が費やされており、これからも多くの言葉が費やされていくだろうが、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:05 PM

『ミッドナイト・トラベラー』ハッサン・ファジリ
千浦僚

 『ミッドナイト・トラベラー』は、アフガニスタンを脱出した映画監督一家がその逃避行、流浪を撮影したドキュメンタリー映画だ。  2015年、アフガニスタンの映像作家ハッサン・ファジリ氏が制作したドキュメンタリーが国営放送で放送されると、タリバンはその内容に憤慨。出演した男性を殺害し、監督したファジリ氏にも死刑を宣告。ファジリ氏は、妻で同じく映像作家のファティマ・フサイニさんとふたりの娘ナルギス、ザフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:19 PM

September 10, 2021

『先生、私の隣に座っていただけませんか?』堀江貴大
隈元博樹

 最終話の漫画が妻の佐和子(黒木華)によって描かれていくなか、夫でありアシスタントの俊夫(柄本佑)は黙々とカッターを使って「トーン貼り」を行っていく。出来上がった漫画は「先生」である彼女の最終チェックを受けたのち、完成を待つ担当編集者の千佳(奈緒)の元へと収められる。こうした冒頭の描線や切り貼りの工程からも、ふたりは夫婦であるばかりか、紛れもない仕事仲間であることが窺える。しかしながら、かつてメイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:34 AM

August 13, 2021

『優しき殺人者』ハリー・ホーナー
梅本健司

 アイダ・ルピノは、監督2作目『ネヴァー・フィアー』(1950年)が商業的に不振に終わり、夫コリアー・ヤングとともに創設したプロダクション、フィルムメイカーズの経営が傾いたことから、RKOのハワード・ヒューズに資金繰りを求める。こうして結ばれた提携はルピノたちにとって不利なものであり、それがひとつの要因となってフィルムメイカーズは1955年に制作を中止してしまう。RKOとの共同一作目である『アウ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:53 PM

August 8, 2021

『オキナワサントス』松林要樹
結城秀勇

 黒地に白抜きの文字、縦書きでふたつ隣り合って並んだ「オキナワ」と「サントス」。タイトルにあるふたつの地名の間にある関係性を、上映中ずっと考えていた。  1943年7月8日にサントスで起こった「日系移民強制退去事件」。ドイツ軍によるサントス港付近での商船への攻撃を受け、枢軸国系の住人が市外へと24時間以内に退去させられた。ドイツ人の数百家族、日系移民が6500人、そのうちの約6割ほどが沖縄県出身者...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:26 AM

August 5, 2021

雑誌『日常』一般社団法人 日本まちやど協会
隈元博樹

 本誌を発行した「一般社団法人 日本まちやど協会」のWEBサイトによると、『「まちやど」とは、まちを一つの宿と見立て宿泊施設と地域の日常をネットワークさせ、まちぐるみで宿泊客をもてなすことで地域価値を向上していく事業である』と書かれてある。ひとつの宿という完結した空間を通じて、飲食や入浴などを提供する場が従来型の宿泊施設であるならば、まちやどとは「まち」全体が大きな宿であり、ゲストに向けたさまざま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:56 PM

August 1, 2021

第32回マルセイユ国際映画祭、FID 報告ーーカンヌからマルセイユへーー
槻舘南菜子

 7月19日から25日にかけて、マルセイユ国際映画祭FIDが開催された。昨年から今年にかけて、多くの映画祭が中止、あるいはオンライン開催を余儀なくされたにも関わらず、FIDは2020年度も開催された稀な映画祭の一つだ。通常は7月初旬を会期としているが、今年度は、パンデミックの影響で時期をずらしたカンヌに合わせ、その直後へ日程変更される形となった。ディレクター、ジャン=ピエール・レム氏が指揮を執るF...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:49 PM

July 19, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(5)
槻舘南菜子

パルムドール Titane directed by Julia DUCOURNAU グランプリ Un Héros (A Hero) directed by Asghar FARHADI Hytti N°6 (Compartment n°6 / Compartiment N°6 directed by Juho KUOSMANEN 監督賞 Leos CARAX for Annette 脚本賞 R...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:50 PM

July 15, 2021

《特集 カンヌ国際映画祭とフランスの女性監督》『すべてが許される』

7/17(土)より横浜シネマリンにて《特集 カンヌ国際映画祭とフランスの女性監督》が開催される。そのオープニングを飾るミア・ハンセン=ラブ監督の初長編作品『すべてが許される』について、フランスの映画批評家、人気カルチャー雑誌『レザンロキュプティーブル』代表のジャン=マルク・ラランヌによる優れた批評を訳出してお届けする。 梅本健司 父と娘のあいだの苦悩と和解を描く驚くべき第一作 ジャン=マルク・ララ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:31 PM

July 13, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(4)フランスの新しい才能ーー三本の初長編 マキシム・ロワ、エマニュエル・マール (&Julie Lecoustre)、ヴァンサン・ル・ポール
槻舘南菜子

マキシム・ロワ『LES HÉROÏQUES』©TS Productions - Marianne Productions - 2021  今年のカンヌ国際映画祭では、カメラドールの対象になる処女長編が、公式部門、併行部門、監督週間と批評家週間を合わせて31本ノミネートされた。フランスのみならずヨーロッパでは、短中編でデビューした後、それを足がかりに初長編に至るのが一般的なプロセスとなっている。マ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:30 PM

July 11, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(3) シャルロットによるジェーン、トッドによるヴェルヴェット・アンダーグラウンドーーシャルロット・ゲンズブール『JANE PAR CHARLOTTE』とトッド・ヘインズ『THE VELVET UNDERGROUND』
槻舘南菜子

シャルロット・ゲンズブール『JANE PAR CHARLOTTE』©Nolita Cinema / Deadly  カンヌ国際映画祭に新設された「カンヌプレミア」部門の一本である、シャルロット・ゲンズブールの初長編『JANE PAR CHARLOTTE』のタイトルは、アニエス・ヴァルダ監督『アニエスv.によるジェーンb』(1988)ーバーキンが、ヴァルダに送った手紙がきっかけとなり制作されたもの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:56 PM

July 9, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(2)それぞれの開幕上映作品たちーーレオス・カラックス『ANNETTE』、アルチュール・アラリ『ONODA』、エマニュエル・カレー『OUISTREHAM (BETWEEN TWO WORLDS) 』、コンスタンス・マイヤー『ROBUSTE (ROBUST) 』
槻舘南菜子

レオス・カラックス『ANNETTE』©CG Cinéma International  第74回カンヌ国際映画祭待望の開幕上映作品、レオス・カラックス『ANNETTE』。ドライバーとコティヤールの二大スターをキャスティングしたミュージカルコメディ?ほぼ全編に響く歌声は、感情の高揚や、劇的な展開を演出するためには機能しない。緑色のバスローブを纏うアダム・ドライバーはドニ・ラヴァンを彷彿とさせ、『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:11 AM

July 6, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(1)第74回カンヌ国際映画祭開幕ーーフランスのための国際映画祭
槻舘南菜子

 7月6日、2020年のロックダウン下での中止を経て、第74回カンヌ国際映画祭(7月6日―17日)が開幕する。今年は国際コンペティション部門24本中、仏監督作品7本、仏共同製作作品は11本と、例年よりもさらに仏関連作品が多くを占める結果となった。例年、コンペティション部門に数本入る初長編は皆無、初めてカンヌ入りする監督や新人の発掘は、ある視点部門と特別上映部門に、その役割を移した。昨年から待望され...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:19 PM

May 6, 2021

『ラストアフターヌーン』渡邊琢磨
隈元博樹

 防波堤に浮かぶ小型船の手前に、のどかな二人組の姿が映り込んでいる。全体のトーンから察するに、時刻は午後の昼下がりだろうか。しかし、アンダース・エドストロームが撮影したこのジャケットが、アルバムのサウンドを表象する「ラストアフターヌーン」であることに、いささかのためらいを覚えてしまう。それは収録されている「Last Afternoon」を聴いたからであり、さらにはリリースに合わせて渡邊琢磨が制作し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:22 PM

May 3, 2021

『ビーチバム まじめに不真面目』ハーモニー・コリン
結城秀勇

 この映画ではムーンドッグ(マシュー・マコノヒー)と誰かが会話するほとんどのシーンで、同じ会話をちょっとだけシチュエーションを変えて繰り返す複数のテイクが撮影されていて、完成した『ビーチバム』という映画の中ではその違うテイクにまたがるふたりの人物がありえない会話を平気な顔で行う。たとえば、ムーンドッグとワック船長(マーティン・ローレンス)が波止場で釣りをするシーンでは、並んで釣糸を海に垂らすふたり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:04 PM

April 13, 2021

『水を抱く女』クリスティアン・ペッツォルト
梅本健司

 『水を抱く女』において、しつこいほど繰り返されるバッハのピアノソナタは、何度か急に切断されたように聞こえなくなる。それほど長い曲でもないのだからすべて使っても差し支えないだろうが、クリスティアン・ペッツォルトはそれをしないでブツッと音楽を中断させる。この劇伴の急な停止はどこか映画に亀裂のようなものが生まれた印象を与える。実際にその中断が起こるシーンを見てみよう。  ピアノソナタがはじめに流れるの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 PM

April 5, 2021

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『ジャック・リヴェット、夜警』クレール・ドゥニ
池田百花

 画面の中に物静かに佇むジャック・リヴェットと、その隣で彼に饒舌に語りかけるセルジュ・ダネー、そしてクレール・ドゥニが彼らに向けてカメラを構える。昼の部と夜の部からなるこのドキュメンタリーには、パリの街を回りながら、リヴェットとダネーが映画を巡って会話を重ねる様子が映し出されている。  ふたりの間で交わされる会話の応酬に終始魅了される2時間の中でも特に忘れがたいのは、夜の部の冒頭でリヴェットが、『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:02 PM

April 3, 2021

『ノマドランド』クロエ・ジャオ
結城秀勇

 鉱山とともに生まれ続いた小さな街が、閉山とともに消滅する。商売がなくなれば人がいなくなり、人がいなくなれば街がなくなる、というのはどこの国でも同じだろうが、最後の住民が街を去るか去らないかのうちに郵便番号が消滅してしまうというのは、ひどくアメリカ的な光景に思える。人々に見放された建物はまだそこにあり続けているのに、その場所を示す番号はない。  ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、新たな番号...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:40 PM

March 24, 2021

『内子こども狂言記』後閑広
渡辺進也

愛媛県の内子町に内子座という芝居小屋がある。僕は文楽への興味から知っていた。例えば、文楽を題材にとった三浦しをんの小説『仏果を得ず』の中で、内子座は次のように紹介されている。 「大正時代に建てられた内子座は、今も現役の劇場として活躍中だ。櫓があり、床も天井もすべて板張りの古い建物は、町の人々に大切にされている。(......)入口にはためく色とりどりの幟。靴を脱いで建物に上がる構造。みしみしと音...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:39 PM

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『涙の塩』フィリップ・ガレル
池田百花

 街がモノクロで映し出され、地方から進学のためにやってきた男性が、通りの向こうでバスを待つ若い女性に声をかける、ひとつの美しい「愛の誕生」から始まる物語。しかしこの青年リュックは、ここでジェミラという女性を残して田舎に戻ると、幼なじみの恋人ジュヌヴィエーヴと再会し、彼にまっすぐな愛情を向けるジェミラを反故にして、ジュヌヴィエーヴを選ぶことになる。しかしそれもつかのま、自分との間にできた子供を妊娠し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:18 PM

March 21, 2021

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『涙の塩』ウラヤ・アマムラ、スエリア・ヤクーブ、ルイーズ・シュヴィヨット インタヴュー

本インタビューを読むことで、フィリップ・ガレルがいかに3人の若い俳優たちと誠実に向き合い、彼女たちとともに映画を撮ってきたかが伝わってくるだろう。特に脚本段階では、俳優たちとのコミュニケーションから、細部を柔軟に変えていることが、スエリア・ヤクーブとルイーズ・シュヴィヨットの言葉から伺える。シュヴィヨットの述べた「遭遇するふたつの『若さ』についての映画」という言葉は重要である。  また、彼女たち3...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:43 PM

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『8月のエバ』ホナス・トルエバ
渡辺進也

バカンス中のマドリード。エバはこの時期に街にとどまることを決め、バカンスに出かける知人から部屋を借りる。一通り、部屋の説明を受けた後、部屋の貸主は、ライター業をしているのだろうか。おもむろに最近書いた記事の話をする。「この前、スタンリー・カヴェルの追悼記事を書いたよ。スタンリー・カヴェルを知っているかい。1930年代のハリウッドのコメディ映画についての本を書いた人だ。その本のタイトルは『幸福の追求...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

March 17, 2021

『あのこは貴族』岨手由貴子
隈元博樹

 第一部の華子(門脇麦)が乗ったタクシーから見える東京と、第二部の美紀(水原希子)が乗った弟の車から見える富山。ともに元旦の日、佐々木靖之のキャメラは横移動を通じて、2016年を迎えた無人の都会と2017年を迎えたシャッター街の田舎を対照的に映し出す。場所や時間さえも異なる場所。しかし、それぞれの光景に対するふたりの視線の矛先は、どこか同じような気がしてならない。  東京の松濤で生まれ育った良家の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:20 AM

『二重のまち/交代地の歌を編む』小森はるか+瀬尾夏美
中村修七

 『二重のまち/交代地のうたを編む』は、見る者に戸惑いと驚きをもたらす素晴らしい作品だと思う。この作品がもたらす戸惑いと驚きについて、3点ほど書いてみたい。  まず1点目として、『二重のまち/交代地のうたを編む』は、その複数的なあり方によって、作品に触れる者を戸惑わす。2020年の恵比寿映像祭では、映像作品として『二重のまち/交代地のうたを編む』が上映されるほか、インスタレーション作品として展示さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 AM

March 12, 2021

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『ルーベ、嘆きの光』アルノー・デプレシャン
池田百花

 ルーべの警察署を記録したドキュメンタリーをもとに作られたこの映画では、登場人物のほとんどが実際に街に住む人たちからなり、主要人物である新米刑事のルイ(アントワーヌ・レナルツ)と警察署長のダウード(ロシュディ・ゼム)、そして彼らの調査対象となるクロード(レア・セドゥ)とマリー(サラ・フォレスティエ)というカップルの4人だけを職業俳優が演じている。主人公であるダウードは、家族を持たず、昼夜仕事に徹し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:21 PM

March 2, 2021

『二重のまち/交代地のうたを編む』小森はるか+瀬尾夏美監督インタビュー

 つくり手たちは四人の登場人物ーー彼らはまちの外からやってきて、まちの人に話を聞き、まちについて書かれたテキストを朗読するーーを「旅人たち」と呼ぶ。バスに揺られる若い女性の姿に、彼女の声のナレーションがすうっと被さるとき、それを見る観客たちもまたこの「まち」に漂い着いたひとりの旅人になる。  このまちには、地面の下にもうひとつのまちがあるらしい。このまちの少し遠い未来を描いた物語があるらしい。旅人...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:39 AM

February 27, 2021

『二重のまち/交代地の歌を編む』小森はるか+瀬尾夏美
結城秀勇

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2019でこの作品を初めて見たときにもっとも強く印象に残ったことは、一世代後を想定した物語をいとも軽々と追い越し覆い尽くす現実のーー資本主義経済の、と言うべきかーー恐るべき速度と、それに対するささやかだがしなやかな抗いだった(詳細はこちら)。映画祭の公式ガイドブックである「スプートニク」では、富田克也がこの作品と小森の『空に聞く』の二作品について文章を書いていて、そ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:01 PM

December 17, 2020

東京国際映画祭&フィルメックス日記2020
森本光一郎

10/31  今年は東京国際映画祭とフィルメックスが同時開催ということで、外出する機会も減って喜んでいたのだが、蓋を開けてみると本当に文字通りの同時開催だったということを最初に言っておくべきだろう。今年はコロナの関係であまり出歩きたくなかったので、三大映画祭のコンペに選出された作品を出来るだけ観ることに設定した。その結果、昨年の釜山映画祭のように常に移動しているようなスケジュールにはならなかったの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 AM

November 20, 2020

『空に聞く』小森はるか監督インタビュー

東日本大震災の後、約三年半にわたり陸前高田災害FMのパーソナリティをつとめた阿部裕美さん。『空に聞く』では、地域の人々の声を聞き、その声を届ける彼女の日々が映されている。かさ上げ工事が進み、新しいまちが作られていく中で、どのようにして暮らしていくのか。 小森はるか監督に、阿部裕美さんのことや「空」に込められた思い、また「あの時にしか撮れなかった」と監督自身が語るファーストシーンのことなどお話を伺っ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:00 AM

November 2, 2020

《フィルメックス・レポート》『逃げた女』ホン・サンス
梅本健司

 3日間、それが連続した日々なのか、あるいはたった1日の3つのパターンなのかは曖昧だ。約30のショットがその3日間にそれぞれほぼ均等に配分されている。『正しい日 間違えた日』の2つの1日が似ているようで違う時間だったとすれば、本作の3日間あるいは、3つの1日は、まったく違うようで似ている時間にも見える。  主人公であるキム・ミニは、そんな日々のなか、3人の女性と再会する。目の前のものに時にたじろぎ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:28 PM

November 1, 2020

『空に住む』青山真治
隈元博樹

 高層マンションのエントランスを捉えた監視カメラの映像に、小早川直実(多部未華子)が映り込む。彼女が背負う特殊な形をしたリュックの中には、ハルという飼い猫も潜んでいるようだ。両親と死別したことをきっかけに、直実は叔父夫婦の計らいでこのマンションに越してきたことがのちにわかるのだが、唐突とも言える冒頭のショットによって『空に住む』は始まる。「空に住む」かのごとく39階の広々とした新居はどこか単身+ペ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:59 PM

October 15, 2020

『スパイの妻<劇場版>』 黒沢清監督 インタヴュー

 いよいよ劇場公開を迎える黒沢清監督による初の8K作品『スパイの妻』(2020年度ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞作)は、太平洋戦争前夜の神戸を舞台とした氏にとって初めての時代物の作品である。つねに我々の同時代に潜んでいる亀裂を、ごく当たり前の風景に見出し続けてきた黒沢清監督は、世界史を揺るがす激動が足音を潜めて迫り来る時代への孤独な闘争を織りなすひと組の夫婦に、いかなる視座をもって、いかなる光...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:35 PM

September 26, 2020

『イサドラの子どもたち』ダミアン・マニヴェル監督インタビュー

 神話的なダンサー、イサドラ・ダンカンはモダンダンスの祖である。1913年4月19日、4歳と6歳の彼女の子供ふたりを乗せた車がセーヌ川に転落。ふたりとも溺死した。彼女はその事実から立ち直ることができなかった。  ダンカンというダンサーについてなにも知識を持たないままにこの映画を見始めた観客にまず知らされるのは、上記の事実だけだ。いわゆるイサドラ・ダンカンについてのドキュメンタリーでも、イサドラ・ダ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 AM

September 11, 2020

『行き止まりの世界に生まれて』ビン・リュー
二井梓緒

 もし映画に、この監督にしか撮れないというものがあるならば、たとえその監督でさえも一生にたった一度しか撮れないものもある。『行き止まりの世界に生まれて』はまさにそんな作品だ。監督であるビンが12年間撮り溜めた映像の数々は眩く、彼とその仲間たちの人生を私たちはスクリーンを見ながら辿っていく。なんて贅沢なんだろう。  ファーストカットで、主人公とその仲間がボードで明け方の大通りを駆け抜ける。奇しくも日...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:50 PM

September 4, 2020

『眠る虫』金子由里奈
新谷和輝

 幽霊の声はどこから出ているのか、という突拍子もない好奇心に駆られた主人公の芹佳那子は、バスで遭遇した謎の老婆の歌に導かれ、彼女を追ってやがて地図上にない街をさまよう......。というふうにこの映画の導入をまとめると、なんだかとても不思議でファンタジックな作品のように思える。しかし、『眠る虫』で描かれる世界は、ぼやけた夢のようなものではなくて、基本的には、くっきりとした視覚と聴覚に支えられている...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:01 PM

August 15, 2020

『鏡の中の亀裂』リチャード・フライシャー
結城秀勇

 オーソン・ウェルズ、ジュリエット・グレコ、ブレッドフォード・ディルマンの主要三役者がそれぞれ一人二役を演じ、土木現場で働く労働者階級と彼らの事件を弁護することになる上流階級とでほとんど相似形の三角関係が進行する物語である、......ということを説明するところから語り始めるほかないこの作品なのだが、見終わって一晩経ってみると、この映画のキモはそこじゃないんじゃないか、という気もしてくる。なぜなら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:17 PM

August 12, 2020

『デリンジャーは死んだ』マルコ・フェレーリ
結城秀勇

 ガスマスクのデザイナーであるミシェル・ピコリに向かって同僚が読み上げる論文?広告文?の(5月革命直後という時代の影響が露骨に滲み出た)文章の中に「もしあらゆる人々がマスクをつけることを強制される社会が到来したら」というフレーズがあることにギョッとせずにおられる者など、この2020年に生きる人間の中には誰ひとりいないことは間違いないのだが、しかし同僚が自信満々に延々と読み上げ続ける文章とガス実験室...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:48 PM

July 17, 2020

『はちどり』キム・ボラ
鈴木美乃里

 この作品の主人公である14歳の少女ウニ。彼女の父親は、自分を誇示し、気に入らないことがあると家族に罵声を浴びせていた。兄は怒りにまかせて殴ってくるし、両親はそれを喧嘩と捉える。母は勉強のことや人の目しか気にかけず、立場の似ている姉は、親からのプレッシャーに耐えかね塾をサボっては遊び歩いていた。  ウニはそんな家族の顔を見つめてみた。父の泣いた顔。兄の不安で強張った表情。何も手につかず茫然と座る姉...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

July 11, 2020

『おばけ』中尾広道
結城秀勇

 木々の深い緑を背景に黄色い蚊柱が立つ、美しいファーストカット。続いて、映画は山の中の木や草を断片的に映していく。そこにひとりの男が現れ、なにかを見つけたように立ち止まり、やや上方を見上げる。そしておそらく彼の主観なのだろう次のカットで、緑の背景の前をきらきら光る円形のものがふわふわと移動していくのを観客は目にする。  それがこの作品のタイトルである「おばけ」、つまり写真等の撮影時に強い光がレンズ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 PM

July 5, 2020

『女帝 小池百合子』石井妙子
千浦僚

 遅ればせながらこの書を読み終えた。  キモである現東京都知事のカイロ大学首席卒業やアラビア語ペラペラに関しては、ちょっと前の週刊文春やネットで出ているニュースと変わらない情報量だが、ネットにはこれに関する火消し記事もあり、そっちを見ていると古い話、大したことじゃない、という印象も受ける。だが本書を読むと、まず小池百合子氏がカイロ大学留学時代まともに勉強していないことと、実質なく卒業資格をとり、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:45 PM

July 2, 2020

『小さな泊まれる出版社』真鶴出版
隈元博樹

 神奈川県足柄郡下真鶴町。2018年に県で唯一の過疎地域に指定された、人口約7300弱の小さな港町。この町にある真鶴出版を知ったのは、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府の広報誌「YNU YEARBOOK2019-2020」に掲載された「人と地域をつなぐこと」という座談会だった。そこでは真鶴出版の川口瞬と來住友美、同出版2号店のリノベーションを担当した「トミトアーキテクチャ」(以下、トミト)の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:18 PM

June 11, 2020

『アトランティックス』マティ・ディオップ
梅本健司

 『アトランティックス』をいかにして語ればよいのか。冒頭のダカールの工事現場で働く男たちのシーンから一人の女が鏡に映る自分自身を見つめるラストショットに至るまで、この映画にはいくつかの筋立てやジャンルが混在している。例えば、山藤彩香が書いているようにメロドラマ的な要素を中心に語ることもできるだろうし、あるいはファンタジーとして、あるいは 刑事モノとしての要素を見つけることもできる。そういった複数の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

『アトランティックス』マティ・ディオップ
山藤彩香

 「結ばれるべき青年と少女がいて、しかし少女には望まぬ婚約者がおり......」というあらすじから、「ああ、少女の心が青年と婚約者のあいだで揺れるのだろうな」と類推しにかかった自分の浅はかさを恥じた。少女エイダの心は青年と婚約者のあいだとで揺れてなどおらず、想いはずっと青年に注がれていた。では、なにがどのあいだで揺れていたのかといえば、青年と少女が初夜をめぐって此岸と彼岸を揺れていたのだ。  家の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:12 PM

June 10, 2020

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』ボー・バーナム
ゆっきゅん

 主人公のケイラがYouTubeに公開している自己啓発的な動画で始まる『エイス・グレード』は開始1秒でSNS時代を生きる若者たちへ向けて作られた映画であることを宣言してくれる。中学卒業と高校進学を目前に控えた主人公のケイラは、コンスタントに動画投稿をしているが、それを見ている人はほとんどいない。学校で年間無口賞を獲ってしまうような、友達のいない中学生だった。唯一の家族である父親との関係もうまくいっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:07 PM

June 2, 2020

『映画よ、さようなら』フェデリコ・ベイロー
二井梓緒

 勤めはじめてからの25年間、ホルヘの居場所はずっと両親の代から続く映画館(シネマテーク)だった。年々映画館に足を運ぶ人は減り、賃料の支払いは半年以上遅れ、ついには財団から「シネマテークは営利事業とは言えない」と支援は打ち切られ、ついに映画館を閉めることになる(これはまさにいま、日本のミニシアターが置かれている状況ではないか)。閉館日、看板の灯りを消し、荷物をまとめてバスに乗ったとき、彼の頬には涙...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:20 PM

May 5, 2020

『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』ショーン・ベイカー
二井梓緒

 この映画のラスト、主人公のジェーンは、道路脇に停めた車で待つチワワと老女ーーセイディーーを二度振り向く。一度目のあと車窓越しに彼女を見つめていたセイディは視線をそっと正面へずらす。反射する太陽の光に包まれたジェーンは少し立ち止まった後、老女の待つ車へと歩いていく。このシーンはふたりの関係性が変わっていくことを示すが、その先は誰にも分からない。映画の最後に観客に与えられた解釈の自由は、『タンジェリ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:08 PM

May 2, 2020

『ギャスパール、結婚式へ行く』 アントニー・コルディエ
池田百花

 物語は、そのタイトルが示す通り、主人公の青年ギャスパールが父親の再婚の結婚式に出席するため、動物園を経営する実家に向かうところから始まる。旅の途中でローラという女性と出会った彼は、久々に再開する家族の手前、彼女に恋人のふりをしてほしいと半ば無理やり説得し、ふたりを乗せた電車は舞台となる動物園に向けて走り出す。ローラを演じるのは、『若い女』(2017、レオノール・セライユ)で強烈な魅力を放っていた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:35 PM

May 1, 2020

第二回「映画までの距離」東風・渡辺祐一さんに話を聞く
結城秀勇、隈元博樹

 4月25日、『春を告げる町』(2020、島田隆一)の「公開」によって幕を開けた「仮設の映画館」。映画作品のデジタル配信というかたちを取りながらも、観客が選択した劇場にも興行収入が分配される仕組みだ。『精神0』の公開にあたって想田和弘監督と配給会社・東風によって生み出されたこの企画は、プレスリリースとともに大きな反響を呼び、5日2日より他の配給会社も含めた複数の作品が「公開」予定となっている。  ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:41 AM

April 30, 2020

『アンカット・ダイヤモンド』ベニー・サフディ、ジョシュ・サフディ
佐藤彩華

 ジョシュとベニーのサフディ兄弟は、今や米インディペンデント映画界で最も注目を集める重要な若手映画作家のひとり(ふたり)だ。ユダヤ教徒の家庭に生まれニューヨークで育ったふたりが、同じくユダヤ系のアダム・サンドラーを主演に迎えた新作『アンカット・ダイヤモンド』は、強烈なインパクトと狂気を孕んだ一作で、1/31にNetflixでリリースされてから日本でも評判が評判を呼んでいる。それもそのはず、2010...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:58 PM

April 28, 2020

『コジョーの埋葬』ブリッツ・バザウレ
池田百花

父のコジョーは7年間同じ夢を見た 夢では海が地を飲み込み炎が燃え盛っていた 父は誰にもこの夢のことを話さなかった それがただの夢ではなかったことも それはむしろ記憶のようなもので 忘れられない記憶のようなものだった  若い女性のモノローグによって誘われるのは、彼女が生まれる前、ある辛い出来事を経験し心に傷を負った父が引っ越して来た、水だけに囲まれた遠い村だ。彼は、水だけが過去を浄化できると信じ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:10 AM

April 26, 2020

『The Green Fog』ガイ・マディン、エヴァン・ジョンソン、ガレン・ジョンソン
結城秀勇

 「映画のはじめのほうで、ジェームズ ・スチュアートがマデリンのあとをつけて墓地にやってきたとき、彼女をとらえたショットはすべてフォッグ(霧)フィルターをかけて撮影し、ぼんやりと夢のような、謎めいたムードをだすようにした。あかるい太陽がかがやいているところに一面に霧がたちこめているような、淡いグリーンの色調だ」(『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』)。ヒッチコックのこのような発言を見るなら、『め...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:49 PM

April 24, 2020

『ルディ・レイ・ムーア』クレイグ・ブリュワー
結城秀勇

 かなりの評判をこの数ヶ月間聞いてきた『ルディ・レイ・ムーア』をやっと見た。ご多分にもれず号泣。  実在のコメディアン・映画プロデューサーの伝記映画なのはなんとなく知っていたから、もう60歳に手が届こうというエディ・マーフィの起用は、てっきり一瞬の栄華を極めた男のその後の衰退までを描くことを意味しているのかと思っていた。『ハッスル&フロウ』『ブラック・スネーク・モーン』に続くはずの三部作の完結編の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:49 PM

April 23, 2020

『37セカンズ』HIKARI
二井梓緒

 スーザン・ソンタグは、『隠喩としての病』の中で病気それ自体よりもそれに付随する隠喩や言葉のあやが一人歩きしているという。彼女がいう病気はとりわけ目に見えないものであるが、障がいもそれに当てはまるのではないだろうか。  まだこのような状況になる前、アップリンクに通い詰めていた時期によく流れていた『37セカンズ』の予告を見てそんなことを考えていた。それだけでなんだか満足していたし、気づけば映画館は閉...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:17 AM

April 15, 2020

第一回「映画までの距離」下高井戸シネマ木下陽香代表に話を聞く
結城秀勇

 たった一月前のことでさえも、なんだか記憶が曖昧になっている。あのころはいったいどんなことを考えていたのか、どんな立場をとっていたのか、あのときとなにが変わったのか。日々目まぐるしく変わる情勢(とまったく信用できない情報と)の中で、思い出せなくなったりわからなくなってしまったことがある。  それでもなにか新しい試みを立ち上げたいと思った。それは斬新な提言のためでも、批判の声をまとめあげるためでもな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:28 PM

April 12, 2020

《キューピッドの石膏像のある静物》ポール・セザンヌ 
橋爪大輔

 昨年、東京都美術館で開催された「コートールド美術館展」(本展は神戸市立博物館へ巡回する予定だが、4/12現在、開幕は延期されている)にてポール・セザンヌの絵画を10点ほど目にした。なかでも特に見入ってしまったのは《キューピッドの石膏像のある静物》という1895年頃の油彩画である。カンヴァスを縦に二分する画中のキューピッドは、そのモデルとなった石膏像に比べて、脚が細く、顔の割合が小さくなり、プロポ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 PM

April 11, 2020

『ザ ・ライダー』クロエ・ジャオ
梅本健司

 この映画の主人公ブレイディ・ブラックバーン(ブレイディ・ジャンドロー)が初めて馬に乗り、広野を走り抜ける姿をわれわれが目にする時、すでにこの映画では四十分近くが経過している。確かに白馬が、誰もいない広野を走り抜けるというシーンは美しいし、見ていて心地よい。だが、こうした心地よさにこの映画の本質があるわけではない。  そのシーンの後、ブレイディが馬を調教するシーンがおかれる。それは『ザ・ライダー』...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:17 PM

April 9, 2020

『東京のバスガール』(配信タイトル『若い肌の火照り』)堀禎一
二井梓緒

 暗い日々が続いていますね、私はネットでピンク映画ばかり見ています。  といっても、そもそもピンク映画に特に関心があったわけでもなく、もっと言うなら苦手だった。が、それでもいくつか観ていくと、ピンク映画という私の概念が揺らいでいくような素晴らしい作品がたくさんあることに気づいたのである。エロがあってもなくても映画は映画であってそれだけでもう最高なのだ!  堀禎一の作品もそんな映画だった。どの作品も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:31 PM

April 7, 2020

『あとのまつり』瀬田なつき
結城秀勇

 「忘れねえよ」と呟いたはずの僕らは、それでもいろいろなことを忘れていたのだった。たぶんそれは、災害のせいでも、病のせいでも、ない。  2009年当時のインタビューで瀬田は、当初この作品が「まつりのあと」と名付けられていたのだと語り、でもそれが桑田佳祐の歌と同じタイトルだったから、「まつり」と「あと」を逆転させて「あとのまつり」になったのだと言っている。  もう半年も経てば「まつりのあと」だったは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 AM

March 31, 2020

『金魚姫』青山真治
梅本健司

 ある女性が目に涙を浮かべ、もはやどうすることもできないことを言葉にするとき、隣でスマホを食い入るように見ている男がいることを気にかけることなく、カメラは彼女ひとりに寄っていく。一見このショットは、その空間にいるふたりの関係を切り裂いてしまうショットに見える。そして彼女の語りだけが聞こえてきて、ひとりの女性のモノローグが始まるのだと確信さえする。しかしこのショットはモノローグで終わることはない。カ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:25 AM

March 29, 2020

『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』平良いずみ
結城秀勇

 沖縄の言葉、ウチナーグチには「悲しい」という言葉がない。それに近いのが「ちむぐりさ」だが、それは自分が悲しいんじゃなくて、誰かが悲しんでいるのを見て「ちむ=肝」が苦しくなる気持ちなのだ。そう語る冒頭のナレーションの背後で、ザ・フォーク・クルセダーズ「悲しくてやりきれない」のウチナーグチバージョンが流れている。  「悲しくてやりきれない」が、発売中止になった「イムジン河」のメロディを逆にたどって作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

March 28, 2020

『春を告げる町』島田隆一
結城秀勇

「漬物あげてくっか」 「いーがらいーがら!......持ってきたら食うげんとぉ」 全員爆笑。  仮設住宅の茶の間で繰り広げられていたそんな寄り合いが、ものすごい速度で解体される。引越しの準備をし、ボランティアの人がやってきて荷物を運び出し、人が出て行き、まだ扉も閉めず話をしている最中なのに車が走り出す。その見事な編集の速さに目を奪われるとともに、この速さこそ彼らが被った状況の核心を示しているとも感...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:44 PM

February 27, 2020

「魚座どうし」山中瑶子
結城秀勇

 魚座の「う」の字も出てこないが、とりあえず魚たちは死んでゆく。してみれば、魚座とは死せる魚たちの星を背負って生まれた子供たちの謂なのか、しかしその魚たちを殺すのもまた子供たち自身なのだ。弱い者はさらに弱い者を殺す。彼らは無垢ではない。ただ、魚を水から掬い上げるように、口に爆竹を詰めるように殺す大人たちから殺されないために必死なだけだ。  まともな大人たちなんて誰ひとりいない。大人たちは、縄跳びを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:27 AM

February 20, 2020

『風の電話』諏訪敦彦
白浜哲

生き残った者たちは日常を生きていかなければならない。主人公ハル(モトーラ世理奈)が旅先で出会う人々はそれぞれの苦しみに向き合いながら、一人の少女に寄り添い、食事をともにし、いくつかの言葉を交わす。その言葉と言葉のあいだに深い沈黙が埋め込まれているかのような息づかいのリズムに諏訪敦彦の演出の特徴をみることもできるが、この『風の電話』という一本のフィルムが圧倒的な豊かさでわたしたちに提示するものは、絶...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 PM

February 15, 2020

『ジョジョ・ラビット』タイカ・ワイティティ
隈元博樹

 ヒトラーユーゲントの小さな軍服を身に纏った少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友人であるチョビ髭面のアドルフ(タイカ・ワイティティ)から正しい「ヒトラー」のイントネーションを叩き込まれている。過剰なまでの連呼合戦によってアニマル浜口ばりの気合いを注入された彼は、「ハイルヒトラー!ハイルヒトラー!」と快活に喚き散らしつつ、ドイツ版「I Want To Hold Your Ha...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:28 PM

第49回ロッテルダム国際映画祭報告(2) 1970年代アンダーグラウンドの旗の下に
槻舘南菜子

 ロッテルダム国際映画祭は、1966年からオランダのアート系映画館Wolfeのプログラムを手がけ、同映画館で若い世代の作家を紹介していたユベール・バルをディレクターとして、1972年に創設された。1970年代半ば、フィリップ・ガレルは、ロッテルダム国際映画祭でその後「彼の世代」の作家となるシャンタル・アケルマン、ヴェルナー・シュローター(*)に出会った。当時のガレルは、フランスですらほとんどの作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:16 PM

『いま、ついに!』ベン・リヴァース
結城秀勇

 休日の午後、スクリーンに映し出された16mmモノクロフィルムで撮影されたナマケモノの姿に、子供たちは「目がぱっちりしててかわいいね」「ツメがかわいいね」などと口々に言っていた。たしかにかわいい。しかし、そんな子供たちも作品に飽きて部屋を出て行った頃、あんなに意外とぱっちりしていたはずのナマケモノの目は、いつのまにか目蓋の下に隠れ、目の周りの黒いクマにすっかり埋もれてしまっている。そしてその頃には...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 AM

February 9, 2020

『リチャード・ジュエル』クリント・イーストウッド
結城秀勇

 リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)がワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)に出会うあの冒頭のシーンの、妙な気持ち悪さはなんなんだろうか。備品補充係としての勤務の初日から、仕事に必要なペンもテープもしっかりそろっていて、さらにはゴミ箱の中身からワトソンの好物だと推測されたスニッカーズさえしれっとキャビネット内に補充済み、という普通の意味での気持ち悪さもあるのだが、それはまあ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:18 AM

February 8, 2020

第49回ロッテルダム国際映画祭報告(1) 遠藤麻衣子監督インタヴュー
槻舘南菜子

昨今の国際映画祭では、韓国や中国などのアジア諸国と比較しても日本映画、とりわけ若手監督の存在感は著しく希薄だ。そんな中、ロッテルダム国際映画祭ブライトフューチャー部門に、小田香監督『セノーテ』とともに遠藤麻衣子監督『TOKYO TELEPATH 2020』がノミネートした(本作は第12回恵比寿映像祭にて上映予定)。すでに初長編『KUICHISAN』でイフラヴァ国際ドキュメンタリー映画祭にてグランプ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 PM

January 23, 2020

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』ジョナサン・レヴィン
結城秀勇

 『アトミック・ブロンド』のシャーリーズ・セロンを見たときに思ったのは、冷戦時代の二重三重スパイの話で彼女は西側の人間か東側の人間かわからない、というのがストーリーのキモではあるものの、いや単純にいまシャーリーズ・セロンが地理的に西か東かどっち側にいるシーンなのかよくわかんなくね?ってことだった。そんで彼女はその境界線付近をゴロゴロゴロゴロ転がっていたのだった。  『ロング・ショット』のセロンにも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:46 PM

January 21, 2020

アルノー・デプレシャンによるジャン・ドゥーシェ追悼

 2019年11月22日、アルノーよりメールが届く「ジャンが今晩、亡くなった。彼は最後の瞬間まで、素晴らしく、快活で、輝いていたよ。ジャンはエピキュリアンなローマの王子様のようだった。彼は人生と映画を結びつけた。そして日本を、日本映画をとても愛していた。彼は僕の師匠だった......。僕は彼の生徒であったこと、彼の友人であったことをこの上なく誇りに持っている」。そしてそれから数日後、雨が降りしきる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:53 PM

January 19, 2020

『自画像:47KMのスフィンクス』『自画像:47KMの窓』ジャン・モンチー インタビュー

「物語を語るのは、人々だけではない」 山形国際ドキュメンタリー映画祭2019で出会った、『自画像:47KMのスフィンクス』『自画像:47kmの窓』というふたつの作品に心を奪われた。「47KM」と呼ばれる山間の小さな村で、年老いた人々が人生の出来事を語り、その合間に村人たちの生活が差し挟まれていく。ある青年は倒れかけた木に登り、ある少女は村とそこに住む老人たちの絵を描き、子供たちは笑い遊ぶ。同じ村で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:42 PM

『花と雨』土屋貴史
隈元博樹

 SEEDAによるアルバム「花と雨」をタイトルに据えた本作は、自身をめぐる過去の境遇や事実を原案にした映画ではあるものの、ひとえにラッパーとしての苦悩や葛藤を赤裸々に綴っているだけのものではない。たしかにそれらは同名の曲「花と雨」の中で刻まれるリリックしかり、早逝した姉との記憶やそこに生じる悔恨の念として受け止めることができるだろう。ただし、そうしたいかなる状況が待ち受けたとして、彼がけっして手放...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:42 PM

January 10, 2020

『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ
結城秀勇

 先行上映を見に行ったら、上映前に監督からもキャスト一同からもビデオメッセージで「ネタバレしないで」と言われ、はたしてなにを書いたものかと。しかもこれ、なにか一個言っちゃいけないことがあるというより、中盤以降ほとんど全部そうじゃねーか。書きようがない。ということで、未見の方は読まないでください。  映画が始まってすぐに『ヘレディタリー/継承』を思い浮かべてしまったのは、冒頭の地面すれすれにある窓へ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:33 PM

January 9, 2020

『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド 
千浦僚

 これもまた、挫折と表裏一体のヒロイズムを謳ってきた監督ジェームズ・マンゴールドらしい映画だ。マンゴールドは自身のフィルモグラフィーのノンジャンルさ多彩さを誇るかもしれず、それはそのとおりだが、評するうえでの怠慢や単純化ではなくやはりそこには作り手としての一貫したもの、翳りがある、反転を重ねた現代的な英雄像を描く意志を感じる。  明らかに各出演作ごとの変身を楽しんでいるクリスチャン・ベイルは本作で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:07 PM

January 1, 2020

『マリッジ・ストーリー』ノア・バームバック
隈元博樹

 おたがいの長所を語る一組の夫婦のモノローグと、そのモノローグに呼応するようにして過去を振り返るフラッシュバックが続いたあと、時制は別々のソファに座った夫婦を離婚調停員がなだめている場面へと転換する。妻は夫に視線を合わせることもなく、激昂したのちに席を立ってしまうが、その場面からチャーリー(アダム・ドライバー)とニコール(スカーレット・ヨハンソン)の薬指にはめられた指輪をずっと眺めていた。それはこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:50 PM

December 28, 2019

『死霊の盆踊り』A・C・スティーヴン
千浦僚

 「駄作と傑作を分かつものはなにか」に関して個人的な好悪を越えた、ある程度理論立てた説明や判断基準を持ってはいるが、それと同時にある映画について駄作的にならざるを得なかった背景などが伺い知れてその必然なり事情なりが感じ取れると、私的な感覚として傑作駄作の境界は曖昧になる。だがそれを素直に他人に敷衍して語ることはない。ただ迂遠に、映画そのものを、その"或る映画"と"映画というもの全体"を肯定したい気...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 AM

December 14, 2019

東京フィルメックス日記2019
森本光一郎

11/23(土) 一日目。小雨が降っていて地味に寒い。しかも、私用で午前中は大学に行かねばならず、ギリギリで朝日ホールに滑り込む。今年のフィルメックスは目玉の『ある女優の不在』と『ヴィタリナ』を海外版DVDと釜山映画祭で観てしまったので、残りの作品を重点的に観ていこうという計画である。私にしては珍しくあらすじも監督情報もほとんど調べずに観た。変な期待をしないほうがホームランになる確率も上がることは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:06 PM

December 13, 2019

『カツベン!』 周防正行
千浦僚

 90年代初頭から最近までずっとちょこちょことフィルムによる映写をやっていた。大阪でミニシアターやシネクラブやポルノ館の映写をやり、02年に上京して試写室の映写技師をやり、ミニシアターのスタッフをやり、という経歴だったので、周防正行最新作『カツベン!』はそういうところからいろいろ感じることや思い出すことのある映画だった。  周防正行のこれまでの監督作のほとんどはそれぞれ異なる設定と筋書きながら、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:22 PM

December 12, 2019

『マリッジ・ストーリー』ノア・バームバック
結城秀勇

 しばしば気づいているはずなのに、いつもいつも忘れてしまうこと。スカーレット・ヨハンソンはけっこう背が低い。あのはち切れんばかりに膨らんだ胸とお尻のイメージで見積もるよりかなり小さい。しかもアダム・ドライバーと並ぶんだからだいぶ小さい。そして、知ってはいるけれど、アダム・ドライバーはいつもいつも思ってるよりでかい。ギュッと縦に押しつぶしたようなヨハンソンの身体と、びよーんと縦に引き伸ばしたようなド...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:25 PM

December 10, 2019

『ゾンビランド・ダブルタップ』ルーベン・フライシャー
渡辺進也

 朽ちたホワイトハウスを前に、4人がゾンビたちと対峙するオープニングシーン。スローモーションの多用、ストップモーションの中でカメラだけが動いていく場面(『マトリックス』を思い出させる)などそのバカらしさがひたすら楽しい。だが、この「派手な」シーンはこの映画の中で、ほぼこのオープニングシーンにしかない。その後ホワイトハウス内での擬似家族としての生活、それからミニバンに乗りメンフィスを目指す、その後の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:00 AM

December 9, 2019

『野獣処刑人 ザ・ブロンソン』 レネ・ペレス
千浦僚

 すごいの見つけてきたな、おい!、と言いたい。  それは、スペインの西部劇テーマパークでこのチャールズ・ブロンソンのそっくりさんロバート・ブロンジーを発見して起用した監督レネ・ペレスに対してなのはもちろんだが、この映画を配給する江戸木純氏にも向けられる。わかるひとにはわかる話をすると、90年代に『ドラゴン危機一発 97』とか『新・ドラゴン危機一発』があったが、これが見事に羊の皮(パチモン、邦題のい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:38 PM

December 3, 2019

第20回「東京フィルメックス」日記②
三浦翔

フィルメックス日記①はこちらへ 2019/11/29  この日は映画鍋と共催のシンポジウム「映画の"働き方改革"〜インディペンデント映画のサステナブルな制作環境とは?〜」を聞きに行った。興味があったのは、実のところ経済産業省側の視点で、彼らは日本映画の現状をどう考えているか気になりその話が少しでも聞けたのは良かった。経済産業省にはコンテンツ産業課というものがあり、今年の夏に映画制作現場実態調査なる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:42 PM

December 1, 2019

『HHH:侯孝賢』オリヴィエ・アサイヤス
結城秀勇

 子供の頃よくたむろって遊んだという死者を祀る廟の前で、久しぶりに会った年長の知り合いに挨拶をしたら向こうは気づかず、「アハだよ」と言ったら向こうが「あー!!」ってなって肩をバシバシ叩いてくるときのあのホウ・シャオシェンの笑顔は、3、40年前のわんぱく小僧だったときも彼はこんな風に笑っていたのだなと思わせるなにかがあって、それだけで泣けてくる。  その直前のシーンで、彼は小さい頃によくマンゴーを盗...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:02 PM

November 29, 2019

『台湾、街かどの人形劇』ヤン・リージョウ
千浦僚

 伝統文化と父子関係についての興味深い、優れたドキュメンタリー。  八十年代末から九十年代前半の映画鑑賞体験を持つ者ならば侯孝賢監督作品の鮮やかさを記憶しているだろうし、その作品世界で独特の存在感を放っていた李天禄(りてんろく、リー・ティエンルー)のことは忘れもすまい。その李天禄の息子で、台湾伝統の"布袋戯"(ほていぎ、ポーテーヒ)という人形劇の演じ手である陳錫煌(チェン・シーホァン)を十年間取材...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 PM

November 28, 2019

第20回「東京フィルメックス」日記①
三浦翔

2019/11/26  今年のフィルメックスは出遅れて3日目からスタート。4日間しか参加出来ないけれど、可能な限り見ていきたい。  今年20周年を迎えるフィルメックスでは歴代受賞作人気投票が行われて、そのうち3本が上映される。上位5本のうち2本は「権利元や素材の確認が出来ず」とのこと。映画祭で観たきりになってしまう作品はたしかに多いが、そもそも上映したくても上映できない自体は悲しい。そういうことは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:28 PM

November 24, 2019

『楽園』瀬々敬久
三浦翔

 不条理に満ちた現代に、暴力を描くとはどういうことか。映画が暴力を描くときにしばしば動機を必要とするのは、理由のない無差別な暴力が単なる狂気でしかないからだ。そうやって暴力の理由を探すとき、映画は法廷に似るだろう。たとえば李相日の『悪人』は、出会い系サイトで会った女に裏切られた男がその女を殺す、という事件の犯人もその動機も冒頭から明らかで、彼が逮捕されるまでに生じた心の変化を通して「悪人」への理解...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 AM

November 12, 2019

東京国際映画祭日記2019
森本光一郎

10/29  この日は午前中に授業があったので午後からの参加。今年初めてプレスパスを申請したため、ビクビクしながら列に並ぶ。企業の名前を首から下げてる方なんかを見ると、映画祭に来たんだと強く意識させられる。そんなこんなで今年の開幕に選んだのはドゥニ・コテ『ゴーストタウン・アンソロジー』。監督の名前は知っているが、他の作品を全然知らない理由に考えを巡らせていたが、この作品がベルリンに来ていたことを思...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:55 PM

November 8, 2019

『ペインテッド・バード』ヴァーツラフ・マルホウル
森本光一郎

 ある鳥飼いが捕らえた鳥に色を塗って群れに返す。すると、群れに戻った鳥は同種のものでありながら異端者として迫害され、墜落して死亡する。作中にあるこんな挿話が題名の由来である。主人公の少年はユダヤ人の孤児であり、これまでずっと見知っていたであろう村人たちから"ユダヤ人だから"という理由でつま弾きにされ、ナチスにつき出される。そこに、あらゆる形態の児童虐待を詰め込んだ地獄の映画で、どちらかと言えば『炎...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

November 6, 2019

『ジョージ・ワシントン』デヴィッド・ゴードン・グリーン
結城秀勇

 デヴィッド・ゴードン・グリーンの処女長編である本作は2000年の映画だから、1997年の『ガンモ』とほぼ同年代の作品と言っていいだろう。廃墟はハリケーンによって生み出されていて、あたりにはゴミや動物の死骸や糞が散乱し、そこら辺をクソまみれの犬がうろついていて、それが当たり前であるような光景が広がっている。ひとつの街を舞台にしていながら、ひとつのショットか隣接を示すふたつのショットくらいで描かれて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:35 PM

October 27, 2019

『宮本から君へ』真利子哲也
結城秀勇

 宮本(池松壮亮)という男がわからなくなる。と言っても、別に彼の気持ちだとか感情だとか性格だとかがわからないと言いたいわけじゃない。わからないのは顔だ。時間軸が激しく前後して進むこの作品で、前歯のない宮本、目にアザをつくった宮本、左手にギプスをはめた宮本、なんだか知らないがいきなり声が嗄れてる宮本、とさまざまなレイヤーで損傷したり修復したりする宮本を見ていると、ふと無傷でなんの変哲も無いスーツを着...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:33 PM

October 22, 2019

『囚われの女』シャンタル・アケルマン
池田百花

 主人公がフィルムに映った若い女性たちの一団を眺め、その中のひとりに何度も愛を呟く場面から始まるこの映画は、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中の同名の一章が映画化された作品だ。この冒頭のシーンからすでに、スタニスラス・メラール演じる主人公シモンが恋焦がれる女性に向けるまなざしにはどことなく執拗で狂気を秘めた雰囲気が感じられ、一方で彼がまなざす先にいるヒロイン、アリアーヌを演じるシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

October 19, 2019

釜山国際映画祭日記2019
森本光一郎

2019年10月6日 人生初の釜山は少し肌寒い。空港に降り立ったのは13時だが、次の飛行機に乗ってきた友人と待ち合わせしていたのは17時だったので、先に海雲台のホテルに向かう。海雲台は今回のメイン会場であるセンタムシティとジャンサンのちょうど間にあり、夜遅くまで開いている店も多い。23時くらいまで映画を観ている身としては好都合だ。 海雲台の駅を出ると、大きな通りが海まで続いている。そして、大小様々...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

October 17, 2019

『これは君の闘争だ』エリザ・カパイ
田中竜輔

 ブラジル・サンパウロでの2013年の公共交通機関の値上げ、2015年の公立校の実質的な廃校に伴う教育予算の削減提言。それらに対する蜂起として、ブラジル全土を巻き込んだ特大規模の学生運動が組織される。『これは君の闘争だ』の主人公たるルーカス("コカ")、マルセル、ナヤラの3名は、もちろんその運動に積極的に参与した高校生たちである。本作でフォーカスされるのは、先述した教育予算の削減が立案された201...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:59 PM

October 16, 2019

『十字架』テレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス
新谷和輝

 チリの映画で「1973年9月11日以降」を扱ったものと聞けば、おおよそのイメージがすぐに思い浮かぶ。アジェンデ政権を破壊したクーデターの衝撃的な爆撃映像、その後の独裁政権下で次々と行方不明となった市民たち、彼らを探して今なお苦しむ遺族......。これらのイメージが定着しているのには、パトリシオ・グスマンが自身のライフワークとして発表してきた作品群で、チリの「被害の歴史」を繰りかえし描いてきた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:36 PM

October 14, 2019

『空に聞く』小森はるか
結城秀勇

 タイトルにある「空」にはふたつの意味が込められている、と映画祭カタログに所収の監督のことばにはある。多少言葉を自分なりに言い換えてみると、ひとつは死者の魂の居所としての空(sky)、もうひとつはこの作品の主人公である阿部裕美さんの声が響く仮想の空間としての空(air)、というようなことではないだろうか。前者には過去が、後者には未来が対応している、などと言えなくもなさそうだが、その辺は見る者それぞ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:55 PM

October 13, 2019

『死霊魂』ワン・ビン
坂本安美

 王兵(ワン・ビン)の『鳳鳴中国の記憶』(2007)を見た体験は、忘れられない、特異な記憶として残っている。ひとりの老女が雪道を歩き、彼女の住む小さなアパートへと入って行き、テーブルの前に腰を下ろす。そして和鳳鳴という名の女性は語り始める。ほぼフィクスの映像の中の彼女の着ている赤い服、その小さな部屋、照明、そしてしだいに暗くなっていく外の光の推移と共に感じられる時間。一度、電話がかかってきて話を中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:23 PM

October 10, 2019

『典座ーTENZOー』富田克也
結城秀勇

 『サウダーヂ』以降、富田克也が監督する長編劇映画は、先行する「リサーチ」の成果物と対になっている。『サウダーヂ』に対する『Furusato 2009』、『バンコクナイツ』に対する「潜行一千里」(『映画 潜行一千里』も書籍の『バンコクナイツ 潜行一千里』もある)。「リサーチ」は出来上がった劇映画のいわばパラレルワールドのようにも見えて、同じ話題が繰り返されたり(『サウダーヂ』のモール建設予定地で目...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:03 PM

September 24, 2019

『旅館アポリア』ホー・ツーニェン@あいちトリエンナーレ2019
隈元博樹

 展示会場である愛知県豊田市の「喜楽亭」は、明治時代後期からつづいた料亭旅館であり、大正末期を代表する町屋建築として知られている。戦前は養蚕や製紙業、戦後は自動車産業と深く結び付く要人のための社交場だったらしいが、戦中は神風特攻部隊である「草薙隊」の若者たちが同市の伊保原飛行場から沖縄戦へと出撃する最後の夜に宿泊した場所でもあったという。現存する建物は1983年に復元移築されたものだが、シンガポー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:05 PM

September 16, 2019

カンヌ国際映画祭2019からパリへ(1) シネマテーク・フランセーズにおけるアルノー・デプレシャン全作特集
坂本安美

5月のカンヌ。ワールド・プレミア上映された作品を発見し、批評家を含めた映画人たちとそれら作品について即座に語り、批評し合う、国際映画祭特有のライブ感溢れる刺激的な体験がそこにある。そして8月の終わり、9月の初め(映画の題名のように!)のパリ。学校や仕事も切り替えの時期、カンヌでお披露目された作品を含めた新作が劇場公開され、新聞やラジオやテレビ、そしてカフェやディナーの席、映画館や道端でもさらに掘り...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:35 PM

September 13, 2019

『暁闇』阿部はりか
隈元博樹

「LOWPOPLTD.」名義の音楽をクラウド上で共有していたサキ(越後はる香)とユウカ(中尾有伽)は、その消失と引き換えに、物々しくそびえ立つビルの屋上とそこに佇むコウ(青木柚)の姿を発見する。その屋上とは、これまで彼らが身を潜めていた日常の狭々しい空間とは異なる、どこか開放的で無機質さを帯びた空間だ。学校の図書館から借りた三浦綾子の『続・泥流地帯』を読んだり、見知らぬ男性に買ってもらった花火に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:07 PM

September 12, 2019

『アラビアン・ナイト』ミゲル・ゴメス
田中竜輔

*2015年の広島国際映画祭及び関連上映企画にて上映されたミゲル・ゴメス監督『アラビアン・ナイト』が、「イメージフォーラム・フェスティバル2019」にて再上映されます。それに際しまして「NOBODY ISSUE45」所収の『アラビアン・ナイト』評を掲載します(再掲にあたって一部改稿を施しています)。同45号には本作についてのミゲル・ゴメス監督インタヴューも掲載、ぜひ上映に合わせてお読みください! ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 PM

September 11, 2019

京都滞在日誌2019@ルーキー映画祭③
隈元博樹

2019年9月8日(日) 連日の疲れから来たものなのか、朝からひどい腹痛に悩まされる。しばらくホステルで安静にしたのち、午前中は市営バスに乗って出町柳の「出町枡形商店街」へ。アーケードをブラブラ歩いていくうちに、大きな「出町座」の看板が目に留まる。おもむろに中へ入ると、中央には書籍の棚に囲まれるようにカウンターキッチンが配備され、劇場は地上階を挟んだ2階と地下1階にあるようだ。今回は出町座での映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:07 PM

September 10, 2019

京都滞在日誌2019@ルーキー映画祭②
隈元博樹

2019年9月7日(土) 遅く起きた朝。身支度を急いで済ませ、近所の「カフェー天Q まつ井食堂」で昼食を摂る。この食堂も千本通りに点在する町屋をリノベーションした店舗で、正面の引き戸を開けるやいなや、目の前にはDJブースやPA機器、アンプ一式が並んだスペースに二人掛けのテーブルやソファが並んでいる。おそらく日中は定食屋、夜はライブハウスに様変わりするのだろう。見る見るうちにお客さんも多くなり、厨房...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:00 AM

September 8, 2019

京都滞在日誌2019@ルーキー映画祭①
隈元博樹

2019年9月6日(金) もう何年ぶりかの京都。新横浜駅から新幹線「こだま」で約3時間の移動を経て、京都駅に着いたのが午後3時ごろだった。先週訪れた帰省先の福岡もひどい暑さだったけれど、ここ京都も引けを取らないほどの残暑に見舞われている。秋と言うにはまだまだ程遠いようだ。今回の滞在はグッチーズ・フリースクールと8/23にリニューアルしたばかりの京都みなみ会館による「ルーキー映画祭」なので、「初心、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:59 PM

September 1, 2019

『寝ても覚めても』濱口竜介@YCAM
渡辺進也

 上映前のレクチャーで、YCAM(山口情報芸術センター)で通常映画の上映をしている(ミニシアターのような)Cスタジオと、映画の上映のための施設ではなく、むしろ舞台などがメインで使う広い空間である(爆音映画祭の会場でもある)Aスタジオの2ヶ所で『寝ても覚めても』のいくつかの場面を聴き比べる。  Cスタジオがスクリーン正面、右、左。サイドの壁、重低音用など6~7個くらいのスピーカーを使っているのに対し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:01 AM

August 31, 2019

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」』クエンティン・タランティーノ
千浦僚

 いま自分が観ているこの映画は何であろうか、と思いつつ、散りばめられたというよりもその無数の細部に全体の重量を担わせるようなネタの連打、乱れ撃ちと、いくつかのシーンにおいてスクリーンにみなぎる映画らしい空間、時間、ムードによって楽しく観た。あっという間の百六十分。幾分ダラッとした穏やかな満足で、観終えるやいなやもう一回観てもいい気分。  しかし、もしそうしたとしてもおそらくこの『ワンス・アポン・...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 AM

August 28, 2019

『帰れない二人』ジャ・ジャンクー
坂本安美

 昨年、2018年カンヌ国際映画祭では、20世紀に立ち戻り、そこから現在へと遡及する作品が何本か見られた。『COLD WAR あの歌、2つの心』、『幸福なラザロ』、もちろん『イメージの本』もその一本として数えられるだろう。すべてが平面の上に浮かんでは消えていくような現在において、20世紀というすでにはるか遠くに思える時代に立ち戻り、21世紀との間にどうにか時間的遠近法を見出そうとする試みであるかの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:13 PM

August 17, 2019

『間奏曲』ダグラス ・サーク
結城秀勇

 8/16、アテネ・フランセ文化センターでの「中原昌也への白紙委任状」のトーク用に調べたことを簡単にメモしておく。 ・基礎情報 1. 1957年製作のこの作品は、以後サークのフィルモグラフィとして『翼に賭ける命』『愛する時と死する時』『悲しみは空の彼方に』という傑作群を残すばかりという監督として脂の乗り切った時代の作品にもかかわらず、研究書等でもきちんと触れられることが少なかった。アメリカ本国にお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

August 14, 2019

『ワイルドライフ』ポール・ダノ
梅本健司

 初雪が降り出す中、停車していたバスが出発する。ジョーにとって、初雪は山火事の消火に行っていた父(ジェイク・ギレンホール)の帰還を知らせる合図である。初雪を見た彼は、いてもたってもいられなかったのだろう、勢いよく、バスとは逆の方向に走り去る。カメラは、急ぐ彼とは打って変わってゆっくりとしたパンでそれを追う。そのゆっくりさがいい。速くカメラを動かさずとも、またカットを割らずとも、カメラを構えれば、あ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:12 AM

August 5, 2019

『彼女のいた日々』アレックス・ロス・ペリー
渡辺進也

 これだけ配信サイトがあると、いつ、どこのサイトでどの作品が配信が行われているのかが全くわからないでいる。以前みたいにDVDスルーだったらTSUTAYAの新作コーナーに行けばそこで追うことができていたけれど、それが配信になってしまうと、新しくリリースされていてもまあ気がつかない。僕の場合、ずっとみたいと思っていてみれない監督のひとりにアレックス・ロス・ペリーというアメリカの監督がいて、海外版のソフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:47 AM

July 21, 2019

第30回(2019年)マルセイユ国際映画祭(FID)報告
槻舘南菜子

 2019年7月9日から15日まで開催されたマルセイユ国際映画祭は、今年30周年を迎えた。35カ国以上から125本の作品が選ばれ、フランスにおける中規模映画祭として、圧倒的な国際性を有するジャンルの垣根を越えた豊穣なプログラムは今年も健在だ。記念の年を祝って、映画祭に所縁のある32人の監督の手がける40秒から4分の短編によって編まれたオムニバス映画が製作され、ラブ・ディアズ、クレモン・コギトール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:35 AM

July 18, 2019

『さらば愛しきアウトロー』デヴィッド・ロウリー
梅本健司 坂本安美

Just living  ひとりの男の背中が映る。奥では女が札束を鞄に詰め込んでいる。慌ただしいタイマーの音や警察の通信機から聞こえる会話とは異なり、彼はいたって落ち着いてる。女が札束を詰め終わると、男はベルを鳴らし、銀行を後にする。彼の顔は見えない。彼の動作だけに注目すれば、それが強盗なのだということさえ判らないだろう。そのように彼はいつも扉を開け、その人の前に立ち、その人を見つめ、お金を、車を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:47 PM

July 17, 2019

『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清
結城秀勇

 それこそ某バラエティ番組のタイトルのように「世界の果て」と呼びたくなるような、ウズベキスタンの景色。あまりに巨大すぎる人造湖や、どこまでも広がる平原、人でごった返すバザール。だがぼんやりと見ているうちに思うのは、それが「世界の果て」まで来たからこそ目にすることができるありがたい映像として撮られているかと言えば、まあそうではないということだ。  劇中で撮影されている16:9サイズの番組用映像と比較...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:16 PM

July 14, 2019

中山英之展 , and then@TOTOギャラリー・間
隈元博樹

 会場の「ギャラリー・間」には、展示と上映を行うための3つの空間が存在する。3Fの展示空間には中山英之がこれまでに手がけた「2004」「O邸」「道と家」「弧と弦」「mitosaya薬草園蒸留所」「かみのいし」にまつわる参考文献やスケッチ、図面、写真、模型が縦横に広がり、台座の側面や壁面には自身の着想と考察を交えた直筆のキャプションが施されている。また外のテラスには、ベニヤ板に石の表面がプリントされ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:57 PM

July 5, 2019

『嵐電』鈴木卓爾
渡辺進也

 嵐電の駅に併設されたカフェで、8ミリの上映会が行われている。その中では一般の方が撮られた嵐電の姿が上映されていて、それが途中から『嵐電』の登場人物たちの姿が映る劇中のものへと変わってゆくのだが、それらが自然と並んでいることにすごく驚かされる。それは、単に各々の映像の質が似ているからということだけではなくて、作品と関係ないところで撮られた映像と作中の映像とが同じように並んで上映されていても不思議で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:50 AM

June 28, 2019

ギィ・ジル、感情の真実を追い求めて
ジュリアン・ジェステール

今回の日本でのギィ・ジル特集開催を何年も前から望み、提案し続けてくれ、そしてついに今年3月、第1回「映画/批評月間」開催のために来日した仏日刊紙「リベラシオン」文化欄チーフ、映画批評家のジュリアン・ジェステール。長らく評価されずに忘却、あるいは無知の中に葬られていたジルの作品が、2014年にようやくシネマテーク・フランセーズにて全作特集上映された際の同氏の記事、「ギィ・ジル、感情の真実を追い求めて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:26 PM

June 27, 2019

『幻土』ヨー・シュウホァ監督インタヴュー「Outside to Outside」

Outside to Outside 大規模な埋め立て事業によって、国土の拡張を図り続けるシンガポール。ヨー・シュウホァ監督の長編2作目となる『幻土』(げんど)は、そんな母国を舞台に、現場で働く移民労働者の失踪事件と、その真相に迫る刑事との混沌とした夢現な状況を描いている。刻一刻と変容する都市の景観、海岸沿いを覆うネオンの照射、そして異国の地で繰り返される日常の搾取に対し、いまだ見ぬ夢の場所を想像...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:43 PM

June 20, 2019

『スケート・キッチン』クリスタル・モーゼル
結城秀勇

 実在するNYの女性スケーターグループが自らを演じる映画、miu miuのショートムービープロジェクトから長編化された作品、ラリー・クラークの『KIDS/キッズ』が引き合いに出されるような「若者のいま」を切り取った作品......。まあなんかとにかくオシャレそう、くらいに考えていた前情報は、カミール(レイチェル・ヴィンベルク)がVANSのスニーカーと微妙な丈のショートパンツにインしたTシャツ、そし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:33 AM

June 8, 2019

『宝島』『七月の物語』ギヨーム・ブラック
結城秀勇

 ギヨーム・ブラックのこの二本の作品を(とはいえ『七月の物語』はさらに二本の短編からなるのだが)並べて語りたいと思ったのは、『七月の物語』の前半をなす「日曜日の友だち」と『宝島』が同じセルジー=ポントワーズのレジャーセンターというロケーションを共有しているから、ということももちろんあるのだが、それ以上の理由もある。アンスティチュ・フランセ東京での『宝島』上映後のトークでブラックは、『宝島』に登場す...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:54 PM

June 7, 2019

『ガーデンアパート』石原海(UMMMI.)
隈元博樹

 「庭付きのアパート」といったタイトルの由来は、本編を見終えたあともハッキリとわからないところではある。ただ、ひとまずこの映画に言えることは、居住空間を含めた登場人物たちの周囲には、彼らが横になるための場所がそこかしこに点在しているということだろう。それは妊娠中のひかり(篠宮由香利)と恋人の太郎(鈴村悠)が住む自宅のベッドをはじめ、彼の叔母の京子(竹下かおり)が暮らすアパートの寝室、酒瓶の並んだバ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:23 PM

June 4, 2019

『ナンバー・ゼロ』ジャン・ユスターシュ
結城秀勇

 モノクロ・スタンダードのざらついた画面で、ふたつのカメラ位置が時折切り替わる以外にはほとんど画面上の映像に変化らしい変化が起こらないとさえ言えるこのフィルムを見ていると、にもかかわらず、部分部分でカラーのイメージが思い浮かんだり、動きのある映像が思い浮かんだりする。たとえば、話がペサックの「薔薇の乙女」という祭りに及ぶとき、「ペサックの薔薇の乙女79」に収められたカラー映像の存在はそうした作用に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:20 PM

June 1, 2019

『ECTO』渡邊琢磨
隈元博樹

 客席とスクリーンのあいだに現れた13名の弦楽奏者と、彼らを指揮する渡邊琢磨の姿が捉えられたとき、トーキーシステムの確立前に行われていた劇場型の上映形態をふと夢想する。世界初のトーキー映画が1927年公開の『ジャズ・シンガー』とするならば、それ以前に上映されていた映画はサイレントであり、当時の人々はこのような映画体験を求めて劇場へと足を運んでいたのだろうかと。ただし、客席とのあいだから奏でられるト...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:31 PM

May 27, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(6) 閉幕に寄せて
槻舘南菜子

 第72回カンヌ国際映画祭が5月25日に閉幕した。若手監督が多くノミネートした昨年に比べるとやや保守的、映画史を揺るがすような力強い作品に欠けたセレクションではあったものの、受賞結果について述べるのなら、そこにはこの映画祭にとって革新的とも言える面持ちが並んだ。審査委員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イリニャイトゥは審査について、政治的なメッセージは一切関係なく、純粋に映画としていかに評価できるかが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:25 PM

May 26, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(5) 四人の女性監督たち
槻舘南菜子

  昨年(2018年)のカンヌ映画祭では、は映画産業での男女機会均等を求め、審査委員長ケイト・ブランシェットを含む82人の女性(この数字は、カンヌ映画祭誕生から昨年までにノミネートした女性監督の数に由来する、対して男性監督の数は1688人)がレッドカーペットを歩くという象徴的なイベントが開催された。今年もまたフランス女性監督の草分け的な存在であり、ジェーン・カンピオンとともに女性監督として唯一パル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:09 PM

May 22, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(4) あるものはあるーー『Fire will come』オリヴィエ・ラックス(「ある視点」部門)
槻舘南菜子

 映画祭という場では、映画の有する社会的な役割があたかも「同時代の特徴を映す」ことだけ、あるいは「社会の陰部を告発する」ことだけであるかのような作品が溢れてかえっており、そのことはこのカンヌも例外を免れてはいない。しかしそのような傾向において、先立って紹介した『Liberté』(アルベルト・セラ)と並び、『Fire will come』(オリヴィエ・ラックス)はそれに真っ向から抵抗した作品のひとつ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:39 PM

May 21, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(3) 『Liberté』アルベール・セラ
槻舘南菜子

『Liberté』アルベール・セラ  今年の「ある視点」部門でのセレクションを見わたしてみると、昨年から引き続き、新人監督の処女作、もしくは第2作目が全体のほぼ半数を占めており、併行部門となる「批評家週間」と同様に若手発掘が主たる目的となるような趣である。しかしながら一方で同部門では、観客を挑発し映画の枠組みを揺るがすような先鋭的、実験的な作品は忌避される傾向にもある。そんななか、本年のセレクシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 PM

May 17, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(2) 『Les Misérables』ラジュ・リ
槻舘南菜子

 今年のコンペティションには、アフリカにルーツをもつ監督による2作品、ラジュ・リ『Les Misérables』とマティ・デイオップ『Atlantique』がノミネートした。両作品とも長編以前に同タイトルの短編を制作しているという共通点はあるが、両者の映画に対するアプローチはまったく異なっている。  ラジュ・リィは、アフリカのマリに生まれ、両親とともに幼い頃にフランスに移住し、初長編から彼の作品の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:02 PM

May 16, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(1) 開幕
槻舘南菜子

   第72回カンヌ国際映画祭が5月14日に開幕した。若手監督を中心に大きく刷新された昨年のセレクションと比較すると、今年のそれはいささか反動的といえる。開幕上映作品であるジム・ジャームッシュ監督『The Dead don't Die』を筆頭に、ほとんど機械的にコンペティション入りを果たしたかのようなダルデンヌ兄弟(『Young Ahmed』)、ケン・ローチ(『Sorry We Missed ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:06 PM

May 14, 2019

『救いの接吻』フィリップ・ガレル
池田百花

 愛について語り合い苦悩する男女。愛とは、人生とは、物語とは......。フィリップ・ガレルの映画では、そんな会話をとめどなく続ける人々の姿がこれまで何度も描かれてきた。『救いの接吻』でも、映画監督の夫が、女優である妻をモデルにした役を他の女優に演じさせようとしたことから、ふたりの愛は終わりの危機を迎え、彼らは苦悩し、愛や人生、物語についての対話が繰り返される。ここで映画監督の夫を演じているのはフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:54 PM

May 5, 2019

『嵐電』鈴木卓爾
隈元博樹

 嵐山本線(四条大宮駅−嵐山駅)と、北野線(北野白梅駅−帷子ノ辻駅)からなる「嵐電」(らんでん)こと京福電気鉄道は、京都市内を運行する路面電車のことである。「モボ」と呼ばれる車形に京紫やブラウン、また時として江ノ電カラーに彩られた小ぶりな車輌は、当然ながら地元の人々をはじめ観光客の交通網として京都の市内をひた走るのだが、いっぽうで本作に登場する嵐電は、人々の日常の一部を蠢くひとつの物体のようにも見...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:17 PM

『ドント・ウォーリー』ガス・ヴァン・サント
結城秀勇

 アメリカ映画で「禁酒会」の描写としてよく見かけるAA(アルコホーリクス・アノニマス)という団体には、「12のステップ」という方法論があるということが本作でも触れられている。己の無力さを認める、という段階からはじまる12のそれは、ステップという言葉通り、順を追ってひとつづつ到達しなければならない状態である。ひとつひとつの段階の難易度の上昇度は一定ではない(というか、それとそれ、ほとんど一緒じゃん、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:18 PM

May 1, 2019

フランス・キュルチュール「ラ・グランド・ターブル」2019年 4/15(月)放送
ジャン=リュック・ゴダール インタヴュー 第一部

 日本では(幸運にも!)4/20(土)に劇場公開されたジャン=リュック・ゴダールの最新作『イメージの本』、フランスでは、昨年のカンヌ国際映画祭で上映されたほかは、今のところテレビ局アルテで放映されるのみである。その放映日の4日前、2019年4/15(月)、公共ラジオ放送局フランス・キュルチュール(https://www.franceculture.fr/)の文化番組「ラ・グランド・ターブル」にてジ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 PM

April 29, 2019

「次元のあいだ/Between Dimensions」石場文子
橋爪大輔

 何枚もの写真が壁にかけられている。ある1枚の写真には、物干し竿にかけられたピンチハンガーが挟む、靴下やハンカチーフが記録されている。このような日常的光景を写した《Laundry #6》には、靴下が黒く縁取られていること以外、何ら変わったところは見受けられない。翻って、一般的な写真に存在する客観性が、ここでは薄められている、ともいえるだろう。本作は石場文子によって制作された。彼女は、物を黒く縁取る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:02 PM

April 20, 2019

『僕らプロヴァンシアル』ジャン=ポール・シヴェラック
マルコス・ウザル

潜在的なる上昇 決然とした叙情性によって、ジャン=ポール・シヴェラックはパリに上京してきた学生の周囲に集まる情熱的な映画の学生たちの集団を描く。若者たちの理想についての非常に繊細な肖像画。 『僕らプロヴァンシアル』は、何世紀も前から、フランスの若者たちが、毎日、ほぼ同じような興奮と同じような幻想を抱いて行ってきた、きわめて小説的、ロマネスク的である次のような場面で始まる。故郷(この場合はリヨン)...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:31 AM

April 19, 2019

『ユニコーン・ストア』ブリー・ラーソン
梅本健司

 『キャプテン・マーベル』や初監督短編の『Weighting』といった作品のブリー・ラーソンを見ていると、過去を背負いながらも、素早く大胆に動き回る様が印象的だと思った。ただ、それ故に彼女は周囲の人間を置いてけぼりにし、孤独に向かっている気もする。彼女の長篇処女作である『ユニコーン・ストア』においてもまた、やはり素早く大胆に動き回る彼女が主演をつとめている。
   冒頭、幼い少女の映像がいくつか流...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:58 PM

『殺し屋』マリカ・ベイク、アレクサンドル・ゴルドン、アンドレイ・タルコフスキー 
千浦僚

 すべてをあきらめ坐して死を待つことへの暗い欲望と、それに対する反発としてようやくあらわれる生への希求。  ソヴィエト国立映画大学での課題として、1956年に当時24歳のアンドレイ・タルコフスキーがマリカ・ベイク、アレクサンドル・ゴルドンという学生と共同で監督した、約二十分の短編映画『殺し屋』には既に後年タルコフスキーが反復し深化させる主題が含まれているようにも見える。  日本ではこの短編は02年...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:24 AM

April 17, 2019

『愛がなんだ』今泉力哉監督インタヴュー

関係の現状維持を目的にしてしまう人の物語に魅かれる 「体裁とか、不謹慎とか。友情とか、家族とか。生活とか、夢とか。社会とか、身分とか。そういう類いのものは"好き"という気持ちの前では無力だ」──今泉力哉の長編第三作『こっぴどい猫』の主人公が書いた小説『その無垢な猫』にあるこの一節は、角田光代の原作を映画化した彼の最新作『愛がなんだ』の主人公テルコのためにあるのかもしれない。職務を怠慢でクビになろ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:57 PM

April 14, 2019

『反復された不在』ギィ・ジル
池田百花

 «Le temps, le temps, le temps...»この物語の主人公であるフランソワの口から漏れ出す「時」という言葉。彼は過ぎ去っていく「時」に囚われ翻弄されていて、すべてが自分の手からすり抜けていってしまい、自分がどこに向かっているのかわからないと言う。人々の顔のクロースアップが多用されているように、街で見かける顔や体をすべて自分のものにしたくなると彼が言うのは、自分の中で失われ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:18 AM

April 12, 2019

『バンブルビー』トラヴィス・ナイト
隈元博樹

 はるか彼方の惑星を巡るロボットたちの宇宙戦争が、結局は地球上での肉弾戦に落ち着くのであれば、これまで「トランス・フォーマー」シリーズを牽引してきたマイケル・ベイの息吹を少なからず感じるだろうし、未知なる生命体とティーンエイジャーたちとの密かな交流が描かれるならば、ベイとともにクレジットを連ねてきたスピルバーグの影をそこに見出すこともできるだろう。しかし、『バンブルビー』が過去のシリーズと一線を画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:48 AM

『ワイルドツアー』三宅唱
渡辺進也

 山口情報芸術センター[YCAM]のバイオラボを舞台に、山口市の周辺の草木を集めるワークショップが行われる。スタッフの「もしかしたら新種が見つかるかもしれないよ」という言葉に、突然ワークショップの行われている一室の世界が広がりはじめる。採取した草木がDNA鑑定にかけられて解析が進められると、そこで一気に身の回りにあるものが最先端の技術とつながる。身の周りにあるものがもっと大きな世界に、そして最先端...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:47 AM

April 6, 2019

『沈没家族 劇場版』加納土
千浦僚

 粗さも目につくし、私的ドキュメンタリーの過去有名作に比べればマイルドだと思ったが、多くのひとに観られてほしいドキュメンタリーだ。  簡単に説明すれば、シングルマザーが子育てするのに保育人を募り、その呼びかけで集ったひとたちが共同生活をし、ちゃんと子どもも育った。その育った子本人が母親と当時のその生活を捉えてみた、というドキュメンタリーだ。   出来事の起こりは、本作の監督加納土氏が生まれたこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:43 AM

April 5, 2019

『運び屋』クリント・イーストウッド
結城秀勇

 あまりにも一瞬で12年という時が過ぎて、孫の少女が大人の女性に変わったほかは、俳優たちの身体すら時の流れに追いつけなかったかのようだ。いくら子供の成長より遅いとはいえ、さすがに78歳と90歳はもうちょい違うんじゃねえか、とも思うが、時は勝手に過ぎ去っていくけど人間はそうそう変わらないということだけを念押しするかのように、あの意味不明な「ジェームズ・ステュアートに似てる」発言は繰り返される。  時...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:13 PM

April 3, 2019

『ジェシカ』キャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネル
結城秀勇

 「オーファン」と呼ばれるはぐれ者たちは、その呼び名の通り孤児であるがゆえに自らの内にある暴力性に抗うことができずに、犯罪を繰り返すのだという。どこからともなく現れたジェシカと呼ばれる女性が彼らをまとめあげ、「オーファン」たちを処刑するためにつくられた「特殊部隊」に抵抗する組織をつくりあげたのだという。こうした設定のようなものはボイスオーバーによってさらりと語られるのだが、いったい「オーファン」た...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:09 PM

April 2, 2019

『グッドバイ』今野裕一郎
三浦翔

 分断された川の向こう側に男がいる。その男がこちら側に戻ってきたときには記憶を失っている。あるいは電話の向こうにいる相手には見えないはずの風景を伝えようとする女たち。分断された川に限らない、「ここ」と「よそ」を思考することが『グッドバイ』のテーマではあるだろう。  それは今野裕一郎がバストリオというパフォーマンスユニットで試みてきたものでもあった。『わたしたちのことを知っているものはいない』(20...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:34 PM

April 1, 2019

『ジェシカ』キャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネル
池田百花

 閑静な住宅街に建つ一軒の家と、血を流した青年、そして彼の救護に駆けつける戦闘服姿の一団。そんな異様な光景とともに物語は幕を開け、穏やかな女性の声によってその背景が語られていく。そこでは、親の愛情を知らずに育ち心に「怪物」を抱えた孤児たちが大人たちから命を狙われていて、彼らのなかには映画の冒頭で登場する青年のように絶望して自ら命を断とうとする者もいる。社会に対して危険分子となりかねない孤児たちの命...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:27 PM

March 30, 2019

三宅唱+YCAM「ワールドツアー」@第11回恵比寿映像祭 三宅唱インタビュー

スペースツアー  3月30日より最新長編『ワイルドツアー』が公開される三宅唱。『ワイルドツアー』と同じく山口情報芸術センター(通称「YCAM〔ワイカム〕」)との共同制作から生まれたインスタレーション「ワールドツアー」が2月8日〜24日に開催された第11回恵比寿映像祭「トランスポジション 変わる術」にて展示されていた。両者には劇映画とインスタレーションという違いはあれど、互いに重なり合う要素があり、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:11 AM

March 26, 2019

『スパイダーマン スパイダーバース』ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
結城秀勇

 オープニングのSONYのロゴがインクのドット状に分解して散っていくところで、すでになんだかアガる。「スパイダーマン」シリーズに限らずマーベルのロゴが出るときの、あのアメコミ独特のインクのドット感が気持ちがいいのってなんだろうと思っていた。紙の手触り、インクの匂いへのただのノスタルジーなのだろうか(ついでにマーベルユニバースへの統合に向かう流れの前に消えていってしまったフィルムの粒子へのノスタルジ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:16 AM

March 23, 2019

『35杯のラムショット』クレール・ドゥニ
隈元博樹

 パリの公共鉄道「RER」の運転席から映し出される郊外の風景と、幾重にも蛇列する複数の線路が並ぶオープニングの様相は、この『35杯のラムショット』に漂う複雑さと、ある種の脆さをそこはかとなく暗示している。だからこの映画が父と娘の物語であることは事前に知り得ていたものの、父のリオネル(アレックス・デスカス)と娘のジョゼフィーヌ(マティ・ディオブ)が暮らすアパルトマンでの冒頭のやりとりから戸惑ってしま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:36 AM

March 17, 2019

『小さな声で囁いて』山本英監督インタヴュー

光を観る 映画は幾度も旅を描いてきたし、いつも風景が問題になる。山本英もまた熱海という観光地に向き合うのだが、山本の描く旅にはそもそも目的がはっきりとせず、沙良(大場みなみ)と遼(飯田芳)の過去に何があったのかもほとんど分からない。ふたりは未来を見失った放浪者だろう。しかし、熱海の風景は観光地としての夢を見させる力を失っている。代わりにあるのはいくつもの過去で、自分たちの過去すらもが朧げなふたり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:41 PM

March 14, 2019

『月夜釜合戦』佐藤零郎
結城秀勇

 一見釜のように見えるそれは、実は盃なのである。なので米を炊くのにも使わないし、なにかを茹でることもない。ところが本当は盃だから米を炊かないのかというとそれだけでもない。この映画にはちょっと見たことのない量の釜が山のように登場するが、それら本物の釜たちも基本的には米を炊くためには使われない。釜のような盃、が紛失したことによって、同じ見た目の釜たちの交換価値は本来の使用価値に対して異常に高騰し、その...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 PM

March 12, 2019

『ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像』をめぐって(「映画/批評月間〜フランス映画の現在〜」特集より)
坂本安美

「映画/批評月間〜フランス映画の現在〜」は、とにかく今見るべき面白い映画、他の劇場ではなかなか見られないフランス映画を紹介するとともに、「映画」と「批評」の弁証法的関係、そしてその秘められた多くの可能性を考察すべく企画された。その趣旨を確認し、主催者としても気を引き締めて特集をスタートするために、長年に渡り「批評」の醍醐味を身をもって示し、数多くの映画人たちを育て、発掘してきたジャン・ドゥーシェ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

March 11, 2019

『20年後の私も美しい』ソフィー・フィリエール
結城秀勇

 ふたりの女優がひとりの女性の異なる年齢を演じる映画だと聞いていたから、ひとりが現在にあたる時代を演じ、もうひとりが同じ人物の過去、あるいは未来を演じているのかと思っていた。しかし、『20年後の私も美しい』という映画におけるふたりのマルゴーは、まったく同一の時代を同時に生きている。さらには、ふたりを同一人物だと断言できる決定的な証拠はなにひとつ劇中で提示されない。  それでも、サンドリーヌ・キベル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:03 PM

March 7, 2019

挑戦の場としてのフランス映画――「映画/批評月間~フランス映画の現在をめぐって~」によせて
ジュリアン・ジェステール

これまで20年近く続けてきた「カイエ・デュ・シネマ週間」をあらため、今年より「映画/批評月間~フランス映画の現在をめぐって~」と題し、同雑誌を含みより多くのフランスのメディア、批評家、専門家、プログラマーらと協力し、最新のフランス映画を紹介する。そして特集名が示すよう「映画」と「批評」の関係にスポットライトを充てられるイベントにしていきたいと思う。それこそフランス映画の醍醐味であり、ひいては映画全...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:50 PM

February 21, 2019

《ペーター・ネストラー監督特集in京都》2018年12月5日@京都・出町座

《ペーター・ネストラー監督特集in京都》、最後に掲載させていただくトークは、2018年12月5日に京都・出町座での『良き隣人の変節』上映後に行われたトークです。『良き隣人の変節』は第二次世界大戦中、15歳でポーランド東部ソビブル絶滅収容所に送られたトーマス・"トイヴィ"・ブラットが、年月を経て再び収容所跡地、逃亡した際のその道のりを訪れます。 いまだヨーロッパで大きな問題としてあるナチ協力の問題...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:18 AM

February 17, 2019

『王国(あるいはその家について)』草野なつか
結城秀勇

 タイトルにある「王国」とは、直接的には、幼い頃のアキ(澁谷麻美)とノドカ(笠島智)がある台風の日にシーツと椅子で作り上げたお城と、その周りに広がるはずの想像上の空間を指す。それから20年あまりを経た彼女たちの関係性にも未だ、あの日の「王国」は影響を与え続けている。少なくともアキはそう考えている。しかも、それがただアキのひとりだけの思い込みだと断じることができないのは、「王国」のせいであろうとなか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 PM

February 13, 2019

ガブリエラ・ピッシュレル監督インタビュー
常川拓也

some kind of hope in the pessimistic world ボスニア出身の母とオーストリア出身の父を持つガブリエラ・ピッシュレルは、かつてクッキーを箱詰めする工場で働いていた。だからこそ、その経験や価値観を指針とし、映画に正当な労働者の視点を持ち込んでいる。また同時に、彼女は「ロッキー・バルボア」のような度胸のあるへこたれない女性主人公を創出したいと語っていた。それらは、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:15 PM

《ペーター・ネストラー監督特集in京都》2018年12月4日@同志社大学寒梅館クローバーホール

今回、掲載させていただくのは、2018年12月4日に同志社大学寒梅館クローバーホールでの『外国人1 船と大砲』、そして『空洞人』の上映後に行われたトークです。テレビシリーズの1本として作られた作品と現時点で監督の最新作となる短編作品をもとに、このトークでは、ネストラー監督の映画作りの方法、そしてドキュメンタリーとフィクション映画とはといった内容が語られます。 渋谷哲也 ペーター・ネストラー監督は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:27 PM

February 9, 2019

『ワイルドツアー』三宅唱
結城秀勇

 飛び立つスズメとその鳴き声、水たまりに張った氷、フェンスと道路の間に挟まってカサカサと震える枯葉、川に至る階段、高架下で聞こえてくる「トントントントントン、さあきたよ、みぎみぎひだり......」という少年の声。冒頭、立て続けに配置される断片的な映像は、いったい誰の視点なのだろう。当たり前に考えれば、木々の葉が揺れる映像から、そこに向けてスマートフォンのカメラを構えるうめ(伊藤帆乃花)のカットへ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 PM

February 8, 2019

『ミューズ』安川有果(『21世紀の女の子』より)
隈元博樹

 『きみの鳥はうたえる』を観て以来、石橋静河の二の腕がとても気になっている。僕(柄本佑)や静雄(染谷将太)の肩にだらりと着地する、あの緩やかな感じ。また、衣服の袖先から描かれる、しなやかな上腕のライン。しかし、その興味の矛先は、彼女本来が持つ肉質な部分から来るものではなく、透き通るような肌の色艶に裏打ちされたものでもない。最もこの身体の一部に惹かれてしまうのは、目に見える実態としての有り様よりも、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 PM

《ペーター・ネストラー監督特集in京都》 2018年12月3日@京都・出町座

2018年11月末に来日したペーター・ネストラー監督が、京都で行なったトークショーを、今回複数回に渡って掲載させていただけることになりました。 まず掲載させていただくのは、12月3日に京都の映画館・出町座での『ミュールハイム(ルール)』、『時の擁護』、『アーノルト・シェーンベルクの《映画のための伴奏音楽》入門』上映後に行われたトークショーです。この3作品はストローブ=ユイレ関連作品として組まれてお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:25 AM

February 3, 2019

『ヒューマン・フロー 大地漂流』アイ・ウェイウェイ
中村修七

 美術家のアイ・ウェイウェイが監督を務めた『ヒューマン・フロー 大地漂流』のような映画を見ると、居心地の悪い気持ちになる。なぜなら、一種の「社会正義」を表した映画に対して、少なからぬ苛立ちを覚えるとともに、批判的な態度をとらざるをえないからだ。実のところ、アイ・ウェイウェイに対する筆者の見方は少し複雑だ。彼に対しては、時々の情勢に応じて器用に立ち回る「政治屋」のようなところがあるのではないかとの疑...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:45 AM

February 2, 2019

『ミスター・ガラス』M・ナイト・シャマラン
結城秀勇

 これを見るために『アンブレイカブル』を見直したのだが、そこで得た教訓は、何事も程度の問題だよなということだ。イライジャ=ミスター・ガラス(サミュエル・L・ジャクソン)は言う、「コミックのヒーローたちの能力は誇張されてはいるが、それは本来人間が本能として持つものだ」と。つまり、彼の極度に傷つきやすい身体も、デイヴィッド=オーヴァーシーアー(ブルース・ウィリス)の極端にケガも病気もしない身体も、程度...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:12 AM

January 20, 2019

『あなたはわたしじゃない』七里圭
結城秀勇

 こうしてこの作品についてなにかを書こうとするときにすでに頭を悩ませているのは、作品のタイトルは『あなたはわたしじゃない サロメの娘 | ディコンストラクション』と副題込みで書くべきなのかどうかということだ。あった方がコンテクストはよくわかるが、しかし監督のオフィシャルサイトでは副題なしで表記されていて、だから正式な表記として、「サロメの娘 | ディコンストラクション」部分を前々作の「(in pr...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:54 PM

January 17, 2019

『スローモーション、ストップモーション』栗原みえ
隈元博樹

 この映画を一言で言い表すならば、東南アジアを訪れた作家自身の個人的な放浪旅の一途にすぎないのかもしれないし、そこで暮らす数年来の友人たちを記録したホームビデオだと説明できるのかもしれない。しかし、こうした一見閉塞的な要素を孕みそうな題材や内容であるにもかかわらず、『スローモーション、ストップモーション』に風通しの良さを覚えるのは、変わりゆくものや変わることに対する栗原みえの素直な反応によって、無...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:21 PM

『マディ・トラック』バーナード・シェイキー
結城秀勇

"Muddy Track is not a documentary, I don't know what the fuck it is." (ニール・ヤング)  ニール・ヤングの言う通り、『マディ・トラック』がいったいなんなのかはさっぱりわからない。だが上記の発言にもかかわらず、というか上記の発言ゆえにと言うべきか、ニール・ヤングは1995年のインタビューで「もっともお気に入り」...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:40 PM

January 13, 2019

『Rocks Off』安井豊作
結城秀勇

 灰野敬二が鳴らすアップライトピアノは、前板が取り外されてその中身をむき出しにしている。暗がりの中でわずかに長い髪が確認できるだけでその顔さえ見ることもできない演奏者とはうらはらに、ピアノはその内部を映画の観客の眼前にさらけ出し、音が作り出される過程を可視化する。しかしそれによって逆説的に、アップライトピアノは、演奏者が叩いた鍵盤がハンマーを動かし、ハンマーが弦を叩くことによって音が鳴る、という装...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:18 PM

January 8, 2019

『マチルド、翼を広げ』ノエミ・ルヴォウスキー
池田百花

 奇妙な言動を繰り返す母としっかり者の小学生の娘マチルド。母は家を空けることが多く、学校でも周囲になじめないマチルドはいつも一人で過ごしていたが、ある日彼女のもとに言葉を話すフクロウがやってくる。大人であることや母親でいることから逃れようとするかのように常に逃げ去りさまよう存在である母と、そんな母の娘として囚われの身となっているマチルド、そしてそこに訪れるフクロウもまた籠の中に囚われている。フクロ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:54 AM

January 2, 2019

『天使の顔』オットー・プレミンジャー
千浦僚

 フィルムノワールや犯罪メロドラマにおける、最強の悪女、ファムファタルは誰だろうか。  『マルタの鷹』のメアリー・アスター......『深夜の告白』、『呪いの血』のバーバラ・スタンウィック......『哀愁の湖』のジーン・ティアニー......『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のラナ・ターナー......『過去を逃れて』のジェーン・グリア......『上海から来た女』のリタ・ヘイワース......『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 PM

December 22, 2018

『犯罪王ディリンジャー』マックス・ノセック
千浦僚

......そもそもわれわれは信仰の対象とするほど多くの「B級映画」を見てはいないのだ。いったい誰が、マックス・ノセックを懐古しうるだろう。 蓮實重彥『ハリウッド映画史講義』  マックス・ノセック監督『犯罪王ディリンジャー』(45年)についていくつかのことごとを記す。  本作は1933年、34年にアメリカ中西部で銀行強盗や脱獄を繰り返したギャング、ジョン・ハーバート・ディリンジャ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 PM

December 15, 2018

『モスクワへの密使』マイケル・カーティス
千浦僚

 最近観ることのできた映画、マイケル・カーティス監督の『モスクワへの密使』(1943年)についていくつかのことごとを記したい。  が、そのまえに聴くたびにムカッとくるDA PUMPの曲"USA"についてちょっと書く。もうこの曲の、最初に意味を成した歌詞になる"オールドムービー観たシネマ(シネマシネマ)"というところでアホかっ!とキレているのである。どんだけお前らがアメリカ映画を観たっちゅうねん。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:34 AM

『突撃!O・Cとスティッグス/お笑い黙示録』ロバート・アルトマン
結城秀勇

 悪いことは言いません。わりと有名なMGMのライオンを見るだけでも損はなし。映画開始5秒で一気に腰砕け。なにやってんだ、ライオン......。  一度砕けた腰はなかなか戻らない。誰がどう聞いても「ピ◯クパンサー」だよなっていうBGMに合わせてシュワブ家の庭に侵入してくるO.C.とスティッグス。焼いてるロブスターを骨にすり替えたり、シュワブ家の電話でガボンに長距離電話をかけたり、とさまざまな「破壊工...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:32 AM

December 14, 2018

『パンチドランク・ラブ』ポール・トーマス・アンダーソン
稲垣晴夏

 郊外に住むなんてことない男の物語がこれほど幸福なのは、他でもなく作家によるこの街とそこで営まれる日常への愛があるからだ。ロサンジェルスの郊外にあたるサンフェルナンド・ヴァレーはハリウッドの北側、サンタモニカ山脈を越えた向こう側の街。ここは西海岸でありながら周囲を山々に囲まれているために、海すらも見えない。平坦なグリッド状の街区に敷かれただだっ広い道沿いには低層の倉庫や商業施設、建売住宅が殺風景に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:14 PM

『僕の高校、海に沈む』ダッシュ・ショウ
結城秀勇

 ある集団の権力関係について一番敏感なのは、集団に入って来たてのルーキーでも、その中である程度の地位を築いたベテランでもなくて、いつだって2年生=ソフォモアなのかもしれない。この作品の主人公ダッシュ(ジェイソン・シュワルツマン)は2年生として通学初日のバスの中で、親友アサーフ(レジー・ワッツ)に向かって、今日からおれたちは2年生なのだからもっと後ろの方に座ろう、と呼びかける。通学バスの座席は、車内...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:36 PM

December 13, 2018

『BOY』タイカ・ワイティティ
隈元博樹

 マーベル・コミックから映画化された「マイティ・ソー」シリーズの中でも、タイカ・ワイティティが監督した3作目の『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、過去の2作(『マイティ・ソー』『マイティ・ソー ダーク・ワールド』)とはやや異なる様相を呈している。それは荻野洋一さんが「Real Sound映画部」(「"ユニバース"過剰時代における、『マイティ・ソー バトルロイヤル』の役割」) で指摘しているように...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:38 PM

December 10, 2018

『花札渡世』成澤昌茂
結城秀勇

 たとえば、東南西北で構築される麻雀のように、空間的に世界を模したゲーム及びそれを使ったギャンブルは数あれど、花札のように時間的に世界を構築したゲームは古今東西においても珍しいものなのではないかと思う(正確には花札自体はゲームではなく、『花札渡世』においても花札を用いた各種のゲームが登場するわけだが)。各札に割り振られた植物が12の月を示す花札は、『花札渡世』において時間経過を視覚的に示す効果的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 AM

December 9, 2018

『花札渡世』成澤昌茂
千浦僚

 あるとき環状七号を富田克也氏の運転する車で運ばれていくなか、駄弁りで聞いた話。当時こちらは映画館のスタッフで、富田氏相澤虎之助氏ら空族の作品を上映していて日常つきあいがあった頃。私がフィルムの映写をずっとやっている身であることを富田氏が、そういうあまり他の人間がやってない技術で世を渡っていけるのはいいね、と買いかぶったところから、そういえば、と続けて、隠れカジノのルーレットディーラーの話をしてく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

『ア・ゴースト・ストーリー』デヴィッド・ロウリー
奥平詩野

 本作が愛の可能性について肯定し、それ故に感動を呼び起こすのだと捉える事は、死が愛する人との無慈悲な別れを意味し、それによる喪失の絶対性から逃れたいと希望する私達にとって、得たいと望む感想だと思う。しかし、死者が纏ったシーツと、引き延ばされたり縮められたりする時間感覚や離人的世界体験は、逆に、死後の執着と喪失に晒される続ける鬱々とした絶望を私達に見せ、愛が失われない事の感動よりもむしろその事の空...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:44 AM

December 8, 2018

『バルバラ セーヌの黒いバラ』マチュー・アマルリック
結城秀勇

 彼女は鼻歌交じりで爪弾いていたピアノをやめて、オープンリールテープの録音を開始する。ピアノは再び奏で始められ、彼女の歌がそこに重なる。電話機を取り上げながら誰かに電話をかけた彼女は、窓辺に近づきながら月蝕について話をし......、そして彼女がテレビの前に移動したあたりではたと気づく。これって劇中劇の撮影シーンだったよな、と。  彼女が気軽な調子の歌をやめるのは「カメラが回ります」という合図のせ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:06 PM

December 6, 2018

『ヘレディタリー/継承』アリ・アスター
結城秀勇

 アニー(トニ・コレット)のつくったものだと後にわかるドールハウスの一室にズームアップしていき、それが息子ピーター(アレックス・ウォルフ)の実際の部屋へと切り替わる。壁紙やタンスや椅子がなぜか不自然なはめ込み合成なのが微妙に気持ち悪いのだが、その気持ち悪さの中には、ズームで寄る前には家全体の配置がドールハウスの断面で示されていたはずなのに、ズームアップからつながれた息子の部屋が、さっきまでのドール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

December 4, 2018

『アウトゼア』伊藤丈紘
隈元博樹

 ここに「いくつかの声、ひとつの夢、島/映画『Out there』のためのシナリオ」と題された映像がある。ふたつのプロジェクタによって映し出されたどこかの風景は、壁の上で少しズレた状態で重なり合い、それぞれに一定の時間が経てば新たな場面へと切り替わっていく。やがてふたつの映像はひとつだけ投写され、いっぽうはシナリオらしきト書きとセリフの文章を読み上げる誰かの姿へと変わり、そこで発せられる声に重なる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:51 PM

December 1, 2018

『現像液』フィリップ・ガレル
結城秀勇

 高い位置に据えられたベッドの上にうずくまる子供の影が、懐中電灯の光でグロテスクなほど巨大に、壁に投げかけられる。右側下方にパンをしていけば、呆然としている女がいる。男が部屋に入ってきて、彼女に酒のようななにかを飲まそうとするがうまくいかない。長いタバコをくわえさせるが、彼女が吸わないのでマッチを近づけても火はつかない。そこでより長いタバコを彼女にくわえさせ、反対側を男がくわえて、ちょうど真ん中に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:55 PM

November 29, 2018

『30年後の同窓会』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

 見逃していたのを、ギンレイホールにて。  ラリー(スティーヴ・カレル)が、30年ぶりにベトナム時代の戦友ふたりに会いにいくのは、海兵隊であった彼の息子がバグダッドで殺されたからであり、死体の引き取りの付き添いを長年会っていなかった戦友に依頼するのは、彼らがかつてベトナムで死んだもうひとりの戦友という過去の罪を共有するからである。しかし、この映画が、どこまでも先送りにされていく旅の目的と、どこまで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

November 28, 2018

『象は静かに座っている』フー・ボー@第19回東京フィルメックス
三浦翔

 若者の閉じた孤独な世界を被写界深度の浅い映像として表現することには、どれだけの可能性があるのか。『象は静かに眠っている』は、そのような問題提起的な作品だったろう。物語は、自分をバカにした番長的なクラスメイトを突き落としたことで逃亡するブーや、学校の先生と恋愛関係になったことがSNSで拡散されたリンなど、ひとつの街で生きる4・5の主となる人物の人生が少しずつ重なりながら展開して行く。ある種の群像劇...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:06 AM

November 22, 2018

『幻土』ヨー・シュウホァ
隈元博樹

 半世紀前から今も続く土地の造成によって、その国土を拡げてきたシンガポール。目の前の埋め立て現場を眺めながら、「きっと30年後もこの光景は変わらないだろう」と刑事のロク(ピーター・ユウ)が相棒の刑事へささやくように、この東南アジアの島国は再開発を背景とした都市の変容が宿命とされ、彼らの営みは、絶えず定まることのない地盤とともにある。加えて造成に必要な土砂たちは、マレーシアをはじめ、カンボジアやベト...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:37 PM

November 21, 2018

『体操しようよ』菊地健雄
結城秀勇

 レトロだけれどカラフルな調度に囲まれた、ガラス張りの温室が表に張りだすどこかモダンな一軒家。そこから海の見える坂道を下り、毎朝片桐はいりが掃除をしている神社がある三叉路を通り過ぎて行けば、駅に出る。おそらく駅の反対側に海があり、それを見渡す岬の突端に公園があり、海と山との途中のどこかに商店街があり、三叉路をいつもと違う方向に曲がれば、のぞみ(和久井映見)の営む喫茶店がある。映画を見ているとなんと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:25 AM

November 11, 2018

『アマンダ(原題)』ミカエル・アース
隈元博樹

 冒頭の小学校を捉えたシーケンスから、このフィルムの質感を最後まで見続けていたくなる。それは建造物自体への特別な興味や美しさを見出したわけではなく、展開されるカット割りや編集のリズムに心地良さを感じたわけでもない。もちろんそれは、『アマンダ』がスーパー16のフィルムで撮られたことの恩恵でもあるのだが、最もその衝動に駆られたのは、撮影時のロケーションに注がれた柔らかい自然光が、淡く漂う粒子のざらつき...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:46 AM

November 10, 2018

『体操しようよ』菊地健雄(監督)和田清人(脚本)インタビュー

(c)2018『体操しようよ』製作委員会60歳のシングルファーザー佐野道太郎(草刈正雄)が定年退職した日、娘の弓子(木村文乃)から、手紙をもらう。しかし、その内容は、今後は自分で家事をするようにというものだった。初めての家事、そしてラジオ体操を通してそれまで関わることのなかった地域と交流を持つことで、道太郎は新しい人生を見つけていく。 定年後の生活という、父親世代の物語を映画化するのにどのようなや...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:12 AM

November 5, 2018

『ひかりの歌』杉田協士
三浦翔

 ランニングとは、全力ではないが息が上がるくらいのスピードで長い間走り続ける運動のことである。杉田協士の『ひかりの歌』をまなざす経験は、ランニングのように決して速くはない運動の持続に153分という時間をかけて徐々に魅了されていくことではないか。  4首の短歌を原作にした4つの短編には、それぞれに特別な決定的ショットというものがあるというよりも、むしろどのショットに映る時間もそれぞれが特別な時間であ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:59 PM

November 4, 2018

『月の砂漠』青山真治
梅本健司

Could I ever find in you again The things that made me love you so much then Could we ever bring 'em back once they have gone Oh, Caroline no  「Caroline No」の調べとともに、東京の夜の街、20世紀末に起こった様々な出来事、そしてホームビデオの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:00 PM

October 30, 2018

『教誨師』佐向大
田中竜輔

 6人の死刑囚との対話を請け負った大杉漣演じる教誨師・保は、ことあるごとに「えっ、私ですか?」と、目の前に座る死刑囚に聞き返す。マネキンのように押し黙った刑務官たちが壁際に同席してはいるものの、どう考えてもこの人良さげな牧師にかけられた言葉だと判断するほかはない囚人たちの些細な問いに対して、彼はいちいち「えっ」と驚いて、律儀に「私ですか?」と尋ねる。もちろんこのやり取りは、彼がまだほんの半年前にこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:55 AM

October 29, 2018

『FUGAKU 1 / 犬小屋のゾンビ』 青山真治
結城秀勇

 「いたるところで水の音がする」。という言葉で幕を開けた『EM エンバーミング』上映後のトークの中で樋口泰人は、この作品の6年後の『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』の冒頭から作品を覆う陰鬱さに比べて、『EM〜』はどこかまだ楽観的な気がする、と述べていた。フィルムからデジタルへ、という撮影素材の変遷と重ね合わせて語られるその話を聞きながら、『EM』の死体と死体そっくりな男と彼らと血が繋がった少女は、『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:47 AM

October 23, 2018

『アンダー・ザ・シルバーレイク』デヴィッド・ロバート・ミッチェル
結城秀勇

 「犬殺しに気をつけろ」という落書きを消そうとする店員のガラス越しに揺れる胸、列に並ぶ女性客たちの腰のあたりをナメて、カウンターの後ろで談笑するふたりの女性店員のアップへ切り替わるスローモーション、そしてそれを見つめるアンドリュー・ガーフィールドの眠そうな目。そんな『アンダー・ザ・シルバーレイク』の冒頭を見ながら、なんとなくガス・ヴァン・サント『パラノイドパーク』のことを思い出していた。あの映画で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:50 PM

October 11, 2018

『眼がスクリーンになるとき』福尾匠インタヴュー
三浦翔

「メディアよりイメージを優先する」態度  福尾匠の『 眼がスクリーンになるときーーゼロから読むドゥルーズ『シネマ』 』(フィルムアート社)は、映画をイメージの分類学として論じた『シネマ』から無数に並ぶ映画作品や作家の固有名をほとんど排し、哲学的なシステムとして再構築する野心的な挑戦である。それはある意味で映画史に対して挑発をかけるかのようでもあるが、運動イメージ=物語的な古典映画、時間イメージ=反...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

September 24, 2018

『あみこ』山中瑶子インタヴュー
三浦翔

底知れない広がりや誰にも居着かないしなやかさ 約一年前の第39回ぴあフィルムフェスティバルで、山中瑶子監督は初監督作となる『あみこ』で「PFFアワード2017」観客賞を受賞した。その後ベルリン、香港、韓国、カナダなど世界中の映画祭を周り評価され、遂に9月1日(土)にポレポレ東中野で劇場公開された。通常のレイトショーが即座に満席となったことで、異例のスーパーレイトショーという聞き慣れぬ追加上映までを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:08 PM

September 22, 2018

『若い女』レオノール・セライユ
池田百花

 映画のタイトルの『若い女』。これは、フランス語の原題も"jeune femme"となっているから直訳なのだが、この言葉が何を表しているのか、映画が始まってからずっと考えていた。主人公の女性ポーラは31歳。物語は、10年間付き合っていた年上の彼から突然別れを切り出されるところから始まる。20歳ほど年の離れた写真家の彼のもと、彼女は長年そのモデルも務めていたのだが、どうやら彼には新しいミューズができ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:51 PM

September 8, 2018

『ビッグ・リーガー』ロバート・アルドリッチ
千浦僚

 アメリカ人とはなによりもまずベースボールプレーヤーなのか、と思わされたのはロバート・アルドリッチ監督作『ワイルド・アパッチ』(1972)を観たとき。  この映画では開巻にまず、十九世紀末頃の合衆国のインディアン居留区から不穏な気配のアパッチ族数人が夜陰に乗じて脱走する様が描かれ、続いてそれが明けた日中、アリゾナの騎兵隊砦の騎兵隊員たちが野球に興じている様が描かれた。ベテランらしい風格を漂わせつつ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:56 AM

September 7, 2018

PFF総合ディレクター 荒木啓子インタヴュー
三浦翔

映画監督のイメージを持つこと  ぴあフィルムフェスティバル(以下:PFF)は、"映画の新しい才能の発見と育成"をテーマにした映画祭である。今年40回目を迎えるPFFは、いわゆる自主映画と呼ばれる、商業映画の枠組みではなく自分たちの手で映画を作る監督たちの映画を上映する「PFFアワード」をメインプログラムとしており、合わせて様々な招待作品の上映とトークを企画し、映画祭全体が新たな映画作りを志す人の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:04 PM

August 30, 2018

『あみこ』山中瑶子
結城秀勇

 昨年のPFFの一次審査でこの作品を初めて見たときの感想をものすごくありていに言うなら、こんだけおもしろい映画なら、どうせもうどっかの映画祭で賞とってるとか、どっかのコミュニティ界隈ですげえ評判になってたりすんだろうな、だった。でも「あみこ 山中瑶子」でググってみて、わずかに出演者のツイッターとかが引っかかるくらいで、監督自身のSNSすら見つからなかったときにはマジか、と思った。こんなすげえおもし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:29 PM

August 16, 2018

『ヒッチコック博士の恐ろしい秘密』リカルド・フレーダ
千浦僚

 一般的にはあまり品がないとされながらも、そのオペラ的とも言える過剰さで娯楽映画の歴史を豊かにしたのは、お尋ね者のようにふたつ名を持つイタリア人監督たちではなかったか。ボブ・ロバートソンであったセルジオ・レオーネ、偏在するアンソニー・M・ドーソンとしてのアントニオ・マルゲリティ、そしてロバート・ハンプトンことリカルド・フレーダ......。彼らはアメリカ人監督のふりをすることで自作を"立派な"?ア...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:33 AM

August 12, 2018

『ゾンからのメッセージ』鈴木卓爾(監督) 古澤健(脚本/プロデューサー)インタヴュー

境界線で映画を撮ること いまからおよそ20年前、謎の現象である「ゾン」によってあたり一面を囲まれてしまった夢問町。「ゾン」とは何か。単なる壁というわけではなさそうだ。「ゾン」の向こう側に行ってしまった人は帰って来ない。「ゾン」には近づくことさえ危険である。と、声高に語る者こそ限られているが、およそそこに住むあらゆる人にそのような考えは共有されていて、ここからの脱出(あるいは外への侵入)を試みよう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:54 PM

August 3, 2018

『ものかたりのまえとあと』展 青柳菜摘/清原惟/三野新/村社祐太朗
三浦翔

 「ものかたりのまえとあと」というそのままコンセプトを言い表すタイトルからどうしても考えてしまうのは物語(story)ないし歴史(history)以後、つまり「歴史の終焉」という冷戦以後の世界について話題になった議論のことである。何故そんなことを思うのかというと、そこで議論された政治的な問題だけに焦点があるのではなく、むしろ冷戦体制以後にインターネットの民間利用が進み、並行してデジタルテクノロジー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:34 AM

July 29, 2018

『グレイ・ガーデンズ』アルバート&デヴィッド・メイズルス、エレン・ホド、マフィー・メイヤー
『グレイ・ガーデンズ ふたりのイディ』アルバート&デヴィッド・メイズルス、イアン・マーキウィッツ
隈元博樹

 青々と緑の生い茂る一軒家の居間をカメラが捉えると、ほどなくして2階の椅子にもたれた老母の姿がフレームに収まる。今にも爛れそうなセルライトを両腕に蓄えた肌身の彼女は、「ウィスカーズは穴の中だよ」と粗雑に空けられた壁穴を見やり、姿の見えない娘に猫のウィスカーズは穴の中に逃げ込んだのだと語りかける。母曰く、この穴は野生のアライグマによる仕業であるらしく、また娘曰く、不当な理由でこの古びた屋敷から追い出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:00 AM

July 13, 2018

『ジュラシック・ワールド/炎の王国』フアン・アントニオ・バヨナ
千浦僚

 スピルバーグの影から脱したほうが豊かになる映画文化圏も存在する。『ジュラシック・ワールド』(2015)を観たときに、もうこれはかなり「ジュラシック・パーク」シリーズ(93年の1作目、97年の二作目『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』、01年の『ジュラシック・パークⅢ』)から離れた小気味よさだと感じた。まあ、そもそもジョー・ジョンストンが監督した『ジュラシック・パークⅢ』が、バックパック型...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:08 AM

July 3, 2018

『レット・ザ・サンシャイン・イン』クレール・ドゥニ
結城秀勇

 イザベル(ジュリエット・ビノシュ)は画家である。彼女の作品は恋人のひとりによって「世界最高の美を作り出している」とまでに評されるのだが、そうまで言われる彼女の仕事を、観客は十分に目にする機会に恵まれない。たった一度、彼女が巨大なキャンバスの上でなにかをおもむろに描き出すのを目にするだけ、またその前後でアトリエの片隅に置かれたおそらく彼女の作品なのであろう絵が画面の端に映り込むだけである。またイザ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:06 PM

May 29, 2018

『モリーズ・ゲーム』アーロン・ソーキン
結城秀勇

 FBIに踏み込まれる直前の、モリー・ブルーム(ジェシカ・チャステイン)のホテルの部屋。カメラは入り口からモリーが横たわるベッドへと進むが、その途中に置かれた彼女の著書「モリーズ・ゲーム」の在庫のダンボールの山と、著者サイン会のパネルがやけに気にかかる。単に彼女の本があまり売れてない、というかむしろ売上はかなり残念な感じだ、ということを示すだけのトラベリングなのだろうが、これでいいのかと思ってしま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

May 28, 2018

『ルイ14世の死』アルベール・セラ
三浦翔

 上映中に「お前はもう死んでいる」というフレーズが頭によぎってからは、フィルムに映った権力者どもにそう言ってやりたいフラストレーションが募る。  極めて唯物論的な方法で王の死のスペクタクル化を拒否するこの映画で問題にすべきは、監督がインタビューで述べるような「死の陳腐さ」にあるのではなく、むしろ王という特別な存在のイメージの「死ななさ」ではないだろうか。「死の陳腐さ」も、彼に死が近づいていることも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:21 AM

May 26, 2018

『ルポ川崎』磯部涼
隈元博樹

 東京と神奈川のあいだには、県都境を分かつように多摩川が流れている。秩父山地の笠取山に源を発したこの一級河川は、上流の奥多摩や西東京、下流の川崎を抜けたのち、東京湾の待つ海へと流れ出ていく。全長138kmの川から海へと及ぶ変遷のなか、川崎区港町の多摩川沿いで「中1男子生徒殺害事件」が起きたのが、2015年2月20日のこと。『ルポ川崎』は、今から約3年前に起きた同事件と、その後立て続けに発生した近隣...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:06 PM

May 23, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(7) 忘れられた人々
ーー第71回カンヌ国際映画祭受賞結果をめぐって
槻舘南菜子

ジャン=リュック・ゴダール監督『Le Livre d'Image』  今年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門はここ数年で最も刺激的なセレクションであったにも関わらず、受賞結果は従来の傾向に則った惨憺たるものであった。見事にコンペ入りを果たした若き才能たちーー濱口竜介監督『寝ても覚めても』、ヤン・ゴンザレス監督『Un Couteau dans le coeur』、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:31 PM

May 21, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(6)
ヤン・ゴンザレス監督『Un Couteau dans le coeur / Knife + Heart』
槻舘南菜子

 2013年のカンヌがアブデラティフ・ケシシュ監督『アデル、ブルーは熱い色』が最高賞パルムドールを受賞し、昨年にはロバン・カンピヨ監督『BPM ビート・パー・ミニット』がグランプリを獲得したように、いわゆる「LGBT」が主題として扱われる作品はもはや珍しくない。今年の公式部門だけでも、コンペ部門にはクリストフ・オノレ監督『Plaire, aimer et courir vite 』とヤン・ゴンザレ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:45 PM

『アヴァ』レア・ミシウス
池田百花

 夏の太陽の下、ヴァカンスに訪れる人々でにぎわうフランスの海辺に、ひとりの少女が寝そべっている。少女のそばを大きな黒い犬が通り過ぎ、彼女が犬を追うと、揉め事を起こしている黒い服の青年の周りに人だかりができていて、そこに黒い馬に乗った警察が駆けつける......。映画の冒頭の場面、まぶしい光に照らされ色で溢れた風景に突如投入されるこの黒という色は、明らかに画面に異質性を放ち不穏な空気を生み出している...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:14 PM

May 19, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(5)
マチュー・マシュレによる濱口竜介『寝ても覚めても』評
槻舘南菜子

 現在のフランスで最も信頼のおける批評家のひとりマチュー・マシュレ氏による濱口竜介監督『寝ても覚めても』の批評が、どの仏メディアよりも早く、日刊紙「ル・モンド」の5月15日号に掲載された。フランスでは5月の初旬に公開されたばかりの『ハッピーアワー』についても彼はとても素晴らしい批評を書いたばかりだが、ここではマシュレ氏の厚意により氏の『寝ても覚めても』についての批評を翻訳掲載する。 恋愛の反復--...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:45 AM

May 17, 2018

『心と体と』イルディコー・エニェディ
三浦翔

 若い女であるマーリアと老年の上司エンドレとの恋愛関係を描くことにはリアリティがないとか、それはセクハラを誘発する表現である、などという批判の声が聞こえてくるかもしれない(似たような意見をTwitterで見てしまった)。そのような#MeToo時代の空気から来る違和感の声には、そもそも同じ夢を見てしまうという奇異な設定から、この作品はリアリズムではないのだと言って批判をやり過ごすことも出来るであろう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:48 PM

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』マット・ティルナー
中村修七

 ジェイン・ジェイコブズ(1916‐2016)の生誕100周年に合わせて製作されたドキュメンタリー映画だが、"Citizen Jane: Battle for the City"という原題にある"Citizen Jane"とは、言うまでもなく、オーソン・ウェルズの『市民ケーンCitizen Kane』になぞらえたものだろう。『市民ケーン』は、ウェルズの監督デビュー作にして映画史に残る傑作だ。アンド...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:46 AM

May 16, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記 (4) 「監督週間」部門50周年によせて
槻舘南菜子

 現在ではカンヌ国際映画祭の併行部門とされる「監督週間」部門は、そもそも68年5月を機に映画祭が中止に追い込まれたのちの反動として、非公式部門として創設されたものだった。当時のフランスにおける若手監督の多くは、カンヌのセレクションに対する反感を隠さなかった。芸術的な視点以上に、外交的な政治目的に縛られ、惰性に流された当時のセレクションを変革するためには、映画祭の再編成が必要であると考えたのだ。し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:49 PM

May 14, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(3) 白と黒の恋人たち
ーー『Summer (Leto)』(キリル・セレブレニコフ)と『Cold War(Zimna Wojna)』(パヴェウ・パヴリコフスキ)
槻舘南菜子

 今年のコンペティション部門には、ある時代に翻弄されたカップルという共通点はありながら、その趣は異なる二本のモノクロ映画がノミネートした。ロシアのキリル・セレブレニコフ監督『Summer (Leto)』とポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキ監督『Cold War(Zimna Wojna)』だ。 キリル・セレブレニコフ監督『Summer (Leto)』  キリル・セレブレニコフにとって7本目の長編と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:30 PM

May 12, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(2) 各部門の開幕上映作品をめぐって
ーーコンペティション/ある視点/監督週間/批評家週間
槻舘南菜子

 カンヌ映画祭のコンペにおける開幕上映作品は、フランス映画であるか否かを問わず、フランス国内での劇場公開が上映日とほぼ同日に為される作品が選ばれる。そこにはもちろん製作会社やワールドセールス、映画祭の政治的な思惑も関わるため、作品のクオリティは必ずしも重要視されていない。今年の開幕上映作品であるアスガー・ファルハディ監督作品『Everybody Knows』は、おそらく彼のキャリアにおいて最悪の出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:46 AM

May 11, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(1)
槻舘南菜子

 第71回カンヌ国際映画祭が5月8日に開幕した。今年の大きな事件として、例年はプレミア上映に先立って行われていた、プレス向けの事前上映を撤廃するという発表があった。この件について、フランスでは批評家労働組合を中心にジャーナリズムの権利を主張する声明文が大々的に発表されたものの、その決定は覆されることはなく、その影響で上映の仕組みも大幅に変更され、プレス向けの上映はプレミア上映と同時か、あるいは翌...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:27 AM

May 10, 2018

「ワールドツアー」三宅唱+YCAM
結城秀勇

※文章中の太字は山口滞在中の筆者の日記の断片です。全文はNOBODY issue47に載るかもしれないし載らないかも。この文章の"裏面"のようなものとして聞き流すように読み飛ばしてください。  5月27日まで山口情報芸術センターで「ワールドツアー」が開催中だ。 「ワールドツアー」とはいったいなんなのか。それは、boidマガジン で2014年より連載されている三宅唱『無言日記』の延長線上にある、ス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:32 AM

April 30, 2018

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグ
結城秀勇

 謎の繁忙期だった四月も終わりつつあり、ようやっと『ペンタゴン・ペーパーズ』を見れた。ご多聞にもれず、泣けた。なるほど、いまの日本の国民はみんなこれを見るべきだと言うのもわかる。  だがだからこそ、この映画を評価する言葉がそれだけでいいのか、という気もするのだ。あえて言えば、JFKの友達だった編集主幹のいる新聞がニクソンを糾弾する、みたいな構図だけで、本当に報道の自由について語れるのか? それはあ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:46 AM

April 18, 2018

『きみの鳥はうたえる』三宅唱
結城秀勇

 これが三宅唱の初めての原作つきの監督作であること、あるいはこういった言い方が正しいのかわからないが初の「商業」長編映画であること、そんな先入観は映像を見ている間に頭の中からいつのまにか抜け落ちていく。同様にこの映画が描いている、僕(柄本佑)、静雄(染谷将太)、佐知子(石橋静香)の間の三角関係だとか、静雄が母親に対して抱いている愛憎入り混じる思いだとか、小さな本屋の人間関係だとか、そんな物語すら映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:55 PM

April 13, 2018

第15回ブリィブ国際中編映画祭レポート
槻舘南菜子

ブリィブ、日本映画を忘れるーーフランス映画のための「国際」映画祭、装飾としての国際性  4月3日から4月8日、第15回ブリィブ国際中編映画祭が開催された(映画祭の創立経緯は過去の記事を参照:http://www.nobodymag.com/journal/archives/2016/0424_0034.php)。映画祭の15周年を記念して製作された思春期をテーマとした予告編は、2013年『アルテミ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

『泳ぎすぎた夜』五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル監督 インタヴュー
松井宏

すべての日々は新しくて、発見に満ちている 五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル監督 インタヴュー フランスと日本の同世代の監督が、お互いの作品に恋に落ちて、友人になって、一緒に映画をつくることを決めた......。まるで映画の1エピソードみたいなお話だけれど、ダミアン・マニヴェルと五十嵐耕平にとっては、ごくごく自然で、そして必然的なことだったようだ。ふたりの話を聞いているとそう思うし、それは彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:30 PM

April 12, 2018

『寝ても覚めても』濱口竜介
結城秀勇

 お気に入りの小説が映画化されてそれを見るという体験は、好きな誰かに似た別の誰かに出会うことにどこか似ている。......などと言い出すのは少々強引過ぎる気もするし、普段はそんなことは思わない。だが、かつて愛した男と瓜ふたつの別の男に出会う女の話である柴崎友香『寝ても覚めても』を、原作に並々ならぬ思い入れを持つ濱口竜介が映画化したとなれば、そのくらいのことを言ってもいい気がする。  似ていたとして...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:51 PM

『私の緩やかな人生』アンゲラ・シャーネレク
三浦翔

 アンゲラ・シャーネレク映画の基本的な時間の感覚を作っている一つには切り返しショットのなさがあるが、とりわけ『私の緩やかな人生』という作品を強く気に入ってしまったのは、切り返しのなさに伴って美しく持続する長いダイアローグの成果が、もっとも顕著なかたちで現れているからである。テクストの演出に関してアップリンクで行われたトークショーの中で質問させてもらったところ、監督の言っていたことを要約するならば、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 AM

April 7, 2018

『大和(カリフォルニア)』宮崎大祐
田中竜輔

 一度としてこの映画には姿を現さない「アビー」のことが、やけに気にかかった。主人公サクラ(韓英恵)の母親である樹子(片岡礼子)の恋人、そしてすでに故人となった日本人女性との間にレイ(遠藤新菜)という娘を持つ、かつて厚木基地にいたとされるアメリカ兵の名である。「アビー」について、その人は自分にヒップホップを教えてくれた最初の人であり、美少女フィギュアづくりに勤しむ兄の健三(内村遥)をアーティストだと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:22 AM

March 28, 2018

アンゲラ・シャーネレク監督インタビュー

帰らざる時間 アンゲラ・シャーネレク監督インタヴュー  3月14日から17日にかけてアテネ・フランセ文化センターにて行われた特集上映で、私たちは彼女の作品群を発見した。一作ごとに変化する作風、しかしそれらを貫く揺るぎない映画への意志。  取材前日のQ&Aで、小津安二郎の偉大さについて「彼は他のなににも似ていない映画をつくった」と語っていた彼女。その言葉はある意味で、彼女自身の作品についても当ては...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:30 PM

March 20, 2018

『はかな(儚)き道』アンゲラ・シャーネレク
結城秀勇

 女がいて、男がいる。男の足が斜面の土を踏みしめ登り、女の足がそれに続き、よろめき、差し出した手が男の手によって引き上げられる。丘の上で女はギターを手につま弾き始める。通行人のチップ用にハンチング帽を逆さに地面に置いた男が、彼女の隣にフレームインしてくる。女と男は初めてひとつのフレームに収まる。そして歌が始まる。 『はかな(儚)き道』の最初のシークエンスである。彼らの歌が続く中、カットが変わり彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:19 PM

March 16, 2018

『タイニー・ファニチャー』レナ・ダナム
結城秀勇

タイトルである「小さな家具」とは、主人公オーラ(レナ・ダナム)の母親シリ (ローリー・シモンズ )が制作する写真の撮影用に作られたミニチュア家具のことである。大学を卒業したオーラが久しぶりに実家に帰ってくると、母親は地下のスタジオで件の作品制作をしている。ちっちゃな椅子や机がきれいに配置された空間の真ん中にボンと突き立つ実物大の人間の足。その足のモデルをしている妹ネイディーン (グレース・ダナム)...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

March 14, 2018

『15時17分、パリ行き』クリント・イーストウッド
結城秀勇

『ハドソン川の奇跡』のサリー(トム・ハンクス)が劇中ずっと苦悩しているのは、彼のとった不時着水という行為の選択は他の映像(失敗していたかもしれない着水、及び他の空港に着陸することが可能だったかもしれないこと)に置き換え可能なのかどうかという問題のためであった。一方で、苦悩というほどの悩みとは無縁そうな『15時17分、パリ行き』の3人組が体現しているのは、彼ら自身がその他の映像と置き換え可能なのかど...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:59 PM

March 7, 2018

『ハドソン川の奇跡』クリント・イーストウッド
結城秀勇

※以下は、「横浜国立大学大学院都市イノベーション学府・研究院イヤーブック2016/2017 特集 批評の現在」に寄せた文章である。近日アップ予定の『15時17分、パリ行き』評の前提として、より多くの人に読んでもらう機会があればと思い、同学府・研究院のご厚意のもとここに再掲させていただく。 事実の後で オックスフォード大学出版局が「word of the year」に「post-truth」と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:44 PM

March 3, 2018

『あなたの旅立ち、綴ります』マーク・ペリントン
結城秀勇

庭師に代わって木を刈り込み、美容師に代わってヘアスタイルを仕上げ、メイドに代わって料理をする。シャーリー・マクレーン演じるハリエット・ローラーは、雑務を自分で行う必要がないほどの財力を持ちながら、それらを完璧に自らこなす能力と意志を持つ。ただしそれと引き換えに、手入れした庭を訪れる友人もなければ、新しい髪型を褒めてくれる同僚もなく、手の込んだ料理を共に味わう家族もない。ここまでなら、よくある気難し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:07 PM

February 23, 2018

現代詩アンソロジー「認識の積み木」いぬのせなか座『美術手帖 18年3月号 言葉の力。』
三浦翔

誰かが常にいじめられているような荒れた環境で中学校生活を過ごしていたわたしにとって、「死ね」という言葉を使ってはいけないと周りから言われて自制出来るようになったのは、いまから考えれば恥ずかしいほどに遅くて、高校生くらいになってからだったように思う。いまでは関西弁とともに覚えてしまった他の数々の他人を罵倒する言葉も、横浜に来てから関西弁と一緒に忘れてしまった、というか言葉の使い方を忘れている。それは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:45 AM

February 21, 2018

『デトロイト』キャスリン・ビグロー
結城秀勇

5月公開の映画『私はあなたのニグロではない』 (ラウル・ペック)の中で、次のようなジェイムズ・ボールドウィンの文章が読み上げられる。「黒人の憎しみの根源は怒りだ。自分や子供たちの邪魔をされない限り、白人を憎んだりしない。白人の憎しみの根源は恐怖だ。なんの実体もない。自分の心が生み出した何かに怯えているのだ」。 この言葉の後半部分は『デトロイト』における人々の置かれた状況をかなり的確に言い表している...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

February 15, 2018

『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』 ジェームズ・グレイ
結城秀勇

1906年、英国軍人パーシー・フォーセット(チャーリー・ハナム)は、アマゾン流域ブラジル・ボリビア間国境の測量の仕事を引き受ける。それは高騰するゴムの利権が絡む政治的な駆け引きのためでもあるが、一方で、自らの家系にかけられた汚名をそそぐために彼個人が社会的な名声="勲章"を必要としているという理由からでもある。当然のごとく待ち受ける幾つもの危険の先で、彼は無事川の源流へと辿り着き、測量を終える。だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:04 PM

February 12, 2018

『L for Leisure』レヴ・カルマン、ウィットニー・ホーン
結城秀勇

16mmフィルムで撮影された画面の質感や人物の配置、登場人物たちの大学院生という身分、彼らの話す会話のたわいもなさは、たしかに一瞬、バカンス映画だとか休暇映画といった枠組みの中にこの作品を入れてしまいたくもさせるのだが、たぶん違う。それは全体を貫くストーリーらしいストーリーがないからでも、全体を構成するひとつひとつの休暇が短いからでもない。休暇の映画とは、限られた時間が尽きれば否応なく戻らなくては...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:59 AM

January 26, 2018

『タイニー・ファニチャー』レナ・ダナム
隈元博樹

 主人公のオーラ(レナ・ダナム)は、絶えず痛みに取り憑かれている。しかし単に痛みと言っても、誰かによる暴力や中傷の矛先になるわけでもなく、またふいに誰かを傷つけてしまうものでもない。自宅に引きこもるわけでもなければ、口数の少ないタイプでもない。むしろ彼女は自発的に物事を選び、他者へと歩み寄ることに積極的な存在だ。それなのにオーラの選択は痛みとともにあり、冒頭から私たちはその光景を見守り続けることし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:11 PM

January 13, 2018

2017年 映画その他best

location.href="/2017best/";...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:43 PM

January 12, 2018

『わたしたちの家』清原惟監督インタビュー
三浦翔

『わたしたちの家』のテーマはいかにして聴くことができるのか ふたつの物語がなにも物語的な説明もなしに重なってしまうというコンセプトからは、一見すると映画的な実験精神を感じるかもしれない。しかし『わたしたちの家』から感じるのは、あたかも映画とは昔からこのようなものであったとでも言わんばかりの勇気と知性である。こんな映画を撮り上げる清原惟はどんな人物なのか、なにを考えているのか。清原監督の霊感に迫って...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 AM

December 16, 2017

『希望のかなた』アキ・カウリスマキ
結城秀勇

35mmフィルムでの上映(※12月17日まで!)という英断を下したユーロスペースには、どれだけ感謝してもし足りない。DCPではこの作品のよさが伝わらないとか言うつもりはさらさらない。もはや圧倒的大多数であるデジタルとの比較の上に成り立つそんなスノビズムはどうでもいいし、ましてやかつて映画はこうであったという郷愁に囚われているわけでもない。『希望のかなた』が35mmで上映されるべきなのは、いまそこに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:47 AM

December 15, 2017

『三月の5日間』リクリエーション チェルフィッチュ(作・演出 岡田利規)
三浦翔

「想像力」の問題は(とくに近年の)チェルフィッチュにとって重要な問いである。「想像力」とイラク戦争という組み合わせを立ててしまった瞬間に、それはこれまで映画や演劇で繰り返されてきた「ここ」と「よそ」の問題、分断を想像力で乗り越えようとする問題形が浮上してくる。しかし、岡田利規が『三月の5日間』で行なっていたことは、そうした「想像力」によって見えない他者や遠くにある世界、劇場の外へと至ろうとすること...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:11 AM

December 2, 2017

『最低。』瀬々敬久
結城秀勇

なんの前情報も一切なしで見始めたので、断片的なカットの連なりで主役である3人の女性たちが描写されていく冒頭部分を見ていてちょっと混乱する。どうやら回想シーンも含まれているらしいこのパートの中で、とりあえず3人の女性は別々の場所にいるようだ。もしかしてこの3人はひとりの人物の違う時代を演じてるのか?いや名前も違うしそもそもこんなタイプの異なる3人を選ぶ意味もわからない、じゃあ実は3人のうちの誰かが誰...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:45 AM

October 29, 2017

『イスマエルの亡霊たち』アルノー・デプレシャン
結城秀勇

イヴァン・デダリュス。この映画で一番初めに発せられる言葉であるこの名前によって喚起されるものは、すでにこの映画でこの後に語られる物事よりも大きなことを原理的に孕んでいる。『クリスマス・ストーリー』でメルヴィル・プポーが演じていたイヴァン・ヴュイヤールの姿を、『そして僕は恋をする』のマチュー・アマルリックから『クリスマス・ストーリー』のエミール・ベルリング、そして『あの頃エッフェル塔の下で』のカンタ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:10 PM

October 9, 2017

『にじむ風景/声の辿り』小森はるか+瀬尾夏美
三浦 翔

 小森はるかと瀬尾夏美は3.11の後から、流された陸前高田の風景をめぐる作品制作を続けている。2012年からは隣町の住田町に移り住み、その土地で生活していくなかで見えてくる陸前高田の風景を発見しながら、その風景を絵画と映像、そして言葉によって記録している。陸前高田のまちにとって、工事中の風景は当初ガレキの処理という意味を持つものであったが、現在おこなわれている新しいまちを作るためのかさ上げ工事の風...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 AM

October 7, 2017

『アンダー・ハー・マウス』 エイプリル・マレン監督インタヴュー

location.href="/interview/underhermouth/" ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:58 PM

September 24, 2017

『望郷』菊地健雄
結城秀勇

この作品を最初に見たとき、なにかもっと大きなものの一部が描かれている、という印象を受けた。それは全体で6つの連作短編からなる原作のうちの、2短編の映画化という事情によるものかと思い、湊かなえの原作を読んでみた。だが、本来それぞれがまったく別々に独立した物語として書かれている原作を読んでみても、その大きな全体像が見えたわけでもなかったし、そもそもひとつひとつの短編がなにかもっと大きなものの一部をなし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:57 PM

September 14, 2017

『汚れたダイヤモンド』アルチュール・アラリ監督インタヴュー vol.2
松井宏

←vol.1 明解さの探求 アルチュール・アラリ監督インタヴュー ──作品全体を通して、ライティングがものすごく作り込まれている。夜のシーンはどれも本当に美しい。撮影監督のトム・アラリはあなたのお兄さんですが、ライティングについて、あるいは作品全体のルックについて、彼とはどんな話し合いをしたのでしょう? A.H. トムとはものすごく時間をかけて話し合ったし、準備にもかなり時間をかけた。トムとはずっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:51 PM

September 9, 2017

『汚れたダイヤモンド』アルチュール・アラリ監督インタヴュー vol.1
松井宏

明解さの探求 アルチュール・アラリ監督インタヴュー つくり手の多大なる思考と、実践の苦闘がまざまざと刻まれ、ごつごつとした異質さを備えながら、それでいてなお透明な抜けの良さを獲得してしまう映画が、たしかにある。アルチュール・アラリの初長編作『汚れたダイヤモンド』はそういう作品だ。シナリオや演出やテクニカルな面はもちろんのこと、俳優について、ジャンルについて(そう、今作は「フィルム・ノワール」だ)、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:51 PM

September 8, 2017

『善き門外漢』中里仁美
長島明夫

 『善き門外漢』という風変わりなタイトルの雑誌を初めて手にしたのは今年の4月、知り合いに連れられて行った目黒区鷹番のSUNNY BOY BOOKSでのことだった。自分自身そういう雑誌を作っているにもかかわらず(2009年創刊の個人雑誌『建築と日常』)、ふだんリトルプレスの類の冊子を開いてみることはあまりないのだが、この『善き門外漢』(刊行まもなかったvol.3)のたたずまいには妙に気になるものがあ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:51 AM

September 3, 2017

『甘き人生』マルコ・ベロッキオ
中村修七

 ベッドに眠る少年の耳元で「たのしい夢を」と囁いた母親は、羽織っていたローブを脱いで部屋を後にする。未明になって、眠りについていた少年は、父親の叫び声と大きな炸裂音によって目を覚ます。家に入り込んできた親戚たちによって少年は囲まれるが、大人たちは適当な嘘をついて母親が彼の前から姿を消したことを誤魔化す。 この間に、母親の死という出来事が発生している。のちに母親の死が落下と関係するものであると明らか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:08 PM

August 25, 2017

『パターソン』ジム・ジャームッシュ
隈元博樹

 冒頭から真っ先に思ったのは、STANLEYのランチボックスになりたいということだった。それは工具箱にも似た重厚なフォルムに魅力を感じたわけでなく、たんなる変身願望の欲に駆られたわけでもない。この映画に登場する薄緑色のランチボックスになりさえすれば、この映画の主人公に訪れる些細な時間やできごとに、他のどの人物よりも身近な存在として立ち会えるのではないかと思ったからだった。  朝は決まった時間に目を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:49 AM

August 3, 2017

『夏の娘たち〜ひめごと〜』堀禎一
結城秀勇

二度見たら、一度目よりも(あくまで量的な)理解が増えるだろうかと思ったが、いやあ、清々しいまでに一切そんなことがなかった。冒頭の病室からすでに無際限に増殖していく血縁地縁のネットワークについては、一度目に見た時点で理解し得ることはほぼ理解していたことがわかっただけだったし、初見で心をつかまれたあのカットとカットのつなぎやアクションとアクションの間あるいはアクションそれ自体に存在する「速さ」について...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:39 PM

August 2, 2017

『20センチュリー・ウーマン』マイク・ミルズ
結城秀勇

ようやくこの映画を見て、ようやくタイトルの示す「20世紀の女性」が複数形であったことを知る。 スーパーマーケットの駐車場で派手に炎上するフォード・ギャラクシーに被さるようにしてはじまるドロシア(アネット・ベニング)のモノローグが、1924年に生まれた彼女は40歳で息子を出産したことを告げる。世紀の3/4を生きたこの女性(後に彼女は1999年に亡くなるということがわかる)が、ああ日本語タイトルでいう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:21 PM

July 22, 2017

『密使と番人』三宅唱監督インタビュー 「You know we've got to find a way」

あの三宅唱監督が時代劇を?本作の存在を耳にしたときには、素直にそんな驚きがあった。完成した作品を目にすると、たしかに時代劇の衣装を着てチョンマゲを結った登場人物たちは出て来はするものの、日本刀による立ち合いも、時代劇調の会話のやりとりもない。人里離れた山の中を黙々と歩む男と、その周辺に住む者がわずかばかり出てくるだけだ。そして、人の歩みに合わせてススキが音を立て、夜が訪れ、雪が降る。 ユーロ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:30 AM

June 25, 2017

『牯嶺街少年殺人事件』エドワード・ヤン
中村修七

『牯嶺街少年殺人事件』は、ひとつの時代状況を丸ごと掴もうとするスケールとともに、緻密な構図のショットと的確な演出によって作られた傑作だ。そして、言うまでもなく、我々の時代が共有しうる最も偉大な映画のひとつだ。この映画には、世界がある。ひとつの時代があり、多くの人々が暮らす都市があり、異なる集団の間における争いがあり、ある家族の生活があり、友人たちの交わりがあり、恋人同士の関係がある。約4時間にわた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:07 PM

June 20, 2017

カトリーヌ・ドヌーヴの眼の中で...
坂本安美

フランスの人気カルチャー週刊誌である「レザンロキュプティブル」の編集長、元「カイエ・デュ・シネマ」編集長である映画批評家ジャン=マルク・ラランヌによるラジオ番組「...の眼の中で」(Dans les yeux de...)は、映画人を招き、映像、映画だけではなく、絵画、写真、ゲーム、テレビ、漫画、つまり彼らの「眼の中」に映り、記憶している映像についてラランヌが質問し、ゲストが自由に語り、彼らの出演...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:21 AM

June 12, 2017

ここには何もない −−第70回カンヌ国際映画祭報告
槻館南菜子

受賞結果 パルムドール: ルーベン・オストルンド『The Square』 監督賞: ロバン・カンピヨ『120 Beats per minutes』 主演女優賞: ダイアン・クルーガー(ファティ・アキン『In the Fade』) 主演男優賞: ホアキン・フェニックス(リン・ラムジー『You were never really here』) 脚本賞: ヨルゴス・ランティモス『The Killin...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:24 PM

May 21, 2017

『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス
田中竜輔

このフィルムのクリステン・ステュワートはとにかく片付けをしない。というよりも、自分のために用意したものを使う素振りさえない。コーヒーを入れてもビールを開けてもほとんど口をつけぬまま、片付けもせずテーブルに放置していってしまう。彼女は何かしらを自らのものにするという様子は微塵も見せない。すでにこの世を去った兄について聞かれ「私たちは霊媒(メディウム)なの」と語る彼女は、自らの実体をもって何かを成し遂...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:13 AM

May 4, 2017

『幸せな時はもうすぐやって来る』アレッサンドロ・コモディン
渡辺進也

イタリア映画祭2017で上映されている、アレッサンドロ・コモディンの長編2本目となる『幸せな時はもうすぐやって来る』は、森を舞台にいくつかの物語が展開される。何かから逃れるように森の奥深くに分け入るふたりの男が、川で遊んだり、飢えをしのぐために罠を仕掛けたりして食べ物を探し求める物語。白い雌鹿に求愛する狼が人間の女性と恋に落ちたという伝説が人々の口から語られ、狼による家畜の被害が起きている最中に、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:15 PM

April 19, 2017

『未来よ こんにちは』ミア・ハンセン=ラブ
中村修七

『未来よ こんにちは』におけるイザベル・ユペールは、せかせかと歩き、パタパタと走る。小柄で華奢な体つきのユペールが細い腕と脚を動かして忙しなく動き回る姿が素晴らしい。彼女は、動き続けることで時間の流れに対処しているかのようだ。 ユペールは、思いがけない出来事に何度も不意撃ちされる。早朝に老いた母親からの電話で起こされ、勤め先の高校で生徒たちによるストライキに遭遇し、疲れて帰宅した後にソファで休んで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:42 PM

March 15, 2017

『ラ・ラ・ランド』デイミアン・チャゼル
田中竜輔

デイミアン・チャゼルはとりあえず「遅れる」ことに囚われた映画作家なのだろう。『セッション』の序盤で、鬼教官フレッチャー(J・K・シモンズ)とのプライヴェート・レッスンに、ドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)が遅刻してしまうエピソードを見て、しかしこの遅刻がその後の展開にまったく何も作用しないことを不思議に思っていた。が、要するにあの場面は「こいつは何の理由もなく遅刻する男だ」と印象づけるだけのシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:30 AM

March 9, 2017

『ジョイ』デヴィッド・O・ラッセル
結城秀勇

もしこの作品が2016年に公開されていたら、『ブリッジ・オブ・スパイ』『ザ・ウォーク』『白鯨との闘い』『ハドソン川の奇跡』などと並べて、「post-truth」が流行語に選ばれた年に日本で公開された「事実に基づく」アメリカ映画はこんなにも変なことになっている、とでも言いたくなっただろう作品だ。先日DVDスルーされたのは非常に残念だが、そうした判断がなされるのもそうそう理由のないことでもないのかもと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:12 PM

『わたしたちの家』清原惟
三浦 翔

ここでありながらも何処か違う世界から届くプレゼントを受け取ること。同じ場所に前後関係もない、ふたつの時間が流れている、という設定だけを聞くとSF/ファンタジー的な想像力に支えられたアナザーワールドもののように思えてくるが、清原惟監督はそうした設定をなにも物語的に回収することはしない。そこで試みられているのは、ひたすらショットの連鎖だけでふたつの世界の関係を問うことであり、その視線は徹底的に映画的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:17 PM

March 2, 2017

『マリアンヌ』ロバート・ゼメキス
結城秀勇

モロッコっぽさを出そうなんて気は毛頭ないように思える、あの書き割りめいた砂漠にパラシュートで降り立ったマックス(ブラッド・ピット)は、砂漠の道を歩く途中で、自動車が砂埃をあげて近づいてくるのを目にする。それは物語上、マックスをカサブランカに連れていくために遣わされた味方の車なわけだが、自他ともに認める腕利きスパイであるマックスは警戒を怠らず、腰のホルスターのボタンを外し、銃に手をかけたまま近づいて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:01 PM

February 19, 2017

『息の跡』小森はるか
結城秀勇

なんだか色味が独特だな、と思った。監督本人にインタヴューでそれを聞いてみた(2月末発売予定のNOBODY issue46に掲載)ところ「ちょっと古いHDVで撮ったからですかね......」と戸惑い気味に答えていて、特に意識したことではないと言う。鮮やかではあるがどこかにじんだようでもある画の質感から、2000年代初頭の、デジタル撮影→35mmブローアップされたいくつかの作品のこと(そしてそういう作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 PM

February 13, 2017

『本当の檸檬の木』グスタボ・フォンタン
結城秀勇

冒頭、夫婦が何気なくかわす「おはよう」という挨拶の声の凶暴さに耳を疑う。はじめは会話の音が環境音よりかなり大きくミックスされているということなのかと思ったがどうもそうではない。続く、親戚の少年とともに主人公である夫が川を下る場面でなんとなくわかるこの凶暴さの正体は、登場人物の画面内の位置関係とはまったく無関係に、彼らの言葉と見なされる音が発せられる画面中央の空間がある、ということである。男と少年は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:22 PM

January 6, 2017

『ミューズ・アカデミー』ホセ・ルイス・ゲリン
三浦翔

『ミューズ・アカデミー』という題名から、どんなミューズ論が聞けるのかと真面目に期待をしていれば面喰ってしまう。これはムチャクチャな男の映画である。簡単に説明すれば、大学で文学の授業を開いているピント教授は、現代におけるミューズの探究と言いながら、高尚な理論を並べ立てて女生徒を誘惑(?)していく。舞台は大学でもあるし、とにかく出てくる人がみんな自分の理論を大きな声で相手に向かって喋る。言っていること...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:35 PM

December 31, 2016

『ピートと秘密の友達』デヴィッド・ロウリー
結城秀勇

『セインツ-約束の果て-』のデヴィッド・ロウリーの新作が公開されている、しかもとんでもなく傑作である、と荻野洋一さんから聞き、見に行った。するとその言葉に違わぬ作品で、もうただただ泣けた。 どこかドゥニ・ラヴァンを思い出させる面構えの少年が、裸足で川の水を跳ね上げながら走り出すだけで泣けた。彼が住み慣れた森の中から文明社会へと連れ出され、そこからどうにか森に帰ろうと、駆け出し、跳躍するのを見るだけ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

December 16, 2016

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

やっと見た。たぶん誰かがいろんなところですでに書いてることだろうとは思うけれど、この作品のアメリカ青春映画史における価値をもっともらしく一言でいうならば、スクールカーストのようなものがほとんど存在しない学園映画だ、ということだろう。ジョン・ヒューズ以来の学園青春もの映画では、学園内の序列やヒエラルキー、大人や社会から押し付けられるレッテルや分類といった類型化に苦しめられる若者たちが、なんとかその垣...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:33 PM

December 2, 2016

東京フィルメックス2016 『ザーヤンデルードの夜』モフセン・マフマルバフ
三浦 翔

『ザーヤンデルードの夜』で印象に残っているのは、主人公が同じ窓から見てしまうことで対比されるふたつの光景だ。イラン革命で街が煙に包まれるなか、倒れた仲間を助けようと引きずって運ぶ若者たちが銃で撃たれていく光景を、窓から主人公である大学教授が眺めるシーン。それと同じ窓から、今度はイラン革命以後の世界で、交通事故で人が倒れているにもかかわらずそこにいた人が逃げて助けなかったところを教授が目撃するシーン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:06 AM

東京フィルメックス2016 『マンダレーへの道』ミディ・ジー
三浦 翔

ミディ・ジー監督『マンダレーへの道』は繊細に移民労働者の問題を描いている。主人公のリャンチンはミャンマーからタイに来たものの、労働許可証がないゆえに街で労働をすることが出来ない。不法入国のときトラックで知り合ったグオの紹介のもと、管理された工場で奴隷のように働くことを余儀なくされる。リャンチンとグオは恋に落るわけだが、二人の目指す方向は別々で、すれ違い、それゆえに悲劇的な結末を招いてしまう。グオは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:54 AM

November 27, 2016

2016年 ボルドー国際インディペンデント映画祭(Fifib)報告 Part2
槻舘南菜子

前回に引き続き、ボルドー国際インディペンデント映画祭プログラム・ディレクター、レオ・ソエサント(Léo Soesanto、以下LS)氏へのインタヴューを掲載する。映画批評家の仕事の延長線上に自らのプログラマーとしての仕事があると語るソエサント。注目すべき若手作家を幾人も発見した彼が、いま必要だと考えていることとはどのようなものか。 ----フランスには、中堅の国際映画祭が多く存在します。たとえば、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:03 PM

『山〈モンテ〉』アミール・ナデリ
則定彩香

 アミール・ナデリ監督の最新作は全編イタリアで撮影された。前作『CUT』では主演の西島秀俊が物理的に殴られまくっていたが、今度の『山〈モンテ〉』ではアンドレア・サルトレッティが本作の主役である"山"を殴りまくっている。  物語は山の麓の村に住むアゴスティーノ一家がひとりの娘を亡くしたところから始まる。水は湧かず、土地はやせ、作物の育たないその山は"呪われた山"と呼ばれていた。その呪いから逃れるため...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:04 PM

November 24, 2016

2016年 ボルドー国際インディペンデント映画祭(Fifib)報告 Part 1
槻舘南菜子

フランスには数多くの中規模映画祭が存在する。とりわけ10月と11月は、リヨンのリュミエール映画祭、ラロシュヨン国際映画祭、べルフォール国際映画祭、ナント三大陸映画祭と、映画祭ラッシュの時期に当たる。映画祭激戦期間といえるこの時期を狙って、ボルドー国際インディペンデント映画祭は5年前に誕生した。長編・短編コンペティション部門とともに、先行上映プログラムや特別上映プログラムがあるほか、野外上映とコンサ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:37 AM

November 8, 2016

『ダゲレオタイプの女』黒沢清
結城秀勇

露光時間の長いダゲレオタイプという撮影技法では、映像が定着するまで被写体は長時間同じ姿勢をとり続けなければならない。そのこと自体は頭ではよく理解できるのだが、これだけ静止画だろうが動画だろうが思いつきのままインスタントに得られる時代に生きていると、ちょっとした錯覚というか思い違いに陥る。つまり、もし撮影の途中で被写体が動いてしまったとしたら、例えば暗い場所で花火やペンライトを振ったりするのを写真に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:25 PM

November 3, 2016

『二十代の夏』高野徹
増田景子

『二十代の夏』から溢れ出す、この圧倒的な若さに対して、一体どのように反応したらよいのだろう。 「青臭い」といって切り捨てることも出来れば、「青春」といって羨むこともできる。ただ取り違えてはいけないのは、この「若さ」が若手監督のたどたどしさや初々しさを指しているのではないということだ。確かに成熟したとは形容しがたい試行錯誤の跡のみえる粗削りだが、歩み始めた者の揚げ足をここで取る意味はないし、いくつか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:11 AM

October 22, 2016

『ハドソン川の奇跡』クリント・イーストウッド
樺島瞭

2009年1月15日、150人の乗客と5人の乗員をのせたエアウェイ1549便は、ニューヨークのラガーディア空港を飛び立った2分後に、バードストライクに見舞われる。エンジンが停止したエアバスを、機長のチェズリー・"サリー"・サレンバージャーは、咄嗟の判断と巧みな操縦によって、ハドソン川――その左岸はマンハッタンの高層ビル群である――に、ひとりの犠牲者も出すことなく不時着水させる。邦題にもなっているこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 AM

October 11, 2016

『チリの闘い』パトリシオ・グスマン
稲垣晴夏

1970年、チリでは世界で初めて民主的な選挙によって社会主義政権が誕生し、サルバドール・アジェンデが大統領に就任した。本作は政権を支持し共に社会主義を目指した労働者たちと、軍部やアメリカと画策してこれを妨害しようとする富裕層との階級間の対立を、全三部の巧みな構成をもって描く。 本作において、路は富裕層と労働者の間の緩衝帯として町に横たわっており、そのためおのずと闘いの舞台として幾度も映し出される。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:48 PM

October 5, 2016

『タナーホール』フランチェスカ・グレゴリーニ、タチアナ・フォン・ファステンバーグ
常川拓也

映画『タナーホール(Tanner Hall)』は、ローマ出身のフランチェスカ・グレゴリーニとNY出身のタチアナ・フォン・ファステンバーグが、アメリカ・ニューイングランドの全寮制学校の女子寮(寄宿学校)を舞台に4人の十代の女の子を描いた2009年の作品である。なんといってもまず見所は、2015年アカデミー賞において『キャロル』(2015)で助演女優賞にノミネートされたルーニー・マーラと、『ルーム R...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:47 PM

September 29, 2016

『潜行一千里』空族+スタジオ石+YCAM
隈元博樹

 前方に設えられた4つのスクリーンと、後方の1スクリーンに囲まれた映像のインスタレーション。『バンコクナイツ』に登場するロケーションとノイズの数々が、計5つのスクリーンに囲まれた私たちの身体へと呼応していく。『潜行一千里』とは旧大日本帝国陸軍参謀であった辻政信による著書『潜行三千里』に由来したものだが、このインスタレーションは『バンコクナイツ』の撮影クルーであるスタジオ石と空族が敢行したタイとラ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:07 AM

September 27, 2016

『バンコクナイツ』富田克也
渡辺進也

日本人の客とタイの女性の間で交わされる日本語での会話に、まるでこれがバンコクではなく東京かどこかで行われているかのような錯覚に襲われる。高層マンションとキラキラネオン輝くバンコクの夜は、街中に流れる川を隅田川に見立てた東京の河岸地域のようだ。日本人を相手にした店が並ぶタニヤ通りは、日本人が客引きをし、店の中では現地の女性が日本語で話す。ただ女性たちだけがタイの女性であり、そこにやってくる客も、はた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:21 PM

September 14, 2016

『スラッカー』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

リンクレイターの長編2作目にあたる1991年の作品。「インディーズ映画の雄リチャード・リンクレイター(『6才のボクが、大人になるまで。』)が描くジェネレーションX青春映画です。後世に絶大な影響を与え(とくにケヴィン・スミス)、のちに監督する事となる傑作『バッド・チューニング』の関連も随所に見て取れる90年代インディペンデント映画の歴史的な一本!」(Gucchi's Free School 作品解説...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:25 PM

『チリの闘い』パトリシオ・グスマン
三浦 翔

一九七〇年、チリに世界初の選挙による社会主義政権が誕生した。『チリの闘い』には、このアジェンデ政権が、一九七三年九・一一の軍事クーデターによって倒れるまでの過程が記録されている。第一部「ブルジョワジーの反乱」と第二部「クーデター」を通して見えてくるのは、固有名詞の強さである。この映画の主役は政治家では無い。街頭インタビュー、工場での議論、デモなど、無数の発言によって政治が描かれる。彼らは「アジェン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:51 AM

September 10, 2016

『人間のために』三浦翔
結城秀勇

「闘争の最小回路とは、力のクリスタルのことだ。力のクリスタルは、ふたつのレヴェルにおいて形成される。第一のレヴェルは、行為と知覚の結晶化プロセスだ。映画や演劇の俳優は、行為と知覚とのこのクリスタルを生きている。優れた俳優は、演技をすると同時に、演技する自分をつねに知覚してもいるからだ。俳優とは、自己をアクター/オーディエンスへと二重化し、自己においてそれらを結晶化させる術を知っている者のこと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:45 PM

September 1, 2016

『ケンとカズ』小路紘史
若林良

本作は主人公であるケンとカズ、そして彼らの弟分のテルが、対立する組織の下っ端に喧嘩を吹っ掛ける場面から始まる。そこでの決着がついたあとに、ケンとカズを下から見上げるようなショットが印象的だ。前方にしゃがむカズと、後方からカズを見下ろすケン。本作において両者の「顔」が正面からはっきりと見える場面は、この対照的な姿勢のふたりを捉えたショットを除けばほとんど存在しない。物語は、妊娠した彼女や認知症の母の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:04 PM

August 29, 2016

『エミアビのはじまりとはじまり』渡辺謙作
隈元博樹

 幸福の先に訪れる死の予感は、絶えず映画の中で描かれてきたことだと思う。その例は枚挙に暇がないものの、たとえば北野武の『ソナチネ』は、沖縄の海辺で悠々自適な相撲遊びに興じていたヤクザたちを、またたく間に銃弾の飛び交う抗争の場面へと誘なっていく。またヤン・イクチュンの『息もできない』は、わだかまりを抱える男女が和解を遂げた矢先、女の弟による男への復讐によってその幕を閉じることとなる。こうして幸福が死...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:18 PM

August 15, 2016

マルセイユ国際映画祭(FID)報告
槻舘南菜子

ユーロ2016のため、今年のマルセイユ国際映画祭(FID)は通常の開催期間(6月下旬~7月上旬)ではなく、7月12~19日の開催となった。フランスには、ドキュメンタリーに特化した映画祭として2つの代表的な国際映画祭がある。ひとつは毎年3月にパリのポンピドゥーセンターで開催される「シネマ・デュ・レエル Cinéma du réel」。こちらがよりクラシックな趣きの作品が多く選出されることに対し、FI...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:43 PM

August 7, 2016

『ファースト・タイム 素敵な恋の始め方』ジョナサン・カスダン
結城秀勇

Netflixで「フリークス学園」を見ていて、2000年前後のこの界隈の人材の豊富さをしみじみ考える。セス・ローゲン、ジェームズ・フランコをはじめとするアパトー・ギャングは言わずもがな、マイク・ホワイトは後に『スクール・オブ・ロック』でリンクレイターと組んでたりしたのに最近映画周りでは名前を聞かないな、とか、当然のようにベン・スティラーのカメオ出演とか。なかでも気になったのが、ジェイクとジョンのカ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:05 PM

July 25, 2016

短編映画祭「Côte Court(コテ・クール)」 25周年!
槻舘南菜子

1992年に設立された短編映画祭Côté court(コテ・クール)は今年25周年を迎えた。この映画祭はパリ郊外の北に位置するパンタンの映画館「Ciné 104」で毎年6月に開催される。フランスの短編映画祭といえばカンヌ国際映画祭に次ぐ規模となるクレルモン=フェラン短編国際映画祭があるが、こちらは商業的でエンターテインメント色の強い作品が中心にセレクションされる傾向にある。それに対しコテ・クールは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:22 PM

July 16, 2016

『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』黒川幸則
田中竜輔

「村の中の村(Village in the village)」でなく「村の上の村(Village on the village)」。ひとりのバンドマンがごろりと迷い込んだこの村は、たとえばシャマランの『ヴィレッジ』のように隔離され幽閉された空間ではなく、スマホもネットもビールも充実しているし、なんなら普通に自動車も電車も走っているような場所だ。「on」という前置詞を率直に読み解こうとするのなら、古...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:06 PM

『人間と魚が浜』三野新
三浦翔

 釣りと、狙撃が似ているのはそれがターゲットを捉えるという意味においてなのだが、写真家の三野新がそれを考えることの根底には、見ることの問題がある。釣り人役(宮崎晋太朗)が懐中電灯で魚役(大場みなみと滝沢朋恵)を照らし出すとき、魚役は「死んだ」と言うことで、ここにひとつのルールがあることが分かる。これは、ひとつの釣りであり狙撃なのであるが、丁寧にも懐中電灯の明かりは四角に縁どられており、これが写真や...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:01 AM

July 11, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(番外編)
槻舘南菜子

Hors Cannes 映画祭期間中に、トロント国際映画祭のプログラマーである友人のアダム・クックの紹介で、フィリップ・ガレルの弟、ティエリー・ガレルにインタヴューすることになった。ティエリー・ガレルは現在67歳、今回のカンヌには昨年から創設されたドキュメンタリー作品に与えられる「黄金の眼 L'Oeil d'or /The Golden Eye」賞 の審査員のひとりとして滞在していた。彼との出会...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:36 PM

July 2, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(3)
槻舘南菜子

「監督週間」部門 開幕・閉幕作品にマルコ・ベロッキオとポール・シュレイダーの新作が選ばれ、4本の処女長編がセレクションされた本年の監督週間。2012年にエドワード・ワイントロープがディレクターに就任して以来、その商業的なセレクションはたびたび批判されてきた。本年の「公式コンペティション」部門や「ある視点」部門から抜け落ちてしまったと思しきベルトラン・ボネロやアクセル・ロペールらの作品が救い上げられ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:48 AM

July 1, 2016

『ディストラクション・ベイビーズ』真利子哲也
結城秀勇

真利子哲也の作品では必ず、位相の違うふたつの世界が重なり合っている。『イエローキッド』のボクサーの日々とアメコミ、『NINIFUNI』の強盗犯の逃亡とアイドルの撮影、『あすなろ参上!』のアイドルの人間としての葛藤とゆるキャラが共存する街。それらふたつは平面的な距離において遠ざけられているのではなく、互いに重なりあって二重写しになっている。だからふたつの道筋が並行モンタージュ風につながれるとしても、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:14 PM

June 28, 2016

『団地』阪本順治
田中竜輔

タイトルからして団地で繰り広げられる悲喜交々の人間模様が描かれるのかと想像していたら、まったく違った。舞台となる団地で中心的な被写体となるのは10名前後。いわゆる「ご近所付き合い」はその範囲にしかなく、そして実質的に生活が描かれるのは主人公である藤山直美と岸部一徳の夫婦だけだ。建築物としての外観こそ頻繁にフレームに収められるも、他の住民の部屋はごくわずかな場面を除けば存在さえ示唆されることはない。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:14 PM

June 26, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(2)
槻舘南菜子

「ある視点」部門 本年の「ある視点」部門にセレクションされた18本中、7本が処女作、4本は監督第2作と、例年になく新人監督がフィーチャーされたプログラムだったが、作品の出来はといえば散々たるもの。なぜセレクションされたのが理解に苦しむような作品が大半を占めたというのが正直なところだ。ただその一方で特別上映枠にアルベルト・セラ(『ルイ14世の死 La Mort de Louis XIV』)とポール・...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:08 PM

June 25, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(1)
槻舘南菜子

2016年カンヌ国際映画祭 コンペティション部門受賞結果 パルムドール:『I, Daniel Blake』(ケン・ローチ) グランプリ:『Juste la fin du monde』(グザヴィエ・ドラン) 審査員賞:『American Honey』(アンドレア・アーノルド) 監督賞:クリスチャン・ムンジウ(『The Graduation』)、オリヴィエ・アサイヤス(『Personal Shoppe...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:27 AM

June 22, 2016

『天竜区奥領家大沢 夏』ほか「天竜区」シリーズ 堀禎一
田中竜輔

静岡県浜松市、その最北部の山間地に位置する天竜区大沢集落は、村の開拓当初からその限られた土地を活用するために――歩くのも大変なほど急な勾配の斜面は多くの畑で占められている――最大で8軒までしか戸数は増やされなかった。今日では過疎化が進み3軒で4人が生活しているこの場所の、およそ1年にわたる人々の生活を映し出すのがこの全4本で4時間を超える「天竜区」シリーズである。だが、そうした背景や事前知識につい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:58 AM

June 19, 2016

『あなたの目になりたい』サッシャ・ギトリ
結城秀勇

ジュヌヴィエーヴ・ギトリ演じるモデルが、サッシャ・ギトリ扮する彫刻家への恋心を祖母に打ち明けるとき、祖母はこう忠告する。一目ぼれは、それがふたり同時に起こるのなら、信じられる。もしどちらか一方だけなら危険だ。そして仮にふたり同時に起こったとしても、それでも危険なものだ。なぜならふたりは見つめあうけれど、実はなにも見ていないからだ。その熱いまなざし以外にはなにも。 画面に映し出される映像や文字や数量...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:22 PM

May 28, 2016

『或る終焉』ミシェル・フランコ
常川拓也

閑静な住宅街の中、ティム・ロス演じるデヴィッドは、ひとりの十代の少女が家から出て車に乗り込むまでをじっと観察し、彼女が通りを車で走り出すと無言のまま追跡しはじめる。カメラはその様子を車内の助手席から長回しで捉える。次のカットでは、彼は夜な夜なフェイスブックでナディアという女の子の写真を何枚もチェックしている。第68回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『或る終焉』のこのアヴァンタイトルを見て、このふ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 AM

May 27, 2016

『わたしの自由について』西原孝至
三浦 翔

何故SEALDsをやっているのかという問いに対してSEALDsの牛田は、「授業でキング牧師の講演を見ていたら『私たちが目指してきたものは必ず達成される、しかしそれは私の生きている間では無い』と泣きながら語るシーンを見てしまったからだ」と語る。そこには、「どういった思想で」といった明確な答えがあるわけでは無い。過去から受け取ったバトン=コトバがあるだけだ。しかし、だからこそ彼らは強く、軽やかに運動を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:24 PM

May 26, 2016

第69回カンヌ国際映画祭 ジャン=ピエール・レオ パルムドール名誉賞 受賞シーン
坂本安美、茂木恵介

「ジャン=ピエール・レオ、あなたは私の人生を変えました」(アルノー・デプレシャン) その地に赴くことはできなかったにせよ、本年のカンヌ国際映画祭のハイライトのひとつは間違いなくクロージングにおけるジャン=ピエール・レオのパルムドール名誉賞受賞シーンだっただろう。コンペティション部門審査員のひとりであるアルノー・デプレシャンは、クロージング後の記者会見で「映画の学生に戻った気持ちで審査員として臨み、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 PM

May 17, 2016

『山河ノスタルジア』ジャ・ジャンクー
中村修七

『山河ノスタルジア』は、同時代を捉えてきたジャ・ジャンクーが初めて近未来を捉えた映画だ。とはいえ、近未来の人物も現代に生きている人物と異なるわけではない。近未来に生きる人物たちにとっても、母が子を思う愛情や子が母に対して抱く思慕の念は無縁なものではない。あるいは、このような近未来は現在を照らし返すものだと述べるべきかもしれない。近未来が舞台となっているジャン=リュック・ゴダールの『アルファヴィル』...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:20 PM

May 3, 2016

『追憶の森』ガス・ヴァン・サント
渡辺進也

『ミルク』以降、他人の書いたシナリオで作品を作るようになったガス・ヴァン・サントは、それまでの作家性とは異なる方法で、むしろ職人的なと言ってもいい熟練した方法で映画を作っているようで興味深い。前作『プロミスドランド』では、舞台となったあの町にないものは撮るつもりはないとばかりに、あの町にあるものだけをただひたすら撮り続けていた。「あるものはある」「ないものはない」である。今作の『追憶の森』において...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:48 AM

April 30, 2016

『台湾新電影時代』シエ・チンリン
隈元博樹

 巷のシネコンへ足を運ぶたびに、ふと気になってしまうことがある。それは予告編に続いて本編が始まろうとしてもなお、スクリーンのフレームサイズが一向に変わらなくなったということだ。たとえばこれがフィルム上映であれば、必ず上映前に映写技師の手によってスタンダード、ヴィスタ、スコープと、作品ごとのフレームサイズに応じたマスキングが行われていたと思う。それと同時にマスキングは画の左端に連なるサウンドトラック...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:05 AM

April 29, 2016

『SHARING アナザーバージョン』篠崎誠
結城秀勇

「このバージョンは、上映時間の長いバージョンのたんなる短縮版ではなく、文字通り"別の"バージョンなんです」とは、上映前の監督挨拶において強調されていたことであるが、このバージョンが、長いのと短いの、表と裏、右と左といったような対を補完するものとしてあるのではなく、ただ別なものとしてある、というのはなんだか重要な気がする。 というのも『SHARING』という作品自体が(そしてとりわけ「アナザーバージ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:02 AM

April 24, 2016

ブリィヴ・ヨーロッパ中編映画祭報告(2016年4月5日~ 4月10日) 
槻舘南菜子

ブリィヴ・ヨーロッパ中編映画祭(Festival du cinéma de Brive http://www.festivalcinemabrive.fr/home.php )は、五月革命後にカンヌ国際映画祭の監督週間部門を創設したフランス映画監督協会(Le SRF) の主導で、2004年に始まった。5日間の短い会期に関わらず、毎年数百人の映画人――批評家、プログラマー、映画監督、プロデューサー等...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:34 AM

April 10, 2016

『リリーのすべて』トム・フーパー
若林良

 本作『リリーのすべて』は、第二次世界大戦前のドイツで世界初の性別適合手術を受け、男性から女性になった実在の人物の物語である。その製作背景としては様々であろうが、おそらくは、主人公のアイナー・ヴェイナー=性別移行後はリリー・エルベが、歴史上はじめて性別転換にふみきったことの、歴史的な意義が再評価されたことが大きいだろう。いわば現在におけるトランスジェンダーの人々の希望を提示した、偉大な先達であると...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:42 PM

April 7, 2016

『ルーム ROOM』レニー・アブラハムソン
常川拓也

 ブリー・ラーソンの主演作としては前作にあたる『ショート・ターム』では、彼女の演じる役名はGraceだった。それに対し本作『ルーム』では、彼女はJoyという名を持って現れる。恩寵とよろこび──ときに皮肉な、そしてときに文字どおりの意味を物語の中にもたらす名前の響きが、短期保護施設を舞台に、ケアテイカーと心に深い傷を負ったティーンエイジャーとの間で築かれる疑似家族/親子を描いた『ショート・ターム』と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:18 PM

March 11, 2016

『母よ、』ナンニ・モレッティ
隈元博樹

 ナンニ・モレッティのフィルモグラフィを紐解けば、ミケーレ・アピチェッラやドン・ジュリオという人物を演じる彼の姿が浮かんでくる。当然ながら彼らを演じる以上、彼らはモレッティ自身であり、いっぽうでは分身のような存在でもある。モレッティとは異なるアイデンティティを持ったミケーレやジュリオは、左翼崩れの青年、数学者、映画監督、神父、さらには水球選手(ときどき共産党員)として、それぞれのフィルムの一翼を担...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:58 AM

February 17, 2016

『大河の抱擁』チロ・ゲーラ
久保宏樹

近年、映画産業の発展の著しいコロンビアの若手映画映画監督チロ・ゲーラ(Ciro Guerra)による長編3作目、『大河の抱擁』(原題は「El Abrazo de la Serpiente / 蛇の抱擁」、ちなみに本作は日本でも第7回京都ヒストリカ国際映画祭にて上映されている)が、第68回カンヌ国際映画祭監督週間グランプリ受賞から7ヶ月の遅れを経て、パリでは昨年の12月23日よりMK2系列の映画館で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:55 AM

February 16, 2016

『ザ・ウォーク』ロバート・ゼメキス
田中竜輔

ジョゼフ・ゴードン=レヴィット演じるフィリップ・プティを語り部として、プティによって行われた地上400mを超えるツインタワー間の綱渡りという常軌を逸した実話を題材につくられた本作。遅ればせながらIMAX3Dでこの作品を見て、本当に様々な場面で魂のすくむ思いをさせられた。しかし一方で私がこのフィルムを見ながら終始不思議で仕方なかったのは、どうしてレヴィット=プティが「英語を話す」ということにここまで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:26 AM

February 7, 2016

『東から』シャンタル・アケルマン
結城秀勇

35mmフィルムで投射された映像がなんだかやけにぼんやりとして見える。粗い粒子のひとつひとつにはピントが合っているのに、それらが構成する映像全体のどこに焦点があるべきなのかがわからない。画面中央に置かれた樹木がその背景よりも鮮明であったりすることもなければ、画面の奥から近づいてくる農婦たちの誰かひとりが他の誰かよりも鮮明であることもなく、駅の待合室の、横移動するカメラの前に現れては消える人々もまた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:37 PM

February 4, 2016

『母よ、』ナンニ・モレッティ
増田景子

ナンニ・モレッティの新作『母よ、』を見て、アンナ・マニャーニのお尻を思い出した。『ベリッシマ』(1951、ルキノ・ヴィスコンティ)で子どものために階段を上り下り、あちこちを駆けずり回る姿のなかに光る、あのお尻である。ペドロ・アルモドバルが『ボルベール』の撮影の際に、つけ尻なるものをペネロペ・クルスにつけさせたのも、このお尻のせいだ。彼はこのアンナ・マニャーニのお尻に「母親」たるものを見出したからだ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:01 PM

January 31, 2016

『蜃気楼の舟』竹馬靖具
隈元博樹

 オープニングショットに捉えられた一艘の小舟が、ゆったりと画面の奥へ向かっていく。それは別に何かを運搬しているわけではなく、ただゆらゆらとスクリーンの前の私たちから離れていくだけだ。しかし佐々木靖之のカメラは、そんな無機質な舟の行方を丹念に追いつづける。どこへ向かうのかさえも問うことなく、誠実なまでにその舟の行き着く先を収めようとする。  このように『蜃気楼の舟』の被写体たちは、絶えずどこかへ向か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:39 AM

January 15, 2016

『ブリッジ・オブ・スパイ』スティーヴン・スピルバーグ
結城秀勇

この映画の最初のカットは、後にソ連のスパイとして逮捕されることになるルドルフ・アベルの顔を映し出す。カメラはそのままズームアウトして、その顔が鏡の前に座った男の鏡像であったことを明らかにし、そして彼が鏡を見ながら描きつつある自画像が画面右手に置かれていることをも示す。この、こちらに背を向けたひとりの男と、男についての二枚のイメージーー左側は鏡像、右側は自画像ーーを見ていてなんだか変な感じになる。そ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:47 PM

December 23, 2015

『独裁者と小さな孫』モフセン・マフマルバフ
常川拓也

「狂気が世界を支配し、人類の自由が失われていた頃の物語」──チャールズ・チャップリン『独裁者』は冒頭にこのように説明される。およそ75年前に警鐘が鳴らされた世界から現代はある意味では進歩していないのだろうか。そう思えてしまうほど、この文言は『独裁者と小さな孫』の冒頭に付けられていてもおかしくないかもしれない(その意味で、本作で独裁者と孫の最初の逃亡先が「床屋」なのは意識的だろう)。何の躊躇や葛藤も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:03 PM

November 18, 2015

『約束の土地』アンジェイ・ワイダ
隈元博樹

 引き攣った顔の連続が、スクリーン越しに押し寄せてくる。カメラのクロースアップがそれを助長するかのように、時代の潮流に揉まれた人々の表情が、およそ40年の時を経てもなお刻まれている。舞台となる19世紀末のウッチは、世界でも有数な繊維工業地帯として栄華をきわめ、さらにはドイツ、ユダヤ、ポーランドによる民族と文化の入り混じる只中にあった時代だ。だからこのフィルムが描くウッチには、民族の多様性があり、貧...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:10 PM

November 10, 2015

『岸辺の旅』黒沢清
梅本健司

僕らと映画とその間  瑞希が言うように、瑞希と優介には違いなんてないのではないか。死んだように生きていている瑞希が、突如思いつき白玉を作っていると、生きているかのように死んでいる優介が帰ってくる。「たぶん、身体はカニにでも食べられてるだろーねぇ」と言いながら白玉を食らう優介と、「そう」と平然と答える瑞希は、3年ぶりに再会した夫婦であるのだが、それが生死を超えた再会には見えない。もしかしたら二人とも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

November 6, 2015

『タンジェリン』ショーン・ベイカー
常川拓也

デュプラス兄弟が製作総指揮で携わる『タンジェリン』の舞台となるLAのクリスマス・イヴは、暖色の太陽が燦々と照っている。セックスワーカーをしているふたりのトランスウーマンと、アルメニア移民のタクシー運転手を中心に、掃き溜めのようなストリートが全編iPhone5Sでゲリラ的に撮影されているが、それによってショーン・ベイカーは街に溶け込むことに成功しているように思える。まるでラップをスピットするかのよう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:08 PM

November 2, 2015

『パリの灯は遠く』ジョゼフ・ロージー
高木佑介

よせばいいのにロベール・クライン(=アラン・ドロン)は自分と同じ名を持つもうひとりの「クライン氏」を追いはじめる。ナチス占領下のパリでユダヤ人から美術品を安く買い叩くクラインと、ユダヤ人と思しきもうひとりのクライン氏。単純に話の筋だけ追っていくと、出来の悪いミステリーを見ているかのような気がしてくる。自己の分身を追いかけることの不毛さ、あるいはその裏返しとしてのアイデンティティーの再獲得。もしくは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:09 AM

October 31, 2015

『私の血に流れる血』マルコ・ベロッキオ
高木佑介

TIFFにてベロッキオの新作を見る。とても奇妙な映画だ。魔女の嫌疑をかけられた修道女に課せられる数々の試練――そしてそれを乗り越えて神への無償の愛を体現する聖女の物語という話で終わるのかと思いきや、全然違った。中世のキリスト教魔女裁判を巡る話が前半部分を占め、後半では突如として現代を舞台にした話が展開される。魔女裁判のくだりでは、敬虔そうな神父たちが修道女に試練を課して、サタンと契約したことを示す...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:46 AM

October 30, 2015

『私の血に流れる血』マルコ・ベロッキオ
田中竜輔

デヴィッド・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』ではレディオヘッドの「Creep」のカヴァーが用いられていたベルギーの聖歌隊グループ、Scala and Kolacny Brothersによる本作の主題歌は、なんとメタリカの「Nothing else matters」。選曲がベロッキオ本人によるものなのかどうかはわからないが、ともあれ、「So close, no matter how far...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:55 PM

October 22, 2015

『マッドマックス2』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ジョージ・ミラー
結城秀勇

早稲田松竹で二本立て。やっと見た。 『マッドマックス』も『マッドマックス/サンダードーム』もテレビでは見てるはずだがまったく記憶にないので、あくまで『2』と『怒りのデス・ロード』を比較しての印象だが、メル・ギブソンとトム・ハーディのマックスの違いは、とりあえず仲間になりそうな感じの人たちへの応対の違いにあるんじゃないだろうか。ギブソンは無関心を装った苛立ちみたいに見えるのに対して、ハーディは無関心...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 AM

October 16, 2015

『パウリーナ』サンティアゴ・ミトレ
常川拓也

2015年カンヌ国際映画祭批評家週間でグランプリに輝いた『パウリーナ(原題:La Patota)』は、判事の父を持つ弁護士のパウリーナ(ドロレス・フォンシ)が、そのキャリアを捨て、社会奉仕を志してアルゼンチンの都会から生まれ故郷の田舎町へ帰るところからはじまる。誰かの人生のためになるべく、そこで暮らす貧しい若者たちへ現代の民主的な権利などを教える教師となった彼女だったが、しかし、同僚女性の家でワイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:14 PM

October 9, 2015

『黒衣の刺客』ホウ・シャオシェン
結城秀勇

フィルムによる撮影・上映ではなく、デジタルによる撮影・上映でのみ可能になる映像のあり方があるんじゃないのか、と数日前に書いたばかりだが、『黒衣の刺客』がまざまざと見せるのは、とりあえずフィルムで撮っておけば、あとはデジタルのポスプロで作れない画面なんてない、という圧倒的な事実だ。フィルムで撮影しさえすれば、この世に存在するあらゆる映像はつくりだせる、そんな断言にも似た力強さーーそう呼ぶにはあまりに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:14 PM

October 5, 2015

『アカルイミライ』黒沢清
結城秀勇

『岸辺の旅』を見ていてすごく気になったのは、浅野忠信と一緒にいないときの深津絵里の生活が、極端に彩度の低い画面で映し出されていることだった。とくに中盤の、旅を中断して東京に帰る場面。ほとんど灰色と言ってもいいような色調で、旅の間に枯れ果てた鉢植えの植物が画面に映る。そのとき、なんだかとてつもなく取り返しのつかないことが起こったような、取り返しもつかないような途方もない時間が経過したような、そんな気...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:55 PM

October 3, 2015

『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』ロン・マン
隈元博樹

 ある事物の性質やその特徴を言い表すとき、私たちは「らしさ」という接尾語を使うことがある。ここでの「らしさ」とは、礼節を重んじた人物に対する紳士らしさであり、しとやかで品格を備えた人物に対する淑女らしさのことを指している。ただしこれらは、実体に近しいことを表現しているにすぎず、それ自体のことではない。紳士らしさとは紳士に近い存在であり、完全なる紳士ではない。また淑女らしさとは、そのすべてをもって淑...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:36 PM

September 23, 2015

『みんな蒸してやる』大河原恵
渡辺進也

いまユーロスペースで「たまふぃるむナイト」が開催されている。 「たまふぃるむ」を説明しておくと、もともとが多摩美術大学の映像演劇学科の映画制作の授業の一環からはじまったものだったが、当学科がすでに募集を止めてしまったためにそこから派生して在学生やOBを含めた組織となった。彼らは、制作だけに留まらず上映も定期的に行っている。おそらくそのメンバーは10数人ほどで構成されていると思うのだが、誰かが作品を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:38 AM

『ひこうせんより』広田智大
渡辺進也

人里離れた廃墟のような場所で、男女7人が生活している。時代もまるで現代ではないような雰囲気で、無機質な衣装と無機質な物質の中で彼らは生活している。ある者は写真を撮り(フィルムが実際に装填されているのかわからない)、ある者は廃品だろうか機械を修理し、ある者は外部からの侵入者を警戒しているのだろうか金属バットを振り回し、ある者は紙に赤や青のペンキを塗り続け、ある者はひまわり型の風車をつくり、ある者は近...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:30 AM

July 23, 2015

特別講義「〜日仏映画作家「現代映画」を語る〜」@映画美学校(2015.6.28)
渡辺進也